(水無月とプールに行った翌日の朝)
(教室に行くと彼に謝られたので、笑って流して気にしてない風を装った)
(悪いなとは思っても、恋人として付き合おうとは思えない)
(だからそんな風に謝られても、というのが私の本音だった)
ひょうか、ヒョウカ、氷華。
暇?暇だよね?暇じゃなくてもいいから少しリリシュちゃんに付き合ってほしいかも。
好きな物奢るからさ、ね?さあ、いざ行かん。
(放課後、友達の相沢氷華を誘って行きつけとは少し違う喫茶店に行く)
(知った顔と出会う確率を少しでも減らしたかったのもあるし、気分転換の意味もあった)
でさー、最悪だよね。
岸部のやつさー。いつも私らの尻眺めてニヤニヤしてるし。
(体育の教師(35歳独身)の悪口を言いながら、ストロベリーサンデーをスプーンで)
(切り崩す。甘くて酸っぱくて美味しかった。行きつけの店も悪くないが個人経営の)
(喫茶店のマスターが精魂込めて作ったスイーツは、格別だった)
【それじゃあ、こんな感じでよろしくね】
(ある週明けの月曜日。勿論テンションが下がってしまう)
(何とか一日の授業を乗り切って、家路に着こうとしたとき、リリシュからお誘いの声)
ん…?リリシュ?なぁに?
え、ええ。別に暇だけど、どうしたの…。
奢り!?行く行く!荷物片付けるから待ってね!
(断っても良かったのだが、断る理由はある筈も無いし、お誘いの文句から、何か含むところがあるんだろうなーと推測する)
(他人のお話を聞くのは好きな性質。二つ返事で了解した)
見られてます…?
それはリリシュが魅力的だからじゃないのかなー?
えいっ!
(リリシュに連れられて来たのは、いつもは行かないところにある喫茶店。落ち着いた内装が良いお店だなーと感じた)
(リリシュと対を成すかのように、自分が頼んだのはチョコサンデー。ほのかな苦味と、甘みが合わさって最強に感じる)
(閉話休題。喋りづらそうな雰囲気をかもし出しているリリシュに切り込む為に、まずスプーンでリリシュのサンデーを少し奪って虚を突いてみせる)
…ねぇ、リリシュちゃん。わざわざ呼び出すってことは、何かあったの…?
空元気出さなくてもいいんだよ?
(自分から本題を提示する。これが杞憂であるのなら何も無くて済むのだが、実際はどうなのだろうか…)
(敢えて呼び捨てで無く、ちゃん付けで呼ぶことで真剣さを醸し出して)
(ドキドキとした心境でリリシュの反応を待つ)
【じゃあこんな感じで良いかなー?】
【場所お借りしますねー】
氷華の美尻の方がお好みみたいだけどね。
見られてる回数は氷華の方が多いもん。
てりゃ!
(サンデーを奪われたお返しに、不意を突いてチョコサンデーを)
(スプーンで掬って口に運ぶ。こんなやり取りは日常茶飯事な関係だった)
あー、わかる?
これでもテンション上げて頑張ってたんだけどね。
(昨日は一晩泣き明かして、今日の朝には何もない風を取り繕えるようになったと思った)
(充血した眼に目薬を差して、荒れた肌には軽く化粧をして)
(でも、水無月に謝られてぐねぐねとして気持ちにになるのは抑えきれなかった)
昨日さ、あ、誘われたのはその前なんだけど。
水無月がプールで遊ぼうって言い出して。
その日は何もなかったから、昨日はたっぷりプールで遊んだんだけどね。
(リリシュ・アンネバーグは、男女問わず気が合えば誰とでも遊ぶ。グループでも遊ぶし)
(一対一でも遊ぶ。全ては楽しそうだからという気持ちが優先している。プールへ行くのもそれと同じだった)
楽しかったんだけど、その帰りに……水無月のやつ、いきなり告ってきてさ。
もう最低だったよ。知らない振りして恍けてれば、今日も楽しく過ごせたのにさ。
(最低は、その告白をちゃんと受け取ることのなかった私だったのは、わかっている)
最低だよね、私。楽しく遊ぶこと優先して水無月の気持ち、踏みにじってたわけだし。
もうこんな風にほいほい男と遊ぶの、やめた方がいいのかなーって。
(最後の方は小声になってしまった)
ええっ!?
そうなんだ…。これから気をつけようっと…。
あの先生ロリコンだったんだね。リリシュスタイル良くて羨ましいなー。
(一目でピンと来た相手である。リリシュも同じ感覚だったようで)
(知り合って以降、お弁当を食べるときも似たような光景が繰り広げられたりもする)
えぇ、そりゃもう…ね。
人間観察も趣味のうちの一つですから。
でも安心してね。他の人は気付いてないと思うから。
(見た目は繕えていたが、纏う雰囲気に違和感を感じていたのは事実)
プールですか。いいなぁ…。暑いですし。
それはともかく、…告白ですか。クラスのアイドルリリシュちゃんは違いますねー。やっぱり。
(敢えておどけてみせて。重苦しい空気にならないようにの配慮も含んでいる)
友人としての距離感が心地よかったんでしょ?
それを急に迫られて壊れるかと思って怖くなっちゃったんだ。
最低?違うよ。
(そう言って立ち上がると、リリシュの椅子の背中へと回って、リリシュに後ろから抱きついた)
その気持ち私にもわかるからね。たとえ、リリシュがどんなに悪いことしちゃっても、私はずっと傍に居るよ?
だから安心して。私は貴女の味方。
(クスクスと笑って、リリシュの耳元で囁いた)
リリシュの本音を聞かせて?男だから遊べないの?女だから遊べるの?
違うよね?心地よい距離感ってあるもの。それを保ちたかっただけなんでしょ?
(いつも教室で見せる雰囲気とは異なる雰囲気で語りかける)
(自分の言ってる内容がリリシュに当てはまっているのかはわからないが、自分の素直な気持ちをぶつけた。それだけ)
(友達はそれなりにいるけれど、氷華を誘ったのは理由がある)
(直観的に、この子は私に似てる気がすると思った)
(遊ぶことが好きだけど、その芯の無さが)
(けど、最近の氷華は、何か少し変わった印象があった)
ありゃりゃ。
それは観察眼という名の愛だったりする?
ま、他ならぬ氷華ならバレても仕方ないよね。
(人の能力を模倣する能力を持っているからか、氷華はこんな時に鋭い)
それは……うん、まさしくそれだね。
(心地よい距離感を色恋沙汰で壊したくなかった)
(でも、知った上で無視していたのは、最低だとしか思えなかった)
(それでも、こんな最低の私を氷華は後ろから抱きしめてくれた)
…うん、そうだよ。男とか女と関係なく、楽しければよかったの。
でもさ、それは私の考えなんだよね。誰もが同じこと考えてるわけじゃないしさ。
少なくとも、水無月がそんな風に私を見てたのは、薄々気づいてたし。
それを知った上で恍けて、知らない振りをしてさ。
(ツンと来たけれど、昨日散々泣いたから涙は出なかった)
やっぱり、自分の周りにいる人間は大事にしたいじゃないのよ、人情としてはさ。
全部は無理でも、やっぱりそう考えちゃうよ。
だったら、変な期待させない為にも、私の方こそ距離を大事にしないといけないかなって。
(色恋沙汰になればどちらも無傷では済まないと私は知っている)
(私がそれで傷つくのは自業自得だけど、大事に思った相手を傷つけてしまうのはダメだ)
ええ、私の身体を通して出るリリシュへの愛が為せる業です!
…私の前でくらい、仮面を外してみても良いんじゃないかな?
人間にはパーソナルスペースっていう心の距離があるからね。
リリシュの範囲に勝手に踏み込まれちゃったから今回の事件が起こったわけで。
うん、私もそうだよ。
"今"が楽しければ良いって考えちゃうんだ。どうしてもね。
でもね、それは決して"間違いなんかじゃないんだよ"
誰が間違いだって決めるの?
少なくとも、それを決めるのがリリシュなんだとしたら、私は異議ありだよ!
(言葉の調子に合わせて抱きつく力が少し強まって)
好きなだけ泣いて、好きなだけ笑って過ごしたら良いんだよ。
辛かったかも知れないけれど、これも大切な経験なんじゃないかな?
(そういって頭を撫でて。普段とは逆の構図になってるけれども)
…じゃあ、私とも距離置いちゃう?
リリシュは他人から感じれる温もりを捨てて一人で生きていける?
んぐぐ……
そー言われてもねー。
(私は悩む。困ったナ)
(仮面の外し方なんて忘れてしまったぞ)
異議は却下だよ、弁護士さん。
私がもう少し気を付けていれば、踏み込まれることもなかった。
もう少し、私が遠慮していれば、こんなことにならなかったわけだし。
私は私のやりたいことをするけれど、それは他人を傷つけてまで
やりたいことじゃないよ。これは私の中のルールの問題。
(氷華がそう言ってくれるのは嬉しいし、救われる)
(けど、私はその言葉を鵜呑みにして救われてもいいんだろうか)
(もう一押しが欲しい)
……いつでも好きには、してるつもりだけどね。
どうかな。一人ぼっちになったら生きていけないと思うし。
そこまで極端な話じゃなくてね、なんて言ったらいいのか。
氷華はさ、誰かに告白したりされたりされたことある?
今の関係を壊してまで、その人が欲しいって思ったことはある?
(私にはない。だから水無月に好きだと言われた時、悲しかった)
(今の関係じゃだめなの?壊しても平気なの?)
(そんな風に考えてしまったら、もうぐねぐねが止まらなかった)
気をつけたら…?遠慮してたら…?
今まで何かをする事に、他人を傷つけてなかったなんて考えてたの?
それは傲慢だよ、リリシュ。
人は、他人を傷つけないと生きていけない生き物なんだよ。
ヤマアラシのジレンマって知ってる?
寒いから寄り添いたいけど、自分の針で相手を傷つけるのが怖くて寄り添えないの。
そして、それはお互い様って事。
(生きている限り、お互いを傷付け合わないと生きていけない不完全な生物だと告げて)
(リリシュはこの考え方に同意してくれるのかわからないけれど、私の気持ちもわかって欲しいなーと期待を込めた視線をぶつけつつ)
告白?
プロポーズ…のような勧誘なら受けたことはあるかなー。
そこで心境変わる出来事あったんだけどねー。
うん、リリシュは欲張りなんだね。
いろんな心地よい関係を維持しようとしてるんだから。
そしてそれが人間なんだよ。
…男の人怖い?
じゃあ、さ。
私、寒くて動けないんだ。
リリシュは動けるでしょ?私凍えそうなんだ。抱き締めて欲しいな。
(一度リリシュから離れて自分の席へ戻って)
(自分の中で自問自答の状態になっちゃってるリリシュには、荒療治が必要だと思った)
(リリシュが来てくれるなら、それでいいし、来ないなら考えがある)
……知ってるよ。知ってるけど。
知ってるつもりでいるのと自覚するのは大違いだよ。
それとね。ヤマアラシは棘のない部分を寄せ合って温めあうけど。
私は、その、棘のない部分を探る方法が下手なんだ。
だから変な期待させちゃう。温めあいたくても、傷つけちゃうんだ。
昨日、それを改めて自覚したんだ。
(がっくりと項垂れる私だった。昨日から負の連鎖が止まらなかった)
(こんな私に色んな言葉をかけてくれる氷華はマジ天使だった)
そっか。
だから最近顔つきが変わったんだね、氷華は。
(その言葉を聞いて私は素直に納得した)
(正直、羨ましい。心が変わって顔つきすら変えてしまうような)
(告白されたことなんて、私はないから)
都合のいい関係ばっかり求めてたからね。
寂しがり屋な癖に、いい距離取るのは下手だし。
男は怖くないけど、なんだろうね、んー、わからないんだ。
好きな相手の身体も心も欲しがるっていうけれど、私の心なんてものを
どうして欲しがるのかって、わからなくてさ。
身動きできないのは私の方だよ。
氷華こそ、いつだって私より身軽に動けるくせに。
(むーと膨れっ面をしてしまう。我ながらガキだなぁとは思うけど止められない)
(少しの間に氷華は随分と大人になってしまった。包容力とでも言えばいいのか)
(以前の氷華には、あまり見受けられなかった部分だ)
【凍結頼めるかな】
【負のスパイラルで話の落としどころがわからないorz】
私だって下手だよそんな事。
それに、私は傷付きたくないなんて思ってないから。
それより、リリシュが傍に来てくれないことに凍えちゃいそうだもん。
それに、こう思ってくれる人は私だけじゃないと思うよ?
(一度落ち込んでしまうと、ネガティブが止まらないことは良くあること)
(どうにかしてポジティブに持っていけないものか思案顔で)
顔つき変わった…?
自分じゃわからないけど、そうなのかなぁ?
普通に歩いてたら熱烈な告白みたいな勧誘を受けちゃってさ。
それで後日デッサンモデルになっちゃって…ヌードの…その後…ね。
色々悩んでた私の悩みを少し解決してくれたんだ。
私にとってのその人みたいに、リリシュの悩み解決させてあげられたらいいのになー私が。
人間体当たりだよ?
それにね、リリシュの仮面の下は、臆病だけど、素直な子が潜んでるよ。
それを直感的に見抜かれてたりしてね?
じゃあ、私がリリシュのしがらみを絶つ鋏になっちゃいましょう。と行けば良いんだけどねー。
私が背中押してあげるよ。関係が壊れることが怖いのならば、勇気をあげるから。
(不安げな表情を浮かべて、自縄自縛に陥っているリリシュの姿を見て、自分が力になってあげたいと思った)
(その為には、自分も身を投げ出す覚悟が必要だろう。人の力になるとはそういうこと)
【了解です】
【あるあ…あるある】
【喫茶店から飛び出してみるのもありかもしれないですねー】
【明日の何時ぐらいなら都合良いですか?】
【私は9時過ぎになると思いますけど…】