はて、どうしたことでしょうね?
(褸屋築魅は困惑していた。黄泉市の、とある大きい公園を一時間以上ぐるぐると)
(回っているのだ。自由意思で回っているわけではなくて、公園を出ようとする意志は)
(あるのだけれど、何故か出られない。確かに大きい公園だけれど、道に迷うほど広くもないし)
(道が複雑なわけもない。舗装された道を歩いて植物たちの作る生垣やアーチを潜りぬけて。)
―――おかしいです。論理的にあり得ません。
(ぶつぶつと呟きつつ、疲労だけが蓄積してゆくのを感じる。)
(その背中に張り付いている男性の顔じみた染みに気付く者は、誰もいない。)
(褸屋築魅自身も、気付かない。武器商人であり、怪異も魔術も知識としては知っているが)
(彼女自身にその手の領域からの攻撃に抵抗力はないのである。)
おかしいです、おかしいです……
(理不尽さと、疲労から、やがて思考能力自体も低下してゆく。)
(背中の男の顔が大きく歪んだ。好色そうな笑みだった。)
(一見地味めだが武器職人であり、持久力も並み以上にある築魅も、得体の知れない事態に)
(困惑し、疲労している。もし心が折れたならば、背中の男の慰み者になるだろうことは容易に想像できる。)
【それでは、よろしくお願いします】
……何かあるのかな、っていうのはこういう事じゃないんだけど。
ま、土曜日だし。仕方ないっちゃ仕方ない、かな?
(軽く溜め息を付きつつ、入り口から公園の中を見据える)
(見据える先の公園には何もない。人影も、風も、寝苦しい夏の暑さや虫や草の息吹も)
(手早くメールを送信すると、携帯電話をポケットへ)
一人だよね、多分。まだ耐えてますよう――にっ
(帽子を被り直し、公園へ一歩、踏み入れる)
>>333 居た――こんばんはっ!
(必要以上に大きな声で挨拶して、駆けより)
お疲れ様、大丈夫? 自分が誰で今日が何日か分かる?
あ、辛ければ喋らなくていいから――やっぱり圏外だよね、はあ。
(ポケットから携帯を取り出し、すぐにしまって)
【んー……こんな感じ?】
……あっ?
(夏の蒸し暑さと、疲労の蓄積による思考能力低下。)
(何故歩いているのか、その目的すら忘れかけていた。)
(ぼんやりとしていると、元気な声が掛けられた。)
……こんばんは、の時間、ですね。
(帽子を被った、幼い感じのする少女だった。)
(同年代の子でしょうか、とぼんやりと考えるのと並列して)
(質問の内容を考える。ここでようやく、まともな思考能力が戻った。)
私は、褸屋築魅と言います。今日は6月×日。
喉が渇いてますし、多少疲れていますが、まだ大丈夫です。
(眼鏡を外して、汗で曇ったそれに眉宇を顰める。気付かなかった。)
あの、私、おつかいの途中でして。
ここを通り過ぎようとしたら、何故か公園から出られないんです。
出口を目指しているはずなのですが、同じ場所に戻って来ているんです。
何を言っているかわからないとは思いますが……
もしかして、これ、怪奇現象なのでしょうか?
(布で眼鏡を拭いて、もう一度かけ直す。)
(その背中にある男の顔に似た染みが歪んでいる。怒っているのだろうか。)
築魅ちゃん。築魅ちゃん、響きがいいかも。
(返事に嬉しそうな笑みを返し、)
私は七瀬真帆。呼び易い名前でいいよ、こんな状況だけどよろしくっ。
まだ何日も迷ってる訳じゃないね、すぐ出られるから。うんっ。
大丈夫、信じるよ。だから急いで駆け付けた。
んー、不思議な出来事ってある物なんだけど……
(説明した方がいいかな、と一瞬だけ悩んで)
面倒で複雑だから今度ね。それより今は出ちゃおう、お使いってナマ物じゃない?
(言葉をなるべく絶やさず、意識を自分に向けさせながら周りを見渡す)
(それっぽいのは居ないなあ、と築魅に向き直って)
あ、っ。ちょっと振り向かないでじっとしててね。すぐ済む、大丈夫。
(背中に回り込む。歪んだ顔と向き合い、難しい顔をして)
あー、んー……築魅ちゃん、今の服ってお気に入り?
そうじゃないと嬉しいんだけどなー。
(ポケットから、櫛を取り出す。一振り、二振り、三度振ると櫛が鋏に転じて)
ななせ、まほ。
では、真帆さんとお呼びしましょうか。
(状況も忘れて、いつものおっとりとした態度に戻る。)
(相手が名前で呼ぶのなら、こちらも名前で呼ぼうと思った。)
そうやって放り投げられると却って気になりますが。
後でちゃんと、説明してくだされば、結構です。
――はい。生ものではありません。
(お得意さんから注文された品を届けに行く途中だった。)
(今頃、先方は不審に思っている頃だろうか。)
後ろを取られると、むずむずしますが…
…服、ですか?え、あの、ちょっと待ってください。
とても嫌な予感がするのですが。私の背後で刃物を振るう気でしょうか。
そんな音がします。ちなみに服に関しては、可もなく不可もなく、といったところでしょうか。
(茶色く長い髪でも覆い隠せないほどの大きな染みのような顔が、ぎろりと睨む。)
(やめろ、邪魔をするなと訴えているかのようだった。)
できれば、穏便にお願いします。
後で人に会う予定ですので。
(しかし、そこは危険な目には何度も遭ってきた武器職人見習いである。)
(十全に話を理解できずとも、直感でこの少女を信じてみる気になったのだ。)
真帆さん、いいね親しそうで!
私はタメ口きくけれど、敬語を正せとは言わないからっ。
あれ、普通逆かな? 敬語だけど敬語じゃなくても……あー、いいや後で。
後でちゃんと、大丈夫間違いなくっ。
自分がどういう目に遭ったか、位の説明は欲しいもんね。
(ほんとはあんまり教えられないんだけど、と声に乗せずに呟いて)
ごめんね、初対面で背中取って。殴られて川に流されないのは感謝してる。
(睨みを軽く流しつつ、後ろの染みに微笑みかけて)
(見せ付けるように、あとちゃんと鋏になっているか確認する為に、鋏を一度打ち鳴らす)
んー、厳密に言えば刃物なのかな、これ。斬れる刃じゃないし。
これが一番穏便だからさ、ごめんっ――ェ、――ァ――――
(小さく短く、何事か呟くと、鋏に淡く光が灯る)
(背中の真ん中、一番上の服を下から上へ、染みごと一気に鋏を入れて)
――さよならっ! と、何とかなった?
………っ!
(チリチリと背中が焦げ付く感じがする。)
(普段から刃物を扱っているだけあって、刃物に対する勘は鋭い。)
(一瞬だけ身を強張らせて、それでも無駄に動かずその時を待つ。)
あっ?
(光る刃に裁断された顔が背中から抜け出す。)
(青白い燐光を放つ人魂が苦しそうに宙を舞っている。)
あれが、元凶ですか。
事情に関しては、理解しました。
(すっと築魅の目付きが鋭くなる。ウエストポーチに仕舞っていた凶悪な十枚刃の)
(鋏を取り出して、思いっきり斬りつける。水を斬ったような手応えが返ってくる。)
(人魂は、瞬く間に小さくなって消えていった。)
……心霊現象に遭遇するとは、この街は厄介な場所です。
そろそろ、聖別処理の武器のひとつも持っておくべきでしょうか。
(手応えがなかったことが不満なのか、ポーチに凶悪な鋏を仕舞いこむ。)
(鋏型シュレッダーを武器として洗練させたようなこの武器こそがお届け物だった。)
ありがとうございます、真帆さん。お陰で助かりました。
どうやってお礼を申し上げたらよいものか。
(帽子の少女に向き直って、ぺこりと一礼をする。)
(虫も殺さないような笑顔は、さっきまで武器を振るっていた人物には見えないだろう。)
あの、申し遅れましたが、私は「想鐘商会」の者です。
「想鐘商会」は武器商人の組合であり、武器職人の組合でもあるのですが、私はそこの見習いです。
これ、名刺です。何かあったら連絡してください。私でよければ、何なりとしますから。
(名刺入れから作っておいた名刺を取りだして、すっと差し出す。)
(名前と店の住所と連絡先が羅列されている。)
――ォ――っ、と?
(呟きを打ち切って、生まれかけた光を霧散させ)
(いつでも動けるようにしつつ、一部始終を見守る)
お、効いてる効いてるっ。説明とか、要らなさそうな感じ?
説明って苦手なんだよね、私ー。
(用の済んだ鋏を振ると、串に)
おっとこれじゃない。
(櫛に戻して、ポケットに)
結構頻繁だよ、こういう事。私がこうやって駆けつけられる位にはね。
武器よりは身を守る事を考えて欲しいなー……こういう目に遭ったなら余計に。
出来ればきちんと、呪的に見て貰った方がいいんだけど……そういうアテ、ある?
(少なくとも一般人ではないのだろう、同じ年頃の少女を心配して)
いやいや! 何でもない事だし、服もダメにしちゃったし!
もうちょい私の腕が良ければ、切らなくて済んだかも知れないしっ。
(いいからいいから、とこちらも申し訳なさそうに手を振る)
あ、名前は聞いた事あるかも。
そっか、そういう所の子かー。慣れてる感じな筈だよね。
(名刺を受け取り、翳して眺めて)
……字、難しいなあ。書くの大変じゃない? でも了解、困ったらアテにしてる!
私の連絡先も、ええと……電話番号でいい?
で、お使いだよね、服、大丈夫? な訳ないか、どうしよっかなぁ。
(申し訳なさそうな表情で腕組み。しばらく考えて)
……よし、取り替えよっか! 上だけ!
(言うが早いか、いそいそと自分の服を脱ぎ始める)
あら、それは魔術ですか。やはり、そういうのは便利ですね。
超能力もそうですけれど。最も、武器が必要ないのは寂しいですけれど。
(杖が鋏にも鋏が串、そして櫛に変化するのを見届けて眼を見開かせる。)
(超能力、そして魔術。どちらも便利だけど武器職人は必要ないだろう。)
アテ――と言うほどでもありませんが。
知り合いにオカルト寄りの道具を作る人がいますので。
なんとかなるでしょう。
(善意で心配してくれている真帆を安心させるように微笑む。)
はい、それで結構です。
(連絡先を聞いて一安心。後日、形のあるお礼をしようと心に決める。)
え?交換、ですか?
あの…ちょっと…そこまでしてもらわ……仕方ないですね。
(止める間もなく上着を脱ぐ真帆の行動に慌てつつ、それでも素早く切り替えて)
(自分も背中を裁断された上着のボタンを外し、脱いでゆく。地味な外見に反して)
(出るところは出たスタイルが露わになる。白いブラに包まれた乳房を隠して上着を差し出す。)
すみません、重ねてご迷惑をおかけします。
今度是非、店に寄ってください。サービスしますので。
ところで真帆さんも、組合か何かに?
(誰もいないとは言え、夏の夜の公園で半裸。)
(頬を染めつつ、もじもじしながら尋ねる。)
そういう事。話さなくても済むって楽!
うーん、悪魔だドラゴンだって相手にするなら魔法使いだって武器が欲しいよ。
でも、そこまで物騒な時代でもないからね。いちお、銃刀法とかあるし。
目に見える武器がないってだけだけど、ねっ。
(くすっと笑って、ハンチングをかぶり直す)
じゃ、大丈夫かな。こういうのは知り合いの方がいいもんね。
脅かすようだけど念のためってだけだし、アイツそんなに強い物でもなかったし。
じゃ番号、ええっと……
(手早く伝えて、間違いのない事を確認して)
よしっ。ま、今回みたいに切羽詰まってなくてもいいから困ったらどうぞ。
もちろん、暇な時だっていいけどっ。
いいのいいの、ねっ。
大丈夫、アイツが悪さしてたせいで近くに誰も居ないしー。
(上着と上着を交換し、ばさっと羽織って)
……あ、サイズ小さいかも。大丈夫?
(袖を通しつつ――飾り気のない下着は隠しもしない――これも申し訳なさそうに)
うん、見るのは楽しそうだし築魅ちゃんにまた会いたいしっ。店番とかしてるの?
私はね、んー……
(頬に指を当て、ちょっと悩んで)
謎の魔法結社! みたいな所。名前がある訳じゃないし、組織単体でも大きくないよ。
そういう所の所属。……早く着ないと風邪引くよ?
私に見せ付けてるならよく見ておくけど、なんてねっ。
(やっぱり多少胸の緩い服の、ボタンを上から閉じていき)
あら、職業魔法使いの方でも剣は装備できるのですか?
それはちょっと意外でした。
てっきりナイトと武士だけかと思っていました。
(ゲーム的な発言を冗談めかして言って、笑う。)
ええ、何とか、大丈夫でしょう。
(多少サイズ差は気になったものの、背に腹は代えられない。)
(この服は洗濯して、後日ちゃんと返そう。)
表向きは金物屋をやってまして。住み込みで働いているんです。
偶に店番していますが、大抵は工房に引き籠ってますね。
出来れば、事前に連絡頂けるとおもてなしできますけれど。
――そうですか。謎と言われると知りたくなるのが人情ですが、
真帆さんみたいな人たちが一杯いるのなら、ちょっと楽しいかも知れません。
(師は、武器と人の調和を説いた。だから築魅もちゃんと人を見る。)
(賑やかで、楽しい人だなと、築魅は感じた。)
そんなにじろじろ見ないでください。
こういうことは、ちゃんと手順を踏んで頂かないと。
滾る若さに身を任せると、擦り傷じゃすみませんよ?
こう見えても私、惚れっぽくて執念深いですから。
(冗談っぽい言葉に、満更でもなさそうな顔と言葉を返して服を着る。)
(――その後、二人で公園を出て。)
では、私は用事があるので。
またお会いしましょう。真帆さん。ありがとうございました。
(最後にもう一度深く一礼をして、築魅はおつかいに戻った。)
【では、私の方はこれで〆とさせてもらいます。】
【上手く出来たかわかりませんが、楽しかったです。】
【また機会があればよろしくお願いしますね。】
あー、ゲームの偏見だね。使える物は使わなきゃ。
確かに研究者気質な人はひょろっとしてるかも知れないけれど、職業魔法使いじゃそうもいかない。
結局一番大事なのは身体だよ、魂と不可分である限りね。鍛えられるなら鍛える!
もうちょっと私がいい身体なら良かったんだけどねー。
(自分の胸元をつまんで、仕方ない、と笑い)
へー、金物屋さん。タライとか人工衛星の部品とか?
じゃ、ちゃんとアポ取ってから伺うよっ。工房も見てみたいけど、踏み込むのは悪いかな。
あはは、大層な物じゃないよ? でもあんまり喋る物でもないかな、って。
癖のある人ばっかりだよー、いい人達なんだけどさっ。紹介出来たらいいんだけど。
(やっぱり無理そうかな、と笑って)
おっと、じゃあこれ以上の火遊びは止めておきます!
高校生じゃまだ責任取れないしねー。受け入れる準備だけで済むならいいんだけど。
でも、突っ走った方が若さっぽくていいんじゃない?
(冗談っぽく切り返し、二人で笑いあって)
お使いだよね、いってらっしゃい!
私も絶対伺うからさっ、またね! 気を付けてー!
(急ぐ背中を、手を振り見送る)
ふぅ、っと。……ちょっとすーすーするかな。
(背中の裂け目に手を伸ばし、とした所で着信)
――あ、もしもしはいっ。うん、繋がらなさそうだったからいちお電話して――
【こちらこそ、変な所なかったかな? 築魅ちゃんは良かったよ、すごく】
【うん、時間が合うようなら。お休み、お疲れ様、ありがとう! またねー!】