(夕暮れ時。二人の女性が対峙していた。)
(一人は地味な服を着た眼鏡の少女。もう一人はやや派手な服を着た女性。)
(片方は茶色の長い髪。もう一人は赤茶色の長い髪。対照的な二人だった。)
(衣装も、雰囲気も、何もかもが対照的であった。)
…それでは、篠崎さん。そろそろ、バイトを始めさせて頂きます。
もう言った事ですが、武器の性能テストですから、危険は伴います。
(口火を切ったのは茶髪の眼鏡少女、綴屋築魅。武器商人である。)
(…篠崎久遠とこうなった経緯の説明には少々時間がかかるから、今は割愛する。)
(確実なのは、今ここで、彼女相手に武器の性能のテストをすることだけである。)
治療費などはバイト料とは別に負担しますけど、出来れば怪我しないでくださいね。
(にっこり虫も殺さぬ顔で微笑んで、凶悪な武器を取り出す。)
(直線の刃、曲線の刃、鋸のような刃。その三種類の刃を根元で溶接し纏めた)
(人に痛みを与えて切り刻むことだけを考えた凶悪な武器である。)
まずはこの子から。
まだ名前は決めてませんけど、いい仕事してくれると思います。
(一滴の血も流した事のないような笑顔。)
(子供を褒めるような誇らしげな笑顔。)
(そんな笑顔のまま、ヒュンと軽く振って風を切る。)
【では、よろしくお願いします。】
(大体の説明は先の面接で聞いた――武器の性能テストらしい、が。
――対峙する彼女を見て眼を見開く、武器の性能テストというからにはテストするのは自分
標的は巻き藁か何かかと思っていたからだ。)
………ああ、構わない。
しかし、まさかこうなるとはな…………
(しかし事実はどうだ、武器を持っているのは彼女、地味な衣装に身を纏っているものの
中身は細身に出るところはでている、顔立ちはどこか知性が押し出た雰囲気を持つ彼女。
そんな彼女、褸屋 築魅が複合刃――の武器を構えている。)
複合剣か………キメラといったところだな、もしくは鵺。
(知的ながらもどこか子供のような――どちらかというと子供を溺愛する馬鹿親といったほうが良いか。
そんなギャップが不思議な少女の笑み、動作に左半身を引いて身構える――
唐突に久遠の両手に防御用の剣、マンゴーシュが現われる。)
任せろ、あんまり怪我はしないと思うぞ!
(三つの刃の機能は全て別々、直線の刃は突くこと、曲線は斬ること、そして鋸状のそれは――
見当がつかない、ソードブレイカーか?それともフラムベルジュ?
なんにせよ見た事もない武器だけあって太刀筋を予測する事もできない、両手に力を込め方から力を抜き
来るであろう一撃に備える。)
鵺――ですか。悪くないですね。
これが完成したら、そう名付けるとしましょうか。
(篠崎久遠の言葉を受けて、まんざらでもない様子で呟く。)
(試作型複合剣・鵺をひゅんひゅんと振り回しつつ、相手の構えを観察する。)
なるほど。それが貴女の力、ですか。
面接の段階でも思ってましたが……
武器要らずですよね、その力。武器職人としては多少哀しいものを感じます。
(彼女が忽然と取りだした武器のことはともかく、本気で哀しそうに言う。)
(超能力とも言うべき力よりも、武器職人が必要とされない事の方が哀しいようだ。)
ま、その言葉が聞けてなによりです。
後顧の憂いもなくさっくりと参りましょうか。
(ふわっと軽い足取りで間合いを詰めて、シャキンと鳴らしつつ突きを放つ。)
(シャキンという音はメインの刃を変えた音。直剣の突きが迸る。)
(篠崎久遠の構えは堂に入っていて、戦士としての高い力量が感じられる。)
(武器職人でしかない築魅が、真剣に立ちあって勝てる道理もない。)
(しかし、そうでなくてはテストの相手としては相応しくない。)
………そう言ってくれるな。
コレも人の中では誰からも………一時は私本人からも必要とされなかった力だ。
(それでも向き合った結果として、いまのこの力と自分が在る。
その事を不幸だとは思わない、なぜならこの力は受け入れられたから、そしてこの力を受け入れた自分を
機関は受け入れてくれたから。)
お前やお前の子は私に必要とされなくとも、私以外から必要とされる………
その為の助力は私も惜しまない――だが、コイツには私だけなのだ。
(悲しそうな口調に勤めて明るく言う。
自分は自分の力の理解者でいてやらねばならないと、そうしなければこの力は悲惨な事になる。)
だから、お前の職人としての在り方で私と私の力に対して、「武器職人」というもの意味を刻み付けてくれれば良い。
(まずは直進、基本の体捌き、構えは申し分なし。
鋭く迫るそれの機動に護剣の腹を割り込ませて軌道をそらす――保は一足一刀。
無論、マンゴーシュの一足一刀ではなく築魅の持つ複合剣の一足一刀。)
(羽の様に軽い足取りから放たれた突きの次はなにか?虎の爪か?蛇の尾か?
それとも再びその羽を羽ばたかせるのか――
まさしく鵺のごとく次の太刀筋が一定しないその刃の特徴を見極めんと眼を凝らし
耳を研ぎ澄ませる――メインの刃が切り替わるあの音はおそらくヒント、音の違いさえ聞き取れれば
次の刃が読めるかもしれない――日本のマンゴーシュをクロスさせて次の攻撃に備える。)
――お見事。
(予想通り、突きの軌道がマンゴーシュで逸らされ最適な間合いが崩された。)
(基本として素早く手首を退いて反撃に備えるも、篠崎は様子見に徹している。)
(テストならではの行動。実戦なら手痛い反撃の一撃は食らっている判断する。)
(篠崎のり今日は、動きを一度見れば確信できる。手強い。)
私には、私の武器を作ることしかできないのです。
作り続けて、自分の価値を自分と周囲に示し続ける必要があるのです。
貴女には力がある。誰の為に何かを成す事の出来る、力が。
私には武器や道具を作る事しかできません。
例え必要とされなくても、その武器が誰かを傷つけるだけと知っていても。
(さっきとは別の意味で哀しそうな表情を作りつつ、手首を捏ねまわしてシャキンシャキンと)
(刃を変えつつ、静かに語る。それが褸屋築魅の根幹を成す部分。)
この仕事には誇りとやり甲斐を感じています。
けれど。
(くるりとその場で回転して長い髪を――その中に仕込んだ三枚の剃刀を飛ばす。)
(向き直った時には間合いを詰めつつ横薙ぎの一閃を放っている。)
(日本刀の刃部分を使った、居合いを思わせる斬撃。)
(静かに語りかけた言葉がまるで単なるブラフだった。)
(そう思えても仕方のない容赦のない攻撃だった。)
【よく見たら凄い誤字していますねorz】
【×り今日は ○力量は、と変換しておいてください。】
(手首を捻るたびに金属が擦れあうあの音が鳴り響く。
直線、曲線、鋸――入れ替わり立ち代りメインの刃が変っていく。)
力はあるものじゃない、得るものだ………私は誰かのためどころか自身のためにすら何もできなかった女だ。
それをお前が思うような力に変えてくれたのは今の環境だ。
――――だから!
(回転――髪から射出される何か。心中で呟く「狐の胴とは恐れ入る」と。
片方のマンゴーシュが顔めがけて向かうそれに反応してしまう。が、腕は上げない剃刀の切れ味など見に来たわけではない
それに髪から出てきたソレが正確な狙いをつけているとは思えない。
――案の定それは一本は頬を掠め、一本は髪の毛数本を切り落としただけに過ぎなかった。
ただ褸屋築魅の武器への愛情だろうかそれとも単純な技術か、一本は眼の下に眼球を傷つけないような位置に
深々と突き刺さる。)
(そして、化かした獲物を刈り取る為に虎が爪を繰り出す………速い、日本刀による居合いという特性を
充分に生かした斬撃。クロスしたマンゴーシュの前に出したほうが容易く折られる、そして後ろのほうのマンゴーシュに皹。)
そのやりがいのある仕事、存分に示すといい
(突きは前後、斬撃で上下左右動きに対応するだけならばこの二つで充分。
ならば後の鋸状のほうは――――と仮説を立てて折れたマンゴーシュを放棄。即座に右手に別の剣を握る。
細身の剣――突きに特化したレイピアをとり複合剣で割り込める軌道、今までの動きから
築魅でも反応できる速度の突きを放つ。)
【誤字はお互いさま………というか私のほうが酷い】
【脳内変換はよろしくお願いする。いや、うん………すまない。】
(剃刀は目晦まし。敵が少しでも怯めばそれでいい。)
(けれど、今回の敵は果敢で、それでいて冷徹な戦士だった。)
(無用に動いて体勢を崩す事を懸念したのか、敢えてその身を晒して受け止める。)
(一枚だけ深く突き刺さった剃刀だけが、僅かな成果。)
(居合い抜きの一閃は、マンゴーシュの一本を割ることに成功した。)
(同時に、手元に伝わる嫌な感触。日本刀の刃先に僅かな罅が入ったのだ。)
(元々日本刀はその特質上、鋼と打ち合うように作られていない。)
(打ち合わずに斬るのが本懐ならば、受けられた時点で不味いのだ。)
(職人としての腕の未熟さと、見よう見真似でしかない剣術の拙さが合わさった末の、明快な解答。)
(けれど、後悔している暇もなく突きが迸る。)
(レイピア。軽妙な突きを放つにはこの上ない選択。)
(こちらの力量を考慮した上での攻撃は、相手の確かな技量があってこその芸当。)
(シャキンと刃をスイッチして、鋸の刃で弾く。ギザギザの刃は肉を削いで痛みを与えて)
(回復を遅らせる。そして日本刀と違って受けて弾いたり、刃を絡ませたりもできるのだ。)
それで、どこまで話しましたでしょうか。
確か、私が武器を作る本当の理由を涙ながら語るシーンでしたっけ?
今朝、そんなでっちあげ妄想ストーリーを思いついたので披露しようと思ったのですが。
嫌ですね。とんな話だったか忘れてしまいました。
(けろりとした顔で、何もかもが嘘だったように。)
私はそのように生まれ育ち、そうなるように望まれた。
日本刀が斬る為に存在するように。拳銃が弾丸を撃ち出す為に存在するように。
他の生き方を知らず、与えられず、ただ必死にそうなる為に生きてきました。
だから。だからこそ、貴女が、貴女たちが、羨ましいと思うのは、否定できません。
お疲れ様です。バイトは終了です。
(戦意がない事を示す為、鵺をそっと足元に置く。日本刀に罅が入った時点で試作品としても)
(不合格。この武器ではこのレベルの相手を標的とするには不十分。このデータだけで十分だった。)
あの、やっぱり怪我させてしましましたね。
すみません。治療費は遠慮なく請求してください。
(眼の下に眼球を傷つけないような位置に刺さったそれを見て、気遣わしい表情になる。)
【ありがとうございます。】
【そろそろ〆に入りましょうか。】
【またお相手して貰えると嬉しいです。】
(対するマンゴーシュは護剣の名のとおり受けるために作られた短剣。
それでもそれを砕けるだけの技量は賞賛に値する。
職人であるが故にその武器の威力の出し方は熟知しているといったところか。)
(突きを弾いた鋸状のそれは細身の刃など容易く叩き折る。――そう思って力を入れるレイピアがしなる。
鋸状のそれは引っかかるのだ、うまく梃子を利用できるようにしておけば自分が無理に力を入れなくとも
操作するものの意思で折る事もできるだろう
そしてそれを一押しすると破断点をこえ、引っかかった場所を支点としてぽっきり折れる。)
ふむ………一応は全ての機能を試せたのかな?
いや、鋸状のほうは破傷風を引き起こすためのものかもしれんから、私が刻まれてやらねば試せないけれど。
(レイピアをしまいながら言う、深く刺さった剃刀を抜いてみる――思ったより出血はしない。
じん、とした痛みがゾクリと背中を振るわせる――相変わらず嫌な性癖だと思う。)
………ふふっ、思い出したら是非聞かせてくれ。
女優が美人だと思わず聞き入ってしまうからな…………
(真意を汲み取る事なんかできない、自分はいつでも聞いてもらう側だったし
諭される側だったから………こういった話には無力だ。
けれど、言った言葉は嘘じゃない、彼女には自分のやり方を貫いて欲しい。)
いいじゃないか………その道でキミが大成するように願っているよ。
私なんて未だに自分が何をしていいのか明確に掴んでなく、期間に甘える身だからな。
……お互い、精進する身だ。
ついては困ったことがあったら相談相手になる。今回みたいに金銭で困ることが多々在る私に
今回見たくバイトを斡旋してくれると嬉しい…………
これからもよろしく頼む。
(薄く笑みを向けると右手を差し出して握手を求め――)
………ああ、気にするな……侮った私が悪い。
出血量が少ない事を見ると思ったより深くはなさそうだし………まぁ念のため一応。
医者にはいってみるとするよ。
うん、治療費を持ってもらえるのはすごく助かるしかもバイト代までくれるのは非常に。
(治療の経過などを告げるために何度かこの道具屋に足を運ぶことになるのだがそれはまた別の話である。)
【それでは私はこんなところで〆る。】
【お相手に感謝する、こちらこそ再び機会が訪れるのを楽しみにさせてもらう。】
【お疲れ様だ。お先に失礼する。】