(ある日のこと、師匠である鈴原零一郎から用事を頼まれた。)
(以前から<想鐘商会>と付き合いのある<組織>に所属する人物に荷物を)
(届けろと言われた。そのくらいの用事で何故と思い訊いたら、その人物とは女性で)
(あり築魅と年齢も近いらしい。<組織>に対しては貸しもあり借りもあるのでその人物と)
(できれば懇意になって来いとは、師匠の命令だった。)
……どんな方かしら?
(広場を利用したオープンカフェの一角。薄手のノースリーブにブラックのロングスカート。)
(伊達眼鏡の位置を直し、時間を確認する。指定の時刻まで残り十五分。少し来るのが早すぎた)
(気がしたけれど、先に来ていた方が緊張の度合いもマシだろうと思い立ったが吉日である。)
(不安と興奮が綯い交ぜになった曰く表現し辛い感覚を抑え込んで、その時を待つ。)
【今回は顔合わせだけなので短くなると思いますが、よろしくお願いします(一礼)】
(その日はよく晴れていて、オープンカフェでの待ち合わせには持って来いの天気だった)
(馴染みのある想鐘商会に前々から依頼していた武器が
完成したと知らせを受け、商会の人物と直接会うこととなったのだ)
(事務所に郵送して貰っても良かったのだが「お前のもんだろ、行って来い!」
と上司に怒鳴られたものだから、こうして待ち合わせることとなった)
んん……、ちょっと早かったかな。まだ10分以上もあるか……。
でも、もう来ているかも。
(艶やかな黒髪をポニーテールにし、薄手のパーカーと短パン姿で到着)
(時計を見てから席を見渡す。確か相手は眼鏡をかけた茶髪の女性)
(年齢は自分と同じくらいとの情報だ)
……あの子、か……?
(二人掛けの席に座っているそれらしき少女を見つけた)
(少女も時計を気にしている様に見える)
あの、さ、ここ……座ってもいいかな?
(失礼かもしれないが、まずは名乗らず声をかけてみる)
(向かい側の椅子に手をかけながら軽く会釈した)
【うん、今日は軽く行ってみよう。ではこちらこそよろしくねー】
あ、もしかして。
(やって来たのは、猫を連想させる少女だった。)
(ほわんと頬が緩むのがわかる。歳相応に、猫は好きだった。)
(そして、猫のようなしなやかな足取りは只者ではない証拠である。)
(席を立って、真面目な顔を取り繕って師匠の弟子として粗相のない挨拶をする。)
はじめまして。「想鐘商会」≪黄泉市支店≫代表責任者、鈴原零一郎の弟子で
褸屋築魅と申します。日頃のご愛顧を師に代わり、厚くお礼を申し上げます。
(頭の中で何度も練習した台詞を噛まずに言えた事を内心で喝采しながら一礼する。)
(言ってから、あ、しまったと思い直した。相手の容姿も名前も知らず、ただ直感だけで)
(この人だと決めつけてしまって、もし違っていたらどうするのかを考えていなかった。)
……えっと……間違ってません、よね?
(所在なさそうに、おそるおそる尋ねる。)
(もし違っていたら各方面に土下座する覚悟だった。)
………………ふふっ。
(緊張しているのか、それとも根が真面目なのか)
(紙に書いてきたかのような挨拶をする少女─築魅─)
(ぽかーんとしてその挨拶を聞いていたが、やがて吹き出すように笑って)
いやぁ、良かった。
どんな子が来るのかと思って緊張していたけど
そっかー、あなたが想鐘商会の……。
(初対面だと言うのにへらっと笑みをみせて、築魅をもう一度上から下まで見る)
あ、大丈夫大丈夫。ばっちり大正解だよ。
えぇっと、自己紹介が遅れてごめんなさい。
私は万屋「山猫」の日泉なずな。
いつもお世話になってます。
(上司からは、相手のことは全面的に信用していいと言い聞かされてきたため)
(簡単な自己紹介とともに片手を差し出す)
あ、よかったぁ。
間違ってたらどうしようかと。
(笑われても気にしない。むしろ、笑って済ませてくれないと困る。)
(ほっと胸を撫でおろす。我ながら相当緊張して舞いあがっていたらしい。)
(人と会うのも仕事のひとつなので、今回の教訓はこれから活かすことにする。)
はい。改めまして、褸屋築魅と申します。
どうか築魅と呼んでください。16歳です。よろしくお願いします。
(差し出された手をそっと握り返す。仕事をしているだけあって、少し硬かった。)
(けれど、それは自分も同じ事なので、少し親近感を覚えた。)
(席に座るとウェイターが来て注文を取る。立ち去るのを待ってから商売の話を切り出す。)
これは依頼の品です。
任務の役に立つ道具との注文でしたので。
(足元からスーツケースを持ち上げてテーブルの上に置く。)
(パカッと開けると、玩具じみた銃とごついゴーグル、そして工具セット。)
ワイヤーガンとゴーグル、あとはピッキングツール各種ですね。
ワイヤーガンはNASAで使われる物をアレンジしました。
ちょっとゴツクて見た目は不格好ですけど、結構便利ですよ。
ガス圧で射出し、最大120メートルまで伸びます。ワイヤーは200kgまで耐えられますので
人一人抱えて上り下りするくらいならなんとかなります。
人に当てると結構痛いので護身用にも使えますがけど、乱用しないように。
次にゴーグルですが、赤外線などを感知できます。警備網を潜る時に便利です。
モード変更で体温の感知も出来ますので、暗闇でも昼間のように人の顔が見えます。
最後にピッキングツールですが、これに関しては説明不要でしょうか。
≪想鐘商会≫謹製ですので、使いやすいと自負してます。
(自分の仕事に対する自負があるので、すらすらと淀みなく説明してゆく)
それじゃー……築魅ちゃん、でいいのかな?
私も、なずなでいいよ。あまり細かいことはきにしないからさ。
ん、こちらこそよろしくね。
16歳ってことは、私より1つ年下かぁ。
……んー、それじゃ失礼して。
(まだ若いとは言え、その手は職人の手だった)
(少し厚い皮膚の触れ心地が、とても気持ちよく感じられた)
(席に座ると飲み物と軽食を注文し、いよいよ本題へ入る)
へぇ、これはなかなか……
(スーツケースの中身。それは予想以上の品揃えとスペックだった)
(実際に使うことを想像するだけで興奮してくる)
うわぁ、そうそう。こういうのを待ってたんだ。
築魅ちゃん、やっぱりあなたの所の腕は違うねー。
あはっ、これを使えると思うと、何だかわくわくしてきたよ。
(もはや説明書要らずの築魅の説明を聞くと、感激して彼女の両手を握る)
では、なずなさんと。
なずなさん……なずなさん……
(ほっこりと笑って、口の中で繰り返す。)
(初めて口にした名前なのに、とても懐かしい感触がした。)
そうって貰えますと、職人冥利に尽きます。
今回の依頼はそちらの仕事の内容を聞いた上での
私の判断でしたので、気にいって貰えれば幸いです。
(これ以上ない位感激した様子で、両手を握られる。悪い気はしなかった。)
(こちらも笑顔で応じつつ、説明を続ける。)
ただ、今回は既製品の応用でしたのでそこまで日数も掛らなかったのですが
もしなずなさん専用の武器や道具を作れとなると設計図や素材の段階から
考えないとならないし、なずなさん自身の協力も必要なので、もう少し日数は必要となります。
もし専用の武器が必要であれば、早目に言ってくださいね。私、がんばりますから。
(師匠の手伝いをしたり、それなりに仕事の数はこなしてきた。)
(だが、その大半は既製品の応用であり、築魅自身が誰かの専用の道具を作った事は無かった。)
(もしもこの少し硬くて、それでも暖かい手の持ち主の為に道具が作れたら、とても嬉しいと思える。)
実は、はっきりと「何が欲しい」って伝えなかったから
ひょっとしたら困られてやしないかって反省していたんだけどね……
でも、築魅ちゃんにお任せして正解だった。本当に感謝してるよ。
(ごめんね、と笑って手を離しながら)
なるほど……、ん、了解だよ。
私ね、まだ半人前だけど、最近漸く仕事をこなせるようになってきたからさ
そう言ってくれる人が居てくれると、すっごく助かるよ。
あー……そうなると、私の連絡先も知っていて貰った方がいいかな。
これ、事務所の番号と私の携帯の番号、それとアドレス。
(鞄から一枚の名刺を取り出して、築魅に渡す)
(年相応の可愛らしいものではなく、やはり仕事用のシンプルな書式のもの)
(必要な情報は全てそこに書いてあった)
それと、あの……もし良かったら、また近いうちにお茶でもどうかな?
私、築魅ちゃんと色々話してみたいな。
(仕事関係の仲間には同年代の子は居らず、なかなか話したいことも話せない)
(それに武器に対するこの子の熱意をもっともっと聞いてみたい)
(そう思って、少し恥ずかしそうに尋ねてみた)
いえ、それを見抜くのも仕事のうちなので。
師匠もよく私にそう言ってます。
言われた事をするだけでは一流とは言えない。
言われた事以上の事をやって一流だと。
そうやって私を育てているんですよ、師匠は。
(そっと笑って、気にしていないと告げる。)
謙遜なさらないでください。
分野は違うとは言え、なずなさんも立派に仕事をしている。
私と変わらない年頃なのに。だから、私も負けないように励みたいと思います。
(師匠の狙いがようやくわかった。分野は異なれど近しい場所にいる同世代の)
(女性と出会わせて、奮起を狙ったのだと。実際、頑張りたいと思っている自分がいた。)
はい、では私の方も。
(師匠に用意しておけと言われた名刺を使う機会が巡った事を喜ぶ。)
(どちらも実用性本位の生き方が似ているなと、名刺を交換して感じた。)
ん、そうですね。
機会があれば、是非よろしくお願いします。
(頭を下げようかと思ったが、これは仕事以外の話なので、にっこりと笑う事で誠意を示す。)
(思えば、近しい年頃の相手とこんな風に遠慮なく話せたことはなかった。)
(これも師匠の狙い通りなのだろうと感じつつ、悪い気はしなかった。)
(会話の区切りを狙ったように、注文の品がテーブルに運ばれた。)
【では、私の方はこれで〆とさせてください。】
【これから、どうか末永くよろしくお願いします(一礼)】
そうなんだ……、ふふ、いいお師匠さんだね。
仕事のことも築魅ちゃんのことも、よく分かってるんだ。
(自分も以前、社長から聞いたことはあるが、直接会ったことはない彼女の師匠)
(一体どんな人物なのだろう、と考える)
あ、ありがとー。
じゃ、お互い本腰入れて頑張らなきゃね。
(彼女の名刺を一通り眺めると、宝物のように鞄にしまった)
っと……、それじゃ難しい話は一旦止めにして、食べよっか。
(二人笑顔で「いただきます」と声を合わせると、届いた料理を食べ始めた)
(これから長い付き合いになるのだ。今全てを語る必要などないだろう)
(まずはこうして出会えた日を楽しむことが先決だと、そう思った)
【それじゃ私もこれで〆るね】
【初ロールお疲れさま。こちらこそこれからもよろしくねー】
【私はこれで落ちるよ】