>>281 …そんな訳にも行かないだろう。今は生きることが最優先だ。
(目の前の、高等部の少女が、助けを呼ぶなとかすれた声で叫んだ。
幾ら放課後とはいえ、一人こんなジャージ姿で裏山にいるなど、少々不自然かもしれない)
(もしや、家出でもしたのだろうか。そんな所をこの化け物に襲われたのか。
あるいは、治療費が払えないほど困窮しているから?それこそ命には代えられないものだ)
(多少のごたごたなら、警察の権力を用いれば有耶無耶にできる。
だから少年は構わず病院に、詳しい現在地を伝えようとし――――硬直した)
「はい、そちらは××学園の―――?」
『ブツッ』
(少しの沈黙の後に、終話ボタンを押す。視線は相変わらず、一点を凝視したまま)
(それは、まるで乾いた粘土のように罅割れた、彼女の手。
人間と同じような綺麗な白い肌だが、そこだけ奇妙なメイクのように、割れていた)
(人間では有り得ない。この異形の能力かもしれないが、
この場合最も順当な考えは、この少女は人と異なる形を持つ者。つまりは)
………お前は、異形か?
(携帯電話をしまうなり、晶は単刀直入に切り出した。
その眼には先程までの、案じるような様子は微塵もない。
ただ微動だにせず、冷たく六花の瞳を見据えていた)
(その両手には、まだ何も握られてはいなかったが。
鯉口を切る寸前の侍のように、彼を、一触即発の雰囲気が纏っている)