……え、え。
(この時を楽しむことに夢中になりすぎて、予想すらしなかった言葉)
来年も、きてくれるの?
(明日もクラスメートと騒ぎたいとか、新作のゲームがやりたいとか)
(今までずっとあった目の前の楽しみとはまた違う、未来への希望)
(六花からのお祝いともなれば、一日たりとも忘れることはないだろう)
(疎ましくさえ思っていた自らの記念日は、一瞬にして夢に満ち溢れる)
2倍なんてそんなー。ひとつだけでもじゅーぶん、正ちゃんは嬉しいよ?
それより、よかったら六花の誕生日も教えてほしいなん。
盛大にお祝いして、ホワイトデーにもなにかプレゼントしたいしー。
(これほどまでに生を彩り、とうとう年単位での温もりまで与えてくれた女の子)
(お礼という言葉を使うことさえ憚られたけれど、それでも彼女になにかをあげたい)
(形為すものであれ目に見えぬものであれ。尽くすことが喜びだと、素直に言える)
弄りすぎたら、せっかくの髪が傷んじゃうからねん。
難しいことなんて考えなくていーんだよ?
そうやって、おしゃれしよーって頑張ってくれることが一番嬉しいんだ。
(桜色に染まりながら頷いた六花は、本当に綺麗で)
(髪の毛の先であれ、傷ついては大変だとさえ思え)
それじゃあ、開けさせてねー。
(そんな相手からもらった贈り物なのだ。楽しみにしない筈がない)
(細いはずの目から、しっかり確認できるほどの輝きが見られ)
(やや震えている骨ばった手が、丁寧に包み紙を開いていく)
(が、ラッピングが解かれて形状が明らかになってくると)
(出てきたのはハート型。心臓ではなく、あの甘酸っぱい形)
……あ。
(今まで過ごした日数と六花の性格をあわせて考えれば)
(これはお世話になったお礼すなわち義理チョコなのだ)
(が、女の子からチョコをもらうこと自体が初めてなのに)
(いかにもな形を見せられると、ばくばくと心臓が暴れ)
あり、ありがとう、りっ りっか。
なんか……なんか……どうしよう、嬉しすぎて上手く言えないなんて。
(滑らかさを取り戻していた顎やら舌やらは再び重くなり)
(かぁーっと頭に上ってきた血に、ややもするとふらつきそうになる)
(いや、今はお礼を言うのが何よりも先なのだけれど……)
(昼間とは別の形で、自分の経験のなさを思い知らされた)
(本命と義理の境界線らしきものが全くわからないのだ)
(六花ならきっとこれからもたくさん友だちを作るだろう)
(そして、他の男子にも義理のつもりでプレゼントをするかもしれない)
(いやもしかしたら、逆に誰かに本命チョコを贈りたくなるかもしれない)
(その時誤解を受けないためのラインはどのあたりなのか)
(知識がない上に沸騰寸前で、何度も頭を下げるのに精一杯で)
(深く考察することはおろか、口に出すことなどできそうにない)
(浮遊状態から御木本を引き戻したのは、贈り主の元気の良い返事だった)
ん、よかったー。それじゃあちょっと待っててね?
中学の時家庭科で、エプロンを作ったことがあるからさー。
せっかくの服や髪が汚れちゃったら大変だからねん。
(無邪気な仕草に、とりあえずドロドロとしたことにはならないだろうと)
(精神をすっかり洗浄されて、一度おおきく首を縦に振る)
(もしこれから先気になることがあれば、勉強を重ねていこう)
(幸い、経験豊富な先輩が二人も知り合いにいるのだ)
【ほんとにごめんね? そのぶん、うんと楽しんでもらえるよう頑張るよ】