「ひとつ、ふたつ、みっつ・・・」
わたくしはそうやって数を数えます。
数えるのは妖魔の首級(くび)
為すはわたくしの刃。
陽の気より発した直刀と陰の気より発した曲刀。
二刀が陰陽を為し、生まれる斬撃は妖魔の首をまるで稲穂でも刈るかのように刈り取っていきます。
「ここのつ、とお!」
ここで一段落。
数のみ為せばいいと考える愚かの代償、それがこの首の山。
薄く笑って陰の刃を振り下ろせば、首塚は燃えて爛れて風と散る。
妖魔どもの叫びは慟哭にも似て。
仲間を悼む哀しみの唄、それとも萎える心を震わせる鬨の唄?
そんなことはどうでもいいのです。
為すべきは斬鬼。
斃すべきは妖魔。
妖を斃し、魔を討ち、斬って捨てて滅ぼすが我が運命。
「・・・次のとおは、どちらさま?」
嬌声、睦言、女の匂い、汗、触れ合う肌。
享楽に溺れ、憂き世の雑事から思考を遮断する。
やがて辿り着く解放の瞬間。
くだらねぇ・・・・
彼は、浅い眠りの中で、そんな風に自嘲していた。
携帯の電子音が、そんな気分を吹き飛ばした。
眠っている女を尻目にメールを確認。
妖魔退治における、増援の要請であった。
差出人は八雲甘音。仕事仲間の一人だった。
どうせなら、もっと色気のある用事で呼んでほしかった。
彼女の容姿を思い出しながら、そんなことを考える。
彼女は、容姿的に彼好みの女なのだ。性格もそんなに悪くはない。
戦闘準備を整え、部屋を出て単車に跨る。
現場では、一人の女が舞っていた。
黒く長い髪。巫女装束。汚怪な妖魔の群れの中に咲いた、清涼なる一輪の花。
「よぉ、頑張ってるな」
二振りの刃を携え、生粋の退魔士としての役割を忠実に果たしている少女に、
彼は平時と変わらぬ調子で声を掛けた。
同時に、グロックM17を抜き放ち、トリガーを引いている。
ジャックポッド。今にも飛び掛らんとする妖魔の額に、風穴が開いた。
退魔の弾丸は、下級の妖魔なら簡単に滅ぼす。
「・・・思ったよりも遅かったようですね」
目の前で爆ぜた妖魔の向こうに「彼」を確認する。
御影義虎。斬鬼の中でも生粋ではない、変わり者。
ですが、その腕は誰よりも確か。
その意味では真に斬鬼と言えるのかも知れない男。
「既に十は斬りました。おそらく残りはそうないと思いますが」
口を動かしながら手も動かす。
陽の直刀が突き、陰の曲刀が斬る。
ブレもズレもない、完全なわたくしのリズム。
一振り、二振り、三振り。
妖魔の群れをかき分けて、御影様の傍に。
「あとは、任せましょうか。それとも?」
「ちっと野暮用でな」
普段の彼とは違う、そんな軽口を叩きながら、次々に妖魔の群れに弾丸を叩き込む。
猩猩面の妖魔が、脳漿を撒き散らしながら倒れる。
「流石は、鬼切りの刃が一振り」
薄く笑みを漏らしながら、彼女の実力を賞賛する。
彼はやや人間嫌いだが、一度信用した相手は信用する。
斬鬼衆の仲間は、幾度となく共に死線を潜った。
だからこそ、こんな軽口や賞賛が自然と口に出るのだ。
「飽きたならそこで寝てろ、終わったら添い寝してやる」
隣に来た八雲を見ず、斬妖の刃を抜き、残り少ない妖魔に切りかかる。
その刃は鋭く、その動きは軽妙。
妖魔たちの爪も牙も届かず、ただ屠られるのみ。
「どのような野暮用だったのやら」
退魔の行はわたくしを変える。
常なら言い得ぬ言葉、常なら出し得ぬ戯れ言。
それも今ならば言える。
「そちらこそ、相変わらず結構なお点前です」
軽口には軽口を。
これも退魔行がもたらす己ならざる己。
「御影様に添い寝していただくと、種を付けられそうですから、遠慮いたします」
その間も手は動きを止めない。
体は動き続ける。
牛頭を飛ばし、馬頭を斬り、鬼を討つ。
その様は、或いは舞にも似て。
ただし、もたらすものは死。
「最後のひとつ!」
左に持った陰の曲刀を投げる。
有り得ぬ動きで宙を舞ったそれは、逃げだそうとした最後の妖魔の首を易々と刎ねた。
「お仕舞い、ですね」
斬る斬る斬る。物足りない。数ばかりの矮小な妖魔。
もっともっともっと――こんなものでは足りない。
後ろからの襲撃に対し、フィギュアスケートの様に回転。
一年前までならともかく、今の彼にこの程度のレベルの攻撃は通用しない。
刃が閃き、腕が切り落とされる。遠心力を利用した第二の斬撃で、首を
切り落とされて絶命する。
「俺とお前の間に、遠慮はいらんぞ」
軽口を続けながら、もっと鋭く、もっと速く動けと、身体に命じる。
このレべルの相手なら、本当に片手間で殺しきれるようにまでなった。
『最後のひとつ!』
少女が告げる。
「シィッ!」
ほぼ同時に、こちらも最後の一匹を殺す。
終わった様だ。
だが、これで満足するわけにはいかない。
世の中にはもっと強い妖魔や、外法使いが存在するのだ。
こんな事を繰り返していても、強くはなれない。
次の階梯まで登れない。もっと強い相手と、ギリギリ限界の戦いがしたい。
それを制した時こそ、本当に強くなれるはずだ。
「くだらねえな・・・・」
小さく吐き捨てる。
戦いが済んで、息を整える。
手にした刃は再び気に還り、残ったのは返り血に少し濡れた己の体。
夜風がさぁっと吹いたとき、わずかに耳に届いた御影様の言葉。
「くだらない、ですか」
確かに彼の力であれば、この程度の妖魔狩りは片手間で出来ることなのだろう。
だが。
「それであれば、付き合う必要もないでしょう?」
言葉が、また風に乗って流れた。
風が吹く。雲が流れる。月が綺麗だった。
《気》でコーティングした斬妖の刃は、刃毀れひとつせず、
返り血すら付かない。
いつの間にか、命を預けれらるようになった相手。
その一人が言う。
『くだらない、ですか』
いつもの凛然たる声と態度で、鬼切りの少女が問う。
『それであれば、付き合う必要もないでしょう?』
彼は、束の間彼女を真っ直ぐに見詰めた。
「浮き世の義理ってやつだ。天洸院には世話になってるしな」
彼は正直に答えた。隠すほどの理由もない。
ただ問われなかったら、答えない。彼はそういう男である。
問われないことについては、答えない。
「それに、お前らは・・・・仲間だからな」
そして、これは余計な言葉である。
「義理、ですか」
なるほど、と頷く。
確かに彼は義理に厚い。納得のいく理由だ。
だが。
その次の言葉には、驚いた。
よりにもよって、あの御影義虎が言う言葉とは思えなかった。
仲間、などとは・・・
「ありがとうございました」
自分でもわかるぐらい、微笑んでお辞儀。
嬉しさの表現としては陳腐だけれど、構わない。
このことを支部長たちに話したらどんな顔をするだろうか。
少し、心が高鳴った。
「あ・・・っ!」
どくん。
次瞬、心臓が叫んだ。
衝動が、体中を駆けめぐる。
いつもの、あれだ。
退魔行のあとにくる、いつもの・・・
「そ、それでは、御影様。わたくしはこれで失礼します」
平静を装い、御影様に挨拶。
そのまま、その場を去ろうと踵を返した。
自分で発言してから、そのあり得なさ加減に愕然とする。
常の自分でも、斬鬼の仲間と共にいる時の自分でも、今の発言はあり得ない。
その証拠に、あのいつも平静な八雲甘音が驚いているではないか。
しかも、微笑された。心臓が跳ねる。
全く、どうしてしまったというのか。こんなのは柄ではない。
八雲がお辞儀して立ち去ろうとする。
そのまま見送ろうとして――だが、少し待て。
「待ちな、気が乱れてるが、どうかしたのか?」
一瞬で間合いを詰めて、少女の肩に手を掛ける。
彼女は負傷していないはすだった。だというのに《気》があり得ないほどに
乱れている。以前の自分なら見過ごしている。だが今の自分にならある程度まで
ならわかることがある。彼女の様子が変だ。、
「ひあっ・・・さ、触らないでください!」
いきなり肩を掴まれる。
ただそれだけのことなのに、敏感になった体は激しく反応する。
それを押し隠すようにその手を払いのける。
「なにごとであれ、いきなり異性の体に手を触れるのは感心いたしません」
語調も常のままに。そう意識して言葉を紡ぐ。
気の乱れも抑えないと・・・
「それでは、今度こそこれにて」
そう言って再び辞去する。
急がないともう・・・体が保たない。
触れた瞬間、彼女の体内を巡る《気》の流れに触れた。
異様過ぎる反応。これは一体なんだ?
「んなこと言ってる場合か」
必死に気息を整え、《気》を宥めているのが簡単にわかる。
「まさか、妖魔に術でも掛けられたのか?」
だとすれば納得がいく。
もう一度、うしろから少女の肩を掴む。
逃がさないように、落ち着くような言葉を模索する。
「ともかく、少し落ち着け、このまま放っておいてお前に何かあったら
俺はどうすればいいんだよ?」
・・・なにか色々と致命的な発言をしてしまった。
この御影義虎が、誰が死のうと関心がない自分が、この様な台詞を
吐くこと自体が異常な事態なのだ。
もう開き直るしかねぇな・・・・彼は腹を括った。
「はっ、あ、ああっ・・・だ、大丈夫、いつもの・・・ことですから」
必死に意識を保つ。
少しでも気を緩めれば、流されてしまいそう。
「わ、わたくしは、落ち着いています・・・だから、離し、て・・・」
早く、離して。
わたくしを、一人にして。
でないとおかしくなってしまう。
「あ、はぁっ・・・ああっ・・・!!」
もう、駄目。保たない。
体中が震える。
意識が呑み込まれる。
わたくしが、わたくしでなくなる。
足に力が入らない。
目の前が暗くなる。
わたくしが、わたくしでなくなる。
かくん、と膝から力が抜け、尻餅をついた。
そのままくるりと向き直り、わたしは。
御影の腰にすがりついた。
彼女とは、そう深い付き合いではない。
少なくとも、日ノ本薫や大音慈零ほど会話を交わしたことはない。
重籐柚紀の方が、まだ交流が深いと言えるだろう。
だが、初対面の時から、彼は彼女のことが気に入っていた。
容姿も、楚々たる振る舞いもそうだが、何よりも舞うような戦い振りが、
彼の琴線に触れたのだ。
そんな彼女が、崩れ落ちる。
ついでに、向き直って腰に縋り付かれた。
何故か冷や汗が止まらない。
どんな妖魔相手にも流したことのない、嫌な汗。
想定外過ぎる。頑張って、この先のことを考えてみる。
「あの・・・八雲さん、貴方は一体何をするつもりなのでしょうか?」
自分でも情けないぐらい腰の引けた、丁寧口調で尋ねる。
素敵過ぎる未来予想図に、眩暈がする。他の奴がいてくれればよかった。
切実にそう思う。
「何って・・・わざわざ聞かないとわからない?」
くすくす笑いながら、彼の股間に顔を擦りつける。
まだ熱さが足りないけれど、すぐに熱くなるはず。
既に熱く濡れそぼった自分のそこを手を伸ばして撫で回す。
「はぁっ、んっ・・・」
ああ、欲しい。
指じゃなくて、手じゃなくて。
熱い熱い、雄の欲棒が欲しい。
「ねえ、御影。貴方、わたしのことどう思っているのかしら?」
火照った吐息を漏らしながら、問いかける。
素敵過ぎる未来予想図が、現実になりつつある。
助けてカオリン。助けて零タン。助けてユッキー。助けてブチョー。
心で、鬼斬りの仲間たちに救援を要請する。
この際暴露しても構わないだろう。大好きだみんな。
だからご都合主義でもなんでもいいから颯爽と登場してほしい。
そして何故か淫蕩モードのスイッチの入った、このあまねちんから助け出してほしい。
脳味噌が溶解蒸発しそうです。
股間に触れられて、肉棒が屹立する。
八雲が、自分で、慰めている。
どう思っているかだと?
そんなのは決まっている。
「・・・仲間だ、お前は、俺の・・・・」
しゃがみ込んで、抱きしめる。
彼女の身体は熱かった。
【エロール、持ち込むべきか?】
【それとも、他に何かルート分岐するのか?】
「ふふ、仲間だけ?
わたしのこと、それ以上に思っているんじゃないの?
この体を・・・好きにしたいって思っているんじゃないの?」
そう言いながら、肩をはだける。
熱く潤んだ体は、ほんのりと桜色に染まっている。
うふふ、ああ、いやらしい色。
「ねえ・・・貴方が望むなら、好きにして。
ううん、好きにして、この体を、わたしを。
滅茶苦茶に犯して」
甘い甘い、毒の言葉。
性に溺れた姦婦の言葉。
ねえ、御影。
わたしは、こういう女・・・いえ、女ですらないのよ?
そっと、自らの股間に屹立するものに触れながら、心の中で呟いた。
【御影様のお好きなように・・・】
【別段分岐は考えておりません】
濡れた声で囁いて誘う。
桜色に染まった白い肌が、月光に曝け出される。
欲しい、と正直に思う。
先刻戯れに抱いた女に対する想いとは、比べ物にならないぐらいの
強烈さで彼は思う。
曝け出して、犯してやりたい。
女に対して誠実でなくてはならない、という概念は、彼の中にはない。
だが、それでも斬鬼衆の仲間に対しては――彼女たちに対しては
そんな想いを想いを抱かないように・・・・いや抱いたとしても、それを抑制していた。
仲間だから、大切だから、確かな絆を感じるから。
だから彼は、
「甘音・・・」
自分の想いを裏切った。
唇に唇を重ねて、淫猥な台詞を封じた。
熱い口の中に舌を潜り込ませて、彼女の舌を探り絡めとる。
いつしか、夢中で彼女の唇を貪っていた。
【じゃあ、お言葉に甘えて好きにさせてもらう】
「んっ・・・んんっ」
唇を奪われる。
ふふ、これってファーストキスなのに。
こんなにいやらしいファーストキスなんて、最低で素敵だわ、御影。
「ん、はぁっ・・・ね、キスよりもっと、して」
まるで犬のようにわたしは舌を垂らしながら言う。
そう、わたしは犬だ。発情したメス犬。
『違う!』
頭の隅でそんなわたしを否定する声。
・・・ああ、煩い。
その声は無視して、わたしは着物を脱ぐ。
袴はまだそのままに、熟れた乳房をさらけ出す。
「ね、御影ぇ・・・」
【・・・天音、です(苦笑)】
天音。
彼女を名前で呼ぶのは、初めてだった。
名前で呼ぶのは、一年の頃から何かと纏わり付いてくる、薫と零ぐらいだ。
特別な想いを抱いた相手には、そうしようといつの頃からか決めていた。
ささやかな、つまらない拘り。
口を離して、もう一度名前を呼ぶ。天音と。
彼女が、服を自ら脱ぎ捨てる。豊かな乳房が露出する。
物凄く興奮するが、果てしない違和感もある。
「お前は・・・・誰なんだ?」
短く、問う。
憑依。人格転移。一体俺は何をしているのだろうと考える。
【すまん、ずっと間違えてたorz・・・】
「わたしは、わたし。八雲天音。
それ以外の誰に見えるの?」
そう、わたしは八雲天音だ。
日頃抑えている性衝動に流されているだけの、わたし。
はむ、と御影のズボンのチャックを咥える。
そしてゆっくりと降ろしていく。
きっとここからだけじゃ窮屈なぐらいになっているでしょうね。
それでも、チャックの開いたそこに、頬ずりする。
「ねえ、御影、挟んであげようか?」
乳房を持ち上げて落としてみせる。
たぷん、と言う擬音でも出そうな感じに揺れて、落ちた。
「それとも、お口がいい?」
冷静になろう。
快楽に流されても恥ではない。だが、溺れてはいけない。
だから彼は、頭の何処か醒めた部分で思考を巡らせる。
「本当にそうなら・・・・どれだけ素敵なことだろうな」
あちらから言い寄ってきたのだから、据え膳食わぬはなんとやらで
ご馳走になっても一向に構わないだろう。
「まあ、正気じゃないことだけは理解できるが」
淫らな仕草で、乳房を寄せて落とす。
ああ、本当にお前は正気ではないのだな。
本当に・・・・斬鬼衆の奴らは面白すぎる。
それとも白清支部だけか、こんな際物ぞろいなのは。
彼は、静かに肩を押して、彼女を押し倒した。
「正気に戻ったあとのお前に、切り刻まれたくはないんだがな・・・」
頬に触れて、もう一度口付け。今度は優しく。
同時に、優しく乳房を揉む。堪らなく心地よい感触だった。
「あら、嘘だと思うの?
この体、貴方が欲しがっていた体でしょう?」
御影は面白い。
彼の思いに気付いていなかったとでも思うのだろうか。
常の天音ならともかく、全てを解放したわたしが。
「正気じゃないって?
ふふ、それは御影もでしょう。
正気で斬鬼なんて出来るわけないものね。違って?」
ゆっくりと押し倒される。
ひんやりとしたコンクリートの感触が火照った体に心地良い。
「どうかしらね・・・んっ」
またキス。
もっと先を望んでいるのに、焦らすのが好きね。
「あ、ふっ・・・」
そう思っていたら、胸を揉まれた。
御影のくせに、ひどく優しい手つきで。
もっと乱暴にしてもいいのに。
「ん、あっ・・・これだけで、いいの?
ここはこんなになってるけど・・・?」
御影の股間を撫でる。
熱く滾ったその感覚が背筋をぞくぞくさせる。
全く・・・平気で言いたいことを言ってくれる。
正気でなければ、確固たる意思がなければ、夜闇の世界では生きていけない。
そうでなければ、深淵に喰らわれる。
そんな簡単なことを、この生粋の退魔士が忘れるはずもないだろうに。
股間を撫でられる。露出したモノが快楽に打ち震える。
お返しに、膝を彼女の股間に擦り付ける。
伝わる違和感。あり得るはずのない感触。
「お前・・・・まさか・・・」
袴を剥ぎ取る。常ならともかく、今の彼女の不意を付くのは容易い。
解いて、刷り下ろす。下着を、刷り下ろす。
「お前・・・・そうなのか」
女性にはあり得るはずのない器官。
そそり立つそれは、間違いなく男性の象徴であった。
「半陰陽・・・・いや、両性具有、か・・・・」
「もう気付かれちゃった。
そうよ、わたしは両性具有。
だから陰陽の気を自在に扱えるの」
そして、見返りに性欲が無闇と高い。
だからこそ、わたしが生まれた。
「こんなバケモノはいや?」
微笑を浮かべたまま御影ににじり寄る。
断るも断らないも御影次第だ。
別にわたしはどちらでもいい。
「ねえ、どうなの?」
御影の肩に手を掛け、しなだれかかって耳元で囁く。
八雲天音について、彼が知ることは少ない。
代々の退魔者であり、狗倒流剣術の継承者であること。
それぐらいだ。それ以上のことはどうでもいい。
彼にとっては、出自などどうでもよいことである。
その人物を知る上で大切なのは実際に話してみることだ。
あとは、反りが合うか合わないかの問題だ。
彼は、平静だった。しな垂れかかられても、優しく抱きしめただけだ。
「これも紛れもないお前の一面というのなら、それごと抱きしめてやるよ」
耳元で囁き返す。
「知ってるか、天使は両性具有なんだとよ。俺は天使と会えたってわけだ」
ひっそりと、穏やかに微笑する。
斬鬼の仲間でも、滅多に見る機会のない、彼の笑顔であった。
彼はもう一度押し倒し、男の部分と女の部分、両方に触れた。
優しく逸物を扱き、優しく割れ目を撫でる。
嫌悪の表情はない。ただ、相手を喜ばせようとする想いだけがある。
「なら、わたしは天使?
ふふっ、随分と買いかぶってくれるものね」
嘘つき。
わたしの全てを抱きしめるなんて、嘘だ。
誰もそんなこと出来なかった。
母様も、姉様も。
みんなわたしを遠巻きに見ているだけで。
・・・わたくしは、ただ、一緒にいて欲しかったのに。
「んっ、あっ・・・そこ、両方ともなんて、あっ」
信じない。
こんなこと、信じるものか。
・・・でも、なら何故あんな風に優しく笑えるの?
【お時間は大丈夫ですか?】
普段の憮然とした態度からは想像できないだろうが、
彼は優しく女を抱くのが好きなのだ。
それが戯れだろうと、本気だろうと、だ。
相手が喜べば、自分の快楽にも繋がることを知ったからだ。
それを彼に教えた相手は、もうこの世にはいないが。
「お前が自分をバケモノだと思うなら、それでいい」
割れ目に、舌を這わせる。ゆっくりと動かす。
ジュル・・・と蜜を啜りながら、逸物を扱くのも忘れない。
「ならば、俺は修羅だ。悪鬼を喰らう羅刹だ」
優しく諭すように、いつもの彼が言うような台詞を口に出す。
「だから、平気だ。俺は一度背中を預けたやつのことは、
裏切らない。信じる。受け入れる。だからお前も、今の自分を肯定しろ」
静かに、迷いのかけらもなく断言する。
もう一度頬を撫で、乳房を撫で回し、優しく彼女の身体と心を解してゆく。
【大丈夫】
「・・・嘘」
嘘。
嘘だ。
何故、こんなわたしに優しく出来る。
でも、この優しさは・・・本当だ。
「あっ、んんっ・・・わたしを、肯定する?」
わからない。
わからない。
わたしは、わたしだ。八雲天音だ。
なのに、何を。
『そう、わたくしは、わたしでもある』
・・・煩い。
煩い煩い煩い!
ただ抑えつけるだけだったお前に何がわかる!!
わたしだって、こんな体でなければ生まれずにすんだ!!
それを、お前は!
「や、やめろっ!!」
御影を突き飛ばす。
わからない。わたしがわからない。
わたしはわたし、それともわたくし?
・・・頭が、痛い。
【では、もう暫しお付き合いを】
突き飛ばされた。
嫌になったから、ではなさそうだ。
彼女の《気】が、また乱れ始めた。
以前、似たような光景を見たことがある。
そう、現在、保護下に置いている半妖の少女だ。
彼女を、保護する切っ掛けになった出来事だ。
「しっかりしろ」
俺も変わったものだと、彼は確信する。
認めよう。斬鬼衆として過ごした日々が、己を変えていったのだ。
良くも悪くも、変わってしまったのだ。認めたくはなかったが、認めよう。
今の自分を、素直に肯定しよう。それは自分で言ったことだったから。
変わったと確信したとき、生まれたのは歓喜だ。誰かを純粋に想う気持ちが
まだ心の中にあったのだ。全ては手遅れだとしても。
「どうして欲しい?」
「わた、わたくし、は・・・」
どうして欲しいのだろう。
犯して欲しいのだろうか。
・・・確かに、そうだ。
では、何故拒絶したのだろう。
・・・こんな形は、いやだから。
何故だろう、わたしはただ犯して欲しいだけの筈。
でも、わたくしはそうじゃない。
わたしとわたくしが混じり合い、ひとつに還っていく。
聖も欲も、陰も陽も全てはひとつに還るべきだったのだ。
・・・だから、わたくしはわたしを受け入れよう。
わたしはわたくしに還ろう。
「・・・今、この場ではなくまた別の場所で、きちんと・・・わたくしを愛してください。
義虎・・・」
愛なんて言葉は知らない。口に出しても意味がない。
誰も誰かを救えない。この世こそが煉獄なのだ。
変わったと確信しても、動かせないことはあるのだ。
全てが収束してゆく。
「俺は――抱くことはあっても愛さない。愛なんて言葉は、
俺には分からない・・・・・・」
正直に告げる。戯れなら戯れと断った上で抱く。
この女を戯れで抱くわけにはいかない。
「それでいいなら、抱いてやる。仮初めの温もりをお前に与えてやる」
場合によっては、拒絶しているようにすら聞こえる、冷ややかな台詞。
だが、これこそがいつもの彼なのだ。
斬鬼衆の凶戦士・御影義虎なのだ。
「・・・仮初めでも、偽りでも。
いつかは真実に変わることだって、あります」
そう、いつだって未来は決まっていないのだから。
いつだって変わることがある。
どうにだって変わるのだ。
もう、わたくしの中のわたしはいない。
無闇な性欲を感じることがあっても、わたくしはわたくしを見失わない。
胸の裡に、暖かなものがあるから。
愛ではなく、哀でもなく。
・・・けれど、確かにそれは暖かく、わたくしを支えるもの。
だから、わたくしは微笑む。
「だから。
いつか、真実に変わるまで・・・仮初めでも温もりをください」
・・・そっと、義虎を抱きしめた。
【そろそろ締めでお願いします。すみません、エロールにならなくて・・・】
「お前は・・・・愚かな女だ・・・・」
こちらも抱きしめて、囁く。
「本当に愚かだ・・・・俺も、愚かな男だがな」
愛も欲も聖も魔も、等しく己の中にある。
どうなるのかは自分次第だろうか。
それとも、周りの人間次第だろうか。
彼は、その問いに関しては一時保留した。
天音に服を着せてやり、単車で家まで送ろうと申し出る。
というか、拒否権を与えなかった。無理やり載せて発車。
彼女が寄宿しているという神社まで辿り着く。
「また明日な」
【了解。学校のシーンで閉める】
【エロールは、また時間決めてしようか?無理なら構わないが】
【予想外に進展してしまったな、二人の仲か・・・・】
【では、こちらは先程のもので締めとします】
【そうですね、また時間を決めて・・・と言ってもまだ予定が流動的ですが】
【・・・予想外ですね、本当にw】
次の日の放課後のことである。
特に用事もないので、第二会議室へいく。
誰かがいるだろうか。
開けたら、何やら鬼切りの刃たちの視線が集中した。
やけに暖かい眼差しだった。
「やあ御影くん、私は嬉しいよ」
男装の麗人、樹紅羽が朗々たる声で言った。
「あ? なんの話だ?」
「『それにお前らは・・・・仲間だからな』うむ、君がいつか
そんな台詞を言ってくれるのを、私は待っていたのだよ」
「なっ!?」
絶句して、周囲を見渡す。天音が微笑していた。
つまりあれか、昨日の台詞を・・・・
みんなの優しい眼差しに、鳥肌が立つ。
こういう空気はやはり慣れない。
「照れるなよ、よっしー、仲間だろ」
「そうそう、仲間仲間」
薫が、零が、みんなが笑っている。
彼は、一目散に部屋から逃げ出した。
「ヘヴィだぜ・・・」
彼の日常はまだまだ続く。
【すまん、勝手に動かした】
【いつか、都合のいい日を避難所に書いておいてくれ】
【またいずれノシ】