その日桂と坂本は、久しぶりの逢瀬を果たしていた。
とはいっても、二人の立場上普通の恋人のようにただ互いを愛しむだけですむものではない。
最近頭角を現し始めた貿易商と攘夷派の最大派閥の党首としての
極めて政治的な話し合いも兼ねたものだった。そしてその最中に珍しく口論となった。
坂本の方が最近の桂は焦りすぎではないのかと窘めたのである。
事実そうであった。ここ最近だけで桂は二件のいわゆるテロ事件を起こしている。
しかも桂は下の者に任せず党首自らが直接現場に出向くので坂本としては不安で仕方がない。
万が一捕まればどのような仕打ちが待ち受けているかは目に見えている。
未来の日本にとって桂は必要な人間だ。今このようなところで死なれるわけにはいかないのだ。
それに、坂本にはもう一つ大きな懸念があった。幕府に引き渡されるのならばまだいい。
何よりも恐ろしいのは天人に、個人的に捕らえられることだった。
娯楽の最たるところは、結局は地球人も他の種族も大差ない。
しかも地球人の外見はほとんどの天人にとって好ましく映るものらしい。
(それは地球という国家を他に認めさせる上で大いに助かることでもあるのだが)