>>12 んん?わざと、とは何事だ?
(何の自覚もなく主の心を殺しにかかっているのだろうか)
(当の本人は己の主に好意を抱いていても、この言葉が殺し文句になるとは考えていないのかもしれない)
(しかし計算とも考え難い。饒舌ゆえに本音が口から恥ずかしげもなく零れただけだろう)
……この戦いを終えた時、悔いは微塵も残したつもりが無かったのだがなぁ…。
おぬしにそう言われるともう暫し――この逢瀬の刻が続けば良いと想ってしまった。
くははは、これもこの娑婆で培い育て上げてきた信頼関係の賜物と言うべきか。
(そんなマスターの気持ちは露として知らず、主を安心させようと服を掴む手に大きな手をそっと添える)
(恋愛感情としてどう考えているのかはともかく、二人がここまで築き上げてきた信頼は紛れもなく本物なのだ)
こら、マスターよ。そう急くものではなかろうて。
俺は暗殺者(アサシン)ではあるが主と二人の時までも闇に紛れるような真似はせんよ。
(どうしてマスターがこうも急かしてくるのか、その原因が自分だという考えは毛頭ないだろう)
(寧ろそんなに疲れていたのかと彼女を慮り、腕枕でもしようとマスターの頭の下に腕を突き出す)
(そんなズレた気遣いはできるのに彼女の想いを察知するのはできないのが玉に瑕なのだろうか)
何…?俺も寝床を共にするのか?
むぅ、それは構わぬが……。
女子に添い寝を、それもおぬしのような別嬪相手にするのはやはり気が引き締まるなぁ。
生憎こちらの方は不得手だ、俺は身体も大きいしおぬしの邪魔になるだけではないか?
(乙女なマスターのようにあからさまに頬を赤らめるような反応は見せない)
(だが多少は気恥ずかしさを感じるのだろう、やや照れ気味の顔を俯かせたまま自分も大きめの毛布へと入り込む)
(マスターと共に寝るのはこれが二度目だが未だにこの状況には慣れそうもなく)
(普段は戦闘の際だろうと所構わず振るう饒舌も、この時だけは動きが少し鈍ってしまう)
とはいえ俺が魔力を使うのはせいぜい現界に必要な程度のものよ。
脆弱なマスターに選定されたわけでもないのでスペックダウンも発生しておらん。
おぬしの供給でも十二分にこの全力を以って振るうことは――…んん?
(ひょこっと顔を出した主の様子を見て、つい口元が左右につり上がって笑いを漏らしてしまう)
……呵呵呵呵呵ッ!どうしたマスターよ、らしくもない!
おぬしにしては妙に不自然に探りを入れてくるものだなぁ…?
(彼女なりに動揺を隠しているつもりなのだろうか?あからさまに瞳の動きが不自然だ)
(顔を近づけるとマスターの泳ぐ視線をじっと見詰めて捕らえ)
そうだな…。手っ取り早く言ってしまえば、互いの体液の送受――というのが適切か。
リン、だったな。先の交わいの時は性交、とまでは行かなかったが。
何故そんなことを?くははは、おぬしも俺で実践してみたくなったか?
(彼は、人が他人に向けている好意に関しては機敏に察知し機微に感じ取ることはできるはずだ)
(……何故だかマスターの好意のみはその限りではないようなのだが)
(冗談交じりに助平な質問を問いかけ、まだ真っ赤な顔を半分隠すマスターに微笑を向けてみせる)