好きに使うスレ 外伝2

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26真咲紡 ◆U027HCx5bM
>>25
(おすまし顔で返されると本当かな、と僅かに瞳が悪戯っぽく煌くけれど)
(その煌きが覗けたのはほんの一瞬で、跳美の様子を注意深く伺うような光が変わって浮かび上がった)
(自分でも不恰好だと分かるミルクレープ、それが跳美にどう思われるのかが心配で、不安で、そして怖くて)
(そんな状態で跳美の声を息を詰めて待っていたせいか、視線がこちらに向いても見返すことなど出来もしなかった)
(そして――跳美の第一声)
(翳りのない明るい声と笑顔で嬉しいと言ってくれた瞬間、一気に身体から力が抜けて)
(塞き止められていた空気が大きな安堵の溜め息となって吐き出された)
そんなに褒められたものでもないと思うんだけどな。厚みだって不揃いだし、
気を付けることといったら焦げないように、破れないようにするだけだし…
でもありがとう、跳美。そう言ってもらえて、本当にほっとした…。
(焦げないようにするのはいいとして、生地を大きく破らないようにするまでには幾多の犠牲を重ねてきて)
(それでも完全にとまでは行かず、綻びや破れのない部分を切り出してきたせいか、少し申し訳なくすら感じた)
(ただその分、層の数はできるだけ増やしたつもりでいたのだけれど)
(多すぎたり、少なかったりしていないだろうかという新たな不安もあった)
(だが、その不安も跳美の喜びに満ちた表情を見ているうちに、ふわりと溶けて)
(代わりに安堵と温かな喜びが胸を満たしていった)

崩しちゃうのよりも飾るだけでダメになっちゃうほうがもったいないだろ?
ま、跳美がそんなに我慢できるとは思ってないけど。どうぞ、召し上がれ。
(大好物を前にお預けを宣告された子犬のような姿が可愛らしくて)
(さっきまでの緊張はどこへやら、唇からは絶えず笑いが零れてしまっていたが)
(重要なのはここから美味しいと言ってもらえるかどうかなのだと、僅かに気持ちを引き締める)
(フォークが重ねられたクレープを裂き、切り取られたそれが跳美の唇の中に消えていくのを)
(真剣な瞳で見守って――やがて紡がれた声に、今度こそ押さえきれずに表情が緩んだ)
よかった……美味しいって言ってもらえるか不安だったから、それを聞いて安心したよ。
もしお代わり欲しかったらあるから言うんだぞ?まだたくさんあるから。
…少し見た目には難があるかもしれないけど。
(一番見た目には綺麗な場所を切り取ってきたので、遺されたものは比べると少し外見が劣る)
(けれど味は同じはずだし、美味しいと言ってもらえたのなら幾らでも食べさせてあげたかった)
(なぜなら、それは全て跳美のためだけに作られたものなのだから――)