客は座敷に運ばれて来た刺身の膳を前に満足そうに頷いた。
花魁であるルキアが酌をする。絢爛な牡丹模様の打ち掛けが眩しい。
白粉を塗るのも勿体ないほどのなめらかな肌と艶やかな黒髪が灯りに照らし出される。
今宵、それを独占している遊客の名は山本元柳斎重國。
高齢ながら相当の猛者だと聞いた。第一線からは退いているだろうが、その風格から今も重鎮であろうことが見て取れる。
粗相のないようにとルキアは気を引き締めた。
「近う寄れ」
その言葉に従いルキアは元柳斎の傍へと身を進める。
高齢の客は芸妓や花魁をはべらせて酒と料理を賞味するだけで満足して帰ることも多い。
だが、衰え切らぬ客がまぐわいを求めるようなら、あらゆる手管を尽くす。
または、口に出来ぬような無体な要求にも応じるのが花魁の務めだ。
己れがことを果たせなくなった分、他の男達の垂涎の的である若い花魁を
別の形で辱めることで欲を満たす客もいることも経験でわかっている。
とはいえ、凌辱され嬲られるのを歓迎したいわけはない。
戯れの範囲で済むようにとルキアは願っていた。
元柳斎の武骨な指が頬から首筋をゆっくりと撫でる。
ざらついた指先の感触は心地よいものではないがルキアは小さく笑んで見せた。
「お膳がまだでありんす」
わずかに身をかわし、抵抗を見せる。客にまだ駆け引きを楽しませる計算のうちだ。
「そうじゃのう」
元柳斎は言いながらルキアの肩を押した。
「あっ…」
体勢を崩したルキアは小さな悲鳴を上げ、畳に両手をついた。
元柳斎は手を伸ばし、ルキアの腰を後ろから掴み上げ、膝を開かせた。
「あ…、元柳斎様」
「そのままじゃ、よいな」
ルキアは肘と膝をついて四つん這いの格好となり、不安げに首を曲げて元柳斎を見た。
元柳斎は表情を変えずに、豪奢な花魁の打ち掛けの裾をまくり、続いて緋色の襦袢まで一気にまくり上げた。
白い脚と形の良い尻があらわになる。
「よい眺めじゃ」
元柳斎はそう言って、まだだいぶ残っている膳を食べ始めた。
「………」
屈辱的な体勢を強いられたルキアは逆らうことも出来ず、じっと耐えていた。
客は花魁の痴態を眺めて悦にいる趣向のようだ。この後はどこまで強要されるのか不安になる。