>>140 歌で恋を唄うことは簡単なのにね。歌は物語だから。
ええ、歌が好き。私は女優になる事はできないけど、歌の中で物語の主人公になれるの。
それって素敵な事でしょう?
(彼の言葉が心を擽る。どうしてだろう、沢山の人間から同じ言葉を聞かされた事があるのに、どうして彼の台詞だけが……)
(アルトの方も挑発される事に飽いたのか――伸ばした娘の手が一回り大きな手に握られて)
ふぅん――ねぇ、あなた眼も綺麗なのね。
髪や容姿に紛れてしまいがちだけど……ちゃんと男の眼をしてるわ。
(核心を避けるのは彼だけではなく。交差した視線から何かを感じたのか、身を乗り出すようにして間近まで顔を寄せた)
(鼻先が触れ合いそうな距離で相手の瞳を覗き込み、満足すると元通り大人しく座り直す。同時に握られた手もするりと逃げ出させ)
(最早その話題を仕向けても堂々巡りになる事に気付き、溜息一つで区切る)
皆……心配しているだけよ。できることなら、誰もが後悔しないようにしたいじゃない。
(お節介なのね、と呟いて苦笑を浮かべるが、独り言を拾われ背後から問う気配を感じ取ると強い語調で言い切った)
なんでもないわ!
ミハエルの話はいいのよ、私は彼は趣味じゃないの。友人として付き合う分にはいいけれど。
さしずめ姫から王子に転向できるよう、頑張りなさい。
(王子扱いにも辟易しそうだが今の姫よりはマシだろうと――適当ながらも励ましつつ)
(預けた髪が上に束ねられていくのを感じて軽く眉を寄せる。相手と同じように緩い三つ編みを作るように頼んだのだが――)
(それに文句を言うより前に、今度は彼から揶揄を返されて眉をつり上げ)
なっ……失礼ね! 私はシェリルよ、好きになった相手くらい、意地でも振り向かせて見せるわ。
(アルトを睨み付ける代わりに前方にある隣の椅子を支えるパイプを靴先でカン! と高らかに音を立てて軽く蹴り)
どうしてって……。……アルトだって随分気に掛けてるでしょう。
アルトに彼女がいないなら、ランカちゃんが一番近くにいる女の子なんじゃない?
(傍から見ても、ランカがアルトに想いを向けているのは明白なのだが、それは自分の口から言うべきものではない)
(相手に髪を預けたまま左手の人差し指を立てて左右に振り、ランカではなく彼の方に理由付けをして引き合いに出した根拠にする)
言いふらすなんてするわけないでしょ、無責任な噂に振り回されたくない気持ちはわかるもの。
単にアルトの気持ちを確かめただけ――――
(気持ちのままに言葉を放ってしまってから、そのフレーズが心を探るという言葉の意味と限りなく近いものであると気付き)
(右手で思い切り自分の口元を塞いで失言を覆い隠そうとする。鈍い彼がどうか気付かないようにと願いながら)
……じゃ、じゃなくて。単に事実の確認をしただけよ。
(誤魔化しには苦しい台詞を次ぐが、耳朶まで仄かに赤く染まってしまったのは隠し切れないか――)
(掬い上げられてしまった髪のせいで其処を覆い隠す物はなく)
【そろそろ時間になってしまうわね。此処で凍結をお願いできるかしら?】
【またアルトからの番になってしまって悪いわね。無理に準備してこなくて構わないから……そう、無理はやめなさいよっていう事】
【次回は何時になりそう? 私はなるべくアルトに合わせたいって思っているけど……】