水谷「三橋ー、挿入してごめんなー」

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539EPILOGUE
(仝ω仝)φ...




「……っつー話を考えたんだけど、どう?オレってすごくない?これ、絶対オモシロイって!」
「……却下」
「却下だな」
「却下!」
「右と左に同じく」
「意義なし。却下」
「デリート」
「……うお」
「やめておいた方がいいよ、流石に……」
「くだらねェこと考えてる暇があったら帰ってクソでもキャッチしてろ」


文化祭がいよいよ間近に迫ってきた時期。部活の出し物で総合優勝をしたチームには特別に部費を負担するという校長の粋な計らいにより、どこの部活もその話題で賑わっている。
野球部もその輪から外れず、部員全員が一人ずつ立案した企画を持ち寄った。どれもなかなか凝って練られたもので、正直どれが選ばれてもおかしくないという力作揃いの中、唯一水谷が提示した劇の内容だけは最悪だった。

まず、第一に三橋がオレと付き合っているのが前提のホモシナリオ。
第二、三橋が男狂いの淫乱で次々と男達によって凌辱されるということ。
第三、上記に加えてエンディングがまったく救われないと言う三段構え。
更には、オレの性格が鬼のように改変されているのが腹正しかったのだが……これを指摘するとオレ以外の全員が「阿部はこれを倍にしたくらいイヤなヤツだ」と口を揃えた。
取り敢えず、水谷の野郎だけでもシメておく。
問題は三橋だ。企画書を持つ手が震え、今にも泣きそうな顔をしている。オレや他の部の連中は水谷の悪質な冗談を冗談と認識して済ませる事が出来たが、この脆弱エース様にはやはり刺激が強すぎたようだった。

部活が終り、いざ下校するかという時まで顔色が真っ青だった。
ただの悪ふざけ風情をそこまで気にするとは。流石に哀れに思い、あまり気にするなと声を掛けてやる。三橋は暫く押し黙っていた。具合いでも悪いのかと懸念が生まれた頃になり、やっと重く閉ざされていた口が縦に開いた。

「……ゆ、夢で見たんだ」
「は?……何をだよ」
「さっきの」
「さっきって?いつ?」
「さ、さっきの、水谷君のハナ、シ……!」


その時の三橋の顔は、珍しく爬虫類には見えなかった。