水谷「三橋ー、挿入してごめんなー」

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291名無しさん@ピンキー
空気もログも読まず投下。てか今から読んでくる>ログ

最近めっきり涼しくなった。黒々とした草むらで鈴虫が鳴いている。
?気な坊ちゃん貴族ならここで風流に一首詠んじゃったりするんだろうが
俺は実用以外でそんなアホらしいことしない。
俺は安倍晴明、とはなんの関係もないし字も違うが阿部である。

もともとそんなに高い身分の生まれではなかったけど、持ち前の腹黒さ…
じゃなく頭の良さで身分からしたら破格の出世を遂げている。
でも順調ってわけじゃない。そんな出世も結局「もとの身分からしたら」だ。
目下見えない壁に阻まれて昇進は頭打ちになっちまってる。

これだから嫌だね身分社会ってやつは。あ、いま平安時代な。
藤原ブランドの前じゃどんな有能も敵やしない。
無能なやつらが藤原ってだけで俺の頭を飛び越えてく時の悔しさといったら…
歯ぎしりしっぱなしだね。

で、俺はこの局面を打開すべく考えた一計を実行しようとしてる。
いま俺ん家とは比べもんにならんほど広くて豪華な屋敷の前に立っている。
俺は今からここに忍び込む。

もちろん泥棒じゃないぞ。勘違いすんな。そんなケチくっさいことで俺の野心は満たせない。
この屋敷には姫がいるんだ。しかしどうしょうもない姫らしい。
今の時代は和歌や笛が上手いとかがモテる重要なポイントだが、
ここの姫にはそういった歌舞音曲が得意なんて話は一切聞こえてこない。

もちろん顔も大切だ。美人な姫がいるとそれとなく噂が広まるもんだが
ここの姫が綺麗とか一度も聞いたことがない。
それより奇行がどうのとあやしげな噂が……
というわけで藤原氏の娘でありながらまったくモテない哀れな姫がここに一人いる。

そこで俺は考えた。この姫こそひょっとして俺に未来を与えてくれる天女様じゃないのかって。
姫と結婚すればこの屋敷の主人である藤原の大臣に婿としてバックアップしてもらえる。
そうすりゃ俺の出世は間違いない。
大臣も姫の処分に困ってるだろうから感謝だってされるじゃないか。

どんな末摘花だろうと人外だろうとそんなの関係ねえ。愛だの恋だの関係ねえ。
出世出世出世!俺はとにかく出世がしたいんだ。
それで俺をあざ笑ってたやつらを高みから見下ろして高笑いしてやるのさ。
それにはまずこの誰にも相手にされないブス姫を攻略しないといけない。

俺は夜這いをしにきたんだ。今の時代は夜這いこそ恋愛の王道よ。
前もって調べておいた姫のいる離れにまわり込む。
クソッでけえ部屋だな。部屋の中ににじり入って姫にそっと呼びかける。
「三橋、三橋姫…」
屋敷のある地名からここの主人である大臣は三橋殿と呼ばれている。だから姫は三橋姫だ。