阿部「三橋、オレは…三年間お前に大根おろす!」

このエントリーをはてなブックマークに追加
88スリルがいっぱい 3
わあ、もう次スレなんだ。
前スレ http://sakura02.bbspink.com/test/read.cgi/erochara/1189526031/807,811



鍵がかかっているんじゃないかってくらい重い引き戸を開けると
俺は三橋を促して中に入った。
だが、帳場(フロントとは言いたくない)には誰も見当たらない。
「すみませーん」俺は大きな声で奥に向かって呼びかけたけど、
人の気配はなかった。
そのうち目が慣れてくると、外からは明るく見えたのに、かなり暗いことに
気が付いた。しかも蛍光灯がどこか切れかかっているらしくチラチラする。
建物の中なのに外と同じくらい寒いし、ホントに旅館か?って
思うくらい汚い。
衝立みたいなものは何ヶ所も穴が開き、花瓶はあっても花なんかない。
極めつけに、ほこりをかぶったみやげ物や日用品。
なぜ電気がついていたのかはわからないけど、ここは廃業した旅館なんだろう。
俺はがっかりして外に出ようと後ろを向くと、三橋が俺の服の裾を引いた。
「なに、三橋」
三橋は黙って帳場の奥を指さした。
「……!!」
俺は危うく声を出しそうになった。
まったく気配を感じなかったのに、そこにはいつの間にか、かなりの高齢と
思われるおばあさんが座っていたのだ。
顔は薄暗くてよく見えないが、すごく小さくてやせている。
濃いグレーの服を着ているから、後ろの闇に溶け込んでいるように見えた。
俺は呼吸を整えてから話しかけた。
「夜分すみませんが、K町第三小学校に行く道を教えていただけませんか?」
そこに今みんながいる。すでに廃校になった小学校なのだが、
建物はまだ十分使えるので、一部が簡易宿泊施設に改装されているのだ。
だが、おばあさんの反応はない。
聞こえなかったのかと思い、俺はもう一度大きな声で同じ事を尋ねた。
「……お泊まりならお一人五千円ね…」
低い、呟くような声がして、それがおばあさんの声だと気付くと、なぜか俺の背筋がそそけ立った。
「…2人一緒でいいかい…」
まるで、地の底から聞こえてくるような低い声に、俺と三橋は顔を見合わせると、
コクコク頷いて金を出した。…こわすぎる…。

俺たちを部屋に案内するおばあさんは結構な早さで音も立てずに前を歩く。
延々と続く板張りの廊下はさらに暗く、やけにスリッパが滑ると思ったら、
雪がうっすら積もっていた。
「…こちらでございます…」
ようやく着いた部屋は想像のはるか上を行く意味不明な空間だった。
一言で言えば、エスニック?とでも言えばいいのだろうか。
木彫りの象、珊瑚の置物、なぜかインドの神様の掛け軸、一目で偽物とわかる
巨大なヤシの鉢植え。TVの上に置かれた人形が不気味だ。
そして、すべてが薄汚れている中で、妙に鮮やかな真っ赤な布団。
なんで、もう布団が敷いてあるんだ…?
俺はこの部屋に一晩泊まるかと思うと心底うんざりした。
「…これ、鍵ね…」
おばあさんは、俺に錆の浮いた古臭い鍵を手渡した。
「あの、フロありますよね?」
「…お風呂は各お部屋にございますよ…」
そう言っておばあさんはにたりと笑ったが、歯が一本もなかった。