>>651 ※ゴキ度が高いので注意
映画は人気作なだけあって、やっぱりそれなりに面白かった。
しかもエロシーンもあって、童貞の俺にはたまらなかった。
三橋が人間だったら、映画館でこっそり・・・なんてこともできたかもしんねえけど、
気持ち悪くて、椅子に置かれた右手すら握る気になれなかった。
所変わって、ここは公園。
俺はそろそろ限界が見えてきた気がして、帰ろうか、って言おうとしたんだけど、
三橋の奴がアイスが食える公園に行きたい!っていうから行くことになった。
ゴキの横でとてもじゃねえけどアイスなんて食えたもんじゃねえから、俺はやめといたけど、
三橋はおいしそうに横でベロベロとアイスを舐めている。
うわ・・・きめえ・・・。
軽くショックを受けるぐらいの光景だった。俺、もう二度とアイス食えないかも。
じっと見つめていると、勘違いしたゴキブリがこっちを向いた。
こっちみんな!
「阿部君も・・食べる?」
ゴキブリが散々嘗め回してヌメヌメになったアイスを突き出されて、俺は全力で拒否した。
「いらねえ!お前全部食えよ!」
必死にそう言うと、ゴキブリは大人しくまたペロペロとアイスを舐め始め、やがてコーンごとむしゃむしゃと食べ終えた。
「・・・・・・。」
ふとここで、会話がないことに気が付く。なんかさっきからいつも以上にしゃべりにくい空気なんだよな。
どうするべきか・・・と思っていると、三橋が口を開いた。
「あ、阿部君・・あの、さ・・」
「なんだよ?」
「あの、えーと・・」
ゴキブリになっててもキョドってるっていうのが伝わってくる。
言いたいことはハッキリ言え!と言いたくなっちまう。
「・・・きょ、今日はありがとう!オレ全然何も考えてなくてごめん、ね!楽しかったよ!」
三橋・・・。
まさかそう来るとは思わなかったので、一瞬言葉に詰まる。
「いや・・俺も、楽しかった。」
ありがとう、ってなんだよ・・デート中に。
俺は少し感動してしまった。あきらかに今日のデートは微妙だった。微妙だったけど、三橋はそんなの微塵も感じさせない雰囲気で、
本当に嬉しそうにお礼を言ってきた。
なんだろう。ゴキブリのはずなのにすごく可愛く見えてきたぞ。
目なんかどこにあるかわからねえけど、キラキラ輝いている気がする。
なんか、今ならイケル気がするぞ。・・キス。
きめえけど、ここでしなかったらいつするんだ、って話だよな。
もしかしたら三橋はずっとこのままかもしれない。そしたら俺はいやでもこの姿を受け入れなきゃいけなくなるわけだ。
ここら辺で一端、高いハードルを一つ跳び越えるべきなのかもしれない。
「三橋・・」
俺は三橋の肩というか羽を掴んで引き寄せた。あらかじめ目はつぶっておく。
口がどこだかよく分からねえけど、いいだろう。
三橋は、最初戸惑っていたみたいだけど、やがて何をするのか理解したのか、ゆっくり肩の力を抜いた。
さあ、好きな子とファーストキスだ。嬉しくねえけど、嬉しい。
だが、ここで俺は致命的なミスを犯した。なぜかわからないが、薄目を開けてしまったのだ。
眼前に迫るゴキブリの顔。
胃からすっぱいものがこみ上げてくる。俺は、ガマンができなかった。
「やっぱきめええええ!!」
俺は三橋を突き飛ばしてそう叫んで、公衆トイレに駆け込み盛大にリバースした。