「あれからもう一年も経つんだ。」
西浦高校硬式野球部で投手を勤めている三橋蓮は、時の流れの早さをしみじみ感じていた。
かつて西浦高校には三橋とバッテリーを組んでいた阿部隆也という捕手がいた。
弱気な三橋と強気な阿部。最初は意志の疎通も満足にできず、本当にこれで野球ができるのか?と頭を抱えていたのだった。
阿部は三橋のコントロールに惚れ込み、三橋は阿部の力強い牽引力と、どんな時でも的確に出すサインに惹かれた。
そんな二人を中心に、本当に野球が好きな監督とメンバーが集まって、強豪校を次々と倒し、快進撃を見せた。
そして、二人は一年の終わり頃には、互いに互いを必要とするまでになっていたのだ。
そんななかで二年に進学し、下級生も入部、新たなにメンバーを向かえて、甲子園を目指し野球をしていた時だった。
いつものように三橋は阿部とのサイン通りに球を投げる。すると球は気持ちのいい音を立てて阿部の構えるミットに収まる。
阿部の「ナイピ!」の掛け声に、三橋は「ウヒ!」と返す。
三橋は阿部と野球ができることを心の底から感謝していた。
(俺は阿部君とバッテリーが組めて本当に幸せだ)
しかし、その時は確実に近づいていた。