しばらく待つと、洗浄音が聞こえてくる。
「お……おじちゃん?」
「ああ、おじちゃんはこっち。ずっとここにいたから」
外から声をかける。
「あ……」
とたんに少女の表情が暗いものになった。
「…あれ、どうかした…?」
「…あ…と…お仕事…邪魔してごめんなさい! 次から、お仕事、止めなくていいから……」
「………………次?」
「あっ………な、なんでもないです! さよなら!」
与吉はまた逃げるように駆け出していった少女を見送るしかなかった。
−−−−−−−−−−
その次の週、与吉は体調を崩し清掃当番を代わってもらったため、いつもの担当箇所にやってきたのはさらに翌週だった。
だが、与吉はいつもより早めに作業を終わらせ、いかにも掃除をしているような「振り」をして時間をつぶしていた。
「あの……」
(来た………)
入り口付近からかけられる遠慮がちな声に、与吉はわざと何気なさを装って振り返る。
「や、お嬢ちゃん…」
「あ、その……入っていい?」
「ああ、もちろんダメなわけないさ」
そそくさと少女が入ってきて与吉と体を入れ替える。
その時、与吉はポン、と少女の肩に手を置いた。
びくっと少女が驚きに体を震わせる。
「先にちょっとだけ聞いてもいいかな…?」
「え…?」
思わず少女は与吉を見上げたが、嘘がつけない性格なのか、既に咎めだてに対する不安な表情になっていた。