雨はだいぶ小振りになったようで、もうしばらく待てば止むのではないかと思われる。
と、その時になって理多は洞窟の奥から何やら変わった気配がするのを感じた。
(何だろ……? 何だか……甘い香りがする……)
バニラエッセンスかシロップを思わせるような甘い香りは、祠を祀る儀式に使われるお香とは正反対の雰囲気だった。
厳かな儀式に使うものは沈香(じんこう)・白檀(びゃくだん)・丁子(ちょうじ)のようなもっと辛気くさい香りがするはずだし、そもそも、この祠を祀り儀式を行うような信者として、理多は自分の祖母以外に知らないのだ。
その祖母も早朝のお詣りには来るが、今頃近くにいるはずがない。