「……っぅゥゥん、碇君、……気持ち、……いイィ」
レイが求めるような雌の声で鳴く。
シンジは胸から口を離して、下腹部へと舌を這わしていく。
しげみを迎え、奥にある亀裂に舌をなぞらせる。そしてその奥の穴に舌を捻じ込ませる。
甘酸っぱい蜜が舌に広がる。
「ぅぅぅん、あンン……くぅ……あ、あああん」
口から透明な唾液を零しながら、レイが喘ぐ。
「綾波。僕のも」
シンジはそう口にすると、身体を上下反転させた。俗にいう69という形だ。
膨れたズボ ンをレイが見ている。
彼女はチャックを開けて、それを取り出した。そそり立つ欲望の塊。
それをレイは唇でキスをし、舌で軽く舐めてから、口内に挿入する。
じゅぽ。
「んっ、んくぅ、ん、んぅ」
レイの秘部を攻めながら、性器を奉仕してもらう。
透明な汁を口から垂らしながら、レイは頬張る。
快感と、レイの蕩けた表情に、シンジのペニスがさらに硬さを持つ。
じゅぶ、じゅぶ、じゅぶ。
ぴちゃ、ぴちゃ、ぴちゃ。
お互いの秘部から淫猥な粘っこい水音が響く。
シンジは徐々に射精の快感を催しはじめる。
「ん、んっ、んっ、ンンンッ!!」
レイの甘い喘ぎ声が聞こえる。それと同時に奉仕するちゃぱっとした淫靡な音も聞こえる。
「ん、ンンンンンッ!!! ンくぅ!!」
二人が達したのは同時だった。
レイの身体が堅くなり、快感に痙攣する。それはシンジとて同じだった。
彼女の口に肉棒を突っ込んだままで、白濁を解き放つ。
口の端と肉棒の間から、白い涎を垂らし、残りを彼女は嚥下していく。
シンジはレイの口から肉棒を抜くと、白い糸を引きながら胸へと振りかける。
どろどろとした白濁が胸の白と乳首の桃色を汚していく。
シンジはレイと同じ方向に向き直る。
彼女の頬がピンクに染まり、唇から垂れる白い液体が色っぽい。
「綾波」
「……碇君」
レイは名前を呼ぶと、そのまま屈み、胸でシンジの肉棒を挟む。
弾力がきつく締まる。
それを上下に動かし始める。
「あ、……ああん……んぅ」
パイズリをしながら、レイも興奮したように熱い吐息をつく。
精液が滑りをよくしており、パイズリはスムーズだった。
白の乳房から肉棒が出ては消え、出ては消えを繰り返す。
シンジは何をすることもなく為すがままにこの快感に酔いしれた。
レイはパイズリを繰り返すままに、亀頭の亀裂を舌で刺激する。
溢れている精液をレイは舌で舐め、綺麗にしていく。
「んっ、んぅ、んくぅ、んッ、ンンぅ」
「ああ、綾波。いいよ」
シンジが呻く様に言った。再び訪れる射精感。
そして、そのありったけの快感をレイの顔にぶちまけた。
綾波の顔を白濁の液、というよりも白色のゼリーが染めていく。
「あ、ああンン」
その行為にレイが余韻を楽しむかのように声を絞り出す。
顔も胸も白濁塗れたレイはいつも人形的なイメージからはかけ離れていた。
淫猥ながらもどこか幻想的な姿だった。
「綾波、こっちにお尻を向けて床に手をついてよ」
シンジの言葉にレイは小さく頷くと床に伏せて、シンジの方にお尻を向けた。
お尻から覗く米印の穴、茂みに隠れた亀裂。透明な蜜が溢れ出て、止まらない。
シンジは後ろからレイの胸を鷲づかみにする。精液でぬるぬるとしていたが、柔らかい。
「――あンッ」
少し力を入れるとレイが鋭く鳴いた。
丁寧に揉んでいく。固くなった突起を摘んで引っ張る。
「――ッアアアくぅぅゥッ!!!」
シンジは亀裂に肉棒を宛がった。亀頭の先が蜜で濡れていく。
「綾波。どうして欲しい?」
突如に芽生えた嗜虐心を言葉に出した。
いつもとは違い、シンジの声には自信が満ちている。
それは初めて征服者になる少年なりの興奮がもたらしたものだったかもしれない。
「……入れて」
レイがか細い声で言った。
その言葉にシンジの胸が高鳴る。
「綾波、入れて欲しいの?」
「……うん。入れて、……めちゃくちゃにして……」
シンジは卑 しい笑みを浮かべると、そのまま肉棒を突き上げた。
ずりゅッ!!
音と共に肉棒が亀裂に侵入していく。
「あ、……あ、……あン、ああ」
ずぽっ!
突き上げた。中にあった膜の様な障壁を気にすることもなく強引に、力強く。
「ッあくぅぅぅン!! ああああん! ……痛いィ、んんぅぅくぅ……ッ!」
ずりゅ! ぱん!! ぱんっ!! ずぷぅ!!
血と蜜の混じった液を零しながら、シンジは腰を振る。振り続ける。
両手では胸を揉みしだいていく。
「っアアんンンッ!! くぅ、痛いっ、気持ちぃぃよォォ、碇君ンぅ!!」
一際甲高い声が響き渡る。
いつものレイの姿はすでに消えていた。
目 の前でよがっている彼女はただの雌だった。
それならば、腰を振るしかできないシンジもまたただの雄に過ぎない。
じゅぷぅ。
音が鳴る。淫猥な水の音。
華奢な白い身体に欲望を突き入れる。
「ハァッ! ハァッ! ハァッ! ハァッ! ハァッ!」
シンジの吐息は既に野生のそれであった。
「ああぅん!」
パンッ! パパンッ!! パンパンッ!!!
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ。
腰の振る速度が増していく。
「い、いくよ」
「あん、あくぅ……ぐぅ……む……あああん、あンンぅ!!」
レイは答えずに喘ぎ声をあげ続けている。
秘部がシンジの肉棒から精子を引き絞るように締まる。
射精感がシンジの脳を灼いた。
どぴゅうぅ!!
濁流の様に流れる白濁の液。
「あくぅン……ああん! 入ってくるぅぅン! 熱いのがぁ、あぁぁァン!!
――あああああアンンッ!! くぅうううううゥゥゥゥッ!!!」
レイも達した。身体がしなり、背中が反る。
シンジは全てを出し切るまでそのまま腰を振った。
ぐちゅ、ぐちゅ、ぐちゅ!
ぐぐぐっっとレイの亀裂が引き締まり、シンジの全てを持っていった。
「あくぅぅンンッ!!」
ことが終わり、少しの時間が流れた。
外の茜色の空がいつの間にか暗闇に染まっていく。
荒く息をするレイ。
シンジはレイの股間から溢れる赤色と白色と蜜の混じった液体を見て、
罪悪感が芽生え始めていた。
「あ、綾波。……ごめん」
「ぁ、くぅ……何で、謝るの?」
少しの喘ぎを漏らし、レイはいつもの平然とした無表情な顔で言った。
身体中を汚したその姿にはとても不釣合いな顔だった。
頬も身体も火照っており、ピンク色に染まっている。
シンジに再び情動が沸き起こる。
「碇君、――元気なのね」
レイがシンジの肉棒を再びそそり立つのを見て、言った。
シンジの頬が赤く染まる。
「でも、嬉しいわ」
言って、綾波が笑みを浮かべた。その顔にシンジは心を奪われた。
「また笑ってくれたね」
シンジが呟くように言った。
笑顔を浮かべたレイは可愛かった。でも、シンジがそれを見たのは一回しかない。
「碇君が教えてくれたわ。
――――嬉しいときは笑うんだよって」
カーン、カーン、カーン、カーン。
薄暗い殺風景な部屋にただ工場の音だけが響いていた。
まるで泥のようだ。
合わせた肌の間に、乾かぬ汗がまとわり続ける。
自分のものでは無いような忙しない呼気に、時に鳴咽か艶声が、混じる。
皮膚は確かに其処に有るのに、手足は気怠く鈍り、力だけが届かない。
意思も意識も、遠い。
突き動かされ、揺すられる度、破れた袋から押し出されるように吐息が漏れる。
在るのは唯、張り付く肌に感じる重みと、息苦しい程の熱さ。
それらがぬらぬらとまとわり付く。
己の肌が汗に濡れているのか、彼の人の肌が閨のしとどに塗れているのか。
吸い付くように、溶け合うように、二つ在る筈の肉体の境目すらが曖昧だった。
否、混濁しているのは意識なのか。
如何に熱く滾ろうと、身体が蕩ける道理が無い。
然し、境界は意識の際を超えて、外へ外へと拡散していた。
己が感じる境界に過ぎないのだが、目を見開いても景色は闇に沈み、
手の中に在る筈の彼の人の顔すら覚束ない。
視覚に裏付けられないまま、肌一枚で感じ得るものが、知覚される全て。
見開いた目に何も映らぬせいで、上下すら見失った。
回した腕に力を込める。組み敷かれているのか、しがみ付いているのか。
それとも下から衝かれているのだろうか? それすらも定かでない。
ただ唐突に――落ちる――と恐ろしくなった。
支えを失ったように、背筋がひやりと竦む。
落ちているなら何処かにぶつかって終わる筈の、竦み上がる様な浮遊感が、途切れない。
絶えず落ち続けている筈も無い。ならばこれは錯覚だろう。
そう思うのだが、鈍った手足はもはや自分の物では無かった。
ただしがみ付くだけ……吐息は途切れない。
溶けていく。落ちていく。
溶けながら落ち、少しづつバラバラになる。
それはやがて雪になり、雨になり、目に見えぬ程の飛沫になる。
霧になり、空に散る。熱い風だ。
ただ湿度と熱を孕んだだけの風になり、重力に逆らって昇って行く。
何処まで広がっていくのか……。
然し手足は依然として其処に在り、泥のように熱かった。
再び背筋が戦慄く。何度達した絶頂か。
喉が裂けたような悲鳴を上げる。
まるで他人が叫んでいるようなその声が、酷く遅れて脳裏に届いた。
それと同時に彼の人の吐息が掛かり、まだ耳が聞こえる事に気が付く。
その耳朶を噛まれる。陶酔が瞼の裏を染める。
顎の裏を唇がなぞる。再び背筋が竦む。
首筋を噛まれる。鈍い痛みに、酔う。
一層強く、手足が絡む。
互いに回した腕が背を掴む。
やがて渇く。狂おしい程に。
干上がるばかりの熱さに身悶える。
瞼の裏が朱に染まる。
固く結んだ目の中に、眩く輝く光の粒が現れる。
初めは疎らに浮かんだ光が、徐々に数を増やしていく。
一粒ずつ降り積もる、熱く燃える砂のようだ。
熱砂が身体を埋めていく。
肌を覆い、沈んでいく。
足掻けば足掻く程、深みに嵌まる。
熱砂の澱の降り積もる、泥を満たした熱き沼。
その中へと、深く、深く。
唐突に肌に寒さを感じ、レイは身震いと共に身を起こした。
闇は姿を変えていた。
薄汚れた天井と、ちらつく蛍光灯と、破れた衝立てと、リノリウムの床。
どれもが呼気の如く馴染んだ光景。記憶と共にある、最も古い景色。
軋むベッドを降り立ち、床に脱ぎ散らされた服を拾う。
衝立ての上にそれを掛け、壁に付いたコックを捻る。
必要以上に迸る、強い水流に身を委ねる。
はじめは冷たかった水が、少しづつ温くなる。
それと共に、肌に張りついた滑りが浮いて、剥がれるように流れ落ちていく。
その感触の艶めかしさが、闇に沈んだ記憶を呼び覚ます。
どれほど喘ぎ、叫んだか――いつも意識は途中で途切れていた。
流れる水と共に、足の間を、熱い塊が滑り落ちた。
瞬く蛍光灯に照らされて、床の上を流れていく白い汚れが光る。
彼の人が放った精であろうが、その刹那は定かではない。
いや、明かりが消えてから後の記憶は、いつも朦げだった。
吐息と溜め息と、喘ぎ声だけが聞こえる。
他に有るのは、肌に感じる感覚だけ。
どんな目をして抱いているのか、知りたいと思った事も有る。
だが彼の人は必ず、闇の中でレイを抱くのだ。
だから、その目に浮かんだ欲情の色を、見た事は無い。
そもそも、ここでは言葉すら掛けられた記憶が少ない。
教えられたのは、食事の作法ぐらいなものか。
共に食事をするわずかな時間が、彼の人と向かい合って過ごす記憶のほとんど全てを占めていた。
共に食事をすると、その後必ず此処へ来る。
二人きり、光を避けて地の底に潜るように。
寝転がり、泥に塗れるように、戯れる。
張り付く汗と、閨の証しを流し終えて、水流が止まった。
眠る為だけの自宅へと向かい、夜道を辿る。
終夜動いている環状モノレールの車内には、自分一人。
動きを止めた街の灯かりが、遠く近く、揺れて過ぎる。
同じように、無人の駅に降り立つ。
まるで絵の中の風景のよう。
翌朝の食事を買いにコンビニに立ち寄る。
機械的に業務をこなす店員の顔は、覚えていない。
聞けば名前が有るのだろうし、仕事を終えれば何処かの誰かに違いない。
しかしレイにとっては、相手が機械であっても同じ事だった。
通り過ぎる風景。
通り過ぎる人々。
誰でも無い人の群れ。
誰でも無い自分。
緩やかな上り坂を辿り、窓に一つとして灯かりの無い団地に近付く。
日が出ていようが沈んでいようが、人の気配の全く無い、打ち捨てられた建造物だった。
他に人が住んで居ようがいまいが、関係は無い。
ただそこに与えられたスペースが有り、与えられた名前が有り、
与えられた役割が有り、過ぎ去る日々が有る。
それだけの事。
手入れもされず、ところどころ蛍光灯が消えた団地内の道。
公園にするつもりだったのか、見捨てられた緑地に雑草が生い茂る。
風に乗って微かに届く、虫の音……耳をすませば無数に広がる、涼やかな音。
死んだようなコンクリートの塊の端境に、息づくのは誰でも無い自分と、
姿も見えず名前も知らない、小さな生命達の群れ。
今まで気が付く事の無かった音だ。
季節が移ろったのだろうか?
それとも単に今まで自分が気が付いていなかっただけなのか。
その寂しげな命の音に、しばし耳を奪われた。
けれど、心は動かない。
部屋に向かう階段を上がろうとして、足を止めた。
誰かが座っていた。
誰でもない誰か、ではない。
名前を知る、ヒトが居た。
「何してるの?」
「ずいぶん、遅いんだね」
「どうかした?」
碇シンジ――サードチルドレン、初号機専属パイロット。
NERV司令、碇ゲンドウの――息子。
インプットされた情報が、感情を伴わず脳裏に浮かぶ。
「これ、渡そうと思って。居なかったから……」
「こんな時間まで?」
見れば、手渡されたのは学校のプリントだった。
書かれた文字の羅列に意味など無い。
昨日今日と二日間、本部に居て学校には行かなかったが、明日受け取っても問題など有る筈も無かった。
さして重要とも思えないプリントから視線を外し、彼を見る。
サードチルドレンは、TシャツとGパン姿だった。かたわらには自転車が有った。
学校帰りにここに来て、そのまま待っていたわけでは無いらしい。
「一度、帰ったんだ。ミサトさんも帰って来るから、ご飯も食べなきゃいけなかったし。
でも、ミサトさんすぐ寝ちゃったし。今日は宿題も無かったし……別に、
どうでも良かったんだけど……気になって」
「そう」
まだ言い訳を続けそうな様子だったが、プリントを受け取って、部屋へ向かう。
サードチルドレンがわざわざ手間を掛けた意味は理解不能だったが、
理解不能な行動に意味を見出す必要は感じられなかった。
おかしな事をするヒト――それだけだった。
「ま、待ってよ」
「何か用?」
振り向きもせずそう答える。問い掛けに答えは無かった。
しばらく階段を上り、通路を辿って部屋の前に着く。
すぐ後ろに、彼が居た。
何も言わずドアを開け、灯りを付ける。
即座に感じる、違和感。
「まだ、居たの?」
振り返ると、閉まる扉のこちら側に、サードチルドレンが立って居た。
「部屋、片づけたんだ。ごめん、勝手に」
「……そう」
部屋を見渡し、僅かに首を傾げる。
ドアに挟まり溢れていた筈のチラシも、ゴミで雑然としていた部屋の片隅も、脱いだままになっていた衣服も、何も無く整頓されていた。
土足で歩いていた床の汚れまで清められていた。
どうせ再び土足で歩く事になる。
意味など無いに等しい。
しかしその無機的な光景に、初めてここへ来た時の事を思い出す。
「明日から、中学校へ通う事になる」
「はい」
「全て手配済みだ。赤木博士から指示を受けろ」
「はい」
「本部での業務のある時以外は、外から通う事になる」
「通う?」
「ああ、部屋が有る。覚えなければならない事が多い」
「分かりました」
あの部屋のように、彼の人が訪ねて来る場所になるかと思っていた。
けれど、そんな事は一度としてなかった。
だからこの場所は、意味を失った。
他の全ての場所と同じように……。
ベッドが有り、シャワーが有る。冷蔵庫が有り、湯が沸かせる。
何も不自由はして居ない……しかし、なんの愛着も感じていない。
だから、窓に引かれたカーテンを、開けた事も無かった。
今は窓が開け放たれ、夜風に白くカーテンが揺れている。
この部屋の中で風を感じる事も初めてなら、月を眺めるのも初めてだった。
机の上に鞄を置いて、振り返る。
「まだ、何か用?」
離れて立つ彼との間に、かすかに足跡が浮かんで見える。
いつものように土足で歩いたのだ。
そこに、彼はわざわざ靴を脱いで上がる。
「お、お邪魔します」
上がれと言った訳では無い。
言うなれば無断で侵入してきたのだ。
お邪魔しますは、おかしい。
「何か用?」
返答の得られない問い掛けを、再び繰り返す。
こんな遅い時間までこの場所に居続ける事に、なんの意味が有ると言うのだろうか?
単なる繰り返しに過ぎない筈の日常の一コマが、その時ずれ始めた。
「綾波だけ、本部でエヴァのテストが有ったんだよね……なにやってるの? こんな遅い時間まで」
「シンクロテスト……どうしてそんな事聞くの?」
「え……だって、同じパイロットなのに、綾波だけ仕事が多いみたいで」
「別に、気にしてないから」
半分は本当で、半分はウソだった。
シンクロテストには変わりが無いが、レイがシンクロする相手はエヴァ零号機ではない。
――ダミーシステム――そう名付けられたモノが、現実にどのような姿となるのか、開発の実験台となるレイ自身も知らない。知ろうと思った事も無い。
だが、ひたすら時間のかかるそのテストを、無意味な物とは感じていなかった。
恐らく重要なのだ……レイにとって、では無く。
エヴァとの連動試験には興味を持たない彼の人が、
ダミーとのシンクロを試みる時には必ず現場に居た。
だから、ただ時間ばかりが過ぎるテストも、むしろ心待ちにしていた。
自身の意識を共有する、あやふやな魂の気配を感じる、長い時間。
見えない闇の向こうに何が潜んで居るのか、恐ろしいと思う時も有る。
そんな時は目を見開いて、暗い実験室を見渡す。
機密保持の為、最小限の人員のみで執り行なわれるテスト。
身体を包むLCL。オレンジ色に照らされた淡い視界の向こうに、
じっとレイの姿を凝視する、長身痩躯の男が居る。
レイが視線をさ迷わせれば、彼の人は必ず、目の届く範囲に居た。
凡そ半日を、特殊なプラグの中で過ごす。
LCLから上がれば、忘れていた重力が手足を捉える。
ひどく消耗し、空腹を感じて、手足を投げ出してしまいたくなる。
そんな時に、彼の人は必ずレイに微笑みかける。
「食事にしよう」
その言葉に秘められた意味。
厳重に秘匿された機密の中で、更に秘められた時間と空間。
二人だけの闇。
二人だけの時間。
「二日も掛かって、大変だよね?」
そう声を掛けられて、我に返った。
微かな会話の途絶の間に、与えられた愛撫の感触を反芻していた。
「別に……仕事だから」
視線を合わせずそう答える。
今度は全てが、嘘だ。
嘘をつく……機密事項を守る為には不可欠な事だが、
レイは意図的に会話を操作する術に不慣れだった。
サードチルドレンの少年がそこに作為を感じたとしても、不思議は無い。
「でも、どうして綾波だけ?」
「何も答えられない……あなたが知らない事は、あなたが知る必要の無い事でしかない」
「教えてくれないの?」
「命令が有ればそうするわ」
今度は正面から見詰めるレイの視線に、少年が目を逸らした。
何が知りたいと言うのだろう?
初号機パイロットはただ、初号機を操る事だけが役割なのに。
「父さんに命令されてるの?」
「そう思うなら、どうして直接聞かないの」
はっとして少年が振り向く。
以前にもこんな会話をした記憶が有った。
まだ、父親に反発と不信しか覚えていないのか……
その事を考えると、レイは微かな不快感を感じる。
彼の人の心の内の何割かを、この少年に取られている……という苦い思いが有った。
サードチルドレンが第三新東京市に来る以前は独占していた筈の場所を、
何割か明け渡している。
それなのに、この少年はそれを自覚していない。
「まだ、恐いの? お父さんの事」
手の届く所にいれば、何時かの様に頬を打っていたかもしれない。
冷笑……少年から見れば、レイの表情はそう見えただろう。
「何も話すこと、無いから」
帰って――と、レイは扉を指差す。
しかし少年は、それには従わない。
「秘密なんだ……綾波と、父さんだけの」
違うと言えば嘘になる。
そうだと言えば今以上に詮索される。
だからレイは、ただ沈黙を守る事でシンジの問いに答えた。
月の光より冷たいレイの視線――氷のように凍てつく空気。
なのに少年は一歩踏み出し、レイとの距離を詰める。
レイは初めて彼を、怖いと感じた。
他人は全て他人でしかない筈だった。
誰も自分の中へ、足を踏み入れようとはしなかったから。
彼の人でさえ……なのにこの少年は……。
「はっ……」
涸れたベッドが軋んで悲鳴を上げる。
狭い寝台の上に押し倒されていた。
両手首を掴まれて、至近距離で睨み合う。
「なんで父さんなんだよ。なんで綾波なんだよ」
少年の瞳に浮かぶのが、怒りなのか、哀しみなのか。
レイには分からない。
「……何が哀しいの?」
耳を打つレイの声音は何の感情も示さないただの疑問の声だが、
少年はまるで責められているように苦痛に顔を歪めて、レイの声を聞いていた。
「何が……んんっ」
なお問い掛けようとするレイの唇を、少年が塞いだ。
噛み付かれるかと首を竦めたレイだったが、予想に反して押し付けられた唇はただ柔らかく、声を発する形のまま凍り付いた唇に触れて、塞いだだけだった。
闇の中での睦み合いしか知らないレイは、前髪が触れ合うほどの距離にあっても目を瞑る事を知らない。
それどころか、これほど間近でヒトの顔を眺めるのは初めてだと、状況に不似合いなほど冷静に少年の瞳を見詰める。
大きく見開かれた赤い瞳を映す、少年の黒い瞳。
レイは、合わせ鏡のように自分自身の目を見ていた。
それが微かに揺れて見えるのは、自分の視線が揺らいでいるからなのか、少年の視線が定まらないせいか。
それを見定める前に、少年の顔が離れていった。
同時に、掴んでいたレイの手を離す。
その表情は呆然として、なぜ自分がこんな事をしたのか分からない、とでも言いたげだった。
「……ごめん……」
少年は消え入りそうな声でそう呟くと、項垂れたまま身体を起こそうとする。
その手を、今度はレイが掴む。
何故そうしたのか、後になっても分かりはしない。
ただ、手を差し伸べなければいけないと、その時はそう感じた。
「どうして謝るの?」
振り解こうとすれば簡単に払い除けられる筈の手を、少年はただ黙って見下ろしていた。
細い手首に、より繊細なレイの指が絡む。
握られたと言うよりも、ただ触れ合っているだけのような……。
「どうして?」
押し黙ったままの少年の瞳に、今は燃えるような怒りも、
湛えるような哀しみも、浮かんではいない。
ただ困惑と、混乱と、どこか脅えたような色だけが見て取れる。
少年は、憎んで居るのだろうか?
一度は彼を捨てた父親を。
その父親と共に居る自分を。
それならば、理解できた。
独占したいという欲求。
全てを己に振り向けたいとする欲求。
それは、レイ自身が少年に対して思う憤りと同じ。
だがもしそうであるなら、彼は怒りを向ける相手を間違えている。
レイを責めても始まらない事だ。
少年と、その父親との関係を今一度確かめたいのなら、自分から彼の人の元へ足を運べば良い。
何故そうしないのか、レイには分からない。
「……何が哀しいの? 何が苦しいの?」
どちらも、自分には理解出来ない「感情」と言うべきモノ。
心が痛いのだと、知識としては知っている。
それを実感した事は無い。
「父さんに、近付かないで……」
聞き取れないほどの小さな声で、少年はそう呟いた。
やはり、憎まれているのだろうか。
けれど、彼の人との絆を失う事は、レイにとって全てを失うに等しい。
「あなたには関係無いわ」
だからそう、言い放つ。
この世で譲れない事が有るとすれば、それはただ一つ。
「どうして司令の所へ行かないの? 何故ここに来たの?」
奪える物なら、奪えば良い。
少年によってそれを失うなら、次は自分がこの少年を憎むだろう。
ただそれだけの事だ。
しかし。
「違う! 父さんは関係無い」
少年は叫んでいた。
思いがけない大きな声にレイの肩がびくりと震えて、触れ合っていた手が離れた。
少年自身も、自分の発した大きな声に驚いたような顔をする。
「関係無い? どうして」
普段通りの平静さで、レイは言葉を返した。
少年は混乱している。
傷つき、迷い、何かを恐れていた。
けれど彼が何を思うのか、レイには伝わらない。
「……父さんだからじゃない。僕は……綾波が……」
苦しそうな顔。
レイは少年の表情をそう見て取った。
けれど彼の発した言葉は、レイの理解からは遠い。
「何が苦しいの?」
「……苦しい?」
ココロが痛みを感じている。
そういう顔だとレイは思う。
そして、少年のそんな表情を見ていると……。
「心が痛いのでしょ?」
……何故かレイの胸まで、チクリと痛む。
それが何であるか、レイには分からない。
ただ少年の手を離してはいけないと、ただそう感じた。
「どうして心が痛いの?」
そう問い掛けながら、レイは再び少年の手に触れた。
手を引こうとする少年の手首を、今度はしかと掴む。
「どうして?」
それは少年への問いであると同時に、己への問いでも有った。
何故シンジの心が痛むのか。
何故、シンジの苦しい顔が自分の胸まで苦しくさせるのか。
好奇心。
そう、理解出来ない事への好奇心に過ぎなかった。
「それは……多分……綾波が」
「私が?」
さらに遠ざかろうとする手を引く。
少年は、まるで逃げ出したいかのように後ずさる。
仕方なくレイは、両手でその手を掴む。
「答えて」
レイも身を起こして、少年と向き合った。
項垂れた顔に手を伸ばす。
そして少年の目を見詰めた。
先程間近で感じたように、その瞳に己の瞳を映した。
その目に何が映っているのか。
少年の心の中に何が有るのか。
己と少年の心を繋ぐ、得体の知れない、何か。
「……好きだから……」
反らす事の出来ないレイの視線に追い詰められたように、少年は弱々しくそう呟いた。
その言葉は、レイの心に何の反応も呼び起こさなかった。
好き……言葉の意味は知っている。
しかしそれがどんな感情を伴う言葉か、レイは知らない。
だから、興味はやはり少年の心の中にしか無い。
なぜ、好きと呟くのにそんな苦しい顔をしているのか。
ただそれが知りたくて、レイは彼の瞳を覗き込む。
「好き……って?」
黒い瞳に、赤い瞳が映っていた。
シンジの瞳を覗き込むと、何故か自分の瞳を見る事になる。
けれどレイが見たいのは、シンジの目だ。
その目の中にどんな表情が、どんな心が浮かんでいるのか。
それが知りたくてますます近付く。
「んっ」
再び、唇を塞がれた。
今度はどこかでそれを予期していた事に、触れ合ってから気が付いた。
吐息が頬にかかる。
睫毛が触れ合いそうになる。
そんな距離で、レイはシンジの瞳を見詰めていた。
好きという言葉を説明する代わりに、少年がそうした。だから触れ合う唇の感触から、理解しようと試みた。
しかしそこに、言葉の代わりになりそうな、求めていた「何か」は無い。
有るのはただ、濡れて柔らかい少年の唇の感触と、その体温。
少年の腕がレイの背中に回る。
レイの手も少年の背中を掴む。
胸を合わせれば、鼓動が聞こえた。
「んっ」
再び押し倒されて、背中とベッドの間に少年の手が挟まる。
レイの胸に少年の細い身体の重みが加わる。
重なる胸の内で鼓動が高まった。
早まっているのは少年の鼓動なのか、己の鼓動なのか。
少年は目を瞑っていた。
レイがその中を見定めようと覗き込んでいた瞳は、もう見えない。
見えているのは、長く重そうな睫毛と、微かに震える瞼。
レイもそれに倣うように、目を瞑る。
そして、新たな発見をする。
視覚が閉ざされると、一層近付く。
触れ合う唇。重なる胸の鼓動。
少年の吐息。腕の中の身体の重み。
そして、それらは不快なモノでは有り得ない。
むしろ、心地好い。
レイは少年の頭に手を回し、その短い後ろ髪に指を絡める。
少年の温もりを、掌に感じる。
合わせた唇が、僅かにずれた。
その隙間に、舌先を伸ばす。
彼の人がそうするように、シンジの口の中を求めた。
「あっ……」
不意に唇が離れた。少年の大きな黒い瞳が見下ろしている。
「どうして?」
どうしてこんな事をするのか、ではなく。
どうして止めてしまうのかと、レイは問う。
言葉にならなかった少年の心は、まだレイの中には届いていない。
だから、求めた。
「良い……の?」
「何が?」
不思議なモノを見詰める目で、レイは少年の顔を見上げる。まだ言葉の代わりには足らないのに、途中で止める意味は無い。
少年が投げかけた「謎」は、レイの心の中で宙吊りになっている。
「ふっ」
きつく抱きしめられて、僅かに開いた唇の間から吐息が漏れた。
見かけより力強い少年の腕が、固く背筋を締め付ける。
抱きすくめられ、身動きが取れなくなるのは、悪い感触ではなかった。
きつく重なり合って、汗ばむ程に熱い胸を合わせているのも。
少年の唇が再び触れる。
今度は初めから、斜めに重なった。
微かに開いた唇の間で、舌先が触れ合う。
その刹那、レイは自分が濡れているのを感じた。
下着に包まれた、足の間が熱かった。
無論、あの闇の中では全身が滾って居たから、その熱さを知らない訳では無い。
けれど、それは彼の人との絆がそうさせるのだと思っていた。
何故この少年と触れ合って、己の身体は熱くなるのか。
それが答えを探すべき、新たな「謎」となった。
「綾波……」
またゆっくりと唇を離して、少年がそう呟く。
絡めた舌先には意味が有ったのに、同じ少年の口が紡いだ言葉には意味が無かった。
だから再び、唇を求める。
「んっ」
レイの方から唇を求める事に、少年は戸惑った。
けれど、重ねた唇の間で絡み合った舌は、先程までよりずっと力強い。
舌先は鋭敏だ。
互いの口の中の感触を、味を、体温を、余す事無く伝える。
そして、吸われるように舌先を捉えられて、レイの鼓動が早まる。
やがて訪れる……陶酔。
瞼の裏が赤く染まった。
重なる足が絡みついた。
脳裏が痺れるように、背筋が疼く。
足の間が熱くなる。濡れて、滴る。
その時ようやく、レイは少年の言葉の意味を知る。
憎まれていた訳では、無い。
恨まれていたのでも無い。
彼の人がレイをそう扱うように。
少年も、レイを求めていたのだ。
その事に気が付いて、レイの心が微かに震えた。
何故震えたのか、分からない。
心が震える事を、言葉にすればなんと言うのかも、知り得ない。
けれど、求められて居ると思えば、求める気持ちが強くなる。
「綾波……僕は……」
再び離れ、恐らく好きだと言おうとしたその口を、またレイが塞いだ。
言葉にはもはや、意味が無かった。
体温と、触感の方が、雄弁だ。
繋がる口の端、合わせた唇の端から、唾液が零れた。
絡み合う舌先は、別の生き物のように貪った。
そして、貪られたいと願う。
もっと、欲しかった。
言葉より強い。
けれど意味など無くて良い。
「もっと、続けて……」
溶け合うような陶酔を。
見慣れた闇とは違う、青白い光の中で、レイは衣擦れの音を聞いた。
微かな月明かりに照らされて、シンジのシャツが舞う。
現れたのは、細く儚い少年の肢体。
その手が、自分の着衣に伸びる。
汗ばんだ胸は、早く夜気に触れたくて、粟立っていた。
細いタイが解かれる。
ワンピースのスカートが肩から外れる。
丸い襟のブラウスの小さなボタンの一つ一つが、手探りで外されていく。
その間、レイの手の平は少年の薄い肌を滑っていた。
張りつめて、悲しくなる程にか細い筋肉。
繊細な作りの手や指が、愛おしかった。
何故、愛おしいと思うのか、レイには分からない。
ただ、細く頼りない身体が、白い肌に汗を浮かべて、我が身の上に覆い被さっているその様が、たまらなく愛おしい。
絡み合いたかった。
蔦の様に、蛇の様に。
細い手足を絡ませて、合わせた肌に一部の隙も許す事無く、泥のように重なりたかった。
たどたどしくシンジが服を脱がす間に、レイの身体は滾った。
不器用な手が下着の止め具を外そうとしているのが、まるでレイが燃え上がるのを待つかの様に、焦らしている。
熱く燃える渇き。
癒されたい渇きの炎が、身体の奥底で揺らめいて燃え上がる。
汗に濡れた肌がようやく夜気に触れた。
頼りない少年の手足が闇の中に浮かんで見える。
レイは、胸の先端が痛いほどに尖っているのを感る。
胸だけではない。全身の肌が粟立っていた。
触れられたくて、抱きしめられたくて。
「……抱きしめて」
溜め息のような吐息と共に漏れた言葉が、少年をどれだけはやらせるのか、レイは知らない。
ただ、求めるままに求めたまで。
裸の胸が重なり合って、ようやくレイの渇きが少しだけ癒える。
少年の体温は、高い。
熱く高鳴る鼓動を感じたくて、目を瞑る。
滑らかな肌が太股の間に滑り込む。
足が絡む。細い足だ。
鏡に映したように、同じ長さの手足をしていた。
同じように細い手足をしていた。
だから、絡み合う。
触れ合う肌の、粟立つ肌の一つ一つが。
伸ばした腕も、閉じた足も、一つに重なる。
胸を合わせたままに、口付ける。
溶け合うようなキスをした。
裸の肌を重ねたまま舌先を弄ぶ。
脳裏に再び陶酔が訪れる。
あの熱い、血潮の色が瞼に浮かぶ。
求めているのは、それだ。
身体を見失うほどの。
腹の上が、熱くなった。
レイが滾るよりも尚、シンジの身体が滾って居た。
二つに折り重なった身体の間で、まるで別の生き物のように、熱く息づくものが在る。
それと同じく、いやそれにも増して、レイの胎の中が熱く燃える。
「あ……」
唇が離れて、再び目を見開く。
月明かりに照らされた己の青白い肌を映した、少年の瞳。
その漆黒の瞳に、見とれた。
「触っても、良い?」
肯くかわりに、少年の頬に手を伸ばす。
白い頬が僅かに上気していた。
細い顎と、細い首にも指先を滑らせる。
少年はくすぐったそうに微笑む。
自分もそんな風に触れて欲しいのだと、言いたい事は言葉にならずとも伝わった。
少年の熱い掌が、レイの胸に触れる。
「んっ」
柔らかく膨らむ二つの乳房。
張り詰めて鋭敏になった肌は、ただ手を置かれただけで疼く。
その弾力を確かめるように、少年の手がゆっくりと力を込める。
細い指に押されて、柔らかな肉が形を変える。
もっと強く触れられたくて、その手に己の手を重ねる。
強く、握るように押しつけられる手。
「ん……はぁ」
その圧力が乳房の芯まで届くと、レイの口から溜め息が漏れた。
ゆっくりと、少年の身体が、重なり方を変えていく。
足の間に身を収めて、胸に頬を寄せる。
「あっ」
尖った胸の先端に、唇で触れられた。
熱く濡れた唇と舌先に、粟立った肌が震えるように悦ぶ。
息を飲み、目を瞑る。
舌先が、味わうように、レイの胸の先を弄る。
「綺麗……こんなに、綺麗なんだ」
粟立つ肌の粒子一つ一つを逆撫でるように、少年の舌先が肌の上を滑る。
レイの白い肌が熱く上気していた。
少年の唇に捉えられた胸の先端は、その唇と同じ色。
もっと触れられたくて、もっと感じたくて。
レイの胸の内が、切なくなる。
「綾波……」
そう名を呼ばれて、何故か息が苦しくなる。
名を呼ぶ少年の顔も、苦しくて切なげだった。
肌を重ね、渇きが癒えたと思う間も無く、身体の奥底が渇いていた。
いや、渇いているのはココロなのかもしれない。
己の心に感じる、満たされない隙間。
そして身体の中にも、虚のような間隙が在る。
そのどちらもが、口を開いて飢えていた。
飲み干さなければ癒されない渇き。
まるで飢えた獣の顎門ように、熱い雫が滴る。
濡れているのに、渇いている。
熱い身体を持て余す。
1001 :
1001:
このスレッドは1000を超えました。
もう書けないので、新しいスレッドを立ててくださいです。。。