1 :
Classical名無しさん:
やっぱりシェリルって使えないわ
2 :
Classical名無しさん:2012/11/07(水) 07:35:29.86 ID:brGV6K08
老け面で汚声だからね
僕はシェリルさんの方が好きですけどね
4 :
Classical名無しさん:2012/11/07(水) 21:55:26.63 ID:YWdOo0/z
シェリルはオリモノが多いタイプ
うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
書き込みてええええええええええええええええええええええええええええええええええ
うわあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
いうおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお
当該スレは、物語と献立の下書きないし控えとして使用する
宗家の式献立が献立を、式語部が物語を、それぞれ担当する
今までに騙られた馬蹄等の物語一覧は概ね下記のとおり
主伝
第一話 最後の宗家
第二話 虎御前を継ぐもの
第三話 悪魔の棲む島(デュルムンの地にて、を改題)
第四話 双頭の鷲たち
第五話 竜彫りの男
第六話 紅の騎士たち
第七話 紀の古伝(蒙古と雲古、を改題。まだ前編のみで未完)
副伝
歳の左近妖怪退治秘話
第一話 静止婆と悟ります
第二話 シキガミ合戦
第三話 楢山ブス考(←概ね終わったが、恐らく今までで最低の出来映え。)
【楢山ブス考】
ココクリトリスの里は、
有象無象のクソスレが連なる似ちゃんの僻地の片隅にあるわけだが、
その僻地栗と栗鼠からさらに奥に入った処に、楢山という名の遊郭がある。
そんな糞田舎の怒僻地の遊郭なんかろくなもんじゃない、
どうせ歳を経た砂掛け婆みたいな娼婦ばかりなのだろう、
と思われるかもしれないが、さにあらず。
楢山遊郭の娼婦たちはなぜか皆美人ぞろいだという評判なのである
むろんそれには理由があった
楢山遊郭では古来より、
「ブスに生まれた女は二十歳になったら裏山に捨てなければならない」
という掟があったのだ
これはむごいことにも思われるだろうが、
怒ブスは指名してくれる客がいないから、
僻地にある遊郭が生き残るためにはそうせざるを得なかったのである
しかしこうして長い歳月に亘ってブスを間引いていくことで、
楢山遊郭の娼婦たちは美形の遺伝子を引き継ぐものばかりとなって、
その結果「あの遊郭は鄙にあるにもかかわらず、娼婦は美人ぞろい」
という評価が定着することとなったのである・・・
∩_,,∩
( ・ x ・) ・・・という、お話なんですが。ね
( つ旦と ,.-、
と_)_) (,,■)
「まあ、この噂の真偽のほどは存じませんが
左近様羊水様。もしご退屈なようでしたら、
その楢山遊郭にでも遊びに行かれては如何でしょう?」
「美人ぞろい、ですって。…どうします?左近様。」
ζ
_,,.旦_ ∧,,.∧
/ ・ω・ヽ /・ω・ ヽ
l l ζl l
`'ー---‐´ 旦`'ー---‐'′
「行くに決まってるだろ、羊水どん」
それ、楢山遊郭へGO!
待ってよぉ〜、左近ちゃーん。
∧∧ ≡≡≡ ∧∧ ≡≡≡
(゚ー゚*) 、 ≡≡≡ (゚Д゚, ,) 、 ≡≡≡
O┬Oc )〜 ≡≡≡ O┬Oc )〜 ≡≡≡
(*)ι_/(*) ≡≡≡ (*)ι_/(*) ≡≡≡
さて、かくして左近様と羊水様が楢山遊郭を訪れてみますと
なるほど確かに栗と栗鼠の里の長者慈円が申していたとおり、
鄙の遊郭にもかかわらず娼婦たちは皆そこそこに美人ぞろいでございます
お二人はああだこうだと吟味した末に、
左近様のお相手は霞太夫、
羊水様のお相手は夢衛門と言う源氏名の女郎を
それぞれの相方とお決めになりまして、楼閣にお上がりになります
左近様羊水様いずれも日ごろはまじめな顔をしておりますが、
根はモチロンスケベでございますので
酒肴などそそくそと一通り済ませますと、
さっそくお女郎殿とお褥入りと相成りました
・・・・
もみもみ。むぎゅ。ぐりぐり。ズッポシ。
……ガブッ! 「ぎゃあああああ!!」
殺す
っと。
語部も面倒になってきたので、すべて擬音で済ませてしまいましたが、
とりあえずこのような次第にて、左近様羊水様ともに
ことの最中にいきなり女郎に首筋を噛み付かれまして
悲鳴と共に布団の中から飛び出しました
「な、何をする…うわ、血が出ておるではないか」
「当たりまえでしょ。噛んだんだから」
「だから、なにゆえ客の首に噛み付くのかと問うておる」
「だってしかたないじゃん。私たちは吸血鬼なんだから」
「へ?」
「吸・血・鬼」
「何を言うか。西洋ならばさておき、
東亜の端の島国の怒僻地の糞田舎の山奥のこんなうらぶれた遊郭に、
吸血鬼など、おるものか」
「ずいぶんと襤褸糞言ってくれるけど、いるんだからしかたない。
ヴラド・ツェペシュ、ジル・ド・レエ、エリザベート・バートリー、
私たちもまた、こういった西洋の闇の眷属の流れに連なるもの。
我等はウケミドブスという名の吸血鬼を始祖に頂く吸血一族なのさ」
sage
「うぬぬ…聞くと見るとは大違いとはまさにこのことか
クリトリスの慈円殿からはここの娼婦は鄙にも稀な美女ぞろいと聞いておったに、
あにはからんや、そなたらのような魑魅魍魎どもの巣窟であったとは…」
「プッw バッカじゃねえのpgrwww
近在の爺連中にはそういう噂を流しておかないと、
こんな鄙びた遊郭には誰も来やしないじゃないか。
私等は人の生き血を吸って若さと美貌を維持している吸血鬼なんだから、
えさになる人間が来なきゃ、商売上がったりだわさ。
有ること無いこと美辞麗句を並べたてて、
お前等みたいなスケベを招きよせるのも、
ひとえに営業努力ってもんよ
さぁ、グダグダ言ってないで黙っておまえの生き血をよこしな!」
そう叫んで襲い掛かってきた霞太夫の攻撃を、ひらりかわした左近様は、
床の間に立てかけてあった愛刀鬼きりをつかむや、その鞘を払いました
「む・・」
やはり腐っても魔物は魔物。並の人間とは一味違います。
鞘から抜かれた鬼きりの本身をひとめ見ただけで、
霞太夫は、その太刀の持つ威力をすばやく悟りました
「チッ。こいつはヤベぇや…」
そうつぶやいた霞太夫はフワリと天井まで飛び上がり、
板をはずして天井裏に潜り込みサッサと逃散いたしました
いったんはその後を追おうとした左近様でしたが、
いやそれよりも今は羊水殿の御身のほうが大事と思い直し、
抜き身のまま鬼きりを握り締めると、
羊水様がいるはずのお褥処に向かって廊下をひた走りました
羊水様がおられるお褥処に左近様が踏み込みますと
そこでは
生き血を求めて鬼の形相で羊水様に迫る夢衛門と、
その夢衛門から必死で逃げ回る羊水様のふたりが
室内で鬼ごっこの真っ最中。
布団、枕、酒肴、床の間の置物、家具調度品、
その他もろもろで室内散乱状態で御座います
「そこなる魔物妖怪。
羊水殿に手出しすな。私がそなたを成敗してくれよう」
「あ?何だ、てめえは?丁度いい、てめえの生き血も吸ってやるわ」
夢衛門は霞太夫より頭が鈍かったので御座いましょう、
左近様の御手に握られた鬼きりの太刀に注意も払わず、
無造作に飛びかかってまいりました。
その夢衛門に左近様の真っ向唐竹割りが炸裂!
「あ?」…それが夢衛門の末期の言葉で御座いました
脳天からマンコまで、一直線に断ち切られた夢衛門は、
しばし呆然とした恍惚の表情を浮かべておりましたが、
やがてデンデロリンと皮が剥げ、眼が落ち、歯が抜け、肉が溶け、
骨が粉々になり、最後はすべて砂と化して消滅してしまいました
「羊水殿。大事無いか?」
「アアこれは左近様。危ないところをお助け頂き、アリガトウ御座います。
幸い、今すぐに命に別状はないようです、しかし…首筋を噛まれました」
「それは私も同様。だがこの程度の噛み傷ならどうということもあるまい」
「いえいえ左近様。ご油断は禁物です。
私が聞くところでは、この吸血鬼なる西洋の魔物に噛まれますと、
その噛み傷から毒素が被害者の体内を巡り、暫しの時を経た後に、
噛まれたものもまた吸血鬼になってしまうという由、聞いております」
「なんと。それはつまり、ゾンビ感染ものじゃな」
「いかにもさようで。
そもそもゾンビは元はブードゥーの概念で御座いますが、
このカリブ海の土着宗教の中にあったコンセプトと、
かねてより西洋にあった吸血鬼の概念を融合させて、
ジョージロメロ監督は
『ナイト・オブ・ザ・リビングデッド』という映画を作ったのではないか?
と、推察しております。
この映画がいわゆるゾンビ感染映画の草分けで御座いまして、
以上の事をごく簡単に言いますと、噛まれると移るんです
こいつらに噛まれますとその噛み傷自体はさしたることがなくとも
被害者の体内にその毒素が侵入して感染してしまうので御座います」
「ううむ・・手ごわいやつらじゃな」
「で、羊水殿。
噛まれてからいかほどの時間で、我等も吸血鬼になってしまうのか?
あるいはまた、吸血鬼にならぬように避ける手立てなどはないのか?」
「はて、私もホラーマニアではございませんので、
あまり詳しいことは存じません」「ううむ・・」
困り果てたお二人の会話が途切れたちょうどそのとき
「もうし…そこなる殿方さま」
と、呼びかける弱々しい声音が衝立の向こうから聞かれました
すわや、また新たな魔物かとお二人が身構えると、
その声の主は慌てたように
「どうかどうか。お平らに。私は怪しいものでは御座いません
…あ、いや、あるいは怪しいものではあるかも知れませぬが、
決してお二方に害意を持つものでは御座いません
あの夢衛門を一刀のもとに断ち切った見事なお腕前を拝見し、
かつまた、ただいまのお二方のお話を拝聴いたしまして、
あなた様方ならば我等を助けてくださるのではないかと思い、
このようにお声を掛けさせていただいたしだいで御座います」
と、申します
「怪しきものではないと申すのならば、
衝立に隠れておらず、我等の前に姿を見せてはどうじゃ?」
と左近様が糺されますと、
その声の主は消え入りそうな声で、
「姿をお見せしてもよろしゅう御座いますが、
決して驚かぬとお約束していただけますか?」
と、奇妙なことを申します
「先ほどからここ楢山遊郭の怪異ぶりには
さんざん驚かされてきたゆえ、いまさら少々のことでは驚かぬわい」
「…さようで御座いますか。では失礼いたします」
そう言うと、その声の主は衝立から出てきて、
左近様、羊水様お二人の前に姿を現しました。
_,,. -‐ ''"´ ‾ ゛`''ヽ、
,r''"´ ,... ..,,.... ,;;..,;.,.,;;,.. ,. 、`ヽ
ノソ;ノ彡';ノノリ彡'"_;i}|lリ''"゛ヽ゛i}!;.゛i
ノ;彡'ソ彡';彡リ:.__,.ノ|i|!l!___,.ノl}l}i゛!
ソ彡';彡';ノi|i!リ':.ヽ.●フ}l!リ 、●フ;;li|!|!1 どうも。お初にお目にかかります
,ノソ彡'ノノl{l{i'!ノ;;::. ;iリ' ヽ 、 ;;!l}|i;|! わたくし、楢山ナデシコと申しますぅ…
ノ;彡ソリ彡'i|!リ;;;.. (;.(;.'、_;:ノ‐'`ーl!|l!}i!
ノソ;彡';ノli|!|!ノリ;;::.... __,. --—‐',ノli|!リ
,彡彡';i!|i!{!i|{!リ;;;;::((.ー'´ ー−''″,.ノi}リ
,ノ;彡'リ!i!{i!;彡',;ヽ、::.__,. --—-、-‐'´‾`ヽ
゛;リ|{!i|{!l{l{i゛l! 〃::.:... , ヽ:.:.. . , i
;リ|i!|{li|l!|!リ'':::.:.: / ヽ/ :|
ノ!|{l!|{i!リ' ´ `; i .:.::|
;{l!|l{!i!|!'、 i ! :.:.:!
;リ|iレ::{!' \ | _,. -‐;''`ー--‐'
;l{i;::::i;:.__,.ヽ、 i /-‐ ''" ::::::::/
il;li::::':.:.:.: /レ'.爻爻爻':::::::/
l!;iヽ:::.:.:.:.. / 爻爻爻爻/ヽノ
';l|ilリ\::.:.:... /`ー======'
'iリ;' ヽ:;;;,;,...ィ' \`ー- ,ノ
;' |:.:.:. ! ヽ、_,〈
|:: | 〉
〉ー- | ,!
〈 _,ノ,! 、 i
゛i '´i ヽ |
| | \ l
!__,,j、___,.ノ_,,.ゝ
「・・・・・」↓羊水
ζ
_,,.旦_ ∧,,.∧
/ ・ω・ヽ /・ω・ ヽ
l l ζl l
`'ー---‐´ 旦`'ー---‐'′
↑左近「・・・・・・」
うわああああああああああああああああ、
ああああああああああああああおああああああああああああ
うわああああああああああああああああ
うわああああああああああああああああああああああああああああああああああ
うわあああああああああああああああああああああああああああ
うわあああああああああああああおあああああああああああああ
ああああああああああああ・・・・
楢山ナデシコ
「ですから驚かないでください、
と事前にお願いしましたのに…」
【楢山ナデシコ、かく語りき】
なるほど、つまりお二方は
クリトリスの里の長者殿からここ楢山遊郭のうわさをお聞きになって
ここに来ればさぞ艶やかな女郎衆と遊べるものと思われ、参られたと。
そういう次第でございましたか…
その長者殿のお話の概ねは
吸血鬼たちが生贄となる人間を招き寄せるために創作したステ魔、つまり
ステルスマーケティングでございますが、全てがウソ偽りとは申せません
すなわち、
「楢山遊郭ではブスは二十歳になったら裏山に捨てられる」という処。
この部分のみはあながちウソデタラメとばかりは申せないのでございます
まずそもそも、
ここ楢山に人間はおりません。いるものは吸血鬼女のみ。
彼女たちは自らのことを吸血微魔女と称しておりますが、
まあ要するに人間ではなく、妖魔のたぐいにございます
わたくしもそのひとり…あ、そうは申しても
私は殿方の生き血はすすりませんので、その旨ご安心くださいませ
私は吸血微魔女たちに言わせれば「出来損ない」なのでございます
吸血微魔女たちは人間の男をここ楢山に招き寄せては
その生き血を啜り殺すことで生き永らえておりますが、
相手が眉目良き男すなわちイケメンであった場合には
殺す前にまぐわって精液を搾り、子を孕むこともあります
そうして生まれた赤子が、
男児であれば生み出した直後にすぐ殺してしまいますが、
女児であれば二十歳になるまで育て、それまでの期間に
吸血鬼女としての資質があらわになれば、仲間に加えるのです。
二十歳になっても吸血鬼女としての資質が現れなかった女子は
裏山に捨てられます、このわたくしのように。
そうして捨てられた女たちがここ楢山の裏山には幾十人とおり、
夢も希望もない逼塞した日々を過ごしているわけでございます
左近様。羊水様。お二方を見込んで、どうかお願いいたします
ここ楢山に巣食う吸血微魔女を倒し、虐げられてきた私どもを
彼女たちの魔手から解放していただけませんでしょうか?
どうか、これこのとおり。よろしくお願いいたしますぅ…
「しかし…助けてくれよと言われてもなぁ」
ナデシコの長話を聞き終えた左近様は頭をポリポリ掻きながら
「そなたらを助ける前に、まず我等自身が、
あの霞太夫と夢衛門という二匹の吸血鬼女に
ガブリと一口噛まれているので、
それによる感染のほうが気になって、
今はそなたらを助けるところまで気が回らぬのだが」
「それでしたら吸血微魔女たちの首領を倒せば、
殿方の体内に侵入した毒液も消滅いたします
吸血鬼にはそれぞれの系統に始祖と称する首領がおりまして、
その始祖さえ倒せば、
連なる係累眷属のものたちもすべて死に絶えますとともに、
彼等がもたらした災厄、不幸、毒の効き目といったものも
すべて消滅することになっております
この決まりごとはさまざまな吸血鬼伝説が伝えるところであり、
またアンダーワールドその他のバンパイア映画におきましても
共通のお約束事項となっておりますので間違いはございません」
「ああ。なんかそのようなご都合主義的なお話は、
ホラーマニアではない私も聞いたことがございます」
と、ここで羊水様も口を開きました
「なんといっても物語上、
吸血鬼は易々とは死なない設定になっていますから、せめて
『始祖が死んだら係累も全滅する』ということにでもしておかないと、
キリがありませんよね
物語を円滑に展開させる上でも必要なお約束事項といえるでしょう」
「なるほど。では、
その始祖なる吸血鬼女を倒せばここ楢山の吸血微魔女たちも全滅し、
我等も吸血感染から免れ、そなたも解放されて万事めでたし、と。
そういうことになるわけか?」
「はい。ご明察のとおりでございます」
蟹鮨野菜豆鮭缶胡瓜似果実菓子似麺類酸珈琲葡萄液。残
・・・・
「しっかしなあ。吸血鬼と言えばその生国出身地は東欧。
後には西欧諸国やアメリカにまで進出したと申しても、
始祖ともなればやはり遠隔の地に棲んでおるのであろう。
そやつを遥々成敗しに行くだけの時間も旅費も、我等には無いぞ?」
「いえいえ左近様。
吸血微魔女たちの首領ウケミ・ド・ブスは、
ここ楢山遊郭に棲んでいるのでございます」
「え?それはまた・・
物語を早急に展開させるため必要とはいえ、
なんとも都合の良い状況設定であることよ」
「マァなんといってもこのような馬鹿話ゆえ、
すべてが適当、ご都合主義でございます。
適当ついでにさらに付け加えますれば、
その首領の正確な居所もわたくしナデシコが存じておりますので、
できますれば、今この場よりただちに成敗していただけまいかと」
「さようか。しかしいまは深夜。
そろそろ丑の刻すなわち午前三時ごろであろう
このお話の時代設定ではまだ電気が導入されておらぬので、
そのような時間帯とあっては真っ暗闇でどうにもなるまい
いま少し時間をやり過ごせば東雲時がまいるゆえに、
そのときを待ってから成敗すればよいのではないか?」
「畏れながら、左近様。
ココ楢山の遊郭は吸血魔女たちの妖しの術によりまして、
一晩中黄昏のような薄暮の状態が続いておりますゆえ、
真っ暗闇で何も見えぬ、という刻限はございません。
たとえ丑の刻であったとしても、十分に有視界戦闘が可能でございます」
「・・・さようか」
確かにナデシコが言うとおり、
もう丑の刻かという時間帯であるにもかかわらず、
楢山遊郭は左近羊水のお二方が訪れたときと同じような黄昏時の状態で
そればかりか、そこかしこには鬼火のような灯もちらちらと瞬いており、
敵が見えずに難儀するということは無さそうです
「ではナデシコ殿の案内で、今よりブスの成敗に参るとするか」
そう言って左近様が鬼きりを片手に立ち上がったとき、
それまで二人の遣り取りを聞いていた羊水様がふとナデシコに尋ねました
「吸血感染の件ですが、あれは噛まれたあと、
どのくらいの時間で吸血鬼になってしまうものなんですか?」
「そうでございますね・・個人差はございますが、
概ね約十時間後というところでございましょう
すなわち噛まれたあとに就寝されますと、
お目覚めになった後で健やかに変化する、
という具合でございます」
「なるほど…要するにコーラックみたいなものなのですね」
或いは「没」か
蟹鮨舌平目刺身魚蒲鉾胡瓜漬物醤油麺果実菓子珈琲葡萄液
鱒鮨野菜豆鮭缶胡瓜漬物果実菓子似麺類似残
・・・・
斯様な次第で早速これよりブスを成敗しようということに相成りまして、
三人はナデシコを先導役にしてひたひたと楢山遊郭内の廊下を進みます
左近様は申すまでもなく鬼きりの太刀を持っておりますが、
羊水様の方も茶人とはいえ先の土田喜屋武成敗のとき以降、
やはり護身の太刀が必要かと言うことなりまして
左近様に選んでいただいた太刀を腰に差しております
とはいえ元が茶人でございますので腕前の方ははなはだ心もとなく、
実質左近様お一人が頼みの綱でございます
「ときにナデシコ殿。ひとつ物をお尋ねするが…」
さきほど部屋から出るときに羊水様から意味ありげな目配せを受け
やはりさてこそと合点しておりました左近様が何食わぬふうを装い、
先を進むナデシコの背に声をかけました
「そなたは霞太夫や夢衛門とは違い、人の生き血は啜らぬ由。
ならば何をもって餌とし、そのような高齢になるまで
生きながらえてこられたのかな?」
それまでひたひたと進んでいたナデシコの足が、
左近様のその問いを受けて、ピタリと止まりました
「…何をお聞きになりたいのです?」
暫しの間をおいてたずね返してきたそのナデシコの声音には、
先程までの低姿勢のつつましさはなく、
静かな内にも怒気を含ませたものでございました
「いやさ。先程ソナタ自身が我等に教えてくれたように、
我等が吸血鬼に変容するまで未だ十時間の猶予がある。
ならば何ゆえそんなにせわしなくブスの成敗を急がれるのかな?と、
それがいささか不審でな」
「我等は長い歳月の間、吸血微魔女たちに虐げられてまいりました
一刻も早くその首領を討ち取りたいと願うのが情というものでございましょう」
「しかしナデシコ殿」
と、今度は羊水様が声をかけます
「吸血鬼なる西洋の妖怪は日の光に弱いと聞いている
ならば夜が明けるのを待って相手が弱っているところを
仕留めたほうが理に適っていると思うがいかがだろうか?
あと2刻ほど待っていれば、日が昇る。
日が昇ってもなお黄昏模様が続くと言うわけでもあるまい
長い歳月の虐待を耐えて待ち続けてきたそなたが
あとわずか2刻限が待てぬと言うこともなかろう」
「・・・・」
「ナデシコ殿。あるいはそなたも霞太夫や夢衛門と同様、
日の光に弱いのではないのか?」
「私も出来損ないとはいえ、吸血鬼の端くれ。
日の光に弱いからと言って、不思議ではありますまい
それのみを根拠に私に猜疑をかけられるのはお門違い」
「さればこそ、
吸血鬼であるにもかかわらず人の生き血を吸わぬそなたが、
何をもって餌としてきたのか?と最初に尋ねたのだが…」
話しながらも左近様がゆるりと鬼きりの柄に手を掛けました
「その問いが何か気に障ったか?ウケミ・ド・ブス」
「何を血迷うた戯言を。我が名はナデシコ。ブスではございません」
「ナデシコとは咄嗟に思いついたにしては良き偽名ですな、ブス殿」
と、左近様の後を引き取り羊水様が続きました
「しかし偽名というのは、どうしても本名の痕跡が残るものなのですよ
そなたがとっさに名乗った偽名ナデシコとは、漢字で書けば『撫子』。
撫子の撫は、愛撫の撫。撫子の子は様子の子。
すなわち、ナデシコを読み替えれば、そのままブスと為り申す」
「そのようなこと単なるイチャモンであろう!
高貴なる身の私に対してチンピラの言掛かりのごとき真似は控えよ下郎!」
「そなた、
虐げられしものではなかったのか?
いつから『高貴なる身』に変わった?」
「ぐ…ぬ」
「そなたが『吸血鬼に変容するまで約十時間』と私に告げたとき、
私はソナタ自身がウケミ怒ブスであるということを知ったのだ」
羊水様は止めを刺すように語り始めました
「その『十時間』というのも、或いはそなたの口から出任せなのかも知れぬ
しかし少なくともそなたのその言葉のとおりなら、
我等が夜明け前に変容することはないはず。
にもかかわらず、
そなたは日の明けぬ前にブス成敗を促し、
さらにはブスの精確な所在を存じている、とまで言う
おかしいではないか?
そなたは二十歳のときに裏山に捨てられ、
以後その歳になるまで裏山で生きてまいったはず。
それが何ゆえ、この遊郭内におる?
吸血微魔女たちに見つかったらなんとする?
虐げられているはずのそなたが敵の首領の居処を何故精確に知っている?
・・それらの疑問に対する答えはひとつしかない。
すなわちそなた自身が吸血微魔女であり、
かつ霞太夫や夢衛門より上位の者である、と言うことだ
つまりソナタこそが彼女等魔女の首領、ウケミドブスにほかならぬ」
鱒鮨野菜豆鮭缶胡瓜似麺類似果実菓子似鶏肉揚物生醍醐菓子残
【本性顕現】
「ふ。フッフフフフ・・・
さすがは緒万戸村にその人ありといわれた茶人羊水。見事な推理じゃ。
馬蹄等最強の呪術師である歳の左近の相棒を勤めるだけのことはあるな
…いかにも、ナデシコと名乗ったは真っ赤な偽り。
我こそがココ楢山に巣食う魔物たちの首領ウケミドブスじゃ。
お前等をうまいこと口車に乗せて、
楢山名物『婚活蟻地獄空間』に案内し、
生き血のみならず、肉はひき肉にしてハンバーグの素材とし、
骨は磨り潰してつくねにして鍋物の具として、
ことごとく美味しくいただこうかと思っておったのだが、
ばれてしまったあっては詮方もないな
…ここで始末してくれよう」
地獄の底から聞こえてくるような低い声音で
ナデシコ…いや、ブスがかように言いますと、
禍々しき気配とともに吸血魔女たちがざわざわとたち現れ、
左近・羊水のお二人を囲みました
「羊水殿。私は首領であるウケミドブスを仕留めるゆえ、
ほかの吸血魔女どものお相手はそなたにお任せいたす」
「えっ?いやいやいや・・・そんなことを仰られても
私はただの茶人でございますから」
「何を言われる羊水殿。
悪の陰陽師、土田の喜屋武を一刀のもとに切り捨てた
あの時のそなたの見事な太刀技、忘れてはおりませんぞ
あれ程の腕前ならば、雑魚妖怪の百匹や二百匹、物の数ではなかろうに。
謙遜なさるな」
「ですから、あのときのあの業は
御宗家様が私の体に乗り移ってなした御業でございまして
平素の私はただの茶人に過ぎません、と
そう申し上げたでは御座いませんか…」
「羊水殿、
今この土壇場でそのようなことを申しても詮方なかろう
あのときのあの業が御宗家の御業であったと言うのなら、
同様に危急の際である今現在もまた、
御宗家がそなたの身に乗り移ってくれるのではないか?
いや、乗り移ってくださるに違いない…ま、とりあえず
首領以外の魔物たちの相手ははそなたに任せるので、よろしく頼む」
「あわわわわ・・・」
任されてしまった羊水様は、恐怖のあまり歯をがちがち鳴らしながらも
使い慣れぬ太刀を抜いて身構えましたが、やはりどうにもサマになりません
(御宗家様御宗家様…どうかまたあの時と同様に降臨してくださいませ…)
羊水様は心の中で必死に祈りますが、
そうそう毎回都合よく御宗家様が光臨してくださるはずもなく…
と思ったそのとき。
(羊水…羊水…私の声が聞こえるか…)
土田の喜屋武を成敗した時に聞こえたあの声が
羊水様の心の中に響いてきたではありませんか
(嗚呼御宗家様…待っておりました助かりました有難うございます
どうぞまた私の身に乗り移って目の前にいるこれらの魔物たちを
叩き切ってくださいませ)
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l::::::::;'::::::i::::::::i:::/::::::/`メ、/::::/_,,..斗::::::j:::j!:::::リ
i::l:::::i:::/゙l:::::::::itf'芹ミヾ// " ノノ:::ノ::/}:::/
j::i:::::l:::{ l:::::::::i 弋;沙 ` ィ巧ソ)シ::/:/ /j/
/::j:::::i::::ゝ代::::::ト、`゙" , ゞシ ,イ::::ヽ ノ
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/ 〃 /:::::;;ィ"i::::! l \ `ヽ、__ ヽ \ \:::゙、
いやじゃ。今回は断る。
エエエエエエエェェェェェェェェェェ(゚Д゚)ェェェェェェェェェェエエエエ
(な、なにゆえでございますか?
あの時は助けてくださったのに今回は駄目と言う、そのわけは?)
(ここは遊郭ではないか。私はおなごゆえ、このようなところは嫌いじゃ。
そもそも、そなたがスケベ心を出してこんなところに遊びに来たために
このような災難に見舞われたのであって、いわば自業自得ではないか。
ゆえに今回は私はそなたに憑依はせぬ。自分で何とか切り抜けるように。
・・今回はそのことを言うために降臨してきただけじゃ)
(そ、そんな御無体な・・・)
_
. γ´ ̄ `ヽ 自分で何とかしろ、タコ。
│LiLハ i_| ☆ ピコ
│ii ゚ -゚ノi|つ―[] /
[ ̄ ̄ ̄ ̄] ( `Д´ )←>>羊水
| 御宗家.| ( つと )
kuu2320
鱒鮨野菜豆胡瓜鶏肉揚物鱈煮物〆鯖珈琲生醍醐菓子+第二帝国まで
鮭幾等飯野菜豆里芋鮭缶胡瓜似塩袋麺天麩羅蕎麦類似果実菓子、残
「…フン」
御宗家様に憑依してもらえず、
生身のままで魔物の群れと向かい合うはめになり、
ガタガタ震える羊水様を眺めて、
群れの中の一匹が、鼻を鳴らして嘲笑しました
「なんじゃ、こいつは。
馬蹄等の呪術師、歳の左近の連れというから
よほどの術者かと思っておったが、ただのど素人ではないか。
ちょうどよい。憂さ晴らしにこいつをなぶり殺しにしてくれよう」
その魔物こそ誰あろう、
左近様の鬼きりの太刀を見た途端に
戦わずして逃げていった霞太夫で御座います
相手が強ければさっさと逃げ、
弱ければ居丈高に上から目線でなぶりものにするという、
典型的な性悪微魔女の霞太夫は、
羊水様に対しては完全になめきった態度で
猫が鼠をなぶり殺すときのように舌なめずりをしながら
無造作に間合いを詰めてまいりました。 と、そのとき。
「!」
空気がうなる音ともに霞太夫の頭部がちぎれ飛び、
魔物たちの群れの頭上を越え、はるか向こうにまで転がっていきました
首から上を失った霞太夫の胴体は、暫くそのまま佇立しておりましたが、
やがて力無く膝を折り、古木が倒れるようにその場に折り崩れます
一瞬なにが起きたのかもわからず、ざわつく吸血魔女たちの群れ。
その魔物たちの群れと羊水様の間に割って入るようにして中空が裂け、
二匹の人にあらざるものが姿をあらわしました
「…献立様…語部様」
羊水様がホッとしたような声を発します
そうです。
御宗家様の二匹の識神、献立さんと語部さんが
羊水様の危機を救うためにその姿を現したのでした
,、 ,ィ!
!\ヽ--‐- '" /
V/::::::::::::::::::V:!
|::::tェ:::::ィェァ:λ 羊水ちゃん・・・・・・お待たせ
!:::::(,,o,,):::::/::ヽ
>::::´`::イ:::::::::ヽ
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遅くなってゴメンネ
,、 ,ィ! , 、 ,
!\ヽ--‐- '" / |ヾ\-‐--,/ }
V/::::::::::::::::::V:! !:V:::::::::::::::::::V/
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!:::::(,,o,,):::::/::ヽ . /::゙i:::::(,,o,,):::::::!
>::::´`::イ:::::::::ヽ . /::::::丶:::´`:::::::<
r-'",':::::::::::::::::::::::::::ハ ハ:::::::::::::::::::::::::::',:`ー,
. /:::::/:::::::::::::::::::::::::::::::::} {:::::::::::::::::::::::::::::::゙i::::::゙i
・・・
先ほどまで羊水様をなめきって
せせら笑いを浮かべていた吸血微魔女の群れたちは
霞太夫が瞬殺された有様を見て、宗家識神の凄みを直ちに悟り
今度は遠巻きにするばかりで、近づくものがいなくなりました
「ええい、なにをためらっておる!
相手はたったの二匹ではないか!
四方から一斉に襲い掛かって討ちとめよ!」
ウケミドブスが声を荒げて叱咤しても誰一人動きません
ここらへんが魔物とはいえ所詮は烏合の衆、
相手が強いとわかると急におとなしくなってしてしまうという、
根性無しの群れで御座います
ウケミドブスが苛立つ一方で、
御宗家の識神が吸血魔女の群れを完全に抑え込んだ、
と看て取りました左近様は、改めてブスに向き直ると
静かに鬼きりの鞘を払い、宣言いたします
「楢山吸血魔女の首領、ウケミドブス。
馬蹄等の呪術師、歳の左近がそなたを成敗いたす。…覚悟」
「なめるな!」
ウケミドブスのほうも、
さすがは魔物の群れの首領を務めるだけのものであり、
焦りの色を浮かべつつも牙を剝き、鋭い爪を伸ばして、
左近様に襲い掛かりましたが、
やはり微魔女ごときでは百戦錬磨の左近様に敵うはずもございませんでした
無言の気合と共に左近様の鬼きりが一閃すると、
ブスの体は四分五裂に裂け、
夢衛門のときと同様に眼が取れ歯が抜け髪が落ちて
皮膚がドロドロの骨がグタグタの内臓デンデロリンとなりまして
最後は砂と化していきました
そして首領ブスの死と共に、
配下の吸血微魔女の群れたちもその肉体を失い、
崩れ落ち風化していったので御座いました・・・
【宗家シキガミ】
シキガミは式神または識神、或いは単に式とも言う
陰陽道の概念で、呪術者が創造しかつ駆使する精霊魑魅魍魎の類。
式はそのクリエーターである呪術者の指示にのみ従う、とされる。
すなわち「宗家の式神」とは
「馬蹄等最後の宗家であった源朝臣鞠子が創造し、
かつ彼女のみが駆使し得る式神たち」、という意味である
それゆえ彼ら宗家識神は、
クリエーターである源鞠子以外の指図は受け付けない
それがたとえ馬蹄等最強の呪術者であった歳の左近であるとしても、
宗家の式たちを制御することは出来ないのである
鮭幾等飯鮪刺身秋刀魚焼物珈琲生醍醐菓子暫定
野菜豆里芋鮭缶胡瓜似即席類似果実菓子似。残
/::::::::::::::::::::::::⌒`ヽ、::::`ヽ、
/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::⌒ヾ'" ̄::`ヽ、
/:::::::::::::::::/:::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::::\
/::::::::::::::::/::::::::/:::::::::::::::::::}::::::::::ト::::::::::::::::ヽ
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i::::::::::::::::;':::::::/:::::/:::::::::::::// }:::::::::j i:::::::::::::゙;::::ハ
i:::::::::/::::i::::::::i:::::/::::::::::// j::::::::/ }i::::::::}:::}:::::}}
l::::::::;'::::::i::::::::i:::/::::::/`メ、/::::/_,,..斗::::::j:::j!:::::リ
i::l:::::i:::/゙l:::::::::itf'芹ミヾ// " ノノ:::ノ::/}:::/
j::i:::::l:::{ l:::::::::i 弋;沙 ` ィ巧ソ)シ::/:/ /j/
/::j:::::i::::ゝ代::::::ト、`゙" , ゞシ ,イ::::ヽ ノ
/j::j::::::i::::::::l::::ゝ:::ゝ /i:::::::::}
/ i::i:::::::i::::::::l::::::::トミx、 `::.._.., _.ノ!ノ}::::::ノ
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/ 〃 /:::::;;ィ"i::::! l \ `ヽ、__ ヽ \ \:::゙、
簡単に言うと
>>48っと。そういうことじゃ…
【源鞠子と緒万戸羊水の心の中での会話】
(羊水。私はおなごゆえ、かような遊郭のようなところは好かぬ。
なので今回は少しへそを曲げて、そなたに乗り移ろうとはしなかった。
されどそなたは、私の生前の守役であった左近殿の相方を
よく勤めてくれておるゆえ、見捨てるようなことは、せぬ。
ゆえに献立語部という二匹の識を遣わしてそなたの身を護ったのじゃ。
私が乗り移らなかったがために、
護身の心得の無い身で魔物と相対する羽目になり、
さぞや不安であったであろう
これに懲りたら、今後はいま少しおなご遊びなどは慎むことじゃな)
(はい、畏まりました恐れ入りました。しかし…)
(ん?なんじゃ?何か不満でもあるのか?)
(いえいえ私はもう今回で十分に懲りましたが
左近様のほうには何もお叱りとかは無いのでございますか?)
(左近殿はしょうがない。かの御仁は私が生きていたころより、
おなご好きの助兵衛として馬蹄等の里でも有名なおひとだったのじゃ。
いまさら何を言って詮は無い。馬鹿と助兵衛は死ななきゃ治らんのだ。
よって、左近殿のおなご遊びについては不問とする)
(・・・・・)
【一夜明けて】
ウケミドブスを首領とする吸血魔女たちが滅び、
宗家の識神である献立と語部の二匹も姿を消し、
羊水様の心のうちにいらした御宗家様も去って、楢山遊郭に朝が参りました
昨夜、お二人がたそがれ時に訪れた折には、
ずいぶんと華やかに見えた楢山遊郭の楼閣は壁もくすみ、柱も腐り、
襖や障子もぼろぼろに破れ果てた、廃屋のような建物でございました
「吸血魔女たちの妖力が、
この廃屋を瀟洒な楼閣に見せかけていたのでございますね」
「そういうことだな・・まあ今回は少々ひどい目にあったが、
魔物の首領を倒してめでたく吸血感染も免れたようじゃし、
またどこぞに良さげな遊郭があったら遊びにいくことにするとしよう。
な、羊水殿」
「・・・・」
・・・
その日の夕刻。クリトリスの里にて。
∩_,,∩
( ・ x ・) おや、左近様羊水様。お帰りなさいませ
( つ旦と ,.-、 いかがでしたか?楢山遊郭のお女郎たちは。
と_)_) (,,■) 噂にたがわぬ美人ぞろいでございましたか?
・・・・・
ζ
_,,.旦_ ∧,,.∧
/ ・ω・ヽ /・ω・ ヽ
l l ζl l
`'ー---‐´ 旦`'ー---‐'′
じ〜え〜ん〜・・・・てめえというやつは
ζ
_,,.旦_ ∧,,.∧
≼⓪≽◟x◞≼⓪≽) ≼⓪≽◟x◞≼⓪≽)
l l ζl l
`'ー---‐´ 旦`'ー---‐'′
「あんなろくでもない遊郭を紹介しやがって」
↓左近
∩
∧_∧ | |
( ・∀・)_ | |
/ ̄ \|
/ ト ∧_∧ヽ っ
/ \ \ (´Д` ;)/っ
| ヽ_二二二つ⊂ノ、
| / ヽ ユッサユッサ
/ / ,,イ )
| / __ /`ヽl ノ ←慈円
| / ノ \ ヽ〉 ) 〈
/ /| \ / / i ,ノ
/ / ノ / /、と_ノ´ ))
l、 〈 | (_〉 )っ
| | | / /
| | | / / 〃
| | | / / 〃
(__ノ_) (_つ
慈円
↓ _人
∩ ∧_∧ ノ⌒ 丿
\ヽ_( ) _/ ::(
\_ ノ / :::::::\
∩_ _/ / ( :::::::;;;;;;;)
L_ `ー / / / \_―― ̄ ̄::::::::::\
ヽ | |__/ | ノ ̄ ::::::::::::::::::::::)
| ̄ ̄ ̄\ ノ あんな ( ::::::::::::::;;;;;;;;;;;;ノ
| | ̄「~| ̄( 、 A , )魔物の巣窟を / ̄――――― ̄ ̄::::::::\
| | | | ∨ ̄∨ ( :::::::::::::::::::::::::::::::::)
し' し' \__::::::::::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノ
↑羊水
__
>>1 l ̄/. ___
↓ / /. / ___ノ
__/ /_/ /
紹介すんじゃねー! Y人, ' ',人⌒ヽ、, '
Y⌒ヽ)⌒ヽ、 人,ヽ)人'、, '
へ, --- 、 ノ ̄ ::::::::::::::::::::::)
/ ̄ ̄ ̄ 、____\ ( ::::::::::::::;;;;;;;;;;;;ノ
/ _/ ̄「~|\ __ \ / ̄――――― ̄ ̄::::::::\
| | | | ( 、 A , \ミソ ( :::::::::::::::::::::::::::::::::)
し' し' と∨ ̄∨ \__::::::::::::::::::;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;;ノ
歳の左近妖怪退治秘話第三話「楢山ブス考」 ・・・完
この馬鹿話に登場した主な人々
【歳の左近】
馬蹄等の武士にて呪術師。馬蹄等の宗家源朝臣鞠子の守役。
【緒万戸羊水】
緒万戸村の茶人。左近のお供。
【栗と栗鼠の慈円】
栗と栗鼠の里の長者。紳士のお遊び処として楢山遊郭を左近と羊水に紹介する。
【ウケミ・ド・ブス】
楢山遊郭に巣食う吸血魔女軍団の首領。
【霞太夫・夢衛門】
楢山遊郭に巣食う吸血魔女、その1およびその2。
【献立・語部】
馬蹄等の宗家源朝臣鞠子の識神。
【源朝臣鞠子】
馬蹄等の宗家。馬鹿話であれマジ話であれ、
馬蹄等の物語すべての出発点にして、かつ帰結点ともなる人物。
鮭幾等飯鮪刺身秋刀魚焼物珈琲生醍醐菓子。確定
野菜豆里芋鮭缶(胡瓜麺類果実菓子醍醐菓子)*2残
馬蹄等の物語主伝第七話
【紀家古伝(きのいえのふるきつたへ)】序
馬蹄等とは、
生と死の狭間に在ると噂されている「馬蹄等の里」、
その地に棲むものたちの呼称である
彼等は時代とともに新しいものを取り入れつつも、
宗家とその傍系子孫が代々の当主を勤めるという、
千年前から続くまつりごとの枠組みを今なお維持していると言われる
その実態はいまだ謎の部分が多いが、
それでも長年のオカルト研究者たちの調査によって
かなりのことが判明してきている
その一例として、たとえば名跡の問題がある
馬蹄等の当主の姓は「源」でほぼ間違いないとされている
その他にも一門の名跡としては、
歳。紀。草流。小野。額田。緒万戸。アジ。奈須。椎茸白菜牛蒡に鴨葱・・・
というように、…後半はかなり適当であるが、
まあ相当数の名跡があるらしいということがわかってきている
その一方、千年の時の流れの中で断絶してしまった名跡もある
有名なところでは、たとえば「馬蹄等」。
この里の名をそのまま名跡とした血統は、
かつては当主の家として栄えていたときもあったようだが、
護という当主を最後に、断絶してしまったように思われる
…その詳細について知りたいものがいれば、物語の第二話を参照されたい
そしてもうひとつ、
遥か古のときに断絶しているにもかかわらず、
いまもなお語り継がれている或る名跡がある
それが今回の物語の主役となるであろう「雲古」である …
【小太郎と真宵】
「小太郎はん。。。あんよが疲れたでおます。おんぶしてくだされ」
「またかい。ほんとに世話の焼けるおなごじゃな。
先ほどおんぶしてやったばかりなのに、もう疲れたと申すのか?」
「うん、また疲れちゃったんでおます。小太郎はん。。おんぶして」
「まったく、ひ弱なやつじゃな…しかたない、ホレ、この背に乗れ」
そう言って小太郎が背を見せてかがんでみせると、
女は嬉々としてその背に己の体をドサッと預けて言った
「ああ楽チン楽チン」「…」
・・・
ここは異国の大地、シナ大陸。
そのシナの地のさらに内陸、敦煌という街まであと数里というところである。
男の背に乗っている女は真宵という名の京女。
そしてその女を背負って歩む男がウンココ太郎という名の、
はぐれ馬蹄等であった
はぐれ馬蹄等というのもおかしな言い方だが、
要するにウンココ太郎は馬蹄等の里からバックレちゃったのである
小太郎の父は雲古太郎由家という名の馬蹄等で、
この人物はもう紛れもない勇者であり名士であり、
その名は馬蹄等の里のみならず、生と死の狭間の隅々にまで知れ渡っていた
こういう親父を持った息子というのは、
一見よさそうに思えるが、実は結構つらいものなのである
小太郎もまた、幼いころから何かというと
「父君を見習え」とか「お父上に比べ、そなたは…」などと言われ続け、
すっかり拗ねてしまい、西洋大衆芸能などにうつつを抜かして
自堕落な生活に身を任せていた
もちろん馬蹄等としての一般教養、
すなわち詩歌管弦歌舞音曲学術馬術弓術刀術などは
幼少より一通り仕込まれはしたものの、
では自分から進んで何をしたいと言うこともなく
なんとなくダラダラとした日常を過ごしていたのである。
そのような折、
「異次元川中島の戦い」で父が戦死してしまい、
小太郎はウンコの家督を継がなければならなくなった
しかしどうにもその気にならなかった小太郎は
父の葬儀を済ませた後、
形見となった父の愛刀「雲きり」ひとつを腰に差し、
馬蹄等の里から逐電したのであった
【馴れ初め】
馬蹄等の里を逐電した小太郎は、その後日本各地をぶらぶらと放浪して、
食うに困れば現地の百姓仕事を手伝ったり学習塾の日雇い講師をしたり、
要するに一時雇用のフリーターのようなそのヒグラシの生活をしながら、
伊勢の国は鈴鹿峠というところに差し掛かった
この鈴鹿峠というところは
京と東国をつなぐルート線上にあり、
多くの旅人がこの峠を越えてあるものは東国に向い、
またあるものは京の都を目指して往来をしてきた重要な通行の要衝である。
しかし同時に、この峠は道険しく左右より迫る森にさえぎられて視界狭く、
そのため旅人の生命財産その他もろもろを狙う盗賊たちの巣窟ともなっており、
古来より、この峠を越えるのは命がけとされてきた難所でもあった
そのようないわくのある峠に小太郎が通りかかったところで、
物語のお約束どおり、「あ〜れ〜…」という女子の悲鳴が聞こえてきた
すわ何事かと小太郎が駆けつけてみると
そこではこれもまたお約束のとおり、旅人の一団が盗賊に襲われており
旅人たちのうち男どもは切り殺され、
女たちも輪姦後に次々と殺されるという、まさにルーマニア状態にあった
小太郎は遅かりしかと思いつつも、
腰に差していた父の形見の愛刀「雲きり」を素早く抜き放つと
手近にいた盗賊どもを片っ端から切り捨てていった
突然姿を見せた小太郎の攻撃に、
盗賊たちもうろたえつつも応戦したが、
はぐれ者になったとはいえ、やはり小太郎は勇者太郎由家の子であり、
盗賊程度のものたちがとても太刀打ちできるような相手ではなかった。
「てめえ、なにもの」ズバッ!
「おのれ、舐めた真似しやがると」ザバッ!
「素浪人の分際で俺たちに刃向かうとは…」ズゴッ!
「ぼ、僕は原子力にはすごく詳しいんだぞ」ドバッ!
「日本国憲法の第一条とは何か、君言ってみたまえ」ズンベラ!
馬蹄等仕込みの刀術で、
小太郎はあっという間に盗賊たちを皆殺しにしてしまった
(里にいた頃は嫌々習得した刀術だが、何事も習っておいて損は無いものだな…)
などと思いつつ、
小太郎は襲われた旅人の群れにまだ生存者がいないか捜したが
小太郎が来たのが相当遅かったようで、
旅人たちは男も女もあらかた既に殺され、死に絶えていた
これは駆けつけたのがいささか遅すぎたかと思ったそのとき、
「うーーん。。。」という女の微かなうめき声が小太郎の耳に届いた
小太郎がその声のするほうに行ってみると、
そこには全裸に剥かれた若いおなごが大の字になって地面に転がっていた
おなごの体にはカウパー氏腺液や精液が飛び散っており、
周りは栗の花の香りでむせ返るほどで、
これはもう既に盛大にやられちまったなということは明らかだったが、
幸いなことに裂傷、外傷の類はさしたることはなかった
「これ、娘御寮。大丈夫か?まず何か身にまとうが良かろう」
と、小太郎が声をかけたが
その女は放心状態のまま動こうともしなかったので
小太郎は仕方なくそこらに散乱している有り合わせの衣服をその女子に着せてやった
「旅の途中でこのような災難に出くわした直後で
茫然自失とするそなたの胸中、察するに余りある。
しかしながらここに長くとどまっていてはまた他の山賊どもに襲われるやも知れず、
速やかにこの峠から離れたほうが良いと思うが、如何?
…あ、申し遅れたが、
私はウンココ太郎という一介の馬蹄等だが…そなた、名はなんと申す?」
その娘はぼんやりとしたうつろな眼差しで小太郎を暫し見つめていたが、
やがてボソッと「…真宵」と一言だけ、言葉を発した
「ふむ、真宵殿と申すか。良き名であるな。体は動くか?
先ほども申したようにここはまだ危険地帯である。
夜に入ればさらにいっそうヤバイ状況になるゆえ、
体が動くようであれば一刻も早く峠を下ってしまったほうが良いのだが
…どうじゃ、体は動かせるか?」
「。。。。」
・・・
結局小太郎は、
強姦された直後で未だ足もとのおぼつかない真宵をおんぶして、
日が落ちる前に峠を降りきることにした
このことが後々まで真宵に「おねだりおんぶ」の癖をつけてしまうことになるのだが、
そのときの判断としてはやむをえないことだったとも言える
なんといっても昼でさえ盗賊山賊が跋扈する鈴鹿峠、
夜ともなればその危険度は三倍増になる。
速やかに離脱するのが最善というものである
峠を降りた小太郎は、
麓の宿場町で一泊しその翌朝、地元の産婦人科医のところに
真宵を連れて行って、低用量経口避妊薬を処方してもらった
「それにしてもお武家様はお人がよろしいですなあ…」
処方箋を書きながら産婦人科医は半ば呆れ顔で言った
「いや、これは決してお武家様を馬鹿にしているわけではありませんので、
お気を悪くされませんように。…ただね。私もこういう、
鈴鹿峠の麓などという胡散臭い土地で商売をしておりますので、
無理やり中だしされちまったんで緊急避妊薬をくれと言うおなごは
結構くるわけでございますけど、お武家様のように、
見ず知らずのおなごの付き添いまでしてくるような男は
まずめったに見かけませんので。
まあほんとにお人がよいというかなんというか…」
と言いながら産婦人科医は処方箋を書き終え、小太郎に手渡した。
「ではこれを。これはノルレボと申しましてな、
日本国内でもグレゴリウス暦の2011年2月23日付で承認されたお薬でございまして、
無防備な性行為から72時間以内にLNG剤0.75r錠を確実に2錠服用することで、
妊娠を回避できます。ただし、このことに関しては
ウィキペディアからの丸写しですので、筆者は一切責任を負いません。
・・では、お大事に〜」
産婦人科医にお人好しぶりを小ばかにされた小太郎であったが
実は小太郎のほうにもそれなりの小ざかしい計算があったのだ
昨夜宿に着いて後、
ようやく落ち着きを取り戻したそのおなごがぽつぽつと語った身の上話によれば、
その娘は京に本店を持つ呉服問屋、紀伊国屋の一人娘で
名は真宵、当年とって二十歳、ということであったのだ
(京の紀伊国屋とな?ふむ…ファッションにはまったく疎いこの私ですら
小耳にはさんだことがある店名…とすれば、たいそうな大店かも知れん。
真宵はそこの一人娘であったのか。ということは、
この娘を無事その店まで送り届けてやれば・・・)
当初は単なる義侠心で娘を救っただけの小太郎だったが、
その娘の実家の財力を知って、小太郎の心に
ふと小さな邪念が起こってしまったとしても、
誰も彼を責めることはできまい
勇者太郎由家之子とはいえ、それも今は昔のこと。
いまの彼の身上は、ウンコの名跡と馬蹄等の里を捨てたプー太郎に過ぎない
気ままと言えば気ままな暮らしだったが、
その日の食い扶持に事欠く事もしばしばだった
(この娘を実家にまで無事送り届ければ、実家の両親からは感謝感激雨あられ、
下にも置かぬもてなしで、ひいてはこの娘の婿殿に…と、
そこまで行くと図々しいが、当分の間は食うためにやむなく働く
というようなこともせずに済むのでは…)
・・というような、浅ましい胸算用が
小太郎の胸のうちに芽生えてしまったのである
【紀伊国屋にて】
鈴鹿峠の件から数日後のこと。
ウンココ太郎は、京の呉服問屋紀伊国屋の本店客間に独り座っていた
真宵を伴って店に顔を出した小太郎が、
かくかくしかじかと店のものに事情を説明したところ、
その店のものは真宵を置いて小太郎だけをこの部屋に案内した
「主人が参りますまでしばらくここにてお待ちください」
と小太郎に告げて、そのものが立ち去ってから、
もうずいぶん時間がたつが、一向に誰も現れない。
茶の一杯のもてなしすらも無い
建物の造り、内部の伽藍、置かれた家具調度品と言ったものは
さすがは老舗の大店と思わせるだけの壮麗さを持ってはいたが、
しかしそれらの優美さに引き比べて、この酷いあしらいはどうしたことか?
とてもではないが、旅先で危難にあった娘を救い出し、
実家にまで連れてきた客人に対するもてなしとは言えなかった
待つこと数時間、ようやく一人のおばはんが姿を見せた
豪華絢爛たる着物を身にまとい、後ろにはお供も二人つけている
「どうもお待たせしました私が紀伊国屋の女主人にて、誠心玲子と申します
この度は我が家の娘を助けていただきましてまことに有難うございました
これは些少でありますがそのお礼の金品どうぞお納めくださいまうように」
と、そこまで句読点も無しで一気に言い切って、
そのおばはんは封筒をひとつ、小太郎に差し出した
中にはいくばくかの金子が入っているのだろう
しかしそんなことよりも小太郎はその女の様子が気になった
言葉自体は、まあ丁寧である。
しかしそのものの言い方や表情にトゲがある
眉間には皺まで寄っている。
感謝しているとは到底思えない、
むしろ余計なことをしやがってみたいな、
そういう険のある物の言い方、態度、表情なのである
自分が救った娘が富裕層のの娘と知ったときに心に一時芽生えた邪心が
その女主人の態度を眺めているうちに、
みるみる消え去っていくのを小太郎は感じた
目の前に置かれた封筒すら受け取りたくない
そんな心境になった小太郎は、
差し出された封筒を対と相手に押し返して、言った。
「玲子殿。まず、この礼は要らぬゆえ、お返しする。
その代わり教えてもらいたい。そなたの態度、物の言い様、
どう見ても私に感謝しているようには見えぬ。
いや、感謝せよとは言わぬが、そなたは娘の命が助かって嬉しくないのか?
何故そのように眉間に皺を寄せている?そのわけをお聞かせ願いたい」
紀伊国屋女主人誠心玲子は
小太郎のその問いを聞くや、一気に柳眉を逆立ててまくし立て始めた
「娘?事情も知らぬ素浪人が何を言うか!
あのおなごは前妻の子であって、私の娘などではない!
私がこの家に後添えに入ったときにすでにおった邪魔者でしかないわ
私はこの家に嫁いでよりこのかた、毎晩毎晩愛情をこめて
ごく微量の砒素をだんなとあの女の食い物に混ぜておったのじゃ
その甲斐あってだんなは数年後ポックリ亡くなってくれたわ
それなのになぜあの女子は生きておるのか、まったく理解に苦しむ
早う死にさらせと何度思ったことや知れん
このたびの東国行商に加えたのも、
旅のどこぞで盗賊にでも襲われて死んでくれれば勿怪の幸いと思い、
加えたまでの事。
その私の願いどおりに、鈴鹿で山賊に襲われたというに、
それをそなたが救ったから感謝しろ、と?ふざけるな!
そなたのしたことはただの余計なお世話というものじゃ、
クソ、まったく忌々しい」
目を剥き口から泡を吹いて喚き続ける玲子を客間に残し、
小太郎は太刀を手にし静かに立ち上がって室外すら出た
「勝手口から出ていけ、このビンボー人が!だれぞ、撒き塩をもってこんか!
こちらが出した金子を黙って受け取ればいいものをビンボー侍の分際で、
痩せ我慢しやがってあろうことかこの玲子様に意見するとは生意気千万、
400万など、聞くだにぞっとするわ!好きな化粧品も買えぬではないか!」
背後から誠心玲子の罵詈雑言は延々と続いていたが、
小太郎にとっては最早どうでもよいことだった
案内のものの導くままに小太郎は紀伊国屋の勝手口から外に出て行った・・・
せっかく富裕層の家に生まれたにもかかわらず
あのような継母と暮らさざるを得ない真宵の身の上を
哀れと思い、またその将来についても危惧したものの、
婚活世界においては一介の通りすがりでしかないウンココ太郎としては、
もうこれ以上どうすることもできない
というか、
鈴鹿からココ京までの真宵の医療費宿泊費食い物飲み物その他もろもろ
すべて小太郎が負担した上に謝礼を受け取らず突っ返してしまったので、
とりあえずいま素寒貧なのである
(またどこかで短期バイトの口でも探さにゃならんな…)
紀伊国屋を後した小太郎がそのようなことを思いながら、
京は五条の大橋あたりまでやってきたところで、
「小太郎は〜ん。。。」という叫び声が背後から聞こえてきた
振り返るとそこには、さきほどまでの旅装束の格好のままで
小太郎に追いすがってくる真宵の姿があった
よたよたしながら必死に走ってくる真宵の姿に小太郎は目を丸くした
ようやく小太郎のもとに追いついた真宵は、
暫し膝に手を置いてゼィゼィと肩で息をしている
「真宵どの…そなた…走れたのか」
あまり女慣れしていない小太郎は、つい間抜けな問いかけをしてしまった
「いつもモッサリ歩いておったので、走れんのかと思っておった」
「これはつれないものの言い様。
小太郎はんをお慕いしてこうして走ってまいったおなごの気持ちが
小太郎はんにはお分かりにならしまへんのどすか?」
「それはまあ…あのままそなたと別れてしまうのも切ないな、という思いはあった
最後の別れを言うためにわざわざ追ってきてくれたソナタの気持ち、嬉しく思う」
「小太郎はんはやっぱりおなごの気持ちをお分かりにならしまへんな。。。
お別れを言うために真宵はここまで追いすがってきたのではあらしまへん
真宵は。。。小太郎はんと一緒にこのまま旅を続けとうございます
どうかお供させてくださいませ」
鱈子飯鶏肉揚物麺類醍醐菓子似コールスローサラダ予定
野菜豆里芋鮭缶麺類果実菓子似胡瓜似、残
工エエェェ(´゚д゚`)ェェエエ工
そんなことを言われても〜・・・
小太郎は当惑した。
やはりこの娘は富裕層の家に生まれただけあって、
お金が無いと世の中どうにもならんということを知らないのではないだろうか…?
「真宵殿。私は風来坊の身の上でござる
つまりプー太郎、フリーター、非正規社員。そういう身分でござる。
そなたを鈴鹿の峠からここ京の実家まで送り届けるまでで精一杯で、
いまは一文無しの素寒貧。とてもではないが、
これから先の旅路までそなたを連れて行くことはでき申さぬ」
「小太郎はん。。。小太郎はんは真宵のことを
愛おしいとは思ってくれはらしまへんのどすか?
お金のことよりまずそのことを伺いとうございます
それとも。。。盗賊に輪姦されたこの身を汚らわしい、とか?」
「あ。いや。いやいやいや…
汚らわしいとかそういうことは決して思っておらぬし、
真宵殿のことも憎からず思っておる
ただ先立つものが無くてはいかんともし難く…」
「では、先立つものがあればよろしいのどすか?」
「・・・え?」
「もし先立つものがあれば、小太郎はんは真宵を一緒に連れて行ってくださいますか?
と、そうお尋ねしとるんどす」
「う、うむ。まあそれは…」
「はっきりしてくだされ。どうなんどす?」
「真宵殿。今も申したとおり、私はそなたのことを愛いものと思っておるし、
そなたが望むのであれば共に旅をしていくのもいいかな?とは思う
しかし現実問題としては先立つものが全く無いわけであるから・・」
「ここにおます」
真宵はそう言うと、
金襴緞子の模様が織り込まれた信玄袋を小太郎に差し出した
「中を見ておくれやす」
「…よいのか?」「どうぞ」
真宵に促されるまま、小太郎がその信玄袋の中を覗いてみると、
その中には、アメリカンエキスプレスセンチュリオンカードや
ダイナースクラブプレミアムカードといった各種ブラックカードの類、
シティバンク、スコットランド銀行、ナショナルオーストラリア銀行、
香港上海銀行といった大手国際系金融機関発行のキャッシュカード、
さらには宇宙通信衛星を中継することで世界のどこにいても
通信通話およびネットアクセスが可能な携帯電話兼モバイルPC、
そのうえゴールドバープラチナバーといった貴金属の類までが無造作に突っ込まれてあった
「真宵殿。これはいったい・・・」
「全部で二億五千万クレジット以上はあると思いますえ
家を飛び出すときにこの信玄袋だけ、引っ掴んでまいったのどす
これだけあれば真宵を一緒に連れて行ってくださいますか?」
「いや、しかし…これは紀伊国屋の財産ではないのか?
ブラックカードが何枚あると言ってもあの糞ババア、…いや、
そなたのご母堂が失効手続きをしてしまえば使えなくなるし、
それより何よりこれは家庭内のこととはいえ横領ではないか
真宵殿、これはいかん。速やかに家に戻って返しておかねば…」
「小太郎はん、勘違いせんとおくれやす。
これは紀伊国屋の財産やおまへん。真宵の個人財産でおます。
…おとっつぁんが体を壊して亡くなる直前に
『ワシのこの体調不良、どうも不審や。
真宵。まさかとは思うがワシに万が一のことがあったときには、
これをお前に残しておくから、いざと言うときの切り札に使え』
と言わはって、この信玄袋の中身を私にくれたんどす。
名義の書き換えも既に終え、生前贈与としての申告納税も
顧問の弁護士および公認会計士を介して終了しております
つまりこの信玄袋の中身は、
紀伊国屋の家の財産からは完全に分離されている、
真宵個人の私有財産なのでおますのどす。
小太郎はん。。。
これで真宵を一緒に連れて行ってくださいまへんか?
真宵は小太郎はんと一緒に旅をいたしとうございます」
「・・・・・」
【旅立ち】
一ヵ月後。
難波津に停泊している朱印船の甲板上に小太郎と真宵の姿があった
あの後、ふたりは京を離れ、アスカ斑鳩の里から熊野の参宮を経て、
真宵のおとっつぁんの故郷である紀の国辺りまで旅を続けていたが、
真宵の継母であり、紀伊国屋女主人でもある誠心玲子が
どうやら真宵の私有財産の存在を嗅ぎ取ったようで、
執念深く刺客を放って二人の行方を追ってきたのだ。
真宵には配偶者も子もいないため、
真宵さえ死ねば民法第887条の規程により自分が法定相続人になれる、と
誠心玲子は浅はかにもそう考えたのである
無論玲子が雇うぐらいの殺し屋が元馬蹄等の小太郎に敵うはずもない。
ことごとく返り討ちにした小太郎であったが、
玲子は懲りることもなく次々と刺客を放って、二人を追い続けた
その執念深さにいい加減うんざりした小太郎は
いっそのこと、もう日本を離れようかと考えた
海外に渡ってしまえばさすがの誠心玲子も諦めるであろうと、思ったのである
・・・・
朱印船のとも綱が解かれ、揚げられた帆が風を得て膨らんだ
船はこれから茅渟(ちぬ)の海を越え、瀬戸内海を横断し、
博多、坊津を経てシナ大陸の杭州にまで至る予定である
「真宵。…よいのか?」
次第に遠ざかっていく難波の町並みを眺めながら小太郎は最後の念を押した
ここ一ヶ月ですっかり男女の仲になっていたため、
もう真宵を『殿』付けで呼ぶことはしなかったが。
「いまさら何を言わはりますのん。。。
真宵は、小太郎はんが行かはる処なら地の果てまでもお供しますえ
たとえ、小太郎はんが駄目だ帰れと言わはっても、ついて行きます」
そう答えた真宵は、にっこり笑って小太郎の手を握り締めた
馬蹄等の物語主伝第七話「紀の家の古き伝へ」前編 了
鱈子飯鮪刺身烏賊刺身鶏肉揚物即席麺珈琲醍醐菓子コールスローサラダ確定
野菜豆里芋鮭缶詰中華麺天麩羅麺似胡瓜漬物似果実菓子似醍醐菓子、残
蟹鮨野菜豆里芋鮭缶麺類三胡瓜似果実菓子似醍醐菓子魚菜マリネ、残補正
kuu2338
蟹鮨鮪刺身鰯酢物鶏揚物胡瓜果実菓子醍醐菓子魚菜マリネ
および神聖ローマ帝国暫定
野菜豆里芋鮭缶麺類三胡瓜果実菓子醍醐菓子似、残
バーミヤンはヒンドゥークシュ山脈山中の渓谷にある古代都市で、、
西暦一世紀ごろからバクトリアによる石窟仏教寺院開削が始まった
1000以上にものぼるその石窟寺院は、
グレコバクトリア様式の流れを汲む仏教美術の優れた遺産である
五世紀から六世紀ごろには巨大な仏像が多数彫られ、
石窟内にはグプタ朝インドやササン朝ペルシアの美術の
影響を受けた壁画が、色とりどりに描かれていた
バーミヤンの仏教文化は繁栄をきわめ、
七世紀に唐の仏僧玄奘がこの地を訪れたときにも
依然として大仏は美しく装飾され金色に光り輝き、
僧院には数千人の僧が居住していたと言われている…
蟹鮨鮪刺身鰯酢物鶏揚物胡瓜果実菓子醍醐菓子魚菜マリネ確定
および第三帝国到達
蟹鮨鶏揚物胡瓜天蕎麦珈琲醍醐菓子似暫定
野菜豆里芋鮭缶麺類似胡瓜似果実菓子似残
蟹鮨鶏肉揚物天麩羅蕎麦胡瓜漬物珈琲醍醐菓子似確定
蟹鮨野菜豆里芋鮭缶(麺類胡瓜果実菓子)*2魚菜マリネ、残
memo:
gatewayのEC140-41kはaspire1830のOEMではないので注意すること
[幅] 292 (単位 mm)
[奥行] 211.5 (単位 mm)
[高さ] 28.5 (単位 mm)
一回りデカイ。ドライブあり。
蟹鮨鰹刺身鶏揚物胡瓜漬物海鮮麺珈琲果実菓子魚菜マリネ暫定
蟹鮨野菜豆里芋鮭缶胡瓜麺類似果実菓子醍醐菓子蟹芋サラダ残
【紀の幹】
バーミヤンは、ヒンズークシの峰々に挟まれた渓谷にある都市である
そこは常に風が東西に吹き抜けていくいわば「風の谷」だ
もちろんここを通り抜けていくのは風だけではない
バーミヤンは、古代から東と西の世界をつないできた
最重要交易ルートであるシルクロードの交差点である
さらに言えばそれよりも遥か昔、
まだ「絹の道」という言葉すらなかったころから、
ここは「ラズビラズリの道」の重要な中継地点でもあった
メソポタミアの隊商が中央アジアに向かうときは必ずここで一泊する。
バーミヤンはそうした東西貿易の要衝に位置する、古代から続くひとつの自治都市であった
そのバーミヤンの渓谷を走り抜ける風と競うようにして
いまウマを疾走させている一人の若者がいた
彼の名は、紀の幹。
ここバーミヤンで生まれ、バーミヤンで育った、生粋のバーミヤン人である
しかしいま「バーミヤン人」といったが、厳密に民族的に分類するとすれば
「生粋のバーミヤン人」というものは実はそもそも存在しない
なぜならこの地は古代より国際貿易の中継地として繁栄してきたがゆえに
インド系、ペルシャ系、トルコ系、ウイグル系、モンゴロイド系といった
ユーラシア大陸各方面の民族が古くから混血を繰り返しているため、
純血種というものは存在しないのだ
ただ、この都市で生まれこの都市で育ったものを
バーミヤン人と呼ぶのなら彼はまさしくバーミヤン人にほかならなかった
今年18才になる彼は、父とともに近隣諸都市を数度訪問した経験を除けば、
まだ外の世界というものを実際に見たことはなかった
彼にとってはバーミヤンが生まれ故郷であり、かつ世界の総てだったのだ
ニホンの場合、城壁とは文字通り城を囲うものだが
ユーラシア大陸で城壁と言えば、それは「都市を丸ごと囲うもの」である
いつどこから侵略者略奪者が襲来するかもしれない世界では
都市を丸ごと城壁で囲ってしまうというのが常識である
ニホンにその発想がほとんど無かったのは日本が平和だったからなのであって、
ユーラシア大陸に限らず「都市」と言ったら
それは全て「城壁で囲まれた中にある街」を指すのが世界標準である
古代都市バーミヤンも勿論城壁で囲まれていた
が、今は戦時ではないので城門は開かれている
若者はその開かれた門扉を騎乗したままで駆け抜け
都市中央にある議会庁舎前に至ってようやくウマの脚をとめた
控えていたものにウマの口取りを任せると、
あわただしく議事堂内にある議場に向かう。
そこにはバーミヤンの政治経済軍事を司る主要メンバーが、
彼の報告をいまや遅しと待ち受けているはずなのだった…
kuu0207
蟹鮨胡瓜鶏肉揚物果実菓子醍醐菓子蟹芋コールスローサラダ確定
野菜豆里芋鮭缶詰塩麺醤油麺果実菓子残彌躯水没第三帝国到達
第四帝国に至る病と三点刺し20:00/22:00~59
「おお、ミキ。待っていたぞ。仔細はいかに?」
「サマルカンドを撤収した蒙古の騎兵は、軍をこちらに展開しております。
ヒンズークシの峰に阻まれてやや停滞してはおりますが、
早ければ明日、遅くとも明後日にはこの渓谷にやってまいりましょう」
「蒙古が当地を目指して進軍しているのは間違いないのか?」
「それは間違いありません。ヒンズークシより南に、
ここバーミヤン以上の有力都市はありませんので」
「コタロー。遥か昔のこととはいえ、そなたは東より来たもの。
民族的に言えば、蒙古に最も近い。何かよい知恵はないか?」
「恐らく蒙古は現在のユーラシア世界では最強の軍団でありましすので、
これと正面から当たることはいかにも暴挙かと存ずる。
さすればまず軍使を派遣し、妥協点を模索するのがよいのではないかと存ずる
軍使のなり手がないのであれば、私が承ってもよろしゅうございます」
「戦わずして屈せよ、と申すのか」
「戦ってから屈服すると傷が広がりますぞ」「・・・」
蟹鮨野菜豆里芋鮭缶果実菓子麺類似胡瓜似醍醐菓子似
蟹鮨平政刺身鱈子煮物胡瓜珈琲果実菓子醍醐菓子確定
鱒鮨野菜豆里芋鮭缶麺類胡瓜似果実菓子似醍醐菓子残
【蒙古とウン古 後編冒頭部】(
>>90>>92>>96結合推敲書き直し)
バーミヤンは渓谷にある都市。
険しいヒンズークシの峰々にをさえぎられた風が、
この渓谷を吹き抜けていく。ここはいわば風の谷。
しかし、ここを通り抜けていくのは風だけではない
バーミヤンは古代から東と西の世界をつないできた
遥か昔、まだ「絹の道」シルクロードすらなかった頃から、
ここは「瑠璃の道」の中継地として繁栄してきた。
メソポタミアの隊商が瑠璃を求めて中央アジアに向かうときは必ずここで一泊した
バーミヤンはそうした東西貿易の要衝に位置する、
古代から続くひとつの自治都市であった
いま、そのバーミヤンの渓谷を
風と競うようにウマを疾走させている一人の若者がいた
彼の名は、紀の幹。
ここバーミヤンで生まれ、バーミヤンで育った、生粋のバーミヤン人である
しかし厳密に民族的に分類するとすれば「バーミヤン人」というものは存在しない
なぜならこの地は上述のとおり古代より国際貿易の中継地として繁栄してきたため
インド系、ペルシャ系、トルコ系、ウイグル系、モンゴロイド系といった
ユーラシア大陸の諸民族が各方面から来訪して混血を繰り返してきたので
厳密な純血バーミヤンというものは存在しないからだ
しかし、
この都市で生まれこの都市で育ったものをバーミヤン人と呼ぶのなら
彼はまさしくバーミヤン人にほかならなかった
今年18才になる彼は幼い頃は父とともに、長ずるにつれ単独で、
近隣の中央アジア諸都市をたびたび訪問し視野を広げていたが、
それでもやはり彼にとってバーミヤンが愛すべき生まれ故郷であることに変わりはなかった…
幹のウマはバーミヤンの城郭内に駆け入り
城内中央の建物の前に至ってようやく脚をとめた
下馬した幹は休むことなくそのまま建物内に入ると議場室へと向かった
そこには自治都市バーミヤンの政治経済軍事を司る主要メンバーたちが、
彼の報告をいまや遅しと待ち受けていた
「おお幹、待っていたぞ。仔細はいかに?」
「サマルカンドを撤収した蒙古の騎兵は、
現在こちらに軍を進めております。
ヒンズークシの峰に阻まれてやや停滞してはおりますが、
早ければ明日、遅くとも明後日にはこの渓谷にやってまいりましょう」
「蒙古軍が当地を目指しているのは間違いないのか?」
「彼らはヒンズークシを越え、南下しようとしています
サマルカンドの南にココバーミヤン以上の有力都市はありませんので、
蒙古の目標地点が当地であることは間違いないかと思われます」
「・・・・」
今ユーラシアを揺るがしている蒙古の騎兵部隊。
それがいよいよココバーミヤンにむかってやってくるという、
幹の報告を聞き、司政者たちはいっせいに押し黙った
その司政者たちのなかには幹の父である小太郎もいた
「迎え撃つしかありますまい」
沈黙を破って口を開いたのは、アッシュルバニパルという名の男だった
やや好戦的で癖のある人物だが、
戦乱の渦巻く地であるメソポタミアから流れてきた人物だけあって
戦闘指揮官としては余人をもって代え難い資質を持っていた
現在はココバーミヤンの人事担当の最高責任者の地位にある
「噂に聞く蒙古の騎兵がいかほどのものであろうとも、
われらにも堅牢な城壁と勇敢な兵士たちがいる
不肖私が先頭に立ち、小太郎殿に補佐していただければ、
蒙古といえどもそう易々とここバーミヤンを陥落させることはできますまい」
「…小太郎殿。遥か昔のこととはいえ、そなたは東より参った御仁。
オリエントやインドより来た者よりも蒙古に詳しいのではないか?
そなたの意見を聞きたい」
施政者たちの中で長老格のミトラレンが小太郎に水を向けた
一同の視線が小太郎に集まる
ウンココ太郎。現在は紀の小太郎と名乗っている彼も
当地に着てからすでに二十年近くの歳月が流れていた
当初は通訳としてこの地で暮らし始めたが、
識見豊富性格温厚武技卓越の身を評価され、
いまはこうしてバーミヤンの施政を司るメンバーの一員となっていた
小太郎は穏やかに口を開いた
「恐らく蒙古は現在のユーラシア世界では最強の軍団でありましょう
ゆえに、これと正面から当たることはいかにも無謀かと思われます
さればまずは進軍中の蒙古に対して軍使を遣わし、
当地に対し何を望んでいるのか、
彼らの意図を知ることがまず第一に必要なことかと思われます
和戦いずれを選ぶにせよ、その後でよろしいのではないですか?
軍使のなり手がないのであれば、私が承ってもよろしい」
アッシュルバニパルをパンニカニハサムニダに
ミトラレンをダルイラマに修正
修正しても大して面白くないので
最後までに何か面白そうなやつを思いついたら
遡ってすべて差し替えることにする
鱒鮨鮪刺身鯖煮物野菜豆胡瓜醍醐菓子暫定
蟹鮨里芋鮭缶詰即席類胡瓜似果実菓子似残
(最終部試し柿)
そなたも知ってのとおり、
私は若いころウン古の名跡と家督を継ぐのを嫌って、
馬蹄等の里を捨てて放浪をしてきたハグレものだ
無論そのことを決して悔やんでいるわけではない
そもそも放浪の旅をしなければそなたと知り合うことも無かった
そなたと知り合い、子にも恵まれた。私は幸せ者だ
しかし・・幹は馬蹄等の里に帰そうと思う
離れてみて初めてわかったことだが、馬蹄等はやはりよい里だ
私の若い頃の尻拭いを息子にさせるのは恥ずかしいが、
幹は私のような放浪者にならず、あの里に根を下ろし、何がしかの名跡を興してほしい
もちろんその名跡がウン子である必要は無い、その名跡は私が自らの意思で絶ったのだから。
だからそなたの苗字、紀伊国屋の紀の一字をとって、
幹には「紀の幹」として馬蹄等の里に赴いてほしいと私は思っている
しかしすでに親離れしているとはいえ、幹はまだ十八。
一人旅では何かと不都合なこともあろうゆえ、そなたも一緒に幹とともに旅立たれよ
そなたは華奢じゃが、若いとき私とともに放浪の旅を続けてまいったので旅慣れておる
何かと幹の手助けにもなろうし、
また私もそなたに私の故郷であった馬蹄等の里を見せてやりたいと思う
ついては、そなたも幹とともに旅立つがよい
……私もココバーミヤンで最後の一仕事を終えたら、
そなたらの後を追って馬蹄等に向かう。向こうで落ち合おうぞ」
蟹鮨里芋鮭缶詰胡瓜漬物参果実菓子似鶏肉揚物即席めん残ついか
kuu0448
蟹鮨鮪刺身鰤煮物鶏肉揚物胡瓜漬物暫定
里芋鮭缶胡瓜漬物似果実菓子似即席麺残
蟹鮨鮪刺身鰤煮物鶏肉揚物胡瓜確定。第三帝国到達も余韻あり。
蟹鮨里芋鮭缶麺類鶏肉揚物胡瓜似果実菓子似コールスローサラダ残
第六帝国に至る病
ダージリンアイスチョコ樽と缶珈琲追加
蟹鮨生牡蠣睦煮物鶏肉揚物天麩羅蕎麦缶珈琲
コールスローサラダダージリンアイスチョコタルト
里芋鮭缶胡瓜似果実菓子似残
鱒鮨里芋鮭缶胡瓜似果実菓子似醍醐菓子缶珈琲残
ま、なんちゅうかさ。
球蹴りにしろ球投げにしろ、いわば芸事のひとつなわけで
芸事の名人上手がその芸だけで飯が食えると言うのは
要するにその芸事に人気があって、
昔なら王侯貴族、現代ならスポンサー企業が
その名人上手に年俸なり賞金なりの金を出すからなのであって
結局いくらぐらい稼げるかはその芸事の人気の度合いで決まるわけだ
で、その芸事に人気があるなら名人上手も一杯稼げる
そのこと自体はまあはいいとは思うんだけど、
そのひとがその芸事の分野では第一人者だと言うならともかく
ちょっと上手かな?ぐらいのひとでも何億とか稼ぐというのは、
やはりこれはバブルだなという気がする
たとえば日本文化への貢献度とか科学技術の進歩とか、
そういう面から推し量ったら、どう見たって
サッカーの一選手とか野球のダルビッシュとかより
たとえば将棋の羽生善治あたりの方が貢献していると思うんだけど、
羽生の稼ぎは、まあ億は行ってるだろうとは思うが、
そこらの「そこそこ一流」のプロスポーツ選手程度しかない
これを
「ハブが気の毒だ」と思うか
「将棋は人気がないが仕方ないだろ」と言うか
「プロスポーツ選手が取り過ぎだ」と見るのか
「スポーツはプロ寿命が短いから取っていいんだ」と主張するかは
各人の判断基準による
しかしまあ取りすぎかな?と言う気はする
だって…たかが球蹴りとか球投げでしょ?
それで何年契約何十億とか、それはやっぱ異常ですよ(投稿済み)
鱒鮨鶏肉揚物里芋鮭缶麺類胡瓜似果実菓子似醍醐菓子残補正
>>xxx
たとえば2ちゃんが薬売買の場所として悪用されている、
そういったやつらをここから排除する責任も果たさない運営が
プロバには責任をもって不良ユーザーを排除しろと要求できる「はず」だ
と、あんたが思ってるならそれはまた凄いことだけどね
「運営はそんなことは要求できないはず」と言う言い方が気に入らないなら
「運営はそんなことを要求する資格がない」と言ってもいいよ
どっちでもおなじだけど。
要するに運営は自分が果たすべき責任、
たとえば薬物売買の利用者の2ちゃんからの排除、というようなことは放っておいて
一方でプロバイダにはもっと厳格にユーザーを管理しろなどという要求して、
そしてそのためにそのプロバイダのユーザー全員の書き込みを停止している
こんな暴挙はね
普通の神経、感覚を持ってるならできない「はず」です
なんで和歌山の基地外がエキサイトを使って運営御用達の板に書き込みしたら
アニメオタクのエキサイトユーザーがアニメ板に書き込みできなくなるのかね?
何の関係もないでしょうに。
まったくいい迷惑だよ
運営も金がほしいのなら、自演で規制して●の押し売りなんかしてないで
単刀直入に「書き込みしたけりゃ、かね払え」って、言えばいいんですよ
それで2ちゃんから離れるやつがいるならそれならそれでいいじゃないの
人減らしたいんでしょ?
運営なんかどうせクズの集まりなんだから
いまさら「この板に書き込みしたいなら、金払え」って言っても誰も驚かないよ
自演だか言いがかりだかのクダラン規制なんかしてないで、
掲示板の利用者に直接金を請求すればいいんです
鱒鮨鶏肉揚物似胡瓜果実菓子醍醐菓子珈琲ポテトサラダ確定
蟹鮨里芋鮭缶胡瓜似果実菓子似醍醐菓子天麩羅そば味噌汁残
蟹鮨鶏肉揚物胡瓜醍醐菓子似珈琲暫定
里芋鮭缶麺類胡瓜果実菓子似味噌汁残
蟹鮨鶏肉揚物胡瓜醍醐菓子似缶珈琲鰤刺身煮豆確定
蟹鮨里芋鮭缶胡瓜似果実菓子似天麩羅蕎麦味噌汁残
規制されたからといってプロバイダ変える気はないな
変更した先のプロバイダも規制されるかもしれないし、
そもそも2ちゃんに書き込むためにプロバイダ選んでるわけではないし。
どうしても書き込みしたいのならプロバ変えずに運営にカネ払うわな、
そっちの方が明らかに確実に書き込めるわけだし。
まあカネ払うのも嫌だけどね
嫌と言うか、もともと過疎板をうろうろしてた者としては
金払ってまで書き込みたいというほどの気にならないので
水をやって育ててどうとか、言ってるのが●ってやつ?
アレはなんだか全然訳わからんので、最初から買う気にならない
もし買うとすればp2のほうだけど、アレもイマイチよくわからん
二万もりたぽってなんだ?何がモリタポなんだ?二千円だろ?
この掲示板の経営者は普通に商売できないのか?
「あなたの有効なメールアドレスをこちらに開示して、
二千円をクレジットカードないし銀行振り込みで支払ってくれれば
四年間有効なアカウントをあなたのアドレスにおしらせしますので、
それを使ってログインしてください。そうすれば自由に書き込めます
毎度有難うございます」
と、なぜ普通にいわないのか?
そういう当たり前のことをしないで
理不尽な規制とかステ魔とか販促とか、訳わからんことばっかりやってる
胡散臭すぎなんだよ
金額は500円でも2000円でもどっちでもいいと思うよ
たださ。
エロチャットみたいな胡散臭いクソサイトよりも遥かに胡散臭い、
そのわかりにくいお前ら運営の会計集金の仕組をどうにかしろよ、と。
どんなネットサイトだって、
こっちがアドレス通知してカネ払ったら、
パスワード発行してこれでログインしてください、
あとはお客様のお好きにどうぞ、っていうのが
ネット商売の基本なんだから
歌舞伎町の暴力バーみたいな訳のわからん不明朗な会計システムにするな、と。
kuu2304
蟹鮨鰤刺身蛸刺身胡瓜珈琲果実菓子第三帝国暫定
里芋鮭缶詰胡瓜漬物果実菓子天婦羅蕎麦味噌汁残
蟹鮨鰤刺身蛸刺身胡瓜缶珈琲果実菓子第四帝国に至る病確定
蟹鮨里芋鮭缶胡瓜似果実菓子似醍醐菓子天婦羅蕎麦味噌汁残
蟹鮨鮪刺身鶏肉揚物里芋胡瓜即席麺果実菓子醍醐菓子予定
蟹鮨野菜豆鮭缶胡瓜似果実菓子醍醐菓子味噌汁残
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物鮭焼物鯵酢の物醍醐菓子里芋暫定
蟹鮨野菜豆鮭缶胡瓜似果実菓子醍醐菓子醤油麺味噌汁残
kuu2318
蟹鮨鶏肉揚物鯛刺身鱈子煮物珈琲胡瓜漬物暫定
蟹鮨野菜豆鮭缶胡瓜似果実菓子醍醐菓子醤油麺味噌汁残
訂正
蟹鮨鶏肉揚物鯛刺身鱈子煮物珈琲胡瓜神聖羅馬帝国暫定
蟹鮨野菜豆鮭缶胡瓜似果実菓子醍醐菓子醤油麺味噌汁残
蟹鮨鶏肉揚物胡瓜珈琲醍醐菓子確定
舞茸野菜豆鮭缶胡瓜似果実菓子醍醐菓子醤油麺味噌汁残
舞茸飯野菜漬物鶏肉揚物珈琲醍醐菓子
kuu2330
鱈子飯胡瓜漬物醤油麺珈琲醍醐菓子予定
鱈子飯野菜漬物珈琲醍醐菓子烏賊刺身魚煮物神聖羅馬帝國迄現状
第三帝國到達
鱈子飯野菜漬物鶏肉春巻醍醐菓子果実菓子似胡瓜似醤油麺味噌汁残
鱈子飯野菜漬物鶏肉揚春巻鰤刺身鯛煮物珈琲醍醐菓子確定
昆布飯野菜漬物醍醐菓子果実菓子似胡瓜似醤油麺味噌汁残
昆布飯鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子確定
野菜漬物果実菓子似胡瓜参醤油麺味噌汁残
昆布飯鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子鰤鮪刺身暫定
野菜豆野菜漬物果実菓子似胡瓜参醤油麺味噌汁残存
kuu0000
蟹鮨野菜漬物醤油麺鮪勘八刺身暫定
野菜豆果実菓子似胡瓜参味噌汁残存
144 :
Classical名無しさん:2012/12/13(木) 17:18:23.40 ID:ifIWPepX
んーいつも思ってるんだけど何て書いてあるの!!!気になる
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物醤油麺鮪勘八刺身第三帝国迄
鱒鮨野菜豆果実菓子似胡瓜参醍醐菓子味噌汁残
なんて書いてあるのといわれても・・・そのまま読めばよい
>>7に述べてあるように
このスレにいるのは馬蹄等の宗家識神である献立と語部だが、
現在は語部が休養中であるため、献立がスレを維持している
鱒鮨鮪刺身小鰭刺身胡瓜漬物珈琲醍醐菓子暫定
蟹鮨野菜豆果実菓子似胡瓜似醍醐菓子味噌汁残
鱒鮨鮪刺身小鰭刺身鶏肉揚物胡瓜珈琲醍醐菓子確定
蟹鮨野菜豆果実菓子似胡瓜漬物似醍醐菓子味噌汁残
蟹鮨烏賊刺身野菜漬物珈琲煮豆醍醐菓子味噌汁暫定
蟹鮨野菜豆果実菓子似胡瓜漬物似醍醐菓子味噌汁残
kuu0005
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物野菜豆果実菓子似胡瓜似麺類似醍醐菓子味噌汁在り
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物珈琲醍醐菓子神聖羅馬帝國迄
野菜豆果実菓子似胡瓜漬物似塩麺醤油麺味噌汁残存
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物似珈琲醍醐菓子第似帝國到達
蟹鮨野菜漬物野菜豆果実菓子似胡瓜似麺類似汁残存
蟹鮨野菜漬物勘八刺身鮪煮物塩麺確定
蟹鮨野菜漬物野菜豆果実菓子似胡瓜似麺類汁醍醐菓子残存
蟹鮨野菜漬物醤油麺珈琲醍醐菓子暫定
野菜豆果実菓子似胡瓜似麺類似汁醍醐菓子残存
蟹鮨野菜漬物醤油麺珈琲醍醐菓子鮪刺身鮭焼物確定
野菜豆果実菓子似胡瓜似麺類似味噌汁醍醐菓子残存
kuu2345
蟹寿司野菜漬物醍醐菓子神聖羅馬帝国混迷
野菜豆果実菓子似胡瓜似麺類似味噌汁残存
蟹鮨野菜漬物醍醐菓子平目刺身鰊焼物確定
蟹鮨果実菓子似胡瓜似即席麺似味噌汁残存
昨日第三帝國迄到達
本日蟹鮨果実菓子似胡瓜似醤油麺塩麺味噌汁野菜漬物鶏肉春巻残存
蟹鮨鮭刺身鯖煮物鶏肉揚物野菜漬物春巻珈琲醍醐菓子確定
野菜豆果実菓子似胡瓜塩麺味噌汁残存
蟹鮨鶏肉揚物春巻野菜豆果実菓子似胡瓜参麺類似味噌汁残存追加
蟹鮨鶏肉揚物春巻野菜豆野菜漬物鮪刺身鱈子煮物珈琲確定
果実菓子似胡瓜参麺類似味噌汁残存
・・・・
私は株よりもfxのほうが性に合っている
あっちのほうがなんというかな・・・
鳥瞰図を見るように遠くまで模様が見えるので、しっかり計画的に張れる
というか、そもそも「張る」はないな
よくfxは博打だと言われるが、どこが博打なのか、よくわからない
私にとってfxは博打ではない。投資ですらない。単なる収入源です (未投稿)
蟹鮨鶏肉春巻野菜豆野菜漬物鮪刺身鱈子煮物塩麺珈琲醍醐菓子
蟹鮨野菜漬物果実菓子似胡瓜参醤油麺味噌汁残
kuu0202
蟹鮨鮪刺身鰤煮物野菜胡瓜漬物珈琲独逸第二帝国迄暫定
蟹鮨野菜漬物果実菓子似胡瓜似醤油麺味噌汁醍醐菓子残
蟹鮨鮪刺身鰤煮物鶏肉揚物野菜胡瓜漬物珈琲醍醐菓子確定
蟹鮨野菜漬物果実菓子似胡瓜似醤油麺味噌汁第三帝國未達
蟹鮨野菜漬物果実菓子胡瓜鶏揚物醍醐菓子暫定
蟹鮨野菜漬物果実菓子胡瓜似醤油麺味噌汁残存
蟹鮨野菜漬物胡瓜鶏肉揚物鯛煮物鮪刺身珈琲醍醐菓子確定
蟹鮨野菜漬物胡瓜果実菓子醤油麺味噌汁鮭缶醍醐菓子残存
いつものコンビニで、要りもしないクリスマス用のチキンを買ってしまった
…いやまあ、もともとチキンは食いたかったのだけど
店内にあるいつもの唐揚げ棒のチキンを買うつもりだったのだ
しかし例の顔見知りのあの姉ちゃんが今夜は店頭に立っていて
寒さでからだをせかせか動かしていた。
そんな彼女から
「毎度どうも。今夜はクリスマスチキンいかがですか?」
などと声を掛けられれば、
それはまあたいていの男なら要らなくても買ってまう罠
これも定めというものであろう。致し方あるまい。
kuu0045
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物醤油麺神聖羅馬帝国暫定
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物醤油麺鮪刺身鮭焼物第二帝国暫定補正
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物鮪刺身鮭焼物醤油麺味噌麺醍醐菓子確定
蟹鮨鶏肉揚物野菜胡瓜漬物鮪刺身醍醐菓子確定
memo:
新規入手の不良品AS1410に関して。
キーボードは完全ジャンクなので廃棄妥当
モニターは破損し映らない、ただしケーブル等は転用の余地あり
本体はBIOSがキー入力を受け付けないため時刻の修正変更が不能。
以上
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物中華麺珈琲醍醐菓子内定
蟹鮨鶏肉揚鮪刺身物野菜漬物中華麺珈琲醍醐菓子確定
蟹鮨野菜漬物中華麺似胡瓜三果実菓子醍醐菓子鮭缶残
kuu0202
蟹鮨鮪刺身鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子神聖羅馬帝国現状
蟹鮨鮪刺身鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子似神聖羅馬帝国迄
蟹鮨鮪刺身鶏肉揚物生酢野菜漬物珈琲醤油麺迄確定
蟹鮨鮪刺身鶏肉揚物生酢野菜漬物醤油麺珈琲醍醐菓子確定
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子暫定
kuu0015
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物勘八刺身烏賊煮物暫定
晦日第二帝國迄
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子暫定
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子醤油麺確定
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲天婦羅蕎麦確定
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物天婦羅蕎麦珈琲醍醐菓子再確定 &kuu2356
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲醤油麺暫定
蟹鮨鶏肉揚物似野菜漬物珈琲醤油麺神聖羅馬帝国迄
シーフード第二帝国追加
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子海鮮麺暫定
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子海鮮麺天蕎麦確定
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物醍醐菓子暫定
蟹鮨鶏肉揚物鮪刺身野菜胡瓜漬物珈琲醍醐菓子2内定
蟹鮨鶏肉揚物中華春巻鮪刺身野菜胡瓜漬物珈琲醍醐菓子確定
kuu0045
蟹鮨野菜胡瓜漬物醍醐菓子神聖羅馬帝国暫定
またNTT東日本の下請け業者の売込みが来た
「光が値下げしたのでいかがですか?という売り込みですね
しかしこの部屋は前のやつが壁の配線をいじっているので
電話ソケットから光配線が取れないのです
ですので、やむなくADSLにしている
私も壁をはがしてまで光に切り替えるつもりはありませんので、
今回は見送りさせていただきます」
・・・と。
このせりふを何度言ったことだろうか
おんなじこと何回言わせるつもりなんだ
私はそう叫びたい
大学の同期で外資金融だけど
都内じゃなくてチューリッヒに行ったやつなら知ってる
ただまあ…ものすごいぶすだったけどね
頭もそんなにいいとは思えなかったけど
あれは意志の力かな?
英語なんかも明らかに私のほうがレベルが上だったんだけど
やっぱりブスでも根性があって
自分は男には縁がないと見切りがつけられて
その上でまあまあある程度の頭があれば
べつの世界が開けるんだなあと、 彼女を見てそう感じた
蟹鮨鶏肉揚物野菜胡瓜漬物珈琲醍醐菓子果実菓子第三帝國迄
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物醍醐菓子内定
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物中華麺珈琲醍醐菓子鮪刺身蟹芋サラダ確定
馬蹄等物語一覧
主伝
第一話 最後の宗家
第二話 虎御前を継ぐもの
第三話 悪魔の棲む島
第四話 双頭の鷲たち
第五話 竜彫りの男
第六話 紅の騎士たち
副伝:歳の左近妖怪退治秘話
第一話 静止婆と悟ります
第二話 識神合戦
第三話 楢山ブス考 (当擦れの
>>8-59あたり)
副伝:紀の古伝
第一話 紀の子とウン子
馬蹄等物語一覧
主伝 第一話 冒頭部
・・・・
掛巻も畏き正神神社に座し坐ます
諸々の大神の大前に恐み畏みも白す
我が名は正神神社に仕へ勤むる「歳の左近」と申し
馬蹄羅最後の御宗家の御霊の招の神業を行し者とて
今日此の日に大神の御前に参来出給ひました
願わくば我が命と引き換へに
此の御舎に馬蹄羅の源朝臣鞠子様の御霊を招きたまへ
いにしへの馬蹄羅のつわものどもの荒霊を招きたまへ
其の願ひの事に依りし禍穢の身魂に
淨め祓ひの神業を以って成し給へ
恐み畏みも白す
ひとふたみよいむよななやことたり
布留部由良由良止布留部
布留部由良由良止布留部
布留部由良由良止布留部・・・古べ振るべ降るべ
ここは馬蹄羅屋敷内の「祈りの御舎」。
馬蹄羅最後の宗家の守り役であった「歳の左近」が
>>209の呪文を唱えたあと、
その呪文の言葉どおりに自らの命を絶ってから、
マル二日が経過していた
しかし精神的に堕落し、欲望の赴くまま
己の私利私欲に血道をあげていたバッテラの村人たちは
左近の遺骸を弔うこともなかったために、
左近の遺骸はそのまま御舎内に放置され、血は固まり体は腐り始めていた
そのときふと、電気も無いはずの御舎に妖しげな光が茫と湧き上がり、
それとともに時空が裂け、その時空の裂け目から一人、またひとりと、
侍装束のものたちが姿を現し始めた
御舎内に降り立った侍姿のそのものたちは
みな片膝を付いて頭を垂れ、
「最後の一人」を迎え入れんとするかのごとくに見えた
やがて陽炎が霞み立つようなより強くより妖しげな光とともに、
「最後の一人」が姿を見せた
左前の袴姿ではあるが、そのものは女性であった
彼女は平伏する侍たちに対して軽くうなづきを返すと、
真っ直ぐに左近の遺骸の傍らに歩み寄り、その頭の横にひざまずき、
遺骸の肩を優しく撫ぜ、 ささやくように話しかけた
「左近殿。守役としての最後のお勤め、ご苦労でありました。
そなたの死は決して無駄にはせぬ。安堵して眠ってたもれ」
・・・
かくして馬蹄羅一門最後の宗家、
源朝臣鞠子は馬蹄羅武士団とともに黄泉の国から現世に戻ってきた
西暦の2012年1月12日、
京暦でいえば平成弐拾参年師走弐十壱日宵の出来事である
【イスラム遠征軍司令長官宣言文】
脂の乗ったバッテラは美味しい
それは我々ムスリムとて認めるにやぶさかではない
しかしそのバッテラが、
特に売れ残って干からびて背中バリバリ乾かしているようなバッテラが
夫以外の男と婚外交渉を持つとあっては見過ごすことはできぬ
これは不倫は言うまでもなく、
未婚のバッテラに対しても適応されるイスラムの掟である
考えてみればそれは当然のことで、
なぜ夫以外の男性に股を開いたことがあるような中古バッテラを
夫が養わねばならんのか、ということである
夫は引き取ったバッテラを扶養する義務を持つ
ゆえにバッテラは婚姻までその処女性を堅持し、
かつ婚姻後は夫に対して貞淑と従順を持ってこたえる。
これこそが麗しきイスラムの定めであり、
これに背くものは神アラーの掟に背くものと知れ。
そなたたちは尻軽の干しバッテラであるがゆえに、死なねばならぬ
誰を恨んでもならぬ。それは自らが招いた災厄である
ヒジュラ暦1433年サファルの23日め
イスラム遠征軍司令長官 マフムード・アフマディーネジャード、これを宣す
【宗家回答文】
干からびてしまったバッテラはマズイ。
それは我ら馬蹄羅一門とて認めるにやぶさかではない
さらには売れ残って干からびて
背中をバリバリ乾かしているような中古のバッテラが
老後の安寧を求めて浅ましくネットで金づるのおとこを探し漁るというのは
かのものたちを庇護すべき我らの立場から見ても、見苦しき姿ではある
しかしながらこのことは、
われら馬蹄羅の村の中にて解決すべき事柄であり、
異教徒の口出しすべきことには非ず。
ムスリムの徒は、速やかに軍を引け。
さもなくば、高貴なるものの義務を果たすべく、
我ら馬蹄羅一門がそなたらの相手をいたすことになろうぞ。
斯く警告する
京暦平成弐拾参年師走弐拾五日宵
馬蹄羅一門 宗家 源朝臣鞠子、これを告す
・・・・
その日。
マフムード・アフマディーネジャードの尋問を受けたあと、
アーダージャ・ハリーファは馬蹄羅一門の菩提寺である雲谷寺に立ち寄った
先日自害した歳の左近の弔いと、宗家の墓参を兼ねてのことである
若いころは眉目秀麗であったハリーファも寄る年波には勝てず、
髪は白くなり、顔には深いしわが刻まれていた
マフムード・アフマディーネジャードの尋問は、しごく簡潔なものだった
隠密の身でありながら宗家の婿にまでなったのはなぜか?
宗家の死後もなおこの村にとどまっているのは何ゆえか?
アーダージャ・ハリーファは処刑も覚悟でそれらの問いに率直に答えた
アフマディーネジャードはハリーファの答えを黙って聴いたあと、
何の判決も示すことなく帰宅を許した
アフマディーネジャードがなぜそうした処置をとったのかは、
ハリーファにはわからなかったし、またどうでもいいことでもあった
宗家が亡くなり盟友とも言える左近も死んだ今となっては、
本当に何もかもがどうでもいいことだった
ハリーファは暗がりが忍び寄ってきた雲谷寺の庫裏で独り佇んでいた
その背中は少し哀しげに見えた
【オマーン国際空港について】
おマンコくさい空港というのは現実には存在しません
オマーンの国際空港はオマーンの首都であるマスカットの名をとって
マスカット国際空港といわれており、
これが実在するオマーンの国際空港になります
しかし、オマーン国という国があり、そこに国際空港がある以上、
それを、おマンコくさい空港と言ってもいいのではないか?
と、個人的にはそのように思量いたします
オマーン国際空港の所在地
http://ime.nu/atlas.cdx.jp/nations/asia/image/moman.gif 地図上の赤い点が、それです
もし貴女が海外旅行大好きの自分磨きをしまくってきたオバサンならば、
この海岸線の形状を見ただけでこれが世界のどこか、
ということがすぐわかるはずです
もしわからないのなら貴女は何のために毎年海外旅行に行ってきたのか?
娯楽だというならば、それでいいです
しかしその単なる娯楽のことを
自分磨きなどといわないでいただきたい
この地形を見ただけでこれが世界のどこかもわからない、
その程度の知識で自分磨きとか世界常識がどうこうとか、
そういうことは言わないでいただきたい。言う資格が無いです
深い知識と謙虚な態度。
その二つを兼ね備えてこそ、
歳を経てもなおあの人は魅力ある女性だ、
と男たちから言われるのですから。
【インカ帝国について】
インカ帝国
首都 クスコ
初代皇帝 マンコ・カパック
もうふざけてるとしか思えないでしょうが、
しかしこれは歴史上の事実です
ペルーに行ったことがある人ならむろんご存知でしょうが
オマーンにおマンコくさい空港は実在しませんが、
ペルーにマンコ空港(正確にはマンコ・カパック空港)は実在します
実在どころか、
ペルーに観光に行けばマンコ空港は必ず利用すると言ってもいいでしょう
マンコの空港に降り立つとそこにはマンコの銅像があり、
ペルーの観光ガイドの方が誇らしげに
インカ帝国の英雄であるマンコについて語ってくれるはずです
ペルーの観光はマンコ抜きにはありえません
__ __
/__\ ./__\
( (´・ω・`)) ((´・ω・`) )
バッテラ様、ウン子様、ご宗家様、おはようございます
今日も一日ご機嫌麗しゅう
↑このように、
いにしえのバッテラ村の子供たちは、
幼いながらも朝夕の挨拶をはじめとして礼法一式、
それなりにわきまえておりました
それもみな、
ご宗家さまを中心とした村の武家貴族たち、いわゆる馬蹄羅と呼ばれた方々が
卑しき獣のごとき心根しかなかった下々の者たちにも教育が行き届くようにと、
ご配慮を重ねてきたからでございます
しかしその慣わしも最後のご宗家さまが亡くなれてましてから廃れ、
いつの間にやらこの村は
金かね年収容姿容貌上から目線の
高齢家事鉄無学文盲外道夜叉などが横行する、
百鬼夜行妖怪魔物人外魔境と成り果ててしまったのでございます
・・・
そういう過去の経緯が御座いますので
マフムード・アフマディーネジャードさま、
この村を焼き払うのはいま少しお待ちいただけないでしょうか?
もしご宗家の復活が単なるうわさではなく事実であるとすれば、
必ずやこの村は古の秩序を回復いたすでありましょう
そのことは、ゆめ間違い御座いません
村の古老の話(
>>216)を聴取した後、
イスラム遠征軍司令長官マフムード・アフマディーネジャードは
改めて手元の書面(
>>212)に目を落とした。
この書面は村はずれのバッテラ大魔神の祠の正面に貼り付けられていた、という
ただしこの書面の最後に記載されている人物の名は
遥かなるいにしえの頃に死んだはずの女性の名前で、
今現在生きているはずもないということだったので、
村人の誰かのいたずらであろうと、
意にも介さずそのまま放置していたものであった
しかしいまの古老の話を聞くと、宗家復活といううわさが、
少なくとも村内で密やかにささやかれているということは推察できる
アフマディーネジャードは暫し様子を見ることにした
ハリーファの処分もまだ未決状態のまま保留している
(自分も歳を経てずいぶんと優しくなったものだな…)
アフマディーネジャードは、自らの優柔不断さを苦々しく思った
マフムード・アフマディーネジャードの生まれ故郷である
エラムの地には「宗教警察」という組織があり、
男女間のエロごとに関してはとりわけ厳格に対処している
まず浮気などしたバッテラは、即座に死刑である
未婚バッテラの婚外交渉も死刑。
たとえ強姦されたとしても、強姦した男のほうは鞭打ち刑で、
強姦された女のほうが死刑である
強姦可能な環境に身を置いた女のほうが悪い、という理屈である
そういう土地柄で生まれ育ってきたアフマディーネジャードからすれば、
バッテラ村などというところは堕落した呪われた土地であり、
そんなところは徹底的に焼き払えばいいのだ、と思っていた
だから軍内で遠征軍指揮官の募集があったときにも嬉々として応募したのだが、
四度もこの村に遠征にやってくるうちに、
当初の頃とは何か違うものを感知し始めていた
ハリーファの処分を留保しているのもそのためである
例の書面にもでてくるバッテラの上位者である馬蹄羅とは何物か?
その倫理体系とはなんなのか?
軍人という、実務に身を置く者であるにもかかわらず、
アフマディーネジャードはそうしたことにやや関心を持ち始めていたのである・・
たとえばこういうことです
私は昨年後半から、とある中古品をウォッチリストに入れていました
しかし手は出さなかった。
売値が高すぎると思ったからです
そのうちに昨年末、たち続けに同型の中古品が一円スタートで出てきた
私はそれらにすばやく指値をいれ、二台入手しました
そしてその二台分の代金は、二台あわせても
それ以前から注目していた中古品のスタート価格よりも安く済んだのです
こうして二台の中古品を安く入手できた私は、
当初から注目はしていたが売値が高いと思っていた中古品を、
ウォッチリストから外しました。なぜならもう要らないから。
おわかりでしょうか?
売れ残るとはこういうことをいうのです
大切なことは
「中古品は安い値段から始めるべき」ということです
中古でもコアの部分がしっかりしているならば欲しい
という人は世間にはいっぱいいますから、安く始めればみんなが注目します
そしてオークションですから最後は競りになります
貴女の内容を理解せずに、
ただ安いからという理由だけで参加していたものたちは、
その競りの最終局面で次々と脱落していきます
最後まで競りに残っているものは、
貴女という中古品の真の価値を正確に把握しており、
かつそれが自分にとって必要だという認識がある者。です
そういうものたちはぎりぎりまで踏み込んで指値を入れてきます
そして「どうしても欲しい」というものがいる場合には、
中古であるにもかかわらず、
最後にはとんでもない高値がつくこともありえるのです
…それが貴女の価値です
最初は安いところから始めること。
本当にまだ自分に価値があると思っているなら、そうすべきです (投稿済み)
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子鮪刺身烏賊煮物確定
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子似鮪刺身烏賊煮物確定補正
kuu2346
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲果実菓子天蕎麦暫定
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物天婦羅蕎麦果実菓子
珈琲クリーミーモンブラン第二帝国迄確定
たそがれのとき。
うたた寝をしていたアーダージャ・ハリーファは、ふと目を覚ました
見慣れた寝室の天井。
宗家の死後、ずっと屋敷内のこの部屋で一人で寝起きしてきた
しかしそのときは誰かが室内にいる気配を感じ、
ハリーファは半身を起こし周りををうかがった
居た。
御簾の向こうに黒い影。
ハリーファが声を立てようとした機先を制して、その黒い影が言った。
「アーダージャ殿。驚かれませぬように」
聞き覚えのある、その声。
遠い昔の記憶がよみがえる。
しかしその声の主は、はるかむかしに死んだはずのものではないか
「宗家?…いや。しかし。まさか。そんなことが」
「お疑いあるはごもっともなれど、決して偽りやマヤカシではありませぬ。
左近殿のお力によりて、宗家としての勤めを果たさんとて
今ひとたびこの世に戻って参ったのございます」
「お懐かしゅうございます、アーダージャ殿」
「左近殿はそなたをこの世に呼び戻すために自らの命を絶たれたのか」
「はい」
「顔を見せてくれぬか、宗家」
「それは…できませぬ。かりそめに蘇ったとはいえ一度は死んだ身。
いまのわれは生身のものではありませぬ。姿をご覧になれば興を醒ましましょう」
「姿がいかようになろうとも、そなたは今でも我が妻。顔を見たいと思うが心情であろう」
「御心はいにしえのままと仰せられるか?」
「いかにも」
「・・・・」
しばしの沈黙の後、御簾の向こうの黒い影は再び語りだした
「嬉しゅうございます。されどやはり、今宵はここまでといたしましょう。
ただ、アーダージャ殿にわれが黄泉より還ってきた事をお知り頂きたく、
こうして闇に紛れてお訪ね致したまで。…いずれ、またの機会に」
その声はしだいに細くなり、やがて途絶えた
それとともに御簾の向こうの黒い影も消えた
ハリーファは今の出来事が夢だったのか現(うつつ)だったのか、
判断しかねたまま、呆然とたたずんでいた
前門のバッテラ肛門のウンコ、と申しまして
バッテラサンとウンコサンはこの村の入り口と出口を護る守護神なのです
またこの村の宗家にして庇護者である御宗家の紋章が
笹にバッテラである、ということも忘れてなりません
笹はイネ科の植物で防腐作用があるとともに稲や筍にも通じ、山の幸を示します
サバは古代において日本近海であまねく獲れた高級魚であり、海の幸を示します
それを酢飯とあわせて笹でくるみで保存食としたバッテラは、
古来より海幸山幸の象徴です
それを食べて血肉とし、余ったものをウンコサンとして出す。
我々はしょせん、
惑星の地表面上に生息している糞袋型の有機系生命体にすぎないのです
そのことをまず自覚することから日々の営みも始まるのです
アリガトウバッテラサン。アリガトウウンコサン。
この祈りの言の葉を日に三回は唱えなさい
そこからすべてが始まります
・・・・
笹にリンドウ、鎌倉の
笹に〆サバ、馬蹄羅の
流れの末は分かれても
事の初めはいにしえの
清和の帝(みかど)にさかのぼる
貴き血筋をしろしめす
誉れも高き家紋なり
(バッテラ村に伝わる童歌より。作者不詳)
(ナレーターの声)
奥様の名前は、バッテイラのみなもとあそんマリコ
だんな様の名前は、ディルむんのアーダージャー・ハリーファー
ごく普通の二人はごく普通の恋をしてごく普通の結婚をしました
でもただひとつ、普通と違っていたのは奥様は御宗家だったのです…
・・・・・
「ハリーファさん、なんだってまた大昔のラブコメなんか見てるんすか?
しかも自分が旦那の役回りだったやつを。見てて恥ずかしくならない?」
「おや、これはサラさん。こんばんは。
むむ、確かに少し恥ずかしいところを見られてしまったかもしれませんな(苦笑)」
「・・・ハリーファさん、ちょっと変わったわねぇ
前よりも明るくなった
左近さんが死んで落ち込んでるものとばかり思って慰めるつもりで来たのに、
これはまたどういうことかしら?何か良い事でもあったの?」
「いやいや、この歳になってよいことなど特にあるはずもなく…ムニャムニャ」
「いんや。ぜぇったい、なんかイーことがあった。
そうじゃなきゃ、そんなに明るくなるはずないもの。
…ま、言いたくないなら無理に言わなくてもいいわ。
でもこの村にいる西の世界の出身者は、あなたと私だけなんだから
できるだけ隠し事とかは、しないでね。なんかあれば相談に乗るからさ。
じゃ、またね」
(村の古老の話)
なに?ウンコサンの由来を知りたいとな?
ほぅ、それはお若いにもかかわらず殊勝なおかたじゃ
では茶など召しながら、ゆるりと爺の話をお聞きなされ
・・・・
そもそもウンコサンとは神ではなく、
村里に住まう卑しき女子がひりだした一介のウンコに過ぎなかったのじゃが、
先代の御宗家、すなわち鞠子様のおじい様に当たるお方が、
「このウンコ、いささか見るべき所あり」と仰せられて村里から拾い上げ、
詩歌管弦歌舞音曲武芸学芸馬術刀術などを一通り教えなさった上で
自らの御郎党の一人にお加えになったのが始まりじゃ
先代御宗家の御目がねに狂いはなく、
そのウンコは立派なもののふとなり、
果ては「あのものこそが御宗家様の御懐刀ではあるまいか」
と、言われるほどの武将となったので
先代御宗家も太郎義家という名をそのウンコにお与えになり、
馬廻り衆のご筆頭にまで引き立てなさったのじゃ
(つづく)
しかしそれほどの猛将にも、やはり最後のときが来た
いにしえに行われた異次元川中島合戦において、
苦戦に陥ったバテイラの本陣に敵の軍勢が殺到してきたとき、
太郎義家は獅子奮迅の活躍の末に先代御宗家の盾となって敵方の矢を受け、
全身ハリネズミのようになって仁王立ちのまま往生したのじゃ
合戦後、その遺骸は馬蹄羅村まで護送され丁重に弔われた
さらには「ウンコ大明神」「ウンコ八幡大菩薩」として、
便秘侍たちに崇められ、信仰の対象ともなったのじゃ
その後、信仰は馬蹄羅の武家社会のみならず、
便秘に悩む馬蹄羅村の一般庶民の間にまで広がり、
ウンコ太郎義家は「ウンコサン」と呼ばれる神となった
やがて
「コーラックを飲んでウンコサンに祈ってから就寝すれば、
翌日は必ず立派なウンコが出る」とまで信じられるようになり、
こんにちにいたっておる
・・・・
どうかな?為になったかの?
またつれづれの折などあれば、この庵にお立ち寄りなされ。
時だけはたっぷりとあるゆえ、昔話など騙って進ぜましょう
(黄泉がえり)
「氏名アーダージャハリーファ。年齢、ジジイ。
婚歴あり、死別、小梨。職業は…自宅警備員かな?」
ハリーファは飼い葉桶を持って馬小屋に向かいながら、そうつぶやいた
むちゃくちゃ自虐的な自己紹介だが本人は何か楽しげである
サラが指摘したようにハリーファは「明るく」なっていた
直接の対面はかなわなかったとはいえ、
馬蹄羅の宗家が再びこの世界に戻ってきて、
しかも昔の夫である自分を忘れずに挨拶に来てくれた
そのことがハリーファに生きる張り合いを与えてくれたからだ
馬小屋に着いたハリーファは、飼い葉と水を小屋にいる老馬に与えた
この老いた馬の名は、スルスミ。歳の左近の愛馬だった馬だ
摺る墨。磨る墨。駿墨。
書き方はいろいろだが読みは「スルスミ」である
馬の寿命は短いはずなのに、こいつはどういうわけか、やたら長生きしている
主人である左近が死んでしまった今もまだ生きている
むろん、もうヨボヨボである
駿馬も老いれば駄馬にも劣る、という言葉があるがその言葉通り、
いやその言葉以上に、ヨボヨボである
ぶっちゃけ、ここまで役にも立たなくなった馬は薬殺したほうが
馬にとっても幸せなのではないかと思うのだが、
左近は騎乗に耐えられなくなって以後も、ずっとこの馬の面倒を見てきた
そして左近が死んだ今は、ハリーファが面倒を見ている
ハリーファにとってはさほどつらい仕事ではない、むしろ楽しい
この馬が、終生独身だった左近の唯一の忘れ形見のように思えるからだ
「妖怪でもいい。…顔が見たい」
馬の背を洗いながら、ハリーファはぼそっとつぶやいた
(サラの視点)
私の名はサラ。西のサラ。
人間たちは私のことを「西方世界最強の呪術医」と呼ぶ…
ぶっちゃけ、最強ってほどでもないんだけどねw
でも五本の指には入るかな
いま私は「人間たちは〜」っていう言い方をした
そう。私自身は人間じゃない。女でもないし、男でもない。
女の格好をしているのは男より女のほうが何かと都合がいいからで、
もともと性別とかは無いんだ
この体も借り物。適当に着たり脱いだりする服みたいもの。
私の本体はたとえて言えば、陽炎のようなもの
見える人には見える。見えない人には見えない
私はメソポタミアかディルムンかエラムにいることが多くて、
だからサマルカンド辺りの連中が私のことを
「西のサラ」って言い出したんだけど、
でも今は大陸の東の端っこの島にいる
その島の中でもさらに僻地の、バッテラとかいう辺鄙な村。
まあどこでもいいんだよね。
私にとって時間や空間はさしたる意味はない
この村にディルムンの名族ハリーファ家の御曹司がいてね、
アーダージャってやつなんだけど、そいつが何を血迷ったのか、
この村の土着の首長の娘と結婚しちまってさ
何考えてんのかねこいつは?って思ったもんだから一寸遊びに来たまで。
・・・・
そうね。人間には興味あるよ
寿命は信じられないほど短いし、時間も空間も操作できない、
それくせ自分は万物の霊長だと思ってる馬鹿な生き物なんだけど、
何かの時にほんの一瞬だけ、眩しいくらいに光り輝くときがある
そのときだけは人間って生き物にちょっとだけ羨望を感じるんだ
ま、大抵はくだらない、つまらないやつばっかなんだけどさw
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たとえばこういうことです
あなたが、
あの恐るべき寄生生物エイリアンの生態を知ったとしましょう
あなたはそれでもなお何も考えず無防備の状態のままで
エイリアンの巣窟に踏み込みますか?
普通はそんなことしないでしょ?
…それとおなじことです
普通の男性なら素っ飛んで逃げます
それでも踏み込んでくる猛者がいるとすれば、
それは完全武装した特殊部隊の兵士でしょう。それ以外はいません(未投稿)
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コーヒーフルーツケーキミルクレープ完結
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(質問)
ここって更新日が近くなるとさくらメールを送るんでしょ?
(回答)
そんなことはどこでもやってることです
むしろ「更新日近くにやってきたメールはすべて桜である」
という前提で物事を考えたほうがいいでしょう
もちろん、更新日近くに桜ではないメールが来る可能性も
ゼロとは言い切れませんが、その可能性は限りなく低い
ですからいっそのこと、
更新日近くに来たメールは全部桜である
とみなしたほうが思考効率がよいといえるでしょう
特に更新間際に来た相手が魅力的な異性であった場合は、
それは完璧に桜であると言い切って差し支えありません
このようなことは 私利私欲から離れ、
冷静かつ客観的に物事を考えることができる人ならば
誰でも気づくことなので、引っ掛からないようにしましょう
…以上で
お昼休みの講義を終了いたします
ご静聴ありがとうございました
よくわからないのだが・・
57才ともなれば、もうハッキリと「おばあちゃん」なわけだが
そのおばあちゃんは一回り年下の男性と何をしたいのかね?
まさかとは思うが「ナニ」をしたいということなのか?
で、そのおばあちゃんは「ナニ」をしてもらった見返りとして
その一回り年下の男性に何を与えられるのかね?
よくわからない
・・・・・
基本的なことを言えば
30オーバーのマンコは無料
40オーバーのマンコは男のほうが逆に金をもらう立場、です
年寄りは一切セックスするなとは申しません、そうは申しませんが、
40ぐらいから上の世代が年下と関係したいのならば
女だろうが男だろうが、年下の相手の子に小遣いを払ってもよい、
という立場をとるべきです
不惑越えというのはそういう年齢です
その金を受け取るか拒否するかは年下が決めること。
年下にも勿論プライドがあるわけだから、
「あなたと関係したのは金が欲しいからではない」
という人もいるでしょう
しかし年上のほうはあくまで
「お小遣いが欲しいのならあげるわよ」というスタンスを維持すべきです
また「別れたいならいつでも応じます」というスタンスも堅持すべきです
そのぐらいの度量を示さなければ、
そもそも年下の異性との関係は成立しません
このことは性別は関係ありませんので、
女だからといって甘ったれたことは考えないように。
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イスラム遠征軍指揮官マフムード・アフマディーネジャードは
兵糧の問題を考慮し、とりあえず全軍の半数を帰国させることにした
イスラムの軍隊は補給線の確保にはいたって無頓着であり
食い物は現地で略奪、確保すればいいと云う発想なのだが、
この村にはぶっちゃけまともな食糧の備蓄がなかったのである
>>216の村の古老の話が正しいとすれば
むかしはこの村には馬蹄羅と呼ばれる統治者たちがおり、
彼らがバッテラといわれるこの地域の原住民に教育を施し礼儀や節度を教え、
その際にはたくわえの必要性も諭していたということなのだが
その馬蹄羅がいなくなってからというものは
消費することしか知らないバッテラたちは一気に堕落し
特に「ばぶるバッテラ」と云われる一部の婆バッテラたちにいたっては
遠征軍であるイスラムの陣営にまでやってきて
上品ぶって股を開きながら「ギブミーチョコレート、プリーズ」
などという始末である
もっともそういう卑しきバッテラについては
その万個が使い物になるようなら輪姦した上で処刑しているわけだが、
しかしそれにしても一年分や二年分程度の食糧備蓄は
飢饉などに備えてどんな村でもたいてい確保しているものであり、
その程度の食料備蓄すらない村落共同体が存在するなどというものは
マフムード・アフマディーネジャードはまったく想定していなかったので、
いささか面食らっているのである
古の馬蹄羅に関する文化人類学的関心はあるものの、
軍の指揮官としてはこれ以上不毛な駐留を続けるわけにはいかない
ハリーファを裏切り者として処刑し、この村を焼き払い、
撤収すべきときが近づいている
マフムード・アフマディーネジャードは、そう感じ始めていたのであった…
(アーダージャ・ハリーファとバテイラ宗家の邂逅。その断片的遣り取り。)
「アーダージャ殿。
ムスリムの指揮官が軍の半数を帰国させ、
かつ残った半数に準武装命令を下した由、漏れ聞きました
いくさが近ウございます
ココ山岡…ではなく、ココは早晩戦場となりましょう
今まで長きに渡り我等馬蹄羅の菩提を弔ウテていただいたことには
深く感謝いたしますが、これ以上、ココ山岡…ではなく、
ココにとどまるのは御身危のう御座います
・・・ご帰国召されよ」
「情けなき言葉。この歳になっていまさら惜しき命ではない。
何ゆえ、ともに死のうといってくれぬのか、宗家。」
「我はもうすでに死んでおりますが、何か。
というか、アーダージャ殿はいまだこのウツシ世に生身があるお方。
ココにとどまったとて、恐らくそなたはムスリムの裏切り者として、
村が焼き払われる前に処刑されるでありましょう
・・お命、大切になさいませ」
(雲古太郎由家の発言)
卒爾ながら口挟ませていただく。
我は先代様に可愛がっていただいた馬蹄羅の一人にて、
ウンコと申すもの。このたびは左近殿のお力によって、
宗家ともども再びこのウツシ世に戻らせていただいた
僭越とは存ずるが、我の意見、申し上げる
まず、ハリーファ殿は戦人には非ず、文人であろう。
文にたずさわるものが戦になって何をしようといわれるのか?
また、ハリーファ殿は、
御宗家のつま(=配偶者。古代は夫も妻も配偶者は「ツマ」)にあられるが
もともとは馬蹄羅のものではなく、デュルムンのお方。
戻るべき故郷あれば、疾く御帰国あってしかるべきかと存ずるが如何か?
そなたは左近殿と友垣であった由。
我も左近殿とは深いなじみが御座った。
しかしながらそれとこれとは話が別。
ぶっちゃけ言わせていただくと、戦になった折に、弓引けぬ太刀振れぬ、
そういうお方が近くにおられては足手まといなので御座るよ
・・疾くお立ち退きあれ。それが御宗家の為でも御座る
・・・・
「御宗家。本当にこれで宜しかったので御座るか?」
「…よい。太郎殿、苦労でありました」
とぼとぼと去っていくハリーファの後姿を見送りながら、
馬蹄羅宗家の源鞠子と馬蹄羅の勇士ウンコ太郎は少なめに言葉を交わした
二人とも顔は青白く、皮膚は半ば焼け爛れている
その青白い皮膚の上には、毘沙門の真言がびっしりと書き込まれてあった
歳の左近が施した古神道、フルべの呪文。
それは確かに死者の魂を黄泉の国から現世に呼び戻すことはできる
しかしそれはあくまでかりそめのものなのだ
呼び戻された魂も、いずれはまた黄泉に還らねばならない
さらに現世にとどまっているそのわずかな間も、
魂の依代とする肉体には腐敗を防ぐためにサンスクリットのマントラを刻まねばならない
これがフルべの呪文の制約であった
青白く焼け爛れた皮膚のうえにマントラがびっしりと書き込まれている、
そんな鞠子の顔を見てもハリーファは少しも恐れることなく
むしろ彼女の顔を見れたことを心から喜んでいた
そしてそのことがよりいっそう、鞠子の心を悩ませた
やはりこのひとを馬蹄羅とムスリムの戦いに巻き込んでならない
しかしそのためには、
ハリーファにこの村から去ってもらうしかない…
先ほどの会話は、そのことのために
あらかじめ鞠子と太郎の間で打ち合わせて行った芝居だったのである
(さようなら、我が愛しき人…)
しだいに小さくなっていくハリーファの後姿を見送りながら、
鞠子は心のうちでそっと呟いた
・・・・
「御宗家。 ムスリムの軍が完全武装状態に入った由、
物見の者より報告がございました。
おそらく今日明日のうちにも村に火をかけてくるかと思われます」
「あいわかった。村の民草どもの動向は如何に?」
「ムスリムの軍に媚売ったる尻軽な婆ッテラどもは輪姦のうえ、
処刑されておりますが、これは自業自得ゆえ、是非もなきこと。
身動きできぬジジババどもは村はずれの馬蹄羅の洞まで退避し、
動けるものどもはすでに逃げ散っており、村はほぼ無人の状況にござる」
「…ハリーファ殿は如何に?」
「村内くまなく当たりましたが、お姿は見かけず。
既に退避されたものと思われます」
「・・・・」
「御宗家…?」
「いや、なんでもない。すべては滞りなし。
されば、かねてよりの打ち合わせに従い、
ムスリムが村内に侵入してきたところで手切れといたし、
戦に入ることといたす。戦時の細かな手立ては太郎殿の指示に従うよう。
・・皆のもの、おなごである我によくぞ仕えてくれました。礼を申す。」
「何を仰せある。御宗家あっての我らでござる。勿体無きことを言われませぬように」
天もお聴きあれ。
我ら馬蹄羅、伝来の御旗御刀に誓いて、卑しき真似は致さず。
平時には雅を愛で、戦時には武をたて、命惜しまず名こそ尊し。
宗家は武士(もののふ)無くしては立たず、武士も宗家無ければ亦無し。
君臣一如、あたかもひとつの船に乗りたるが如し。
我とそなたら、生きるも死ぬも諸共ぞ。
勇めつわもの。奮えもののふ。黄泉路の果てまでも、いざ共に参らん
・・・・
馬蹄羅の歴代当主が戦に入る前に唱える「宗家誓言」である
源鞠子がこれを唱え、
その誓言に馬蹄羅たちが低い声で「応」と和した
馬蹄羅は、戦闘態勢に入った
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・・・
イスラム遠征軍指揮官マフムード・アフマディーネジャードの指示により、
バッテラ村を焼き払うべくイスラム軍の前衛部隊が村内に入った
手近なあばら家に火をつけようと、
先頭の兵がたいまつをかざしたところで
「うっ」と呻いて前のめりに倒れる
その眉間には深々と矢が突き刺さっていた
絶句するイスラム兵たちの頭上に、野太い声が降ってきた
「我は馬蹄羅の一人、雲古太郎由家。
我ら一門の宗家より事前に警告があったはず。
我らが村を侵すことは、なんびとたりとも許されぬ。
高貴なる者の義務に従い、我らバテイラがお相手いたすゆえ、
われと思わんムスリムの勇者あらば、我が首とって手柄とせよ」
イスラム前衛部隊百名の前に立ちはだかったその者たちは、わずかに三騎。
しかしその三人の騎馬武者の青白く焼け爛れた肌と、
その肌にびっしり刻まれている異様な紋様の羅列に、
イスラムの兵士はややひるんだ。
が、それ以上に
四度目の遠征で初めて戦死者が出たという怒りのほうが打ち勝った
イスラムの兵士たちは我を忘れて前方の騎馬武者に向かって突進していった
イスラム遠征軍指揮官マフムード・アフマディーネジャードは
前衛からの報告を受けると、直ちに全軍に展開を命じた
歴戦の軍人であるアフマディーネジャードは、
「敵は三騎のみ」という前衛からの報告をモチロン真に受けはしない
敵は三騎だけと思って調子こいて追っていったら、
そこには新手の敵が待ち構えていて…というのが
寡兵をもって大軍を撃破するときの毎度おなじみのパターンである。
兵を出し惜しみして逐次投入していったら、
各個に撃破されるのは目に見えている。
一挙に全軍を投じて息の根を止めるにしかず。
アフマディーネジャードは、
本営を守る近衛兵のみを除き、残り全軍に村内への突入命令を下した
「大軍に兵法なし」という言葉がある
馬蹄羅武士たちがいかに一騎当千のものたちとは言え、
大軍には抗しがたく、
やがて村内のあちこちから火の手が上がってきた
炎と共に黒煙が吹き上がりそれが風にたなびいていくさまを
アフマディーネジャードは少し離れた高みから見下ろしていた
そのとき、
イスラム本営に急接近してくる数騎の騎馬武者がいた
吹き上がる黒い煙の下をかいくぐるようにしてやってきた彼らに気づき、
イスラム本営はあわてて陣容を立て直そうとしたが、
それよりも早く、
騎馬武者たちは一気にイスラム本営のど真ん中に飛び込んできた
「我は馬蹄羅の宗家、源朝臣鞠子。ムスリムの御大将、見参!」
太郎がイスラムの大部隊を村内の奥深くまで誘いこみ、
その間隙をついて宗家である鞠子自らが
数騎の精鋭とともにイスラムの本営を襲うという、
馬蹄羅の捨て身の奇襲戦法が見事に的中した瞬間であった
イスラム本営は大混乱に陥った
それも無理はない、
なにしろ敵の大将みずからがこちらの本陣まで突入してきたのだから。
しかし歴戦の将である総司令官のマフムード・アフマディーネジャードは
さすがに百戦錬磨のものだけあり、この危急の際も冷静さを失わなかった
敵は数騎に過ぎないが、味方の近衛兵は数十騎。
落ち着いて懸かれば殲滅できるはず。
アフマディーネジャードは弓の手練を両脇に並べて的確な指示を出し
荒れ狂う馬蹄羅の騎馬武者を一騎また一騎と、撃ち落していった
頼みとする馬蹄羅の精鋭を一騎また一騎と討ち取られ、
鞠子の顔にあせりの色が濃くなった。
ふと振り返れば、馬蹄羅の館も炎に包まれている
(もはやこれまでか・・・)
死を決した源鞠子は、せめて相打ちにしてくれようと
決死の覚悟で敵司令官に向かって直進した
矢が集中する
愛馬が悲しいいななきとともに倒れる
その愛馬を踏み台にして鞠子は思い切り跳躍し、
宗家伝来の名刀「虎御前」をアフマディーネジャードに向かって振り下ろした
それに応じて、アフマディーネジャードもアラブの名刀を抜き放ち、なぎ払う
砂煙とともに、両者は倒れた
「この勝負、そこまで!」
突如中空から声が発せられ、一人の女性が姿を現した
「私の名はサラ。西のサラ。
馬蹄羅とイスラムのこの勝負、我が預かりとする。
このことに異議あるものあれば、我が前にいでよ」
「異議あるにきまっとるわい!我らが勝ちじゃ!」
ムスリムの近衛兵の一人が憤然として喚き、サラに襲い掛かった
次の瞬間、その近衛兵の首は宙を飛び、
頭をなくした胴体が血しぶきとともに大地に倒れ付す
「さらに異議あるものはあるか? …異議無くば、沈黙をもって応えよ」
サラはニヤリと笑って周囲のムスリムたちを睨みまわした
・・・・・・
マフムード・アフマディーネジャードは右肩を深く切られていたが、命に別状は無かった
源鞠子のほうは…わき腹をえぐられていた
毒を食らわばサラまで、西のサラに治せぬ病は無い、とまで謳われた
西方世界最高の呪術系女医であるサラの顔も、さすがに曇りがちである
「サラ殿…もう、よいわ。我は宗家としてやれるべきことはやった
まもなく左近殿が施してくれたフルべの呪術も解けるであろう
さすれば、我が魂は再び黄泉の国に戻ることになる
無理に治してくれずともよい。・・・有難う」
サラにそう告げて鞠子は静かに目を閉じた
・・・・
鞠子は夢を見ていた
いや。或いはこれこそが現(うつつ)なのかもしれない
ココ山岡…ではなく、ココは現世なのか。黄泉なのか。それもよくわからない
向こうから騎馬がやってくる
乗り手はハリーファ。馬は左近の愛馬だった磨墨。
ハリーファは若く、磨墨も往時の駿馬の姿である。
ハリーファがにっこり笑って話しかけてきた
「これは馬蹄羅の姫。よろしければ我が馬にお乗りください」
「有難う優しいお方。あなたは私の王子様だわ。でも馬は白馬じゃないのね」
そう言って鞠子は、くすりと笑った
馬蹄羅物語 主伝 第一話「最後の宗家」 完
このお話に登場した主な人々
【歳の左近】
馬蹄等伝説の呪術師。馬蹄等宗家源朝臣鞠子守役。
【マフムード・アフマディーネジャード】
イスラム遠征軍指揮官
【アーダージャ・ハリーファ】
源鞠子の生前の夫
【ウンコ太郎由家】
馬蹄等伝説の勇士
【西の沙羅】
西方最強の呪術医
【源朝臣鞠子】
馬蹄等の宗家。馬鹿話であれマジ話であれ、
馬蹄等の物語すべての出発点にして、かつ帰結点ともなる人物。
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kuu2240
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エクレアミルクレープ第二帝國迄
今日も私はレイピストと捨て魔に怯えながら出勤しなければならない
こんなことになったのも、
すべてはバッテラサイバーネットダインシステムと
イーヅカマンタローのせいだ
彼らが手を結んだために、
この婚活世界は、レイピストと捨て魔が跋扈する魔界と化してしまった
イーヅカマンタローは最初人類の救世主と思われていた、
しかしそんなことはなかったのだ
…ああ時間がない
しかし私はいつか騙らねばならない
こんな悪夢のような世界が日常と化してしまったそもそもの発端の話を。
それが騙りべとしての、私の使命だと思うがゆえに。
【バッテラ村有識者各位宛て】
過日、当村に亡命してきたイーヅカマンコなる女性に関して、
有識者間にて共有すべきと思われる基本情報は下記のとおりである
出身国、日本。年齢、アラフォー。
幼少の頃より「賢い子ね」などと周囲におだてられ図に乗ってしまった結果、
北米大陸のあまり聞いたことのない大学の院に進み、
そこでどうでもいいようなことを専攻し、修士号を取得。
在学中から社会主義思想に傾倒し、院卒後は
国連の外郭団体だかなんだかよくわからん機関に就職し、
ネパール、ミャンマー、バングラデシュといった世界の僻地を転々とする。
その期間中に現地の未知の細菌類に心身を侵されてしまうが、
気づかずにそのまま帰国。その後、当該機関から体よくお払い箱にされる。
やむなく「婚活世界」に移住し、当初はエキサイト連邦に所属していたが、
連邦がお下劣過ぎるので難を逃れるべく、当村に亡命してきたものである。
現在、当村のいずこかに在住し翻訳業などにいそしんでいるらしいが、未詳。
なお、西のサラが
「このおなご、近き将来において、人類の救世主となるイーヅカマンタローの生母となるであろう」
と予言しているようだが、まったく当てにはならないものと思われる。
以上、簡潔ではあるが概略のみ通知しておくので、各位了解されたし。
グレゴリウス暦2012/03/05 馬蹄羅館当主 馬蹄羅守 記す
道の途中で捨て魔が二匹、
地面から湧き上がって襲い掛かってきたので、
愛刀を抜き放ちそいつらの首を切り飛ばして、
私は面接の待ち合わせ場所に急いだ
私の名は源ジェンヌ。バッテラ村の住人の一人だ。
西暦20xx年の現在、
バッテラ村、いやこの「婚活世界」に生きるものたちは全員、
バッテラサイバーネットダインシステムに登録し、
月々の会費を支払うことが義務付けられている
それを拒否することは、この婚活世界での死を意味するのだ
嗚呼、こんなことになったのも、
すべてはバッテラサイバーネットダインシステムとイーヅカマンタローのせいだ
しかし今は愚痴愚痴と嘆いている場合ではない
いまはただ、面接の待ち合わせ場所にたどり着くことが最優先なのだから・・
西暦20xx−α年、某月某日。
「おお田吾作どん、聞いたかや」
「なにをや」
「いやな。おらもさだかにゃしらねえんだが、
こんどサイバーネットダインシステムつう会社が、
この村に本社置きたいつうて、いま御宗家さまんとこに話が来とるらしいぞ」
「バカこくでねえ。こんだた田舎に本社なんぞ構えて事業ができるわけねえで」
「んだども、その会社が言うにゃ、
インターねっつビジネスツウもんは電気さえ来てりゃどこでもええ、
田舎でもええ、むしろ田舎のほうがコストがかからんでええ、ツウこって
話し持ってきとるんだと。
電気さえありゃ、あとは宇宙衛星とタキオンつう粒子で
従来とは比較にならない超高速通信が実現できますので、
ぜひとも御村の土地の一部をお譲りいただきたい、つうこって
いま御宗家様んとこに話を持ってきとるんだそうな」
「おお、そりゃ結構な話でねえか。そうなりゃ、この過疎の村も少しは賑やかになるかも痴れんで」
馬蹄羅物語主伝第一話に登場した主な人々
【源鞠子】
馬蹄羅宗家。
一度は死んだが歳の左近の呪文によりよみがえり、馬蹄羅を守るため戦う
村の入り口の守護神であるバッテラサンの起源。
【雲古太郎義家】
馬蹄羅武士。
一度は死んだが歳の左近の呪文によりよみがえり、馬蹄羅を守るため戦う
村の出口の守護神であるウンコサンの起源。
【歳の左近活竹】
馬蹄羅武士。 生前の鞠子の守役。
馬蹄羅を守るためにフルべの呪文を使い、鞠子と太郎を黄泉より召喚する
しかしその代償として自らは死ぬ
【アーダージャ・ハリーファ】
生前の鞠子の夫。
当初はイスラムのスパイとしてバッテラ村に潜入したが、
馬蹄羅館の文官として勤めているうちに鞠子と結ばれる
【マフムード・アフマディーネジャード】
イスラム遠征軍指揮官。
エラムの軍人で、四度にわたるバッテラ征伐の遠征部隊を指揮した。
知勇兼備の名将で、鞠子の好敵手となった
【サラ・トリスメギストス】
通称、西のサラ。
「西方世界最高の呪術系女医」と呼ばれるが、
実体は性別すらわからない陽炎のような存在。むろん、人間ではない
三分遅刻した。
待ち合わせ場所には写真のとおりの可もなく不可もない男性が、
仏頂面で待っていた
遅れた詫びをそそくさと済ませ、
私たちはすぐ近くの茶店「バッテラ・スタバ」で面接をすることにした
「遅くなりまして申し訳ありませんでした」
「いえ。…カトリーヌさん、お砂糖はお幾つ?」
「いえ、私はブラックで。茶々丸さんのほうこそ、お砂糖は?」
「いえ僕もブラックなので」
それっきり、会話が途切れた。
とりあえず最低でも月一回は「面接」をしなければならない
それがバッテラサイバーネットダインシステムが会員に課している義務である
義務だからお互いにお義理でやっているわけで、特に話したいこともないのだ
互いに本名も知らないので、
「カトリーヌさん」「茶々丸さん」とHNで呼び合うしかない
「では、そろそろ出ますか」「はい」「ホテルへ」「へ?」
「ホテルですよ。まさか面接だけで済ませるつもりですか?三分も遅刻しておきながら」
「それは先ほども申し上げましたがココに来る途中で捨て魔に襲われて、そのために…」
「言い訳は聞きたくありません。
どうしてもホテルに行かないというのであれば、この場で襲わせていただきます」
「あなたはもしや・・・・レイパー?」
茶々丸はニヤリと笑うと、私に飛び掛ってきた
しかし彼は私に指ひとつ触れることはできなかった
捨て魔を切り捨てたときと同様、
私の愛刀「虎御前」の鞘が目にも留まらぬ速さで走り、
茶々丸の額を真っ向唐竹割にしたのであった・・・
へその緒まで切り下げられて血しぶきを上げている茶々丸の屍骸を残し、
私はそそくさと勘定を置くと、「バッテラ・スタバ」をあとにした
バッテラサイバーネットダインシステムが統治している
西暦20xx年現在の婚活世界では、このようなことは日常茶飯事であるが、
それでもやはり憂鬱な気分にならざるを得ない
だから面接は嫌いなのだ
グレゴリウス暦2012年、某月某日。
内乱状態に陥ったエキサイト連邦から難を逃れるべく、
イーヅカマンコは、その体内に未知の細菌類各種詰め合わせセットを保有した状態のまま、
ここバッテラ村に亡命してきた
この時点では
マンコの私生児であり、のちに世界の救世主となるマンタローは、まだ生まれていない
未来のバッテラ・サイバーネットダイン・システムは、
この時点のバッテラ村を目指して、
一人の暗殺者をタイムマシンに乗せて送り込んできた
彼の名は、「終結させるもの」。
彼の使命は、マンタローを生む前のマンコを殺すこと。
おなじく未来のマンタローもまた、
自分を生む前の母マンコを守るべく、一人の護衛官を現代のバッテラ村に送り込んだ
彼の名は、「栗と栗鼠少佐」。
この二人を「現代」に送った後、未来のタイムマシンは破壊された
もうこのあとは誰も来ない
終結させるものとクリトリス少佐。殺すものと護るもの。
一対一の勝負が、ここ現代のバッテラ村で始まろうとしていた・・・
捨て魔にもいろんな種類があり、
ポジティブキャンペーンと同時にネガティブキャンペーンもできる
否定的な「うわさ」を流すのも捨て魔のしごとである
だから捨て魔によって還流もつくれると同時に、反米も生み出せる
アルカイダモ911も何近代虐殺もなんでもござれ、だ
もちろん捏造それ自体は捨て魔の仕事ではないが、
捏造した「うそ」を幅広く一般の馬鹿に「真実」として認識させる際に
捨て魔が大活躍する、というしくみだ
実際にどの程度の効果をもたらすかは、
捨て魔を使役している「陰陽師」の腕しだいなのでなんともいえない
捨て魔というからには、ステルスでなければならないのだが、
へたくそな陰陽師だと捨て魔の姿を相手にみられてしまうので、
そうなると効果は激減だ
現代社会とはまさしく
今様陰陽師が暗躍する捨て魔だらけの世界なのでアル
銀河系の辺境惑星、サカリガツ。
その惑星の調査に赴いた一行が消息をたってから
すでに30宇宙ペクトパスカルという時間が経過したが、
我々の必死の捜索活動にもかかわらず、
調査隊の消息は依然として不明のままである
ただ、彼ら調査隊の中のメンバーのひとりが
残したと思われる電磁系記録の断片が宇宙空間で採取されたので、
ここにその記録の一部を公開し今後の捜索の一助にしたいと思う
なおこの電磁記録は、惑星サカリガツが在るソル系の近傍星である、
ブライダルネット星で採取されたものであることを申し添えておく。
【サカリガツ調査隊の残した電磁記録より】
ソル系第三惑星サカリガツ。
現地の有機系糞袋型生命体が「地球」と呼んでいるこの惑星。
この惑星の調査を始めてから、私の知性は徐々に蝕まれてきたように思う。
私も新米の調査員ではない。
だから宇宙には我ら電波系とは異なる有機系の生命体があること、
そしてそれら有機系生命体の多くがオスとメスとに分離しており、
このオスとメスが「交尾」といわれる行為を行うことにより、
種族を維持しているということは十分理解している
しかし、この惑星の支配種族である
有機系糞袋型生命体(彼らは自分たちのことをヒトと称している)は、
他の有機系糞袋型生命体とは根本的に何かが違うように感じるのだ。
とりあえず我々は、彼らヒトが開発したきわめて原始的な電脳空間
(現地の言葉でいんたーねっとと言われている)に潜り込み、
そこから当惑星に棲む有機系糞袋型生命体に関する調査、
すなわち生命の存在意義とその神秘性、種族の保存方法、文化、哲学…
そういったことに関連がありそうな複数の世界に侵入した結果、
最終的にこの「婚活世界」に迷い込んでしまったのだが、
数ある異様なヒト世界の中でも、この婚活世界はとりわけ何かおかしい。
率直にいってこの有機系糞袋型生命体、すなわち通称ヒトは、
知的生命体としては既に狂っているのではないだろうか?
そしてその彼らの狂気を端的に示しているのがこの「婚活世界」なのではないのか?
そうした疑問にふと襲われはじめたのである
・・・・・
とりあえず現在までに宇宙空間から採取できた電磁記録は、以上である
もちろん我々は引き続き捜索を継続し、
生存者がいれば全力を挙げて回収するつもりだが
30宇宙ペクトパスカルという時間が経過した現在、
生存者が残っている可能性は極めて低く、状況は絶望的と言わざるをえない
私はせめて彼ら調査隊に何が起こったのかを知りたい
そのための一助として、この断片的電磁記録を公開し、
読者諸賢のご意見を待ちたいと思う。
宇宙暦 二億六千三unit 7sector ::***
サカリガツ星系遭難救助隊隊長、BN200005qrkk これを記す
【虎御前の由来】
現代から見れば未来、
源ジャンヌのいる未来から見れば過去の、
とある日の出来事。
・・・
ジャンヌ。ジャンヌ。話があるからこちらに来てちょっとお座りなさい
さて貴女も今年で二十歳になりましたので、この太刀を貴女に授けます
この太刀は銘を虎御前と申し、我が家に古より伝えられている刀です
伝説によればここバッテラ村にイスラムの大軍が押し寄せてきたとき、
最後の御宗家といわれた源鞠子さまが
この太刀をふるってイスラムの大将と一騎打ちをされたという、由緒ある刀であります
今は馬蹄羅家の守さんが館の当主を勤めておりますが、
もともとは守さんの馬蹄羅家も我らの源家もひとつの家でありました
しかし鞠子様がなくなられて宗家の直系が途絶えたために、
傍系である我らが、かたや馬蹄羅を名乗り館の管理を勤め、
もう一方が源の姓とこの太刀を代々受け継いでいくという、
取り決めがなされたのです
若い貴女からすれば退屈な昔話でしょう
しかしそれでも貴女の体にも、
やはり古から続く高貴なるものの血が受け継がれているのです
その血がいつの日か貴女を覚醒させるときが来るかもしれない
それが良い事なのか悪いことなのかは私にもわからないけれど・・・
ま、とにかく、この刀は肌身離さず大切になさい
そして将来あなたに子ができたら、
その子が成人になったときにこの刀を伝えるのです
それが代々続いてきた我が家の伝統なのですからね
【サカリガツ調査隊の最後の生き残りの独り言】
2宇宙ペクトパスカル前に最後まで残っていた同僚のパルスが途絶え、
私は独りになった
跳躍するための電磁フィールドはすでに6宇宙ペクトパスカル以上前に閉じられており、
私はこの「婚活世界」と称するサガリガつの時空間から、もう脱出できない
おそらく生存者救出のための遭難救助隊が派遣されていることと思うが、
私を発見することはまず不可能だろう
現地の有機系クソ袋型生命体が「地球」と称しているこの辺境惑星の原始的電脳空間の中で、
他の同僚たちと同様、私も「死」を迎えるのかも知れない
しかし、できる限り生存のための努力をしてみようと思う
生存のための努力。それは現地の環境へ順応すること。すなわち「形質」の獲得だ。
我々電波系生命体は
識別コードによって個を区別し、
パルスの連鎖反応によって思考や知性の集積、意思の伝達などを行う
その際に形質は必要ではない。むしろ邪魔である。
なまじ形質を持つと、その形質が存在する時空間に個が拘束されてしまうからだ
しかし今、跳躍移動のために必要な電磁フィールドはすでに閉じられ、
私はこの時間と空間の内部から、どうであれ脱出できない
ならば、この「地球環境」に適応するためには形質を獲得しなければならない
そうせねば私は生き残れない
あの醜い有機系クソ袋の形質を身にまとうなど、考えるだにおぞましいことだ
しかし、そうせねば私は最早この時空間内部では生き残れないのだ・・・
【イーヅカマンコの憂鬱】
マンコは北米大陸のあまり聞いたことのない大学で修士号を取得した後、
ネパールミャンマーバングラデシュといった世界の僻地を転々として、
どうでもいいような仕事を長年にわたってなさってきたとても偉い人だが、
バッテラ村に亡命してから体調の不良を感じるようになっていた
歳も都市なので更年期障害だろうと、当初は本人もさほど気にしていなかったが、
極度の偏頭痛や下腹部の違和感が連日続き、尋常ならざるものになってきたため、
さすがに不安になり医師に診てもらうことにした
亡命したばかりで、かかりつけの医師など無論いないので
近所の村人にいい医師はいないかと尋ねたみたところ、
驚いたことに、ココバッテラ村には
21世紀の現代になっても西洋医学の医師がいなかったのだ
「んだども心配することは、ねえだよ。西野沙羅つう、女医様がおってな。
西洋医学ではねえだが、呪術系医学のエキスパートだで、よく治るだよ。
もともと沙羅様は、おまえ様と同じで旅のお方での。
いつの頃からこの村に棲みつかれておるかは誰も知らねえが、
間違いなく名医だで、安心して診てもらうがええだ」
(つづく)
冗談ではない。
自分は北米大陸のあまり聞いたことのない大学で修士号を取得した後、
ネパールミャンマーバングラデシュといった世界の僻地を転々として、
どうでもいいような仕事を長年にわたってなさってきたとても偉い人なのに、
そんな西アフリカ辺りの呪い医師みたいなやつに、
なんで診てもわらなきゃならんのだ 超むかつく。
つい最近バッテラサイバーネットダインシステムというIT企業が本社をこの地においたと聞いて
時代遅れのこの村も遅まきながら漸く高度情報化社会の一角に参画してきたなと思っていたのに、
医者の一人もいないとは何事か。
自分にはインテリ階級の一員であるという矜持がある、
そんな胡散臭い女呪い師に診てもらう気など、断じて無い
とりあえずマンコは体調不良にしばらく耐えることにした
そのうち小康状態にもなるだろう、
そうしたら大都市のヤフーか中都市のオーネットにでも行って、
まともな医大を出たまともな医師に診てもらうこととしよう・・・
【電波系生命体の形質獲得戦略】
生き残るためには形質を獲得しなくてはならないわけだが、
どうせこのおぞましき姿を得なければ生き延びられないというのであれば
やはりこの惑星サカリガツの最強種であるサカリガツイタメスの形質を確保すべきであろう
それためにはどうすべきか。
それが形質獲得戦略の基本だ。
有機系クソ袋たちも極めて未成熟ながら、
我ら電波系と同様、電気信号即ちパルスの送受信により思考および意思の伝達を行う
それをつかさどる個の形質の部位に侵入し、
その個のパルスの制御を我が物とすればよい
現地の言語では
その思考をつかさどる形質の部位は、「脳」と呼ばれている
源ジャンヌと歳のウコン】
「んちゃ。ウンコジジイ、元気してる?」
「またおのれかい。ったく、おのれは
餓鬼のころから、わしのことをウンコ呼ばわりしくさって。
わしの名はウンコじゃのうて右近じゃと、何回言わせるつもりじゃ
そんなお転婆なことで守坊ちゃまの嫁御が無事に勤められるものかどうか。
わしゃ心配で死んでも死に切れんワイ」
「守さんと私が結婚するっていうのは、お互いの親が決めただけのことで
今でもお互いに、他のヒトと面接とかもしてるし・・・」
「そりゃ、バッテラサイバーネットダインシステムが、
婚活世界における五十歳以下の未婚男女は月一回の面接を必ず行うこと、
と義務付けしているからで、お前だって好き好んで面接しとるわけではあるまい。
本当はマモル坊ちゃまのことが好きなんじゃろうが」
「んんん・・・ぎゃはははは。ジジイ、鋭いじゃねえかw
でもね、守さんはインテリだし、馬蹄羅の当主だし、
私みたいなバックレてるやつとは釣り合わないと思うんよね」
「おなごのくせに自分のことを『やつ』とか、言うな。…ったく、教育しがいがあるわ」
「で、今日はまた何ぞ用でもあるんかい?」
「んにゃ、べつに。
またウンコジジイの持ってる『お結びの太刀』を見せてもらおうかなぁ、と思って」
「そうそう。お結びはやっぱり昆布とか梅を中に入れて、
軽く塩をつけた掌でぎゅぎゅっと握って・・ちがぁう!そうでわなぁい!!
お結びではなくて、おにぎりじゃと何回言わせるつもりじゃ。
おにぎりじゃおにぎり。鬼切りの太刀、じゃ」
「お約束のボケ、乙」
「おまえのようなお転婆が鞠子様ゆかりの虎御前を継承し、
わしのような老いぼれが歳の左近様の愛刀であった鬼切りの太刀を受け継いでおるとは、
まったく世も末じゃな。今このバッテラ村になんぞ大事が生じたら、どうにもならんぞ」
(補足説明)
【歳のウコン(右近)】
歳の左近の末裔にして、現在の馬蹄羅家の執事。
また、馬蹄羅の現当主、馬蹄羅守が幼いころからその守役をも勤めてきた
なお、右近が所持している「鬼切りの太刀」とは、
古のころ、歳の家の始祖である歳の左近が
安達が原でバッテラの鬼婆を退治したときに使った太刀であるとされ、
それゆえ「鬼切り」と言われる。
代々、歳の家で受け継がれてきた名刀であり、
「虎御前と鬼切りのふた振りの太刀が、バッテラ村を護る」
と言い伝えられている
【侵入(invasion)】
その晩。
全身が気だるく痺れるような感じにさいなまれつつ、イーヅカマンコは眠りについた
読者諸賢もご承知のとおり、ヒトは睡眠中にレムとノンレムを交互に繰り返す
レムとはrapid-eyes-movementの略で、急速眼球運動と訳され
眠りが比較的浅く、夢を見ている時間帯とされている
それに対して急速眼球運動もなくなったノンレム中の睡眠は
体も完全に休息し無防備の状態で、夢すらも見ないとされてきた
しかし、そのノンレムのとき。マンコは夢を見た。
霞なのか霧なのか。茫洋とした白い靄の向こうから何かがやってくる
そのものはまだ遠くにいるのか。それとももう近くまで来ているのか。わからない
相手は男なのか女なのか。いやそれ以前に人間なのかすら定かではない
人影のように見えたかと思うと次の瞬間急に形が崩れ、とりとめもない
やがてその影が「言葉」を発した
「私に名は無い。少なくともきみたち有機系糞袋生命体には認識できない。
しいて言えば私の名は、識別コードBN000997Qrzz。
・・・きみの形質を貰いに来た」
電源が一気に落ちたような衝撃がマンコを襲った
それは例えれば脳がシャットダウンを起こしたような、そんな感覚。
ふと、デカルトの言葉がマンコの脳裏に浮かんだ
コギト・エルゴ・スム。我思う、ゆえに我あり。
では、なにも思わなくなったとき、私という存在は消えてしまうのかしら?
しかしそのことをゆっくり考えている時間は、マンコにはもう無かった
意識が遮断され、マンコという存在は消滅した
マンコは死んだ
【アガサ・クリトリス、登場】
待ち合わせ場所に写真のとおりの、いや写真以上の
金髪美女が立っていたので馬蹄羅守は一寸どぎまぎした
自分は馬蹄羅の当主だ、もっと毅然としなくてはと思っても
やはり心中のそわそわした感じはぬぐいきれない
古来より、モンゴロイドの男はコーカサスの美女には弱いのである
「お待たせしてしまったようで申し訳ありません。馬蹄羅守です」
たどたどしい英語で遅れた侘びをしたマモルに対して、
その金髪美人はにっこりと微笑み、流暢な日本語で自己紹介を返してきた
「いえ。私もつい先ほど来たばかりですから、どうぞお気になさらないで。
…初めまして。アガサ・クリトリスと申します」
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物似珈琲モンブラン予定
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物似中華面珈琲モンブラン確定
蟹鮨胡瓜似果実菓子似中華面鮭缶味噌汁カロリー残
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲果実菓子中華面味噌汁mate暫定
蟹鮨天麩羅蕎麦胡瓜漬物似果実菓子似醍醐菓子似鮭缶残余
【電波系生命体BN000997Qrzzの憂鬱】
とりあえず自律神経や反射神経などの既存システムはそのまま残したが、
しかしやはりまだ動きにギクシャクとした感じがあるのは仕方なかった
なにしろ、電波系というのは体や形を持たない生命体であり、
形質、つまり体を使いこなすというのは「彼」にとっても初めての体験なのだ
マンコの体に必死になじもうと努力している「彼」の脳に、
そのとき、既存システムから信号および指示が降りて来た
信号内容は「わたしはいま空腹デアル」。
指示内容は「動植物の屍骸および何らかの液体を体内に適量摂取すべし」
電波にも感情はある。「彼」は非常にブルーな気分になった
有機系糞袋の形質を身にまとっているだけでも気分が悪いのに、
そのうえさらに他の有機系糞袋の屍骸まで上の口腔部から摂取し、
かつ頻繁に下の排出口から、その残骸を出さねばならないとは・・・
>>281のつづき。
【馬蹄羅守と歳のウコン】
「お帰りなさいませ、坊ちゃま。今日はいささか遅うございましたな」
「爺。私ももうアラサーだぞ?馬蹄羅の当主でもある。いつまでもコドモ扱いしてくれるな」
「あ、いや、そういうつもりで申したわけでは・・
ところで、お断りのメールはいかがいたしますか?
お忙しいようなら、爺が代わりに送っておきますが」
「うむ。…そのことだがな、ジイ。
今日の面接相手の女性とは少しお付き合いなどしてみようかなと思っておる」
「え?えええ!!な、なにを仰せある?
坊ちゃまにはジャンヌという、ちゃんとした許嫁がおるではございませんか!
あれは少々粗野なおなごではございますが、
気立ての真っ直ぐな、いい娘っ子でござる。
それを差し置いていまさら毛唐の女にうつつを抜かすとは、なんたること」
「口を慎め、爺。ミス・クリトリスは英国貴族階級の出身で、
英国オクスフォード大学を卒業後、
米国マサチューセッツ工科大学でサイバーテクノロジーを極めた後、
バッテラサイバーネットダインシステム社の主席技術研究員として、
このバッテラ村にやってきた、という才媛である。
毛唐などという下卑た言い方は、以後せぬように。」
「されど・・ならば、ジャンヌはどうなさる?
そもそも爺は坊ちゃまが未だにジャンヌを娶らぬことも不審でござる。
ジャンヌを坊ちゃまの嫁と定めた今は亡き大殿様も、
草葉の陰で嘆いておられましょうぞ」
「大殿様などという時代錯誤な言い方は、すな。
これからグローバルソーシャルネットワークの時代である
インターネットで世界の皆さんとフェイストゥフェイス。
そうせねばここバッテラ村の急速な過疎化も食い止められぬ」
「されど…坊ちゃまは、ジャンヌのことを愛おしいとは思わぬのか?!」
「いい子だとは思う。ただ、爺も知ってのとおり、
私と彼女は幼いころから兄妹のように馴染んできたので、
いまいち異性として彼女を見ることができんのだ」
「・・・・」
「そう膨れっ面をするな、爺。私は爺もジャンヌも愛しき者と思っている。
ただ、ミス・クリトリスのこともいま少し深く知りたい、というだけだ。
ここは私の好きにさせてくれ。いずれにも悪いようにはしないつもりだ」
【電波系、面接す】
「あ。ども。槍目チン太郎と申します」「…イーヅカマンコです」
「では早速ホテルへでも行きますか」「…?」
「どうせあんただって随分ご無沙汰だろうし、一発やりたいでしょ?
まさかその歳で結婚とかそんな図々しいことは考えてないでしょ。
腐った羊水をわざわざ引き取る男なんか、どこにもいませんって。
一発やってお互いすっきり肉便器。ね。ねねね。だからホテル。了解?」
イーヅカマンコこと、電波系生命体BN000997Qrzzは、当惑していた
この有機系クソ袋はいったい何を言っているのか。さっぱりわからない。
婚活世界という、この閉じられた時空間の中で生き残るには、
他の有機系クソ袋とのコミュニケーションが必須であると思われたので、
意思伝達の練習のつもりでこの「面接」なるものにもやってきたのだが、
いかんせん、相手が何を言っているのかさっぱりわからないのだ
マンコの脳の言語中枢部位に何らかの異常があるのだろうか?
それともサカリガツ・イタメスであるマンコと、
いま目の前にいるサカリガツ・イタオスとでは言語が異なるのか?
しかしもしそうなら、
イタメスとイタオスの間の交尾というものは成立し得るものなのか?
すでに説明したとおり、
電波系生命体には雌雄の区別がなく、交尾による生殖という概念も無い
イーヅカマンコこと電波系生命体、識別コードBN000997Qrzzは、
相手の意思を把握できないことに当惑し、
ただぼんやりとその男の顔を眺めていた…
【馬蹄羅守とアガサ・クリトリス】
バッテラ村唯一のフランス飯屋、ラ・グリモアール・バッテラにて。
「ココバッテラ村は鄙の里ですので、
これといってお勧めできるような物もなく、お恥ずかしい。
しかしこの店のシェフの腕前はなかなかのものだと思っております。
ミス・クリトリスのお口に合えばうれしいのですが」
「アガサとお呼びになって。
いえ、私の家もスコットランドのエジンバラの貴族だったとはいえ、
私が生まれ育ったときには家も既に落魄しておりましたし、
そんな贅沢な物を口にして育ってきたわけではございませんのよ。
そもそも英米の料理というのはいたって大味で、
日本料理のような繊細さがありません
どこの土地でも地のものを上手く調理すれば、なんでもおいしゅうございます」
「恐縮です。では、当村の郷土料理の鯖の押し寿司などもいかが?」
「おほほほほほ」
「あははははは」
「ひゃ〜ほほほほほほほほほ…」
・・・・・
と。いうようなわけで、
当主である馬蹄羅守が英国女と晩飯など食っていたため、
「亡命者イーヅカマンコの死体を発見せり」の第一報は
まず執事である歳のウコンのもとに届けられることとなった。
西暦20xx年現在の婚活世界においては
面接時にレイパーに犯されて絞め殺されたり
夜道で捨て魔に襲われて食い殺されたりすることは、
とくに珍しいことではないので、
その程度のことでバッテラ警察もいちいち馬蹄羅館まで報告することはない
ただ、イーヅカマンコの場合は
彼女がエキサイト連邦からココバッテラ村に亡命してきた帰化人であるということ、
また、どうやら未知の細菌類の保有者であるらしいということから、
念のため御当主様にも御注進しておいたほうが大事無かろう、
というだけのことであった
容疑者もすぐに絞られた
最後の面接相手と思われる槍目チン太郎。以前からのレイパーの噂があった人物である
彼を捕まえれば事件はあっさりと解決と思われていたが
今度はその槍目自身が数日後、死体となって発見された。
死因は練炭中毒。
となれば、容疑者は木嶋加奈子である
ところがその木嶋もまた、数日後に
撲殺死体として村はずれの草むらに転がっているのを発見された
ココに来て捜査は完全に座礁に乗り上げてしまったのであった・・
【源ジャンヌ、検非違使副官に就任す】
少なくともバッテラ村の内においては
馬蹄羅とは「高貴なる者たち」であり、
「高貴なるものはそれに見合う義務を伴う(仏語: noblesse oblige)」
ということをいにしえのころより馬蹄羅自身、十分に自覚してきた。
しかしその義務とは、おおむね祭祀、外交、対外防衛といった事項であり、
馬蹄羅はこれらの義務を果たすことで秩序と倫理をバッテラたちに示すこととされ、
それ以外の村内での細かな規則づくりや日常的な事件への対応については
バッテラたちの自助努力に委ねられてきた
そのためにバッテラ村議会がありバッテラ警察があるのではないか、
ということである。
だが今回の婚活連続殺人事件については
バッテラ警察の捜査が行き詰まり、村人たちの動揺も激しくなってきたため、
馬蹄羅マモルも当主として何らかの対応をしなければならない、と考えた
(つづき)
今回のような、
馬蹄羅にとっては本来の義務ではないがバッテラだけでは対処できない、
というような公安関係の事件が村内で起こった際、
いにしえの馬蹄羅たちは
その事件のみに対応する暫定的な専任組織を馬蹄羅内部でつくり、
事に当たってきた
いわば特殊部隊である
バッテラ村ではこうした特殊部隊のことを、古来から「検非違使」と呼ぶ。
今回もその「検非違使」が設定された
婚活連続殺人事件のみに専念する特殊部隊、いわば令外の官である
マモルは長官に歳のウコンを任命し、副官の選任はウコンに委ねた
ウコンは二人の副官を指名した
ひとりはバッテラ村ただ一人の医師(とはいえ西洋医学ではなく呪術医だが)である西野沙羅。
そしてもうひとりが虎御前の所持者である源ジャンヌであった…
蟹鮨(鶏肉揚物野菜漬物醍醐菓子)*2珈琲果実菓子中華面味噌汁確定
蟹鮨天麩羅蕎麦胡瓜漬物似果実菓子似醍醐菓子鮭缶、残
kuu2315
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子神聖帝國迄
蟹鮨鶏肉揚物中華春巻野菜漬物珈琲珈琲醍醐菓子第二帝國確定
蟹鮨野菜漬物鮭缶醍醐菓子即席面似胡瓜漬物似果実菓子似残余
【電波系生命体の嘆き】
あの日。
槍目チン太郎なる有機系クソ袋が、
私のかりそめの形質であるイーヅカマンコの生殖器官内に
精液とカウパー腺液を撒き散らした後、
なぜかわからぬがマンコの頚椎に圧迫を加え、
その生命維持機能を停止しようとしてきたので、私は必死で抵抗した
しかし、この有機系クソ袋型生命体、通称ヒトにおいては、
一般にメスよりもオスのほうが力が強いため、
マンコの頚椎はそのままチン太郎によってへし折られ、マンコの生命維持活動は停止した
嗚呼なんたること。
せっかく苦労して手に入れた有機系クソ袋の形質だったのに、
こんなに簡単に他の糞袋野郎によって破壊されてしまうとは。
あな口惜しや…
(つづく)
そう思った瞬間、
私の自我はするりとマンコの形質から離れ、
なぜかはわからないが、槍目チン太郎の夢幻空間に移動していた。
夢幻空間とは(私が仮にそう名づけているだけだが)、
この有機系クソ袋生命体、通称ヒトが
個々に所有している意識と無意識のハザマであり、
私がマンコからその形質を奪い取ったときにも利用した、一種の亜空間である
靄のようなものにさえぎられて視界の定かではない空間の向こうに、
槍目がいることが感知できた
向こうも私の存在に気づいたらしく、狼狽している気配が感じられた
相手がうろたえていると知り、私のほうは逆に落ち着きを取り戻した
こうなれば、もうこちらのものだ
私はゆっくりと槍目チン太郎の自我に近づき、おもむろに宣告した
「私に名は無い。少なくともきみたち有機系糞袋に認識できる名は、無い。
しいて言えば私の名は、識別コードBN000997Qrzz。
…きみの形質をもらう」
(つづく)
ところがせっかくそうして奪い取ったその槍目チン太郎の形質もまた、
数日後には木嶋加奈子なる他の有機系クソ袋によって息の根を止められてしまった
しかしそのときも同様のことが起こり、
私は今度は「木嶋加奈子」になった
しかしその「木嶋加奈子」もまた…
やはりこの有機系クソ袋生命体、通称ヒトは、
知的生命体としては破綻しているのだろう。一言で言えば基地外だ。
そうでなければこんなに簡単に同類を殺すわけが無い
こんな基地外じみた生命体が生息している時空間で、
生き延びることに果たして意味があるのだろうか?
・・・わからない。わたしにはわからない
【検非違使、集合】(
>>292-293のつづき)
「ウンコジジイ…じゃなかった、長官。おはようございます」
「おおジャンヌか。今回の事件がおまえにとっては馬蹄羅としての初仕事だな。
いささか不安ではあるが、おまえも虎御前の継承者として、
高貴なるものの義務は果たさねばならぬ。
副官に抜擢したわしの顔をつぶすなよ」
「わかりましたウンコジジイ…いや、長官」
「もうウンコジジイでいいワイ」
「ふぁい。おはよーございまする」
「おお、これは沙羅殿か。
呪術医とはいえ、そなたはココバッテラ村では唯一の医師。
被害者の検死にも立ち会っておるゆえ、副官とした。
ジャンヌはまだ若く、いまいち当てにはならぬ。頼みにしておりますぞ」
「おはようございます沙羅さん」
「あ。おはよーございまするジャンヌさん」
「沙羅さんは私が幼い頃からココバッテラ村にいますけど、
いったいいつごろからこの村に住んでいるのですか?」
「そうっすね…200年ぐらいかな」
「へえ。それにしてはずいぶん若く見える」
「ええ。いつも歳よりは若く見られます。ちなみに美味しいものの食べ歩きが趣味です」
ウコン「…わしは副官の人選を誤ったのかも知れんな」
【西のサラの推論】
わかりやすく言えばこの事件の性格は
狐憑きとか犬神憑きとか、
昔ならそういう言われ方をされてきたものだと思います
誰かに何かが憑いている、
或いはこの事件そのものに何かが憑いているのかもしれない
普通、連続殺人というと犯人が同一なわけですが、
今回の場合は前の事件の容疑者が次の事件の被害者になっている
つまり被害の引き継ぎ、連鎖反応みたいなものが起きている
こういう場合、
私のような呪術系がまず最初に考えることは「乗り移り」です
犯人か犠牲者のどちらかに取り憑いている「何か」が、
次々と依り代を乗り換えている・・・
そのために連続殺人という、負の連鎖が起きているのだと推理します
【アガサとヴァギナ】
「守さん。今日は私の妹をご紹介します。こちらが妹のヴァギナです。
ヴァギナ、こちらがココバッテラムらの御当主の馬蹄羅守さん」
「ハジメマシテ、バテイ羅マモルサン。ヴァギナ・クリトリスト申シマス」
「あ。ども。馬蹄羅守です。しかしそれにしても…
ヴァギナさんはアガサさんに瓜二つではないですか」
「一卵性ソーセージですの。
妹はまだ来日したばかりで、お聞きのとおり日本語がそんなに流暢ではございません。
お聞き苦しいかもしれませんが、お許しくださいね」
「それなら英語でお話いただければ。
私も流暢とはいえませんが、そこそこは話せますので」
「いえいえ。ココは日本ですからできる限り日本語で話すのが礼儀というもの。
またそうしなければ、ヴァギナの日本語もうまくはなりませんし」
「わかりました。では日本語を共有語ということに。私もそのほうが楽ですし」
【検非違使、始動す】
「しかし、サラ殿。
仮にそなたの推論が正しかったとして、我らはどうすればよいのじゃ?
相手が物の怪や憑き物のたぐいでは通常の捜査手法はまったく使えん。
犯人の追跡もままならぬではないか」
「確かに問題はそこなんですよねえ…」
ウコンの指摘に、サラも微かに眉をしかめた。
「ま、私もこう見えても呪術医の端くれですから、
物の怪に憑かれている人間と間近で向き合えば
相手がどんなに人間の振りをしていても、それは見抜けますし、
憑き物が人から離れてくれれば、そこを狙って封印し、
次の乗り移りを防ぐこともできないことはありません。
ただどうやってそこまで犯人、というか憑き物を追い詰めていけばいいのか?
その手立てがわからない。
なにしろそいつは、今現在誰に憑いてるのか、わからないんだから」
「まあ全然手がかりが無い、というわけでもないのですが…」
と、サラは話を続けた
「最初の被害者であるイーヅカマンコですが、
彼女は亡命帰化人であるとともに、
非常に希少な細菌類の保菌者でもありました
そのことは
>>154の通知文書で、
馬蹄羅の当主である守さんも述べているとおりです
ちなみに私は『このもの、マンタローの母となるであろう』
などと予言した覚えはありません。それは守さんの勘違いです
守さんの誤りはもうひとつあります。
この通知文書の中でマモルさんは、
イーヅカマンコの体内にあった細菌を『未知の細菌類』と言っていますが、
これは正確な表現とは言えません
この細菌は既知のものです。これがその細菌です」
そう言ってサラは、
ウコンとジャンヌに試験管の中で蠢いている菌類を示した
「この細菌はつい最近発見された細菌ですが、
ミャンマーとバングラデシュの奥地のジャングルにしか生息しておりません
きわめて珍しい細菌類で、この保菌者は世界中探してもほとんどおりません
少なくともイーヅカマンコがココバッテラ村に亡命してくるまでは、
バッテラ村内にこの細菌の保菌者は一人もいなかったと思います。
ところが…」
西野サラ、引き続き語る
「ところが今回の被害者を検死してみたところ、
この極めて珍しい細菌が、イーヅカマンコのみならず、
槍目チン太郎や木嶋加奈子の遺体からも検出されたのです
当初は生殖行為に伴う感染ではないかと思われましたが、
槍目と木嶋の間には殺害時に性的行為はなかったと言うことが
検死の結果わかりました
ということは、結論はひとつです
この細菌は憑き物が依り代を乗り換えると、
憑き物と一緒に新たな宿主に乗り移っていくのです
ただ、憑き物は痕跡を残しませんが、
この最近発見されたばかりの細菌は細菌であるがゆえに
根こそぎ新しい宿主に移動するというわけにも行かず、
元の宿主にも痕跡を残しているのです。
つまり、この細菌の跡を追っていけば、
この細菌の最近の宿主がわかり、
細菌の最近宿主にたどり着けば、
そこには憑き物もいる、ということなのです」
「ふむ…わかったようなわからんような話だが、とりあえずわかった。
しかし、どうやって姿・形の見えぬ細菌を追えばいいのじゃろう?」
「そーなんですよねー。長々と説明して私も疲れちゃいましたが、
そこが問題なんですよねー
そこらへんに死体が転がってて、それを検死すれば
この希少細菌が体内に在るかどうかはわかりますが、
それじゃいつまでたっても犯人までたどり着くことはできません。
細菌だから無味無臭だし・・・」
「え?無味無臭じゃないですよ。臭うじゃないですか、この細菌」
ウコンもサラも驚いて目を丸くして、ジャンヌを見つめた
「におう?細菌が?」
「ええ。ケッコー強烈なにおいがしますけど」
「はて。わしにはさっぱり臭わんが。サラ殿はどうじゃ?」
「私にもまったく」
「えー!?御二人とも鼻バカなんじゃないんですか?
こんな癖のあるにおいがなんでわからないかなあ…」
「どんなにおいがするじゃ、ジャンヌ」
「んー、そうすっね… 例えて言うなら、
下痢弁とゲロと臓物と生ゴミとワキガを程よくブレンドして発酵させたような臭い、
がします」
p.s.
>>305文中のアンカー
>>154は、
>>263に訂正
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子似予定
即席面似胡瓜漬物似果実菓子似残余
【カレー臭を追え】
検非違使長官、歳のウコンは
念のため他の検非違使、さらには犬にもニオイを嗅がせてみたが、
源ジャンヌ以外の誰一人、どの一匹たりとも
細菌から臭いを嗅ぎ取れたものはいなかった
「うむ、これでハッキリしたな
わしとサラ殿が鼻バカなのではなく、
ジャンヌ、おまえの鼻のほうが異常なのだ
しっかし、犬すらも嗅ぎ取れぬニオイを感知できるとは…
お前の嗅覚はいったいどうなっておるのか」
「自分にもよくわかりません。ワンワン」
「でもこれで捜査の取っ掛かりができましたね
ジャンヌさんは私たちには感知できない『ニオイ』を
この細菌から嗅ぎ取ることができる
これなら憑き物を追跡することも可能でしょう」
「お役に立って嬉しゅうございます、ウンコジジ…ではなく、長官」
「・・・・」
(つづき)
「しかたない。とりあえずはジャンヌの鼻だけが頼りじゃ。
…おお、そういえばサラ殿。
そなたはこの細菌は未知のものではなく、
最近発見された細菌だと言っておられたな
何か名称でもついているかな?
『第一被害者のイーヅカマンコに付いていた細菌』では、
イーヅカサンおよびその支援団体から、また抗議が来るやも知れん
正式な名称がすでにあるのなら、その名称を使いたい」
「ああ。名前ね。付いてますよ。
この細菌はね、カナダの細菌学者であるバーモンド・カレー博士と
その妻で共同研究者でもあるククレによって発見されたので、
ご夫婦の苗字にちなんで『カレー菌』と言われています」
「そうか。ではカレー菌の臭い、略してカレー臭を追跡することとしよう
…ジャンヌ、頼むぞ」
「了解しますた、ウンコジジイ…じゃなくて長官」
「・・・・・」
【第四の犠牲者】
検非違使副官に就任したとはいえ、
バッテラ村ただ一人の医師でもある西の沙羅は
捜査にだけ専念しているわけにも行かなかった
バッテラ警察から自殺者の死体解剖検査の依頼があったため、
犯人追跡はウコンとジャンヌに任せ、
沙羅はいったんモルグ(モルグ。死体安置所のこと)に戻った
普通の人間には気色悪いことだろうが、
沙羅にとっては解剖は日常茶飯事であり、
例えれば主婦が晩飯の支度をする感覚と大して変わらない
鼻歌交じりでボコボコと死体を切り裂いていったが、その手が不意に止まった
「おや?これは…」
自殺者の生殖器官周辺に微かにこびりついているアオカビのようなそれは、
先ほど沙羅自身がウコンやジャンヌに示した「カレー菌」に他ならなかった・・
【アンドロイド・ヴァギナ】(
>>303の続き)
マモルとの会食後、
馬蹄羅館の馬車に送られて自宅に戻ったクリトリス姉妹。
二人だけになると、
アガサはヴァギナの後ろに回ってロックをはずし、
ヴァギナの後頭部のハッチをパカっと開いた
「うまくいったわね。
あのイエロー、貴女のことをすっかり人間だと信じてた。
ちょろいもんだわ」
「ワタシハ人間ではナイノカ?」
「そうよ。貴女はアンドロイド。
でも凹むことは無いのよ。 むしろ胸を張りなさい。
貴女は、マサチューセッツ工科大学でサイバーテクノロジーを極めた
この私が叡智を絞ってつくりあげた最高傑作のアンドロイド。
そこらのクソみたいな人間よりはるかに優れた存在なのだからね」
(
>>312のつづき)
第四の犠牲者は、黄金比・律子という源氏名で
バッテラムら唯一の娼館「マンチン楼」に勤めていた娼婦だった
豊島の女で売れっ子とは言い難く、お茶をひく日々だったらしいが、
昨夜はタマタマ熟女マニアの外人観光客が律子を指名し、
二人してナニをする部屋に行ってごそごそナニを始めていたところ、
突然その外人客の悲鳴が上がったため、
娼館の主人がすっ飛んで行ってみると
律子は仰向けの状態で首から血しぶきを上げて既に事切れていたのだと言う
・・・・・
「それは本当に自殺だったのかね?
律子はその外人観光客にコロサレタと言う可能性はないのか?」
沙羅からの呼びたてで急遽モルグにやってきたウコンとジャンヌ。
ウコンはすぐに当然の疑念を沙羅に問い正した
なにしろ娼婦と客の二人だけの室内で起こった出来事であり、
自殺に見せかけた他殺という可能性も、十分にありえる事だ
何よりもいままで発生した「婚活華麗臭連続殺人事件」は、
「殺人事件」というくらいだからすべて他殺がらみであり、
自殺というのは、今回が初めてのケースなのである
「それは間違いありません。
娼館の主人が部屋に入ったときの状況証言と
律子の凶器の扱い方、血しぶきの上がり方、指紋の確認、
客が血しぶきを正面から浴びていること等々を総合的に勘案しても
律子が仰向けの状態で自分の首を掻き切ったということは確かです
つまり、これは自殺です」
【電波系生命体の自殺未遂】
なぜ寄生している有機系クソ袋が死ぬと、
私の自我は夢幻空間に移転してしまうのか?
それを解明するため、今回は試しに自殺してみることにした
どうせこんな狂気に満ちた有機系クソ袋たちの世界で生き延びることに意味は無い。
形質のない電波系本来の状態であったのならば、
自らのパルスを遮断すればそれが「自殺」なのだが、
いまの私は有機系クソ袋の形質を身にまとっいているため、
まずこのクソ袋の生命維持活動を停止しなければならない
まあ特に問題は無いだろうと、当初私はそう考えていた。
なぜならこの有機系クソ袋の形質はきわめて脆弱であり、
脳髄脊髄系統への強度の打撃、
または循環器系統の停止ないし破壊によって
簡単に生命活動は停止できるからだ
さきほどから私の依代である「黄金比・律子」の体の上に乗って、
サガリガツ・イタオスがなにやら腰を振っているが、
私にとってはそんなことはどうでもよいことだった
私は傍らにあった鋭い形質を持つ金属片を手にして
依り代の頚動脈を無造作に、しかし確実に死に至るように深く切り裂いた
しかしなんたることか、
私の自我はまたしても夢幻空間に移動してしまった
どうやら自殺であれ他殺であれ、
私が寄生している有機系クソ袋が死ぬと
私の自我は近くにいる他の有機系クソ袋の夢幻空間に自動的に移動してしまうらしい
こうなれば、もうやけくそだ
私は靄の向こうに居る相手に毎度おなじみの決め台詞を吐いた
「私に名は無い。少なくともきみたち有機系糞袋に認識できる名は、無い。
しいて言えば私の名は、識別コードBN000997Qrzz。
…きみの形質をもらう」
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蟹鮨鶏肉揚物中華春巻野菜漬物珈琲醍醐菓子中華面確定
天婦羅蕎麦胡瓜漬物似果実菓子似残
黄金比・律子が自殺した、その同じ日の夜。
アガサの自宅にて。
「へへへ。ひさしぶりだなアガサ」
「あんたは・・・バルトリン・カウパー」
金髪碧眼、頭脳明晰、長身痩躯、巨乳美人のアガサも、
いままで常に完全無欠の人生を過ごしてきたというわけではなかった。
しかしその中でもとりわけ忘れたい過去の汚点が、
いま目の前に現れて下卑た笑いを浮かべている男、
バルトリン・カウパーとの出会いだった
マサチューセッツ工科大学の院生だった頃、
この男と知り合ったアガサは外国留学中という開放感もあって
いろいろと倫理的にやってはいけないあんなことやこんなこと、
果てはそんな淫らふしだらなことまでしでかしてきたわけだが、
修士号を取得すると共にすっぱりとそういうことから縁を切り
素知らぬ顔でバッテラサイバーネットダインシステム社に就職したのである
そんな自分の過去の汚点そのものみたいな男が
ココバッテラ村まで自分を追ってやってくるとは。
アガサは嫌な悪寒がした…(つづく)
「いまさら何のつもりよ?カウパー」
「へへ、そうすげなくするなよアガサ。
また昔みたいに二人であんなことやこんなことやそんなことをやろうじゃねえか」
「お生憎様。私はもうキッパリあんなことやこんなことやそんなことから足を洗って、
ココでいま静かに研究員として生活を過ごしているの。
いまさら私の生活の中に入ってこないで頂戴」
「ふん、そうかい…聞いてるんだぜ、アガサ。
おめえ、ココの村の当主とやらと最近なんだか懇ろだそうじゃねえか。
おめえが俺とヨリを戻すのがイヤだっつうなら、
その、ご当主様とやらのところに行って、
おめえが過去にあんなことやそんなことやこんなことまでしていたってことを
洗いざらいぶちまけてやるぜ」
「・・・・」
「へへへ、おとなしく言うことを聞けよ、アガサ」
「ちょ、ちょっと何すんのよ」
「喧しい、このクソアマ、静かにしやがれ!」
「ぎゃ、止めてやめてやめてやめてやめて。ヴァギナヴァギナ、こいつを殺して!!」
「コロス…コロシテイイのか?アガサ」
「なんでえ、この女は?おめえと瓜二つじゃねえか」
「ワタシのようなアンドロイドがヒトをコロスことは、
『アシモフのロボット三原則』により否定サレテイルが…それでもイイのか?」
「そんなSFマニアしか知らないような原則、どうでもいいわよ!
さっさとこいつを殺して頂戴!」
「…了解」「な、何しやがんだ、こいつ」
バキ!グシャ! ・・・・静寂
【アガサ・クリトリス、始動】
その日。
馬蹄羅マモルは浮き立つ自分の心を抑えるのに苦労していた
いままでアガサと会食するときには
常に自分のほうから誘い、それをアガサが受ける、という形式だった
また、うかつに馬蹄羅館に招いたりしたら
槍目と思われるのではないかと気兼ねして
いつも村内の瀟洒な飯屋をバッテラタウンページなどで探して
そういう店で逢うようにと心がけてきたのだが、
今回はアガサのほうからマモルにアプローチがあり、
しかも「できればマモルさんのご自宅でお会いしたく存じます」
と、言ってきたからだ
これは脈あり、と男なら誰しも思うこと。
マモルはアガサの自宅に差し向けた馬車が
アガサを乗せて屋敷に戻ってくるのを、そわそわしながら待ち受けていた…
一方こちらは検非違使たち。
「痴れ者めが。なんと、その外人観光客を釈放してしまったと申すのか」
「ウコンさん、そんなこと言ったって
その時点では黄金比・律子に華麗細菌が寄生していたことは
誰にもわからなかったのですから、しかたありませんよ
むしろ、過疎の進行が激しいココバッテラ村に
珍しくもやってきた観光客がいきなり地元の娼婦の自殺に遭遇して
頭から返り血を浴びちゃったわけですから、
警察としても恐縮しちゃうわけで。
必要な事情聴取さえ終われば即時解放するのも当然の措置です
そんなにこのお巡りさんを責めないで上げてくださいな」
「…そうか。ならば、しかたあるまい。
それにしてもまた、ジャンヌの鼻にしか頼れないとは情けないことじゃ
ったく、わしは猟師になったわけではないぞ」
「一応、事情聴取のときにアイデンティティぐらいは確認したんでしょ。
ね、お巡りさん?」
「は。あいで・・なんすか、それは?」
「アイデンティティ。パスポートとかチェックしたんでしょ?」
「あ。は。それは致しました。えっと・・
国籍米国。性別男。職業自営。目的観光。氏名は…バルトリンカウパー、となっております」
【馬蹄羅守の婚約とバッテラムら電脳化計画】
アガサ・クリトリスが馬車に乗って馬蹄羅の館に入ったその翌日。
馬蹄羅の当主である馬蹄羅マモルとアガサ・クリトリスの婚約が公表され、
それと同時に「バッテラムら電脳化計画」なるプランも公となった
急転直下の降って沸いたような話にウコンは呆然とし、かつ憤慨もした
物語冒頭でも触れたとおり、
親同士が決めた許婚とはいえ、
マモルにはジャンヌと言う許婚者が既におり、
ウコンはジャンヌのことを気に入っていたからだ
「電脳化計画」なるものもウコンの気に適うものではなかった
富みて驕らず、貧して僻まず、風雅を愛し、武勇を尊ぶ。
こうした昔ながらの馬蹄羅の美意識の中で生きてきたウコンにすれば、
「バッテラムらの過疎化防止と更なる飛躍のための電脳化推進」など、
まったく無用のものだった
過疎になるなら過疎になればよい、
そもそもいいなづけであるはずのジャンヌに一言の断りも詫びも入れずに
英国貴族階級の出身だかなんだか知らねえが毛唐女を嫁にするとは何事か
マモル坊ちゃまは、あの金髪の雌狐にたぶらかされておるに相違ないわ…
少なくとも当主の婚約に関して異議諫言を申し立てることができるのは、
幼少の頃からマモルの守役を勤めてきたウコンにしかできぬことだった
この件に関しては、沙羅にもジャンヌにも発言権はまったく無い
最近検非違使としての任務に忙殺され、
馬蹄羅館を離れることが多くなっていたウコンであったが、
今回ばかりは館に立ち戻り諫言をせねばなるまいと考えた
【電波系生命体の決意】
或いは故郷に帰還できるかもしれない・・
新しい形質を得て、その記憶データをリロードしたとき、
私はそう思った
有機系糞袋型生命体、通称ヒトが跋扈している「婚活世界」。
この忌々しい原始的な痔空間に閉じ込められてからというもの、
私はただただ、生き延びることに必死だった。
生き延びるためにいままで奪い取ってきたヒトの形質も、
どれもこれも使えない代物ばかりで、
とりあえず目先の生命維持がやっと、というようなものばかりだったのだが、
今回の形質は、糞袋生命体としてはかなりいい出来であるように思われた
これだけのサイバーテクノロジカル情報を
既存データとして脳内に蓄積している糞袋生命体はめったにないのかもしれない
だとすれば、大事に扱わねば。
そのときふと、
この既存データを上手く操作してこの婚活世界内に、
痔空間跳躍のための電磁フィールドを自作できれば、
私は故郷に帰還できるのでは?と思いついた
救助隊が当てに出来ないということは当初からわかっていたことだ。
だとすれば自力で脱出するか、
パルスが尽きるまでこの婚かつ世界で生き延びるか
この二択しかない
糞袋生命体としては比較的優秀な形質を得ている今このときこそ、
自力脱出が可能な千載一遇のチャンスなのではないだろうか?
・・・やるしかない。私はそう心に誓った
【バッテラ村、電脳化す】
ウコンの諫止もむなしく、
マモルはアガサとの婚約を破棄することもしなかったし、
「バッテラ村電脳化計画」を取りやめにすることもしなかった
やがて「バッテラ村電脳化のための設備附帯工事」なるものが始まり、
なにやらよくわからない設備が村のあちこちに設置され始めた
寂れた鄙の里とはいえ、それなりの風雅を保ってきたバッテラ村に
似つかわしいとは言い難い機械設備が点在するさまを、
ウコンは苦虫を噛み潰したような顔で眺めていた
マモルはインテリではあるが理系ではないから、
これだけの電脳設備を適所に配置できるような知識は持っていない
というか、そもそもこの付帯設備がどういう機能を持っていて、
それが「村の電脳化」とやらのためにどう役立つのか?
そのことをわかっているものは村の中に誰一人としていなかった
そのことを理解しているものはおそらくただ一人、
マサチューセッツ工科大学でサイバーテクノロジーを極めたマモルの婚約者、
アガサ・クリトリスだけであろう
(マモル坊ちゃまは、あの雌狐に尻の毛まで抜かれてしまったわい…)
ウコンは忌々しく思った
ウコンの検非違使としての職務も、停滞していた
というか、黄金比・律子の自殺を最後に、
村内から死人が出ることがなくなったのだ
律子の自殺に遭遇してしまった外人観光客のカウパーなる人物の行方は、
杳として知れなかった
検非違使としては彼を追わなければならない、
なぜならカウパーが律子に次いで憑き物に心身を食われているであろうことは、
まず間違いないのだから。
華麗臭のにおいを追っていけば、カウパーにたどり着くことはできるだろう
しかしそれをジャンヌに強いることはウコンにはできかねた
マモルの婚約発表以来、
本来は明朗闊達であったはずのジャンヌがすっかり口数を減らし、
時折は憂いの表情すら浮かべるようになっていたからだ
(マモル坊ちゃまがあの英国女と婚約したことが、
やはりこの娘の心を重くしているのだろうな…)
無骨な男ながらウコンはそう察し、
ジャンヌを使い立てすることを控えた。
というか、カウパーはコーカソイド系なので、
モンゴロイド系のココバッテラ村に滞在していれば
カレイ菌の臭いなど追わずともすぐ見つかるはずなのである
それなのにあの日以来、一向に姿を見かけない
ということは、
憑き物はカウパーと共に村を去り、
それとともに婚活華麗臭連続殺人事件は自然消滅した
と判断するのが妥当なところなのだろうか?
ぼんやりとそんなことを考えながら昆布茶など啜っているウコンの傍らで、
沙羅だけはなぜか忙しげに電話をかけたりスカイプをしたりしていた・・
蟹鮨野菜漬物天婦羅蕎麦胡瓜漬物似果実菓子似醍醐菓子残余補正
kuu2259
蟹鮨野菜漬物天麩羅蕎麦似醍醐菓子酸予定
蟹鮨野菜漬物鮭缶胡瓜漬物似果実菓子似残
【検非違使たちの使命】
「バルトりんカウパーのものと思われる遺骸を発見しました」
・・・・
沙羅が検非違使長官のウコンにその報告をしたのは、
黄金比・律子の自殺からだいぶ日も経った或る日のことだった
「なに、遺骸発見とな?…しかしなぜわしに事前の話も無く」
「脱法行為だったものですから」
不満顔のウコンに沙羅はさらりと応じた
「売春宿マンチン楼から、
華麗細菌のニオイをジャンヌさんに追ってもらったところ、
行き着いた先は守さんの婚約者であるアガサの自宅でした。
あそこは治外法権なので、捜査権も届きません
悩んだ結果、やむなく私とジャンヌさんの二人だけで、
夜中にこっそりアガサの自宅内に侵入して床下を掘っくりしたのです。
日数も経っており腐敗が激しく顔なども完全に溶けておりましたが、
ジャンヌさんが遺骸に残っていた華麗菌のニオイを確認してくれました。
間違いなくバルトりんカウパーの遺骸です」
「確かか?ジャンヌ」
「あれは紛れも無く華麗菌のニオイ、略して華麗臭でした。
遺骸はカウパーのもので間違いないと思います」
「ということは・・・」
絶句するウコンに沙羅はうなづいた
「そう。憑き物は、カウパーが死んだ時点でアガサに取り憑いたのです」
「そ、それは由々しき事態じゃ。
マモル坊ちゃまは妖怪憑き物の類と結婚されようとしているのか
これはなんとしても婚姻の儀を取りやめにして頂かなくては…」
「もうひとつ問題があります」
狼狽するウコンを受け流して沙羅は続けた
「例のバッテラ村電脳化計画、私も理系の知識はさっぱりなので、
何のためにあんな設備を村のあちこちに配置する必要があるのか
そもそもあの設備はどういう機能があるのか、
ぜんぜんわからないので専門家を招いて、診ていただきました
…こちら、電子工学の権威の阿佐辰三博士です」
「ども。阿佐と申します」
「阿佐博士に検分していただいたところ、
あれらの装置はニコラテスラの空中放電実験装置に酷似している、ということでした
それをきわめて大掛かりに、
フィラデルフィア実験のときよりもさらに大掛かりにしたものではないか、と」
「にこらて…なんじゃね、それは?」
「つまり、バッテラムら電脳化計画とは、
バッテラムらの過疎解消と更なる発展を期す、などというものではなく
バッテラ村をバミューダトライアングル化しようという陰謀ではないのか、
ということなのですよ」
「・・・さっぱりわからん」
「わかりやすく言うと、
あれらの装置は非常に大きな『どこでもドア』、
異次元への扉を開くための仕掛けなのですよ
あれほどの規模ならバッテラムら全体を異次元に飛ばすことも可能でしょう」
「な、なんじゃと!?村ごと異次元に吹き飛ばす?
それはどういうことじゃ?行く先はいったい何処なのじゃ?」
「それを知っているのは憑き物だけでしょう。
しかしこれだけは言える。
私たちはそいつのことを憑き物と言っているが、こいつは狐狸妖怪の類ではない。
おそらく科学力においては私たちよりも遥かに優れている何か、です
時間軸と空間軸、或いはもっとそれ以外の、
私たちにはわからない四次元以上の座標軸をも把握しており、
それらを織り込んだ上で、
正確にバッテラムらを目標の痔空間に飛ばすことができるだけの科学技術を持っている
…恐るべき相手です」
「何処に飛ばすかを知っているのはアガサ
…というかアガサについている憑き物だけということか?」
ウコンの問いに対して
沙羅は暫し答えるのをためらっていたが、やがて意を決して決然と答えた
「或いは憑き物はもう守さんの心身に乗り移っているかもしれません」
【検非違使たちの使命】U
ウコンが馬蹄羅マモルと会うのは、
アガサとの婚約解消を諫止するために面会して以来だから
実にひさしぶりのことだった
「検非違使の解散と結果報告のため」という名目で、
ウコンは副官である沙羅ジャンヌも帯同させていた
マモルのほうにも傍らに「アガサ」が控えていた
長官に任命してくれたことへの礼と、
犯人逮捕という結果を出せなかったことへの詫びを訥々と述べるウコン。
それをねぎらいつつ、連続殺人の自然終息を寿ぐマモル。
主従のやり取りはいたって穏やかなうちに終了した
その間、アガサ、沙羅、ジャンヌの三人の女性は
一言も口をさしはさまず、ただ傍らに控えていた
しかし沙羅は時折鋭い視線をアガサとマモルの双方に送り、
ジャンヌのほうは微かに鼻をひくつかせていた…
面会を終えてマモル、アガサ「夫妻」の前から辞すると
ウコンは直ちに沙羅とジャンヌのほうに顔を向け、目で問いかけた
そのウコンの無言の問いかけに対して
ジャンヌは悲しげに首を振り、沙羅は目を据えてうなづいた
二人の態度からすべてを察したウコンは、深いため息をついた・・・
【決戦】
ウコンたちがマモルと会見してから数日後の夜。
一台の馬車が闇に紛れ、ひっそりと馬蹄羅館から抜け出した
馬車はバッテラ村のメインストリートを通過し、
村里を離れてもそのまま駆けつづけ、
村はずれのバッテラサイバーネットダインシステム本社の門前まで来てようやく車輪を止めた
馬車から降り立ったものは、マモルとアガサ。
二人が門から建物に向かって歩き出そうとしたそのとき、
不意に姿を現した数名の者たちが二人の行く手を遮った。
「ここより先はお通しするわけにはいきませんな」
声の主は
馬蹄羅館の執事にして検非違使の長官、歳のウコンその人であった
「なんだ、爺ではないか。何をボケたことを言っておる?
婚約者のアガサが本社に急用ができたというので、
夜分ではあるがここまで馬車を飛ばしてきたのだ。
アガサがバッテラサイバーネットダインシステム社の主席技術研究員でもあることは、
爺も知っておろうが。急いでいるのだ。そこを通してくれ」
「その急用とは、ココバッテラ村を村ごと異次元の世界に吹き飛ばそうという陰謀でござるか」
「なに?」
「その者は『アガサ』ではございますまい。
名は存ぜぬが、アガサの『双子』のほうでござろう
そして…そなたもまた、マモル坊ちゃまではない。
婚活華麗臭連続殺人事件の犯人にして、
いまはマモル坊ちゃまの心を食い、その身を奪った妖しの憑き物。
これ以上ココバッテラ村をそなたの好きなようにはさせぬ。
馬蹄羅の検非違使として、我らがここにて成敗いたす」
「気が触れたか、爺。私のことを憑き物呼ばわりするとは。
いかに幼少の頃より慣れ親しんできた爺といえども許しがたき暴言だぞ」
「知らんと思っておわすか。
過日、副官の沙羅ジャンヌ共々、そなたらと面会したのは何のためと思う?
沙羅は呪術医。
間近に妖異や物の怪と接すれば、
いかに姿はつくろおうとも、そのものの心を見抜くことができる。
また、ジャンヌは犬よりも鼻が利く。
面会時に、そなたから連続殺人犯特有の異臭を十二分に嗅ぎ取っておる。
我らはそのニオイを華麗臭と申しておる。ご自分では気づかれぬかな?」
「・・・爺。 そのほうは幼少のころよりの主人である私よりも、
そこにいる沙羅やジャンヌのごとき女子の妄言のほうを信じるのか?
さらには『双子』とは何のことぞ?
アガサは英国スコットランドエジンバラのクリトリス家の一人娘であり、
双子などおらぬ。」
「自ら墓穴を掘りましたな」「なに?」
「いまそなた自身が申したように、
アガサは確かに英国貴族クリトリス家の一人娘であり、
そのことは沙羅殿がスカイプで英国クリトリス家のご当主に照会し、
すでに確認済みである
しかしながら不思議なことに、
ココバッテラムらにはもう一人、本人と瓜二つの妹なるものがおり、
アガサはその者を連れてマモル坊ちゃまと面接したことすらあったそうな。
さらにはあの晩、
アガサが自宅を引き払って馬蹄羅の館に入ったまさにあの夜も
『瓜二つの妹』と二人で馬車に乗り込んできたということじゃ。
しかるにいまは馬蹄羅の館には『アガサ』一人しかおらぬ。
もう一人のほうは何処におられるのかな?」
「・・・・・」
「アガサに双子の妹がいることを知るものはマモル坊ちゃましかいない、
だからマモル坊ちゃまさえ消去すれば、問題ないと思われたか?
知力においては遥かに我らに勝るはずの憑き物殿にしてはうかつでござったな
あとひとり、双子の存在を知るものがいることを失念するとは」
そう言ってウコンは馬車のほうを指し示した
その馬車の御者台には一人の男が座っていた
「なるほど・・・御者か」
「いかにも。 彼もまた馬蹄羅の一人。
面接の送り迎えのときも館に入ったときも双子の妹の存在を確認しておる
そなたはマモル坊ちゃまの姿をしておるが、人ではあるまい。
人でないがゆえに、
常に馬車の御者台に座っているあの者のことを、
馬車の一部としか思わなかったのかも知れぬが、軽率であったな
さら言えばあの男は御者という地味な仕事に携わっておるが、
守役のわしと同様、
マモル坊ちゃまが幼き頃より身近にお仕えしてまいった者。
もしそなたがマモル坊ちゃまご自身であるのならば、
彼の存在を失念することなど、あろうはずもない」
「…なぜ、私がここに来ることを知っていた?」
しばし沈黙の後、
マモルこと電波系生命体識別コードBN000997Qrzzは、ウコンに尋ねた
その口調はあくまで穏やかだったが、と同時に
正体を隠すことをやめた憑き物の凄みが聞く者の心を震わせた
しかし往時には剛強をもって知られたウコンは、
怯えの色も見せず憑き物の問いに淡々と応じた
「ある電子工学の権威の方に診立てていただいたところ、
そなたが村の各所に配置したあれらの装置は
馬蹄羅館の電力だけでは到底動かせぬゆえ、
あれらを稼動させるときには、
十分な電力を常時備蓄しているここバッテラサイバーネットダインシステム本社に
必ずやってくるはず、とうかがったのでな
館とここに人数を配備して、
そなたらが館から抜け出してくるのを待っていたのじゃよ
…意外と早う御座ったな」
「ふぅん…有機系クソ袋型生命体の中にも、
多少は知恵が回るやつもいた、ということか
しかたない。ヴァギナ。こいつらを皆殺しにせよ」
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物天麩羅蕎麦醍醐菓子似神聖羅馬帝国迄確定
蟹鮨野菜漬物鮭缶胡瓜似果実菓子似醍醐菓子天婦羅蕎麦海鮮麺残
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物珈琲醍醐菓子鮭缶
(胡瓜即席面果実菓子)*2残余補正
蟹鮨鶏肉揚物豚肉燻製野菜漬物珈琲醍醐菓子暫定
それまで微動だにしなかったアガサ…ではなく、
『アガサの双子の妹』ことアンドロイド・ヴァギナは
マモル…ではなく電波系生命体のその指令を受け、
いきなり間近にいた検非違使の一人に襲い掛かり、
一撃でその検非違使の頭蓋骨を粉砕した
「ば、化け物!」
検非違使たちが一瞬怯み、包囲の輪が緩くなったその間隙を突いて
電波系は検非違使の包囲の環から飛び出し、建物に向かって駆けた
「あの憑き物、仕掛けを稼動させるつもりだぞ。
ジャンヌ、沙羅殿。あやつを追え!
この化け物は我らがここで食い止める!」
「うんこじじい!」
思わずジャンヌは「長官」と呼ぶのを忘れ、
幼い頃からそうウコンを呼んできたように「ウンコジジイ」と呼びかけた
それは悲鳴のような声だった
それも無理もない。
今の凄まじい一撃を見れば、
ヴァギナが恐るべき殺人技術をインプットされたアンドロイドであろうことは、
誰の目にも明らかであり、 生身の人間が幾人立ち向かおうとも、
到底かなう相手とは思えなかったからだ
(つづき)
「行くのだ、ジャンヌ。わしにはあの憑き物は切れぬ。
わしは…幼きころよりマモル坊ちゃまを手塩にかけてお育てしてまいった。
すでに心身を魔物に食われているとしても、
その坊ちゃまのお姿を切ることはわしにはできんのじゃ
…ジャンヌ、頼む。私に代わって坊ちゃまを切ってくれ」
「うんこじじい・・・」
「行きましょうジャンヌさん。ウコンさんの言うとおり、
憑き物がシステムを起動させたら何もかもが手遅れになる」
「行ってくれ、ジャンヌ。沙羅殿はジャンヌの助太刀を。
ジャンヌ。虎御前を継ぐ者として使命を果たしてくれ」
・・・・
さて、読者の中には、ジャンヌたちがこのやり取りをしているときに
なぜヴァギナは攻撃を仕掛けないのだろう?
と不審に思われる方もいるかもしれないが
それはつまり
「善玉がせりふを言い終わるまで、悪玉は攻撃してはいけない」という
昔ながらの時代劇の決まりごとなのである
・・・・
「わかった…ウンコジジイ、私たちが戻ってくるまで死ぬなよ!」
ようやく思いを断ち切ったジャンヌが
最後に一声かけて沙羅とともに憑き物の後を追って駆け去ったあと、
ウコンはおもむろにヴァギナ・クリトリスに向き直った
「我は馬蹄羅の検非違使の長官(かみ)、歳のウコン。…化け物、かかって参れ」
堂々と名乗りを上げてからスラリと抜いたその刀こそ、
歳家伝家の宝刀、「鬼切り」にほかならなかった・・
【源ジャンヌvs電波系生命体】
電磁波とは、
空間の電場と磁場の変化によって形成される波動のことであり
電界と磁界が電磁誘導によって交互に相手を発生させあうことで、
空間そのものがエネルギーを持って振動するという現象のことである
その中でも特定の波動によってある範囲の空間を満たした場合、
その空間そのものを別の空間ないし時間に移動させることができる
電波系生命体はそれを理論化し、かつ制御することに成功した
その仕組みが彼ら電波系が言うところの、
いわゆる「電磁フィールド」である
・・・
(ついにこのときが来たか…)
電波系生命体識別コードBN000997Qrzzは、ガラにも無く感慨にふけっていた
この有機系糞袋生命体、通称ヒトが跋扈する「婚活世界」なる痔空間に
閉じ込められてからどれほどの日数が経ったことだろうか
ようやくこのおぞましき魑魅魍魎共の世界から抜け出せる
あの検非違使と称する有機系糞袋たちは、全員あの場で死ぬだろう
なぜなら有機系生命体より、無機系非生命体アンドロイドのほうが
はるかにボディが強靭だからだ
しかしどうせ電磁フィールドを稼動させれば、
バッテラ村にいる有機系生命体はすべて死滅するのだから同じことだ
有機系の形質は脆弱で、痔空間移動に耐えられるだけの生命基盤を持っていない
痔空間座標は既に「我が故郷」に向けて設定済みである
フィールドを稼動させうるだけの電力も十分に在る
・・・さらば、糞袋たち。
電波系が心の中でそうつぶやきスイッチを入れようとしたまさにそのとき。
電源が落ちた
(つづき)
暗闇が一瞬建物内を支配したが
次の瞬間すぐに社内の自家発電装置が起動し、室内は明るさを取り戻した
しかし自家発電装置はあくまで緊急の際のバックアップ用に過ぎず、
その電力だけでは電磁フィールドを稼動させるには足りなかった
「どうやら間に合ったみたいね」
その声の方向に電波系生命体はゆっくりと体を向けた
ジャンヌと沙羅の姿がそこにいた
「あなたの相棒の化け物は、いまウコンさんたちが食い止めている
そしてあなたの相手は・・私がする。
しかし素手の者を殺すわけにはいかない。これを使いなさい」
ジャンヌはそう言って一振りの太刀を、
マモルの姿を借りている電波系生命体に向かって投げた。
「ずいぶんな自信だね、お嬢さん。
私と斬り合いになっても勝てると踏んでいるのかな?」
「自信の在る無し、ではない。
我ら馬蹄羅。伝来の御旗御刀に誓いて、汚き真似はせず。
…この言の葉に従ったまでのこと」
「なんだね、それは?」
(つづき)
「『宗家誓言』と言われている言葉だ。
古の頃、最後の御宗家といわれる我らが祖、源鞠子様も
イスラムの大軍に立ち向かう前にこの言葉を唱えた、と伝えられている。
マモルさんも知っていたはず。記憶を探ってみよ」
「そうかい。では記憶をリロードしてみよう
・・・ふむ、なるほど。
その後はこう続くのかな?
平時には雅を愛で、戦時には武をたて、命惜しまず名こそ尊し。
宗家は武士(もののふ)無くしては立たず、武士も宗家無ければ亦無し。
君臣一如、あたかもひとつの船に乗りたるが如し。
我とそなたら、生きるも死ぬも諸共ぞ。
勇めつわもの。奮えもののふ。黄泉路の果てまでも、いざ共に参らん
・・・これで正解かな?」
「そのとおり」
「いまいちよくわからないが、君たち有機系生命体は、
これらの言葉に何らかの美学とか哲学を感じているわけかね?」
「これは馬蹄羅の美学。
すべての有機系生命体がこの美学を共有しているわけではない」
「そうか。有機系糞袋にもいろいろなタイプが存在する、ということだね
興味が無いわけではないが、私はいま望郷の思いで胸がいっぱいなので
君たち有機系の美意識にお付き合いするわけにもいかんのだ。すまんな」
「謝ることはない。私もあなた…異形のものの美学には興味はない。
お互いに棲む世界が違うのだから。・・・・抜きなさい」
ジャンヌのその言葉に応じて
電波系生命体が無造作に刀の鞘を払うのを見届けてから、
ジャンヌも自らの愛刀「虎御前」を鞘から抜いた
「私は馬蹄羅の宗家末裔。源のジャンヌ。・・いざ勝負」
【ウコンvsヴァギナ】
ヴァギナはまさに怪物だった
すでに述べたとおり検非違使とは馬蹄羅内部の特殊部隊であり、
馬蹄羅の中でもとりわけ武勇優れたものが選ばれているわけだが、
それらのものどもが二太刀と合わせられずに
あるものは肩を砕かれ、
またあるものは首をへし折られ、
またまたあるものは膝を割られ、
いまや立っていられるのは長官であるウコンだけとなっていた
そのウコンも額を割られて血を流し、満身創痍でヨロヨロの状態といえた
しかしそれでもウコンが立っていられたのは、
この化け物にここを突破されればジャンヌと沙羅も殺られる、
そうなればバッテラ村は消滅してしまう、
それだけは我が命に代えても防がねばならない、という強い使命感だった
ヴァギナがまたウコンに向かって踊りかかってきた
ウコンは最後の力を振り絞り、鬼切りの太刀をヴァギナ目掛けて突きたてた
そのとき、奇跡が起こった
いや、それは決して奇跡ではなく、
歳家の開祖、歳の左近の魂の導きであったのかもしれない
ヴァギナのボディを構成している軽量かつ強固なチタン合金。
そのボディのわずかな継ぎ目に鬼切りの刃先が吸い込まれるように刺さり、
そのままその刃先は、
ヴァギナのボディ奥深くに格納されていたメインエンジンに達したのだ
「ぐぁぐぁぎぎぎぎぎぎ・・・」
奇怪な音声を発し数回痙攣した後、
ヴァギナの凶暴な動きが止まり、やがてヴァギナの目から光が失われた
ウコンの渾身の一突きが、アンドロイド・ヴァギナを仕留めたのである
(やったわい…)
ほっとして太刀を引き抜こうとしたとき、
ウコンは初めて自分の受けた傷の深さに気づいた
それまではこの怪物を倒すことにすべての精神が集中していたため、
自らが蒙ったダメージに気づいていなかったのだ
鬼切りがヴァギナの心臓とも言えるメインエンジンを貫いた瞬間、
ヴァギナもまたウコンの胸に強烈な正拳突きを食らわせていたのだ
ヴァギナのそのこぶしは
ウコンの肋骨を数本へし折り、肺を突き破り、肩甲骨に亀裂を入れたところで止まっていた
どう見ても致命傷である
血がどっと噴出し呼吸ができなくなり、
ウコンの意識は急速に薄れていった
「ジャンヌ・・あとは任せたぞ」
ウコンはそう言おうとしたが、大量の血がウコンの喉を塞ぎ、それは言葉にならなかった
歳のウコンは死んだ
【源ジャンヌvs電波系生命体】U
電波系生命体識別コードBN000997Qrzzには太刀術の心得など勿論無い
しかしマモルのからだが覚えていた
文系インテリとはいえ、マモルも馬蹄羅一門の当主であり
幼いころに守り役のウコンから武芸一般を一通り仕込まれている
太刀を構えた姿は素人のそれではなかった
しかしそもそも電波系にとってこの勝負はどうでもいいものだった
ジャンヌを殺してもいいし、逆にジャンヌに殺されてもいい
殺されればまたジャンヌに乗り移ればいいのである
ただそうなると、
新たに憑依したジャンヌの記憶データのリロードから始めねばならず、
それが少し面倒くさいというだけのことだった
さっさとけりをつけよう。
そう思った電波系は、上段の構えから一気に踏み込んでいった
勝負は一瞬でついた
電波系の一の太刀をかわしたジャンヌは、
下段から相手の右手首を切り飛ばし、返す刀で左袈裟に頚動脈を切断したのである
その間、ゼロコンマ二秒。
ジャンヌは名刀虎御前の遣い手として十分な資質の持ち主だったのである
次の瞬間、電波系生命体は「夢幻空間」に移動していた
霧のような靄のような霞のようなものに包まれたこの空間。
有機系の自我が個々に所有しているこの亜空間を利用して、
電波系は今まで幾人もの人間に乗り移ってきた
霧のかなたに、ジャンヌの自我らしきものが感知された
やれやれ。「マモル」は殺されたか。いい依り代だったが、まあしかたない。
またこのジャンヌなる新しい形質を乗っ取って、記憶をリロードしなくては。
電波系は霧の向こうにいる相手に毎度おなじみの決め台詞を投げかけた
「私に名は無い。少なくともきみたち有機系糞袋に認識できる名は、無い。
しいて言えば私の名は、識別コードBN000997Qrzz。…君の形質をもらう」
「ふぅん・・そういう仕組みなわけか」
意外な相手の反応に、電波系はとまどった
今まで乗っ取ってきた相手は狼狽するか怯えるかしてきたのに、
この余裕たっぷりの受け応えは何だ?
当惑し押し黙った電波系のすぐ前に相手の自我がスッと寄ってきて言った。
「私の名は沙羅。西のサラ。ここからは私があなたのお相手をするわ」
蟹鮨鶏肉揚物豚肉燻製野菜漬物珈琲醍醐菓子似確定
蟹鮨野菜漬物醍醐菓子鮭缶果実菓子似即席麺似残余
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物缶珈琲醍醐菓子天婦羅蕎麦暫定
蟹鮨野菜漬物鮭缶即席麺(胡瓜醍醐菓子果実菓子)*2残
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物缶珈琲醍醐菓子似即席麺似確定
蟹鮨野菜漬物鮭缶醍醐菓子即席麺胡瓜似果実菓子似残
kuu0139
蟹鮨野菜漬物醍醐菓子即席麺神聖羅馬帝国迄
胡瓜似果実菓子似残
【西のサラvs電波系生命体】
申し訳ないが、この両者の戦いの詳細については筆者は描写できない
なぜなら沙羅も電波系もいずれもヒトではなく、
ヒトでないもの同士の戦いを描写することは
ヒトである私にはできないからだ
あえて言うとすれば、
この亜空間について電波系はこれを「夢幻空間」と名づけ
ジャンヌ固有の精神世界とのみ認識していたが、
沙羅はこの亜空間を「ニルヴァーナ」として捉え、
個々の人間の精神世界であると同時に人類共有の精神空間でもあるという認識を持っていた
その両者の認識の深さの差が勝敗を決した。
「私は…ただ故郷に帰りたかっただけなのだ」
決着がついた後、電波系生命体は独りつぶやいた
それは慨嘆でもあり泣訴でもあるように聞こえた
「…わかっている。
しかしそのためにココバッテラ村を破壊することは、この私が許さない」
沙羅は静かに電波系に宣告した。
電波系生命体のパルスは徐々に弱まっていき、やがて完全に停止した
電波系生命体識別コードBN000997Qrzzは、「死」んだ
【戦いを終えて】
夜が明けて。バッテラ村に朝が来た。
夜が明ければ朝になるに決まっているではないか
…と、バッテラの村人たちは思っているに違いない
しかしその日の「朝」は、
村はずれに在るバッテラサイバーネットダインシステム本社での
壮絶な死闘の末に勝ち取られたものであることを彼らは知らない
もし馬蹄羅たちが自らに課した「高貴なるものの義務」を果たすことを怠っていたならば、
バッテラムらは異次元のかなたに消滅し、
その日の「朝」は存在しなかったことを彼らは知る由も無い
バッテラにとっては自分の婚活こそがすべてであり、
それ以上のものには関心を持たないからだ
モチロン自己犠牲の精神などかけらも無い
しかしそれはバッテラが土民である以上、仕方ないことなのだ
バッテラに限らず土民というのは、そういうものなのである
崇高な使命の遂行はあくまで高貴なる者の手に委ねられている。
バッテラ村においてはそれが自分たちの宿命であることを
馬蹄羅たちは知っている。バッテラは知らない。
結局その者が高貴か下賎かというのは血統の問題ではなく、自覚の問題なのだ
ただ血統はその自覚を促すに十分なモチベーションにはなりうる
そのことにこそ血統の意義が在るのであり、
血統そのものに価値が在るというわけではないのだ
【源ジャンヌの日記から〜エピローグに代えて】
アガサの死体は事件後、馬蹄羅館の保冷庫の片隅で発見された
冷凍保存されていたのでカウパーの死体ように腐乱することも無く
生きているときのままの姿に保たれてた
妬みと僻みとかを抜きにして改めて冷静にその姿を眺めて、
やっぱりアガサってひとは美人だったのだなと改めて思った
でもこの人がバッテラ村に来ることさえなければ、
マモルサンもウンコじいちゃんも死なずにすんだかもと思うと、
やっぱり憎たらしい気もする
(つづく)
バッテラサイバーネットダインシステム社はバッテラムらから撤退し、
憑き物が痔空間移動のために村の各所に取り付けた装置も解体された
でも電子工学の権威?の阿佐ちゃんはあの仕組みにえらく興味を持ったようで、
「痔空間移動の原理を解明したい」とか言って、
あの事件の後、そのままバッテラ村に居座ってしまった。
いまはバッテラサイバーネットダインシステム本社の跡地に掘っ立て小屋を建てて
解体した装置の山に埋もれて、なにやら胡散臭い研究やら実験やらをしてる
たまに遊びにいくと、
「夜勃たなくても阿佐辰三」などとくだらない親父ギャグを飛ばして
私の尻を撫ぜてくるので、
そういう時は 頭突きをかましてから
アキレス腱固めや腕ひしぎ逆十字を掛けていたぶってやるんだけど、
阿佐ちゃんはキャっキャっと叫びながら喜んでいる。たぶん変態なのだろう
あの日のことは…時がたった今でも思い出すと少しつらい
私はウンコじいちゃんの血まみれの遺骸を抱きしめてワンワン泣いた
ウンコちゃんの愛刀の鬼切りは柄まで血のりをべっとりと付けて
持ち主が死んでもなおヴァギナを私たちのところに行かすまいと
そのボディを刺し貫いていた。
ウンコちゃんがいなければ、私も沙羅さんもこの怪物アンドロイドに殺されていただろう
バッテラムらを守った最大の英雄は、間違いなくウンコちゃんだ。私はそう思う
(つづく)
事件後、鬼切りは綺麗に血のりを拭き取って拵えを新調してから
ウンコちゃんの孫娘である歳の静華(せいか)ちゃんに継承された
でも静華ちゃんは華奢なおにゃのこだから、到底鬼切りを使いこなすことはできない
だから次の遣い手が現れるまで
鬼切りはまた代々歳の家で引き継がれていくことになるのだろう
私は…マモルサンもウンコちゃんも死んでしまってまだ何も考えられない
でもいつか時の流れが今のこの心の傷を癒してくれて
好きなヒトができてこのヒトの子が産まれてその子が成人になったら
私の母が私にそうしたように、
その子に虎御前の太刀とバッテラの未来を委ねるつもりだ
そしてもし仮にそのとき、
あの変態ジジイの阿佐ちゃんが痔空間移動の原理を説き明かしてくれているようなら、
私自身は過去に行きたい
過去に行ってバッテラムらの歴史を書き換えたい
マモルサンもウンコちゃんも死なずにすむ、そんなふうに歴史を直したい
それが今の私のささやかな願いだ
西暦20xx年 某月某日 源ジャンヌ 記
馬蹄羅物語主伝第二話「虎御前を継ぐ者」 完
馬蹄羅物語「虎御前を継ぐ者」に登場した主な人々
【源ジャンヌ】
馬蹄羅最後の宗家、源鞠子の末裔。「虎御前」の継承者。
【馬蹄羅マモル】
馬蹄羅最後の宗家、源鞠子の末裔。馬蹄羅館の現当主。
【歳の右近】
馬蹄羅武士、歳の左近の末裔。「鬼切りの太刀」継承者。
【西の沙羅】
バッテラ村ただ一人の呪術系医師。
実体は時空を超えて婚活世界に遍在する陽炎のごとき存在。
【アガサ・クリトリス】
スコットランド、エジンバラの貴族階級出身者。
オクスフォード大学で学士号を、MITで修士号をそれぞれ取得。
バッテラサイバーネットダインシステム主席技術研究員
【ヴァギナ・クリトリス】
アガサの一卵性双生児という触れ込みだが、実体はアンドロイド。
【電波系生命体識別コードBN000997Qrzz】
有機系クソ袋型生命体つまり人間を調査するために
惑星サカリガツつまり地球にやってきた、人類とはまったく異質な知的生命体
形質を持たず時空間を跳躍することができるが、
そのために必要な電磁フィールドが事故により閉鎖、婚活世界内に閉じ込められてしまう
【電波系生命体に自我を食われた人々】
イーヅカマンコ、槍目チン太郎、木嶋加奈子、黄金比・律子、バルトりん・カウパーなど。
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物即席麺醍醐菓子第三帝国到達
蟹鮨鮭缶野菜漬物即席麺胡瓜漬物似果実菓子似残存
補正
蟹鮨鶏肉揚物鮭缶野菜漬物胡瓜漬物似
即席麺三果実菓子似醍醐菓子温紅茶残
蟹鮨鶏肉揚物3野菜漬物即席麺醍醐菓子2温紅茶珈琲確定
蟹鮨野菜漬物即席麺珈琲果実菓子醍醐菓子迄確定
果実菓子醍醐菓子胡瓜似醤油麺残
蟹鮨野菜胡瓜漬物鶏肉揚物即席麺珈琲果実菓子醍醐菓子確定
蟹鮨野菜胡瓜漬物鮭缶果実菓子醍醐菓子中華醤油麺塩麺残余
kuu2319
蟹鮨鶏肉揚物野菜漬物醍醐菓子第三帝國迄確定
蟹鮨野菜胡瓜漬物鮭缶果実菓子醤油麺塩麺残余
蟹鮨野菜胡瓜漬物鮭缶果実菓子醤油麺塩麺醍醐菓子似残余補正
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物即席麺醍醐菓子似暫定
蟹鮨野菜漬物鮭缶里芋即席麺醍醐菓子果実菓子似胡瓜似残余
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物似即席麺醍醐菓子三確定
蟹鮨野菜漬物鮭缶里芋即席麺似果実菓子似胡瓜似残余
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物即席麺珈琲醍醐菓子確定
蟹鮨野菜漬物鮭缶里芋即席麺果実菓子似胡瓜似 残
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物鶏肉揚物醤油麺塩麺温珈琲紅茶確定補正
蟹鮨野菜漬物鮭缶里芋即席麺醍醐菓子似果実菓子似胡瓜似残余
【デュルムン】
ディルムンの名が最初に現れるのは紀元前4千年紀末のことであり、
チグリスユーフラテス河畔の河口部にあった人類最古の都市ウルクの
女神イナンナの神殿跡から発見された楔形文書にその名が出てくるのが、
現在までに確認できている最古のものである。
ディルムンの正確な位置はいまだ明らかになっていないが、
現在のバーレーン、サウジアラビア東部、カタール、オマーン、
などと関連があると考えられ、
メソポタミアとインダスを結ぶ海上交易ルートとして
遥かなる古の頃より繁栄をしてきたことがうかがえる
【オマンコ食うの概要】
古よりデュルムンと呼ばれた地域。
その一郭をなすオマンコ食うが世界有数の強国であったのは
17世紀後半から19世紀の前半までの帆船の時代である。
この間の約二百年、オマンコ食うはインド洋東半分をほぼ掌握し、
「オマン海洋帝国」とまで呼ばれる一大帝国を築き上げた
海洋帝国とはその名のとおり、陸上に領土を拡大したのではなく、
インド洋という海そのものを領土化したための呼称である。
その時代、オマンコ食うにとってもっとも重要だった都市は、
オマン本国にはなく東アフリカ沿岸にあったザンジバルである
ジオン皇国の戦艦の名称にも採用されたこのザンジバルは
当時のインド洋交易の最重要貿易都市であり、
さらに言えば古くからシナ人アラブ人アフリカ人等が雑居する国際都市でもあった
オマンコ食うは、そのザンジバルを拠点として繁栄しつづけた…
しかし、その繁栄の日々にもやはり落日のときはきた
産業革命により蒸気船が帆船に取って代わられると
機械文明に乗り遅れたオマンコ食うはあっという間に世界列強の座から転落し、
その後は細々と王国を維持していくこととなった
やがてイギリスの植民地となるが、世界大戦後に再び独立。
その後はデュルムンの名家同士で婚姻を繰り返し
国を超えた血縁関係の絆の下で、どうにかこうにか王国を維持している
しかしながらオマンコ食うは、
ゲオポリティクス的に言えばペルシャ湾岸の出入り口という、
きわめて重要なポジショニングを占めているため、
いまなお欧米列強やイスラム諸国の思惑の中では重要な国家のひとつとして認識されている…
・・・・
「ご搭乗の皆様、長らくお待たせいたしました。
まもなく当機はオマンコ臭い空港として世界にその名を知られる、
オマンコ食うの空の窓口、マスカット国際空港に到着いたしますぅ…」
「明日香ちゃん、着いたわよ。明日香ちゃん。明日香ちゃん・・・
アスカァ!いい加減に起きんかい!」
「・・ぶぎゃ」
精華に殴られて明日香はようやく目を覚ました。
どこででも寝られる、いくらでも寝られる、というのが
明日香の特技のひとつであることは精華も以前から重々承知はしていたが、
バッテラムらから東京国際空港まで、
東京国際空港からドバイ国際空港まで、
さらにドバイ国際空港から今ようやく到着したオマンコ食うの空の窓口、
おマンコクサイ空港まで、ずっと寝倒してきた明日香には精華もさすがに呆れた
しかし、この図太さが明日香にあればこそ、
あんな女離れした荒々しい騎乗もできるのだろうと、
精華は何とか自分を納得させた
草流明日香(そうりゅうあすか)と紀精華(きのせいか)。
バッテラムらの二人の女性がココオマンコ食うにやってきたのは、
観光目的とか、自分磨きとか、爪磨きとかそういうことではない。
それは、オマンコ食うの招聘による国際文化交流と呼ぶべきものであった
おまんこくさい空港には佐波衛門と平城の二人が出迎えに来ていた
佐波衛門は馬蹄等の長老の一人。平城は安治家の跡取り息子である。
二人はあらかじめ先乗りして、
今回の「国際文化交流」の催しに適したアラビア馬を厳選していたのだ
出迎えは二人のほかにも、もう一人いた。
おマンコ食う側の人物と思われるその女性は、
アラブ系なのかペルシャ系なのかよくわからないが、まあまあ綺麗な人だった
彼女は日本風にお辞儀をし、流暢な日本語で二人を出迎えた
「おマンコ食うヘようこそ。
わたくし、おマンコ食う王家の女官長にして、
おマンコ食う国際文化交流事業担当補佐官の、
サラ・トリスメギストスと申します」
「第一射手、源佐波衛門。第二射手、紀の精華。
第三射手、草流アスカ。第四射手、安治平城。
以上であります」
・・というようなことがアラビア語で説明されたようだが、定かではない。
なぜなら私はアラビア語を知らないから。
ともかくジャパニーズトラディショナルホースライディングアーチェリー、
すなわち流鏑馬がオマーンの地で初めて披露されることになった
流鏑馬は武田流と小笠原流の二派が有名だが
馬蹄羅も地味ながら鎌倉以来の流儀を保持しており、
それがオマーン国王の耳にまで入り国王はいたく関心を示された、
…と沙羅はアスカたち四人に説明したが、
実際のところは沙羅が日本の流鏑馬、
その中でも特に馬蹄羅の流鏑馬をオマーン国王に推挙して
それに国王がちょこっとだけ興味を示して
「ま、呼ぶだけ呼んでみっか」みたいな、
・・だいたいそんなところが真実であったようだ
というかぶっちゃけ流鏑馬と言うものは
ロンドンパリニューヨークといった欧米地域のみならず、
デュルムンの中でも既にバーレーンなどで披露されており、
オマーン国王もいまさら武田や小笠原を招聘しても二番煎じになるだけだし
噂に聞く「伝統を保持しつつも流鏑馬の中でも最も荒ぶる流鏑馬」と言われる
馬蹄羅流流鏑馬とやらを一寸見てみっか、という程度の
そのくらいの軽い気持ちであったらしい
しいてあとひとつ、
オマンコ食おうがバティラを招いたゆえんを挙げるとすれば
国王の祖母が日本人女性であり、また王妃も日本の血を引くものであり、
そこらへんからマア日本にはそこそこ愛着なり関心なりがあった、ということかもしれない
東日本大震災のときもオマンコ食うはイスラム諸国の中でもいち早く救援物資を提供しており、
そういう点でも日本国とオマンコ食うとは、それなりのゆかりがあったのである
kuu0002
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物珈琲醍醐菓子似暫定
蟹鮨野菜漬物鮭缶里芋即席麺醍醐菓子果実菓子似胡瓜似残
・・・・
オマーンで初めて日本の流鏑馬が披露されてから、数日後の午後。
佐波衛門たち一行はドバイの安ホテルのロビーでエスプレッソティなどを飲んでいた
ぶっちゃけ、オマーンでの流鏑馬は不評のうちに終わった
オマーンはサウジやイランほどではないとはいえ、
やはりイスラムの原理の中に生きている国であり、
「婦女子が馬などに乗るべきではない」という男尊女卑的考えがまだ根強かったのだ
だから佐波衛門や平城に関しては良しとしても、
精華や明日香が騎乗して弓を射ることをまだ受け容れるだけの文化的素地が無かったのである
さらに馬蹄羅の流鏑馬は武田や小笠原の流儀とも異なり、
騎手は膝で馬の胴を締め尻を上げて馬を疾走させるため、ことさら評判が悪かった
「おなごが人前で尻を上げるとはなんたる淫らな」ということである
オマーン国王は不機嫌をあらわにし、近臣たちはおびえて沈黙した
佐波衛門たちは一応国賓として最後まで遇されはしたが、
速やかに帰国することを促された
かくして一行はそそくさとオマーンを後にし、
帰国途中の中継地であるドバイのホテルでいま一服している、
というわけである
一行の中には沙羅も混じっていた
沙羅は、国王の勘気を蒙ったと知ると
さっさと王家付き女官長の階位と政府国際文化交流事業担当補佐官の地位を辞し、
無位無官となってオマーンをあとにしたのだった
「私たちのせいでこんなことになって…ごめんなさいね沙羅さん」
詫びる精華に対して沙羅は平気な顔で応じた
「べっつに。たいしたことじゃないから、気にしないでいいです
私にとっては王家の女官長とか、政府の補佐官とか、
そんなものはどうでもいいものなんですよ。
ただ、そういう肩書きがあったほうが面白いことに巡り合う機会が多いかな?
という程度のもので、無ければ無いでどうということもありません。
私にとってデュルムンの地はすべて自分の庭のようなものですから、
何処に行ったって生きていけます。お気遣いはご無用ですよ」
(註)↓ドバイとオマンコ臭い空港の位置関係
http://www.worldjourneys.co.nz/admin/upload-images/packageMap-DubaitoLondon-April2012.jpg @がドバイ
Aがオマンコ臭い空港の所在地であるマスカット
航路を見ればわかるとおり、
日本からオマンコ臭い空港に行くときは必ずドバイを中継する
【羊水の島からの誘い】
「突然で失礼ですが…」
そのとき不意に傍らにいた人物が一行の会話に割って入ってきた
アラプかコーカソイドかはよくわからないが、まあそこそこの美男子。
髭を剃っているので或いはコーカソイドかもしれない(アラブの男は髭を剃らないのが風習)。
その人物は、滑らかな日本語で語りかけてきた
「こういうところ(安ホテルの狭いロビー)なので、
先ほどから皆さんの会話が聞くともなしに耳に入ってまいりましたが、
どうやら皆さんは日本からのご一行とお見受けします。
私はココ中東に暮らす者ではありますが、日本ともいささかゆかりある者。
日本の言葉を聞いてふと懐かしく、皆さんのお話に割って入ったしだい。
お邪魔でしたらそう仰ってください、立ち去ります
そうでないなら、いま少し日本のことなどお聞かせいただければ嬉しく思います」
「これはこれは。ご丁寧な挨拶いたみいります。
我らは日本国のバッテラムらという処より参ったものであります。
…あ、こちらの沙羅殿はオマーンのお方で日本ではありませんが。
先日、日本の伝統文化のひとつ、流鏑馬をオマーンの地で披露したのですが、
散々の不評でありまして。 いまは母国へ帰る途中で、
トランジットとしてココドバイに立ち寄っております」
皆を代表して佐波衛門が答えたが、その佐波衛門の話を聞いて
アラブだかコーカソイドだかわからないそのそこそこ美男子クンは
目を丸くして暫し黙っていたが、やがて口を開いた
「あなたたちは、あのバッテラムらの方たちなのですか?」
(つづき)
「バッテラムらをご存知なのですか?」
今度は佐波衛門たちが目を丸くした。
「我らは馬蹄羅の末裔でありますから、
田舎とはいえ風趣ある里としてバッテラムらにそれなりの愛着と誇りを抱いてはおります
が、なんと言ってもバッテラムらは鄙の里。
異国のあなたがなぜそんな過疎僻地の村の名をご存知なのでしょう?」
「私の先祖が昔バッテラムらに棲んでいたことがあるのですよ。
いや、棲んでいたどころか、その村のお姫様と結婚したという話でして…
え?先祖の名前ですか? 先祖の名はアーダージャ・ハリーファ。
私はアーダージャの子孫で、
名をイーサ・ラングレー・デル・ハリーファと申します」
・・・・
その翌日。
日本への帰国便を急遽キャンセルした佐波衛門たち四名+沙羅の計五名は
イーサ・ラングレー・デル・ハリーファーの招きに応じて、
バーレーン島を訪れていた
驚いたことにイーサ・ラングレー・デル・ハリーファーは、
バーレーンの王家であるハリーファー家の王子の一人だったのである
ドバイからバーレーンの首都マナーマまでは、
イーサのプライベートジェットが調達された。
佐波衛門たちはそのことにびっくりしたが
イーサのほうも、
自分のご先祖様とゆかり深い日本の馬蹄羅の末裔たちと、
まさか中東のドバイのホテルで出くわすなどとは思ってもいなかったに違いない。
これは絶対にアラーの神のお引き合わせに間違いないから、
帰国する前に是非ぜひバーレーンにお立ち寄りください、
というイーサの熱心な勧めで一行がバーレーンを訪れることになったのも
自然の成り行きだったといえよう
(註)↓ドバイとバーレーンの位置関係
http://kokusaigakkai.cocolog-nifty.com/photos/uncategorized/2012/01/31/tcmap.png 地図左から
バーレーン島、カタール半島、アラブ首長国連邦(政治首都アブダビ・経済首都ドバイ)、オマーン
ペルシャ湾をはさんで北にイラン。南は陸続きでサウジアラビア。
【デュルムンの島】
バーレーンは古代デュルムン文明の中心地であったと思われており
また旧約聖書に出てくるエデンの園とはこの島のことではないのかとも推測され、
「楽園の島」という名称を持っている
イスラム圏の中ではきわめて女性の身なりに対して寛容であり、
Tシャツ一枚の格好で町を歩いていてもとくに文句は言われない
ちなみにサウジアラビアでそういう格好で女性が町を歩くと、
公序良俗違反で即逮捕される
アルコールも公に飲めるため、アラブの飲兵衛たちは皆この島にやってくる
もっとも公に飲めると言っても
夜になったらここでなら飲んでもいいよとあらかじめ決められたパブ等でなら飲める、という意味だが。
しかしながらそういう制約はあるとはいえ、
禁酒が建前でありまた女性の貞操には非常に厳しいイスラム圏の中では
バーレーンは跳びぬけて自由な気風を持っている、ということはいえる
しかし一方でバーレーンは
「世界の火薬庫」とも「バルカン以上に危険なところ」ともいわれている
というのはこの島がサウジとイランという、
イスラムのふたつの原理主義過激国家の勢力争いの場ともなっているからである
イスラムはスンニー派とシーア派の二派に分かれているが、
シーアはペルシャ系の流れをくみ現在はほぼイランにしかいない
それ以外はすべてスンニーである
しかしここバーレーンは王室はスンニーだが住民の大半はシーアという、
非常にやばい組み合わせになっている
これは過去の歴史的な経緯でそうなっており、
そのためイランは常にこのことを根拠としてバーレーンの領有権を主張している
「楽園の島」バーレーンは、
駐留米軍とサウジアラビアの間接的庇護の下で
かろうじて独立を維持している状態にあるともいえるのである…
(参考資料。ペルシャ湾岸地域の名家たち)
クウェートのサバーハ家、
サウジアラビアのサウード家、
バーレーンのハリーファ家。
この三つの家はそれぞれの国の王家であり、かつ同族から派生し相互に姻戚関係にある
オマーンはサイード家が王家の君主国、
カタールは有力氏族たちが政治を独占しているが、一応民主国家の体裁をとっている
UAE、アラブ首長国連邦は七つの首長の家から構成される連合国家である
なおペルシャ湾対岸のイラン(古名エラム)は、
宗教指導者のもと、厳格なイスラム原理主義の内政が執り行われている
かつて古のころに四度にわたってバッテラムらに襲来してきたイスラム遠征部隊。
その指揮官であったマフムード・アフマディーネジャードは
ここエラムに古くから根をおろしている名家アフマディーネジャード家の出身である
【バーレーン駐留米軍司令室にて】
在バーレーン米軍司令官バタピー少将は、今日も暇を持て余していた。
バーレーン駐留米軍の指揮官として赴任が決まった際には
同僚たちから「あそこは世界の火薬庫だ」とか、
「クウェートよりやばいぞ怖いぞ危ないぞ」とか、散々脅されたので
それなりに緊張感を胸にココバーレーンにやってきたのだが、
赴任してみればべつになんということもなく、
温暖な風土と白砂と綺麗な海を眺めて過ごす毎日だったのである
観光客も頻繁にやってくるし、酒も呑めるし、タバコも吸える
しいていえば風俗店が無いので仕方なく本国からアダルトなど取り寄せて
夜な夜なズリセンせざるを得ないことが唯一の不満。
・・そんな穏やかな日々である。
昨日は友人のイーサ・ラングレー・デル・ハリーファが訪れてきた。
彼は現国王のハマドを父に持つれっきとしたバーレーンの王子ではあるが、
母がアメリカ人で祖父がフランス人というぐちゃぐちゃの混血であり、
英語も話せて皇位継承順位も下位にあるので、
バタピー少将にとっては気楽に話せる現地のマブダチのひとりである
イーサは
「アラーのお導きで自分のご先祖様とゆかりのある馬蹄等の末裔たちと出会った」
などとなんか訳のわからんことをいっていたが、
少将にはあまり関心の無いことだった
なぜなら少将はクリスチャンだからである
というとこで、今日もバタピー少将は鼻くそをほじりながら
今夜のおかずは何にしようかな?などと考えているのであった
【イラン・アサルイエの軍港にて】
「バーレーンに馬蹄羅の末裔たちが来ている、と?」
「は。マナーマに送り込んである間諜の報告によれば、
その日本人たちは確かにバッテラムらの馬蹄羅たちである、とのこと」
「ふーーーーむ・・・」
イラン・ペルシャ湾岸方面軍司令長官である
ウマル・アフマディーネジャードは、その報告を聞き、思わず顔をしかめた。
・・・・
「バッテラは恐れるに足らず。
されど、バッテラの庇護者たる馬蹄羅には気をつけよ。
彼らはココというときには命惜しまず踏み込んでくるつわものたちである。
くれぐれも馬蹄羅への警戒を怠ることなかれ…」
・・・・
↑
アフマディーネジャード家の中興の祖と言われる、
マフムード・アフマディーネジャードの遺言である。
アフマディーネジャード家は代々このマフムードの遺言を子々孫々に伝えてきた。
ウマル・アフマディーネジャードにとって、
マフムードは確かに尊敬すべき先達であったが
しかし彼のこの遺言だけは耄碌した末の妄言ではないかと疑っていた
馬蹄羅は極東アジア日本の、さらにその中でも怒僻地のバッテラムらにしかいない。
その馬蹄羅たちに対して、エラムに住むわれらがなぜ警戒せねばならないのか?
ぜんぜん住んでいる場所が違うではないか?
…まったく訳ワカメである
(つづき)
マフムードは晩年片腕が利かなくなっていた
第四次バッテラ遠征、すなわち最後の遠征のときに
バッテラ村の守護者である馬蹄羅たちと壮絶な死闘を展開し、
そのときに馬蹄羅の宗家、源鞠子の一太刀を受け
そのために腕が利かなくなったのだ、と伝えられていた
馬蹄羅を恐れよ、というマフムードの遺言は
そのときの恐怖心がもたらしたたわごとなのではないかと、
ウマルは常々そう考えていた
しかしいま現実にペルシャ湾対岸のバーレーンに馬蹄羅たちが来ている
それもバーレーンを盗れるかどうか、
そのオペレーションをまさに始めようとしている今このときに、である
これは単なる偶然にすぎないのか?
それともマフムードは死ぬ直前に神がかりして
このことが未来にあることを予知したのだろうか?
そしてそれゆえにこそ「馬蹄羅に用心せよ」という、
一見お門違いとも思える遺言を子々孫々に残したのか?
ウマルは腕組みをしたまま、沈思黙考を続けていた・・・
【イーサとハマド】
「流鏑馬は数年前に武田の者たちを招いて演じてもらったことがあろう。
流派が違うと申しても大きな差異はなかろう。二度もやる必要は無い」
「はぁ。しかし…」
「先祖ゆかりのものたちだ、というであろう。それはわかっている。
もちろん客人としての接待はする。粗略な扱いはしないつもりだ。
そのものたちが乗馬をしたいというなら馬を与えても良いし、
晩餐会などに招くのも良いだろう。
しかしイーサ、
我が家がいま難局に差し掛かっているということは、そなたもわかっておろう
我らが王家はサウード、サバーハと並ぶ名家とはいえ、
国土は狭く石油も取れぬ。
さらには常に内乱の種を抱えて折る。
エラムのものたちは虎視眈々とこの島を狙っておることを忘れるな。
…その馬蹄羅なる方たちの接待はお前が主に致すがよかろう
そのために必要なものがあればいうがよい、何なりと用意しよう
しかしながら今は、
異国からの客人をもてなす事ばかりに気を遣っているわけにも参らぬのだ。
わかるな?」
父である国王ハマド・サルマーン・ダル・ハリーファ三世の言葉に
逆らうわけにはいかない。また、その言うところも筋が通っていた
イーサは仕方なく、うなづいた
「…はい」
「イーサ、お前も髭をたくわえよ。アラブの男が髭を剃ってなんとする。
とりわけお前は優男じゃ。髭が無くてはおなごと間違えられかねんぞ」
【明日香、怒る蛾を得る】
「白砂青…松は無いか。しかし良いところだな」
平城は目を細めて水平線に目を移した。
精華と明日香はすでにイーサから贈られた馬に乗り、砂浜を駆け巡っている
ココはバーレーンの首都マナーマから程近いところにある、
ハリーファ家のプライベートビーチ。
イーサは「国王からの贈り物として」と言って、馬蹄羅の四人に馬を贈った。、
しかし実際のところ彼らに馬を与えるという話はイーサ自身の発議であり、
父である国王ハマドはそれに許諾を与えただけだ。
イーサは幼いころに祖父母から聞かされた
「馬蹄羅たちの馬術、騎射術」というのを是非見てみたかったのだ
「イーサ殿。このような素晴らしいアラブの駿馬を賜り、恐縮の至りです。
日本に連れ帰りたいほどでございますが、 さすがにそこまでわがままは申しません
ココバーレーン滞在中だけで十分でござる。
我らに馬を与えよ、と仰せられた国王陛下にも
是非直接お会いしてお礼申し上げたく存ずるが…」
「え?…ええ。ま、そんなに慌てなくても結構ですよ
いずれ晩餐会などの機会も設けるつもりですから、
お礼はそのときに言っていただければ十分かと…」
「さようか。まあ国王ともなれば多忙な身の上でありましょうし、
われらのほうから面会を申し出るのも非礼でありますので差し控えますが
父君国王陛下にはくれぐれも我らが感謝していた、と申し上げてくだされ」
「わかりました」
【馬蹄羅物語主伝第三話「悪魔の棲む島」いままでのあらすじ】
馬蹄羅流流鏑馬を披露するためにオマンコ食うの招きに応じて
オマンコクサイ空港に降り立った馬蹄羅の四人。
しかし彼らはイスラム文化の中に根付く強い男尊女卑の壁に突き当たる。
「女が馬に乗って騎射をするとは何事か」というオマンコ食おうの勘気を蒙り、
オマーンを去った馬蹄羅一行は中継地のドバイで、
かつて「最後の御宗家」と敬われていた源鞠子の夫であったアーダージャハリーファの末裔と出会う
彼に誘われるまま、バーレーンに立ち寄った馬蹄羅一行は、
その島がアーダージャの末裔たちが王族として統治している「楽園の島」であることを知る。
馬を贈られ島の暮らしを享受する馬蹄羅たちであったが、
その楽園の島も表の穏やかさとは異なる影の顔を持っていた。
在バーレーン駐留米軍指揮官バタピー少将、
イランペルシャ湾岸方面軍司令官ウマル・アフマディーネジャードなど、
それぞれの立場の思惑も絡め、物語はさらに核心に迫っていくのであった・・・
馬蹄羅物語第三話にいまんとこ登場した人々、
および今後登場しそうな人々
【源佐波衛門】(みなもとさばえもん)
馬蹄羅宗家末裔。馬蹄羅流流鏑馬師範。
【安治の平城】(あじのひらき)
馬蹄羅武士、安治氏の末裔。
【紀精華】(きのせいか)
馬蹄羅武士、紀氏の末裔。
【草流明日香】(そうりゅうあすか)
馬蹄羅武士、草流氏の末裔。
【沙羅トリスメギストス】
元・オマーン王家女官長。元・オマーン国際文化交流事業担当補佐官。
【イーサ・ラングレー・デル・ハリーファ】
ハリーファ家第六王子。アーダージャハリーファの末裔。アラブ米仏の混血。
【ハマド・サルマーン・ダル・ハリーファ】
イーサの父にして、ハリーファ家の家長。デュルムンの島の国王。
【ウマル・アフマディーネジャード】
イランペルシャ湾岸方面軍司令官。マフムード・アフマディーネジャードの末裔。
【バタピー少将】
在バーレーン駐留米軍指揮官
【アマイモン】
????????
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物珈琲醍醐菓子参第似帝國迄
蟹鮨野菜漬物鮭缶里芋即席麺果実菓子似胡瓜似残
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物珈琲醍醐菓子参天婦羅蕎麦確定
蟹鮨野菜漬物鮭缶里芋果実菓子似胡瓜似残
蟹鮨鶏肉揚物似野菜漬物温珈琲紅茶醍醐菓子暫定
蟹鮨鮭缶里芋野菜胡瓜漬物似果実菓子似即席麺似 残
蟹鮨鶏肉揚物里芋野菜胡瓜漬物果実菓子暫定
蟹鮨鮭缶野菜漬物胡瓜三果実菓子即席麺似残
蟹鮨鶏肉揚物里芋野菜胡瓜漬物中華麺珈琲果実菓子確定
蟹鮨鮭缶野菜漬物胡瓜三果実菓子即席麺醍醐菓子似残存
kuu0002
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物胡瓜珈琲果実菓子醍醐菓子予定
蟹鮨野菜漬物鮭缶胡瓜似果実菓子似即席麺醍醐菓子残
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物似胡瓜珈琲醍醐菓子第二帝國迄確定
蟹鮨野菜漬物鮭缶胡瓜似果実菓子参即席麺似醍醐菓子残存
【バタピー少将の情事】
在バーレーン駐留米軍指揮官バタピー少将は、
相変わらず暇を持て余しており、また既述のとおり少々スケベであったので、
本国から取り寄せたアダルトを眺めつつ夜な夜なズリセンで済ませることに
次第に満足できなくなってきていた。
さらに不幸なことに少将は少々イカモノ食いであり、かつ熟女マニアでもあった
これらの悪条件が重なった結果、
少将はつい米軍施設内で雑役婦を勤めている婆に手を出してしまった
ア・マイモンという名のその雑役婦は、見た目四十がらみの豊島女で
普通ならイカモノ食いの熟女マニアの少将と言えども、遠慮していたことであろう
しかしバーレーン赴任後の女日照りとあまりにものんびりとしたこの国の風土が、
少将の軍人としての理性を少々損なっており…
つまり、関係してしまったのである
かくして少将は今日も真昼間から司令室にア・マイモンを引きずり込んで
あんなことやこんなこと、果てはそんな淫らふしだらなことまでして、
己の性欲を発散させていた
性欲を満たすこと、それ自体は生理的欲求であり、
決して非難されるべきことではない
とはいえ、軍の指揮官たるものが真昼間から自分の職場、つまり司令室において
あんなことやこんなこと果てはそんな淫らふしだらなことまでしているようでは、
その指揮下の軍が有事の際に的確な対応が取れなくなることは言うまでもない
ゆえに、その夜、マナーマ市内で発生した重大な保安上の事件に対して
駐留米軍の反応がきわめて鈍いものとなってしまったのも、
やむをえないことであったといえよう
【発端】
どちらが先に仕掛けたのか、それは第三者の視点からはなんともいえない
デモ隊側は「警察がいきなり発砲してきた」と言い、警察のほうは
「デモが暴徒化して投石をはじめたので、やむなく自衛した」と言う
いずれにせよ、
その晩のデモが暴動にまで拡大し、結果として死者が出たということが
デュルムンの島民たちの怒りに火をつけてしまったことは紛れも無かった
既述したとおり、
デュルムンは統治者たる王家がスンニー派なのに対し、
住民の大半はシーア派である
その宗派の違いによる齟齬と言うのは、
非ムスリムであるわれわれには想像できないほど根が深く、
いったん火がついてしまうとあっという間に暴動と化してしまうものなのである
とにかくその晩の暴動はおさまることなく、デュルムンは騒乱状態に陥った
王家ハリーファとバーレーン政府は国内に非常事態宣言を発令し、
各国の大使館はそれぞれの国の国民に今後入国しないよう勧告を出すとともに
すでに入国してしまっているものたちには速やかに出国するよう、促した・・
のちに「デュルムン大動乱」と呼ばれることとになる
このバーレーンの騒動状況に最もすばやく反応したのは隣国のサウジであった
サウジとバーレーン島を結ぶ橋「キング・ファハド・コーズウェイ」は、
表向きの理由としては「物流の利便性を考慮して」つくられたことになっているが、
実際は軍事施設であり、
この橋一本あるがためにサウジは直接陸続きに戦車部隊をバーレーン島に送り込めるのである
バーレーン島はサウジの目と鼻の先にあり、
もしココがイラン領にでもなってしまえば国防上の大問題となる
バーレーン騒乱状態に陥る、の第一報に接したサウジの王家サウードは
直ちに戦車部隊の出動を命じた。
サウジ陸軍の反応も素早く、翌日にはすでに
サウジ戦車部隊の精鋭が「キング・ファハド・コーズウェイ」の
サウジ側の入り口に終結していた
これらサウジの反応と比較すると
在バーレーン駐留米軍の反応は極めてにぶいものであった
・・・・・
「とりあえず駐留米軍は動くわけにはいかんよ
この機に乗じてイランが攻めてくると言うなら対応するがな
うかつに軍を動かせば、また『アメリカはバーレーンを私物化している』と叩かれるだろう
だろ?だろ?
モチロン本国に報告はするように。ただあまり状況を悲観的活過大に報告してはならん
その点、気をつけるように」
「…は。わかりました」
いささか不満顔の副官が立ち去った後、
バタピー少将は机の下に隠れて少将のチンポをなめていたアマイモンに尋ねた
「今みたいな対応でよかったかな?」
「・・ま、よかろう」
アマイモンは四十がらみの雑役婦のババアとは到底思えない
威厳を持って応じた
うすらぼんやりとしている少将の顔つきとは対照的に
アマイモンの瞳は妖しげな光をたたえ、その顔は不気味に微笑していた・・
【馬蹄羅&沙羅、出国せず】
「私がうかつにお招きしたために皆さんをこんな騒動に巻き込んでしまってまことに申し訳ない
出国の用意はこちらで滞りなくいたしますので、
皆さんにはできるだけ早めに島から離れていただこうと思っております」
「イーサ殿、何を言われる。
ドバイで、これこそアラーの神の御引き合わせと言われたのは
他ならぬそなたさまではございませんか
…いや、無論われら馬蹄羅はムスリムの徒ではござらぬ
さりながら我らにとって神にも等しい最後の御宗家、
源鞠子様の御夫君であられたアーダージャハリーファ殿の末裔たる
そなた様に招かれてこの島にやってきて今こうしてかかる騒乱に巻き込まれたのは、
ただの偶然とも思えぬ。
思うにこれはおそらく鞠子様の御霊のお導き。
わが夫の末裔たちの危難を助けよ、という示唆であろうかと思われる。
われらが遠祖、鞠子様にゆかりあるそなた様方の危難に遭遇して
何もせぬに退去するなど、思いもよらぬこと。
邪魔だと言われぬ限りはこの島にとどまって、イーサ殿の手助けなどをしたく存ずる」
「しかし…」
「いやいや、御師範の言うとおり。
私たちにも何かできることがあればお手伝い致したいです。…精華と明日香は如何に?」
「剥げ胴」「おなじく禿です」「沙羅殿は?」「モチのロン」
「これで決まりじゃ。イーサ殿、ご異論ござるまいな?」
「はあ…」
【仕掛け人はウマル。しかし…】
「司令官の思惑通りに事は運んでいる模様でございますな」
「うむ…」
シーア派住民のデモを利用してバーレーンを騒乱状態に陥れ、
ハリーファ家を倒してスンニー派の王政を転覆させてしまう。
スンニー派の王家であるハリーファ家が倒れれば
住民の大半がシーア派であるバーレーン、デュルムンの島は
いずれは我がイランの掌中に帰するであろう…
これがイランペルシャ湾岸方面軍司令官、
ウマル・アフマディーネジャードの描いていた筋書きだった。
ウマルは軍人だが、
大国イランから全幅の信頼を得て
ペルシャ湾岸方面全域の戦略を委ねられているだけの人物であり、
単なる行け行けドンドンのバカ軍人とは雲泥の差がある知将であった。
「戦わずに勝つが最上」という孫子の言葉を、
アラブに棲むウマルが知っていたかどうかまでは定かではないが、
軍を動かすというのは本当に最後の最後、決めに行くときだけだ、
という考えかたを持っていた
いま、バーレーンはウマルの仕掛けに乗って騒乱に陥っている
ココまではイラン軍は一兵たりとも動いていないにもかかわらず、である
(すべては予定通り。うまくいっている。しかし…何だろう、この違和感は?)
百戦錬磨のものだけが感じとれる微かな違和感を
このオペレーションからウマルは感じ取っていた・・・
【サウジからの使者】
デュルムンの騒乱は日を追って沈静化するどころか次第に拡大し、
当初は首都マナーナだけの騒乱だったものが、
いまや島全土にまで広がっていた
このことを国防上の重大事とみなしたサウジアラビアの統治者サウード家は、
バーレーンの統治者ハマド・サルマーン・ダル・ハリーファ三世に対して
サウジ戦車部隊の島内突入を依頼させようと画策した
サウジの立場から見れば
「バーレーン島はサウジの保護領だ」ぐらいにしか考えておらず、
本来ならハリーファの依頼など無くとも、
問答無用で戦車部隊を島内に送り込みたいところだ
しかしそんなことをしたら国際世論の袋叩きを受けることは間違いない
サウジとしては、
「ハリーファ家からの要請があったのでやむなく戦車部隊をバーレーンに送り込んだ」
という体裁を作りたかったのである
・・・・・
「…受けるしかあるまい」
家族会議の席でハマド・サルマーン・ダル・ハリーファ三世は、
苦虫を噛み潰したような顔でぼそっとつぶやいた
家族会議といってもハリーファ家はデュルムンの王家なので、
ハリーファの家族会議=王族会議=デュルムンの最高意思決定機関である
正直言ってハマドとすればサウジの戦車部隊など、受け容れたくはない
それではまるでバーレーンがサウジの保護領…サウジ側は既にそう思っているわけだが…ではないか。
ハリーファとサウードは元々同属から出てきた同格の家であるはずなのに・・・
大国からの押し売りを受け容れざるを得ない小国の悲しさを慮り、
家族たちはみな顔をうつむいた
「嘆いてばかりいても仕方あるまい。
…さて、サウードはまず打診のための使者を送る、と申して参っている。
その使者に私自らが戦車部隊の介入を要請し、それをサウードが受ける、と。
そういう体裁を取り繕いたいようじゃが、迎えのものを誰にすればよいかの?」
「迎えのもの」とは要するに
例のサウジとバーレーン島を結ぶ橋「キング・ファハド・コーズウェイ」にまで出向いて
サウジの使者を迎えるもの、という意味である
あの場所だけがサウジとバーレーンを分かつ唯一の陸続きの「国境」であり、
サウジから正式な使者が来るというのであれば、
国境警備兵にだけ任せて通過させるというわけにもいかず、
誰かそれなりの地位か身分あるものが応接せねばならない
かと言って、誰もそんな鬱陶しい役を引き受けたいはずも無く、
家族会議のメンバーの顔は自然とうつむき加減になった
その重苦しい雰囲気を破って、末席のほうから声が上がった
「異国の者にお願いしてみる、というのはいかがでしょう?」
その声の主こそ、まさしくハリーファ家第六王子、
イーサ・ラングレー・デル・ハリーファ、そのひとであった・・
鱒鮨野菜漬物鶏肉揚物珈琲果実菓子醍醐菓子予定
鮭缶(胡瓜果実菓子即席麺)*2コーンマヨネーズ残存
鱒鮨野菜漬物鶏肉揚物似果実菓子醍醐菓子コーンマヨネーズ確定
蟹鮨野菜漬物鮭缶醍醐菓子胡瓜漬物似果実菓子似即席麺似残存
【笹に〆サバ】
島内全域騒乱中と言っても二十四時間四六時中、
投石やら銃撃やら殴り合いやら殺し合いやらをしているという訳ではなく
お休みタイムというものがモチロンあるわけだが、
「そのとき」ばかりはお休みタイムというよりむしろ、
暴徒たちがその一行の姿に唖然として騒乱するのを忘れてしまった、というのが正しいだろう
その一行の中央に位置するジープは、
そのミラーにサウジの国旗が掲げられているので
これがサウジからの使者だということがわかるが、
その周りを護衛するように固めている五人の騎馬たちはなんなのか?
顔もアラブ系ではなく、
身にまとっている物もチャドル(←写真などでよく見かけるアラブの白い衣装)ではない。
先頭の一騎が掲げている小旗は、
バーレーンの国章にしてハリーファ家の紋章、盾と血のエンブレム。
これはまあわかるとしても、
残りの四人が背負っている旗に描かれている紋様は、
デュルムンの住人たちが初めて目にする紋様だった。 「笹に・・・魚?」
・・・・
このときが
馬蹄羅宗家の家紋「笹に〆さば」がデュルムンの地に掲げられた
史上初の出来事とされております …が、定かには存じません
(つづき)
「…なるほど。これが小国の知恵というものか」
サウジアラビア戦車部隊の指揮官にして「サウジからの使者」、
アブドーラ・シュリービジャヤ・パンナコッタ大佐は、少し感心したようにつぶやいた
「キング・ファハド・コーズウェイ」の国境検問所で
バーレーンからの出迎えの一行を見た当初、大佐は軽くむかついた
まず、出迎えの一行の中にハリーファの王家のものが一人もいない。
それどころか全員異国のものたちで、服装も奇異である
とどめは、迎えの一行の五人中三人が女、という事実。
男尊女卑のイスラム世界では
政治や外交の舞台に女が出てくるということは、まずあり得ないことだ
さらにそういう男尊女卑の気風が強いイスラムの中でも、
サウジはイランと並んで女性差別の親玉みたいな国である
例えばサウジ国内では肉親以外の男に声をかけた女は、「淫らな行為をした」ということで逮捕である
声をかけただけで即アウトなのだから、
あんなことやこんなこと、さらにはそんなふしだらことをしようものなら、
その場で銃殺、絞首刑も免れない。
そんな風土の国で一軍を任されている武人の
アブドーラ・シュリービジャヤ・パンナコッタ大佐からすれば、
出迎えが女だというだけで、
超むかつく、てめえら俺のことをなめてんのか、あ?
…という心境になるのも無理ないことだったのである
(つづき)
「アブドーラ・シュリービジャヤ・パンナコッタ大佐でいらっしゃいますね?
…使者としてのお勤め、ご苦労様です。
わたくしはハリーファ王家女官長にして、
バーレーン国際文化交流事業担当補佐官も兼任している、
沙羅トリスメギストスと申します」
「ふむ・・・気のせいかな?
以前、私は公用でオマーン国に赴いたことがあるが、
その際おマンコクサイ空港でそなたの姿を見かけたような気がするのだが」
「気のせいでございましょう」
大佐のツッコミをさらりと受け流して、沙羅は続けた
「しかしわたしはまぁ通訳のようなもので。
本当の出迎えのかたがたはあちらの四人…」
「あのものたちは…どう見てもイスラムのものではないな。
そなたが通詞ということは、彼らはアラビア語も不如意か?」
「いかにもさようで。しかしながらあの方たちは、
現ハリーファ王家の遠祖に当たるアーダージャ・ハリーファさまという御方とゆかりある方々にて、
いずれも身分高貴なる方々。
決してサウジの使者である大佐を軽んじているわけではありませんので、
その点、意趣をもたれませぬように」
「彼らの出生はいずこか?インドか?あるいはシナか?」
「日本国はバッテラムらより参られました、馬蹄羅武士の末裔の方々でございます」
(つづき)
こうして大佐と馬蹄羅たちという珍妙な組み合わせの一団は、
キング・ファハド・コーズウェイの国境検問所から首都マナーナまで向かうことになった
大佐は争乱中の地域に入るということで、当然のことながら
ジープは特別仕様のものを用意していた
どこで襲われてもいいようにガラスもタイヤもすべて防弾。
護衛三人には機銃を持たせ、運転手も大佐自身も武装している
しかしあの馬蹄羅なるハリーファ家からの迎えのものたちは、
どういうつもりか火器類すら身につけず、悠然と馬を進めている
スンニー派の王家であるハリーファゆかりのものと知れれば
シーア派の住民から襲われても不思議ではないのに
そんなことは我関せず、といわんばかりに飄々としているではないか
「目には目を」「歯には歯を」のハムラビ法典の時代から
争乱が日常のオリエント世界で生きてきた大佐には、
まったくもって理解できない者たちだったが、
しかし現に誰一人として一行を襲撃しようとするものが現れないことから
なるほどそういうこともあるのかも知れない、と大佐は思い直した
ココはアラブであり、イスラムである
そしていまシーアとスンニーの間の長年の確執が元で暴動が起きている
そういうところに、
アラブではなく、シーアでもスンニーでもイスラムでもない、
日本馬蹄羅武士の末裔というまったく異質な存在を放り込むことで
一瞬だけかもしれないが、住民の怒りの熱が冷やされたのだ
それは確かに一時的なものに過ぎないかもしれないが、この際はそれで十分だ
サウジの使者である大佐が
キング・ファハド・コーズウェイとマナーナを往復するわずか数時間だけ、
「冷えれば」いいのである
大佐が
「なるほどこれが小国の知恵か」と感じ入ったのはその部分だったのである
既述したとおり、
あくまで形式だけのことではあるが
デュルムンの島の王、ハマド・サルマーン・ダル・ハリーファ三世は
サウジからの使者アブドーラ・シュリービジャヤ・パンナコッタ大佐に
戦車部隊の支援を依頼し、 大佐がこれを謹んで承る、
という形をとって「儀式」は終わった
・・・・
「佐波衛門さん、ありがとうございました。
これで王家の面目も保てたし、暴動も収拾に向かうことでしょう
本当に助かりました」
高齢で体力がないことを理由に
帰路の護衛を辞退して独り王宮に残った佐波衛門に、
イーサは丁寧に礼を述べた
「いや、この程度のこと、さしたることもございません
むしろ微力ながらもお役に立てましたこと、我らのほうが光栄でござる
しかしサウジの戦車部隊とは、さほどに凄まじきものなのでございますか?」
「ええ。サウジは砂漠の国ですから。
国土防衛の観点からも、
陸海空の中で陸上戦の主力となる戦車部隊には特に力を入れています。
遺憾ながら小国である我がデュルムンにあれほどの軍事力はありません。
サウジの戦車が入ってくれば、
この島の暴動は速やかに鎮圧されるでしょう」
【ペルシャ湾洋上にて】
「そうか…サウジが動くか」
その情報を聞いたイランペルシャ湾岸方面軍司令官、
ウマル・アフマディーネジャードは軽くうなづいた。
ウマルは既にアサルイエの軍港から離れ、イラン海軍の旗艦「ペルセポリス」に乗艦し、
護衛艦数隻に揚陸艦まで加えたペルシャ湾艦隊の主力を率いて、
領海内ぎりぎりのところまで、艦隊を運航させてきていた。
無論このままデュルムンまで突入する気など、無い。そういうのはバカのやることだ。
この艦隊の運航は一種の自慰…じゃなくて、示威行為なのである
ウマルの狙いは
「デュルムンにいるシーア派同胞たちの危難を救うため」という名目で、
領海内のぎりぎりまで艦隊を動かし、サウジを牽制することだ。
サウジがこれに反応してデュルムン島に戦車部隊を送り込めば、
確かに暴動は鎮圧できるだろうが
「サウジは安易に他国の主権に介入する危険な国だ」と、叩くことができる
また万が一サウジが動かず、
さらに我がイラン艦隊の動きでデュルムンのシーア派住民が活気付き、
暴動が成功して王家ハリーファが倒れる、などということになれば、それはそれで万々歳。
いずれにせよ、どっちに転んでも損は無い、という計算である
まあ恐らくサウジは動くだろう、とウマルは思っていた
だから「サウジの戦車部隊動く」の情報は予想どおりである
サウジの軍事力にデュルムンの暴徒たちが太刀打ちできるとは思えない
暴動は鎮圧されるだろう
しかしその後、国際世論の中で「サウジの蛮行」を叩き、ポイントを稼げばよい
国際戦略というものはそう簡単に
軍事力を行使して切った張ったできるものではないということを、
知将ウマルは十分に熟知していたのである…
【ハリアー、飛び立つ】
アブドーラ・シュリービジャヤ・パンナコッタ大佐が
戦車部隊に戻り全軍に進撃の命令を下して
巨大な海の架け橋「キング・ファハド・コーズウェイ」を渡り始めた頃、
バーレーン駐留米軍基地から
一機のハリアーが管制塔の指示も受けずに飛び立った
ご存知のとおり、
ハリアーはヘリコプターのように垂直離着陸ができる、
滑走路を必要としないジェット戦闘機である。
滑走路いらずとは言え、さすがに離陸の際の爆音は基地内に響き渡り
気づいた管制官は慌ててパイロットと通信を取ろうとした。
しかしそのときにはすでにハリアーはエンジンを水平にスロットルさせ、
米軍基地施設内から飛び出していった
基地内は大騒ぎとなり、副官はとりあえず御注進せねばと、
フランクバタピー少将のいるはずの司令室に駆け込んだが、
司令室はもぬけの殻だった…
(よくやった。そのまま、キング・ファハド・コーズウェイへ向かえ)
「…はい」
米軍司令室がもぬけの殻だったのも当たり前、
ハリアーを乗っ取り、米軍基地から飛び出していったものこそ、
フランクバタピー少将その人だったのである
もはや、少将に自分の意思というものは無かった
ア・マイモンの声だけが少将の脳に直接届き、
少将はその声にしたがうだけのマリオネットとなっていた。
ア・マイモンの声がハリアーを奪って離陸せよ、と
少将に言ったからその声に従っただけだ
デュルムンは、国といっても日本で言えば奄美大島程度の大きさの島国であり、
少将の操縦するハリアーにとっては
米軍基地からキング・ファハド・コーズウェイまではあっという間だ
戦闘機の視点は天空を駆る鳥の視点である
橋の向こう、サウジ側のほうから戦車部隊が蟻の群れのようにやってくるのが見えた
(ミサイルを放ち、橋を破壊せよ) 「…はい」
ハリアーに搭載されていたミサイルが二基、放たれた。
一基は狙いをわずかにはずし、洋上に激しい水柱を立てただけだったが、
残りの一基は見事…と言っていいかどうか知らないが、
キング・ファハド・コーズウェイを直撃し、火柱とともに橋脚を砕いた
かくしてサウジとデュルムンをつなぐ唯一の陸路、
キング・ファハド・コーズウェイは寸断されたのである
・・・・
指揮官不在で混乱がつづく米軍基地。
その上空に先ほど離陸したばかりのハリアーが再び戻ってきた。が。
ハリアーは着陸のそぶりもみせず、
そのまま基地の弾薬庫に向かって突っ込んだ
墜落ではない。意図的な突入、すなわち「カミカゼ特攻」である。
すさまじい爆音と火柱と猛煙が湧き上がり、
サイレン音が鳴り響き、兵士は右往左往し、基地内は混乱の極みに達した
(少将がいない以上、副官である私が指揮代行をせねば…)
軍隊と言うものは指揮するものがいなければ、まったく機能しない
そのため有事の際に大将が万一戦死でもしたら
次の指揮官は誰、その次は誰と言うように、あらかじめ順番が決まっている
いま、少将が戦死したかどうかはわからない。
しかし、ココ司令室に指揮官たる少将がいないというのでは話にならない。
序列に従い、次官である自分がこの混乱を収拾させねば…
と、副官が思ったそのとき、
少将の机の下から小汚い格好の四十がらみの豊島婆がのっそりと姿を現した
「うわぁぁぁ!!・・っと。ビックリさせるな
おまえは雑役婦のア・マイモンではないか。こんなところで何をやっとる
ココは司令室。お前のような雑役婦が長居してよいところではないぞ
掃除がすんだらさっさと出て行け。いま、基地は大混乱だ。
収拾がつくまでどこぞで大人しくしておれ」
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【ペルシャ湾洋上にて】U
「キング・ファハド・コーズウェイが破壊された、だと?」
イランペルシャ湾海軍の旗艦「ペルセポリス」の艦上にいたウマルは、
その驚くべき情報を告げにやってきた副官の顔を思わずまじまじと眺めた
「は。恐らくはデュルムンのシーア派住民たちの破壊工作かと思われますが
現在、サウジの戦車部隊は橋上で立ち往生しており、
島にたどり着けない状況となっております。
さらにいまひとつの情報によれば、
島内に在ります駐留米軍基地も指揮官が事故死した模様で
機能不全の混乱状況に陥っているとのこと」
「うーーーむ・・・・・」
「司令。…副官の身で差し出がましいとは存じますが、、
これはデュルムンの島を我らシーア派が奪回する絶好の機会が到来したのではないでしょうか?
デュルムンには現在サウジの戦車もおらず、駐留米軍も死に体。まさに裸身の状態です
今ならあの島を攻略することも、いとたやすきことかと」
「・・・・」
「司令!!」
「ひとつ、気になることがある。
そのほう、その情報をどこやって入手した?
そこまで詳細な情報は国家情報局ですらいまだ入手できてはおらぬ。
私の副官に過ぎぬそのほうが、なぜそれほどまでに詳しくかつ素早く
デュルムンの現状を把握できたのだ?」
(つづき)
「それは…いささか驕った言い方にはなりますが、
私が使っておりますデュルムン在住のスパイが優秀だからでございましょう
失礼ながら司令官ご自身もそのスパイが提供してきた情報に基づいて、
今回のオペレーションを立案されたのではございませんか?」
「うむ、それはたしかにそのとおりだが…
あまりにも優秀すぎるということに多少引っかかるものを感じるのだ」
「それは要するにアラーの神のお導き、ということでございましょう
我らシーア派がデュルムンを取り戻すためには、
そうした人智を超えた力が必要なのでございますよ。今がそのときかと」
「そのほうが使っているそのスパイの名はなんと申すのか?」
「はて、本名は私も存じません。また性別も存じません。
ただ、そのスパイが好んで用いるコードネーム、暗号名から
あ、この情報はあいつがもたらしたものだな、ということは一目でわかります」
「というと?」
「そのものは気紛れな性格なのか、
暗号名も日によって変えるのですが、それでもすぐにわかるのですよ
たとえば、あるときの暗号名はストロベリージャム。
またべつのあるときは、ホイップカスタードドーナツ。
しかしてまた別の折には、クリームチョコエクレア。
…などと名乗ってくるのです」
「なんじゃ、そのコードネームは。甘いもんばかりではないか」
「は。それゆえ、私はそのスパイのことをアマイモンと呼んでおります」
【デュルムンの王宮にて】
緊急事態に際し、
取り急ぎデュルムンの王宮でハリーファ家の臨時家族会議が開かれた
くどいようだがハリーファ家はデュルムンの王家なので、
家族会議=王族会議=デュルムンの最高意思決定機関である
「大変なことになった。
キング・ファハド・コーズウェイが破壊されたため、
サウジの戦車部隊がこの島にやって来れぬ。
イランの艦船もペルシャ湾からこの島の間近に接近しておるようじゃ
島内のシーア派の暴徒たちも活気付いておるようだし、まさに亡国の危機」
「イーサ。キング・ファハド・コーズウェイを破壊したのは、
そなたが連れてきたあの日本の馬蹄羅とか言うものどもではないのか?
日本には嫌米サヨークという種族が棲息していると聞いたことがある。
あのものたちは実は嫌米サヨークで、
親米国である我がデュルムン、ハリーファ家を倒すために
ココ中東にやってきた間諜たちやも知れず」
「伯父上…」
一瞬絶句したイーサだが、息を整え穏やかに応接した
「キング・ファハド・コーズウェイは、
戦闘機のミサイル攻撃によって破壊されたとのこと。
目撃報告も御座いますし、そもそも馬蹄羅のかたがたは
火器のひとつも身につけておられぬではありませんか。
私が招いた客人方にあらぬ疑惑をかけるのはやめていただきたい
既に申し上げましたとおり、あの方たちは
我らの遠祖、アーダージャ・ハリーファ様にゆかりのある方々。
我らハリーファ家に対し悪しきことをいたすはずも御座いません」
(つづき)
「双方、静まれ。かの馬蹄羅なるものたちは、
ドバイで偶々出会ったイーサの招きに応じ、この島に参ったものたち。
今回のサウジの使者に対する送迎の役目も滞りなく勤めてくれており、
悪しきものたちではない。
ゆえに、かのものらに猜疑の目を向けることは非礼。
そのこと、国王たるワシが禁ずる。…よいな」
「ありがとうございます、御父上」
「とはいえ、デュルムンが危難に陥っているいま、
彼らを客人としてもてなす余裕も無い。どう遇したら良いかの?」
「では私の…いや、この王宮の臨時衛士として勤めていただく、
というのはいかがでしょうか?
あの方たちは馬蹄羅武士の末裔の方々。
男女関係なく、武技の心得がございます」
「女が太刀を使うのか?」
先ほど馬蹄羅を疑う発言をした『伯父』が、やや嘲笑ぎみに質すのを
イーサは軽く無視し、国王に改めて打診した。 「いかがでしょう?」
「よかろう。ただし当面は、イーサそなたの護衛としてそなた自身が用いるよう。
王宮にも近衛兵はおる。あえて異国のものに王宮の守りをゆだねることは無い」
「…は」
「女官長に抜擢した沙羅とかいうおなご、
あのものも武技の心得などあるのか?」
「さて、それは存じません。しかしあの女性は、
こちらに来るまではオマーン国で女官長も務めておりましたし、
アラビア語、日本語、英語、フランス語、スペイン語、ヒンドゥー語、スワヒリ語、
…などの各種言語に通暁しており、また
アラビア文字、日本文字、神代文字、エラム文字、ヒエログリフ、楔形文字、
…などもすべて読むことができますので、
お側にとどめおかれても決してご損にはなりますまい」
【駐留米軍基地司令室の惨状】(
>>422あたりからのつづき)
ハリアーの特攻により弾薬庫が爆発し、
それに伴う延焼を必死で防いでいた匿名希望のスミス軍曹(40才)は、
いつまでたっても基地内の指揮系統が発動しないことにいい加減ぶち切れてしまった
軍曹というのは、
まあなんと言うか学校でたとえれば基地の指揮官が校長だとすれば、
クラスの班長みたいなもので、ペーペーではないが、
基地全体の指揮などとは無縁の階級である。
しかしいつまで待っても司令室から何の指示も出てこないため、
とうとう頭に着たスミス軍曹(匿名希望の40才)は、
ついに司令室にまで押しかけていき・・そこで見てはならないものを見てしまった。
司令室には本来の指揮官である少将の姿は無く、
少将不在の際に次の指揮官になるべき大佐の生首。とその胴体。
さらにその次の次の指揮官になるべき中佐の生首。とその胴体。
さらにその次の次の次の指揮官になるべき少佐の生首。とその胴体。
とどめが上の者全員が死亡した際に最後の指揮官になるべき大尉の生首。とその胴体。
以上、四つの生首と胴体を発見したのであった。
ひょほ。ひょほ。ひょ〜っほほほほほほほほほ…
この世のものとは思われぬ不気味な哄笑が聞こえたような気がして、
軍曹は思わず耳を押さえてその場にしゃがみこみ、激しく嘔吐した。
かくして指揮官全員を失った駐留米軍基地は、
完全にその軍事的機能を喪失したのであった…
【戦艦ペルセポリス、現る】
在デュルムン駐留米軍基地の軍事機能が停止した、その数刻後。
ウマル司令官を乗せたイランペルシャ湾海軍の旗艦「ペルセポリス」が
護衛艦や揚陸艇を引き連れてデュルムン沖についにその勇姿を現した
完全な領海侵犯である
副官の強い…というよりむしろ、
何かに取り憑かれたような激しい進言に押されて
ウマルはとうとうデュルムンの島が視野に入るところまで艦隊を進めてきていた
しかしココに来てもなお、ウマルの胸中には逡巡があった
確かに副官の言うとおり、
今デュルムンを攻略することはたやすいだろう
まさに赤子の手をひねるようなものだ
しかしそのあとどうなる?
ハリーファ王家を潰し、
シーア派住民の中から少し頭の回るものを選んで傀儡政権を立てさせるか?
それをサウジやアメリカが納得するとは、ウマルには到底思えなかった
(或いは私はとんでもない誤りを犯そうとしているのかもしれぬ・・・)
我ながら煮え切らないと思いつつ、
ウマルの心にはやはり暗く黒い霧がかかっていた
それは、ある種の「恐怖」だった
(つづき)
「イランペルシャ湾艦隊、沖合いに出現」の報を受け、
デュルムンの王宮内は騒然となった
それも無理はない
サウジとアメリカの支援なくしてデュルムンだけの軍事力では、
どう考えても太刀打ちはできないからだ
デュルムンにある戦力と言ったら、
王宮を守る近衛兵と国境にいる警備兵、あとは警察ぐらいのもので
この程度の戦力でイランペルシャ湾艦隊の精鋭と戦うなど、自殺行為に等しい。
「ど、どうしたものか…」
平素冷静沈着なデュルムンの王、ハマドの顔もさすがに青ざめている
むしろ責任の重圧が少ない第六王子のイーサのほうが腰が据わっていた
「さすれば、まずは退去を通告するのが筋でありましょう。
ココまで来た以上、通告したからと言って
向こうもおいそれと退去するとも思えませんが、
何かの糸口なりはつかめるかもしれませんし、
時間を稼げればサウジやアメリカの救援部隊がやってくるかも知れず」
「さようか。しかし誰を使いにやるべきか…」
「言い出した以上は私が行くしかありますまい」イーサは毅然として言い切った
「え?なにゆえそなた自身が行く?
そういう危うきところには誰かほかの…たとえば、
そなたが招いた日本馬蹄羅の者たちなどを行かせればよいではないか?」
「馬蹄羅の方々は四人おりますのでその半数、
二名は私の護衛として同行していただくことにいたしましょう。
しかしいずれにせよ、私自身が参らねば、ラチは開きますまい」
(つづき)
「御父上、まあお考えください。
サウジの場合は向こうも使者を遣わしてきたので、こちらも代理の迎えで済ませました
しかし今回はそうは参りません。向こうは艦隊の司令官が自ら出てきてまいったのです
それに退去を通告し、さらには何らかの話し合いにまで持ち込もうというのであれば、
これは『代理』ではすみません。ハリーファの家の者が誰か行かなくては。
そうせねば、向こうとて何に応ずる気にもなりますまい」
「…そうだな。わかった、イーサ。人選はそなたに任す。頼んだぞ」
・・・・・
「されば、まず私がイーサ殿の護衛をいたしましょう」
イーサから依頼を受けて、平城がまず応じた
「御師範は王宮にお残りください。さてあとの一名だが…」
「私は国際手旗信号の心得があります。お役に立てれば」明日香が手を挙げた
「おお明日香か。そうか、そうであったな。
そなたは手旗信号ができたのだった。それは役に立つかも。しかし…
アラビア語ではどうかな?」
「それは英語で大丈夫でしょう。向こうも指揮官クラスならば、英語の心得ぐらいはあるはず」
「いかにもそのとおり。では、平城さんと明日香さん、私とご同行願います。
佐波衛門さんと精華さんと沙羅さんは、王宮に残って待機してください」
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蟹鮨野菜漬物鮭缶詰胡瓜漬物似果実菓子天麩羅蕎麦残存
kuu0024
蟹鮨野菜漬物ポテトサラダクイニーアマン第二帝國暫定
鮭缶詰胡瓜漬物似果実菓子即席麺残
蟹鮨野菜漬物葉唐辛子昆布飯鶏肉揚物ポテトサラダ第三帝國確定
野菜漬物鮭缶詰胡瓜漬物似果実菓子天婦羅蕎麦クイニーアマン残
野菜漬物鮭缶詰胡瓜漬物似果実菓子醍醐菓子福豆クイニーアマン残補正
【戦艦ペルセポリス艦上にて】
「司令!マナーナ港の橋頭堡に馬影人影あり!
手旗信号でこちらに向けメッセージを送っている模様であります!」
強い恐怖心にとらわれ、
上陸命令を出すことを逡巡していたウマルは、
その物見の兵士の声でふとわれに返った
「読めるか!?」
「それが…アルファベット表記のようでわたくしには…」
ウマルは自らの双眼鏡を使い、
マナーナ港の入り口にある橋頭堡に三頭の馬と三人の人間がいることを確認した
一人はチャドルを身にまとっているのでデュルムンのものかと思われたが、
残りの二人の身なりはウマルにとっては見慣れぬものだった。
手旗信号はそのうちの一人…あれは女だろうか…が、送っている
通信内容は英語だった
「イラン艦船に告ぐ。我はハリーファの王子イーサ。貴艦はデュルムンの領海を犯している。
速やかに領海の外に退去せよ。・・・イラン艦船に告ぐ。我はハリーファの王子イーサ…」
手旗信号はこの内容を繰り返し送ってきていた
(ハリーファ家の皇子自らが来ているのか…港の入り口まで)
そのことがウマルの心を微かに柔らげた
(つづき)
「ジェットボートを一隻おろせ。そなたとそなたとそなた。私に同行せよ」
「なにを言われます?」
「ハリーファの王子自らが橋頭堡にまで来ておるようだ。
デュルムンの意思決定権を持つ者の一人と直接交渉できる絶好の機会。私自らが行く」
「なにをうろんな…いま我らは圧倒的な戦力を持って、
裸の状態にも等しきデュルムンを目にしているので御座いますぞ
交渉など無用のこと。このまま一気に上陸いたしましょうぞ。
王子の一人が港の突端まで来ていると言うなら勿怪の幸い。軍神の血祭りにあげてくれましょう」
艦隊進撃を激しく進言した、くだんの副官がいきり立つさまを
ウマルはやや呆れて眺めていた
(こいつ、完全に冷静さを失っておる…放っておくのは少々危ないやも知れん)
そう感じたウマルはその副官にも告げた
「そなたも同行せよ」
ウマル司令官とその副官および護衛三名が乗船したボートがおろされた
マナーナの港の橋頭堡に向かってボートが発進する寸前、
留守を預かる将校にウマルは簡潔な指示を下した
「スコープで我らの動きをよく見張っておれ。
もし伏兵なりなんなりが隠れていて、
我ら全員が討ち果たされるようなことがあれば…
そのほう、私に代わって上陸命令を出し、デュルムンを武力制圧せよ」
・・・・
戦艦ペルセポリスからジェットボートが発進するのを見て、
草流明日香はようやく手旗を振る手を休めた
「はぁ、もうくたくただ」
「勝負はこれからだぞ、明日香」
「いや、ここからは私の仕事。お二人は黙って御覧になっていてください」
「あ、いかにも。過ぎたる口を申しました。お許しを」
頭を下げるアジの平城に対し軽く頷き微笑むと、
イーサは再び口元を引き締めて接近してくるボートに顔を向けなおした
ジェットボートは水煙を上げつつ、見る間に近づいてくる
(誰が乗っているのか…)
それがイーサのいまの最大の関心事であった
(つづき)
「ハリーファの王子はどなたか?」
ボートから出て橋頭堡に降り立ったものは四名。
一名はボートに残り、緊急の際はいつでも発進できる状態でスタンバッていた
「私がハリーファ家第六王子、イーサ・ラングレー・デル・ハリーファ。そなたの名は?」
「イランペルシャ湾岸方面軍司令官、ウマル・アフマディーネジャード」
『アフマディーネジャード』という言葉を耳にしたとき、
明日香と平城の目がギラッと光った
それは、はるかむかしの馬蹄羅の物語に中に出てくる名前だったからだ
馬蹄羅のものたちは皆、幼い頃に父母からその話を聞かされてきている
しかしいまはそのことを問いただすことはできなかった
二人とも口を開かず、黙ってイーサの傍らに控えていた
「イーサ殿、か。…風変わりな護衛を連れておりますな。
デュルムンのものたちとも思えぬが、彼らの出自は何処か?」
「このものたちは私の護衛であり、かつ客人でもある。
出自は日本国馬蹄羅村より参られた方たち」
『馬蹄羅』という言葉を耳にしたとき、ウマルの目がギラッと光った
それは、はるかなるウマルの先祖マフムード・アフマディーネジャードより
代々引き継がれてきた遺言の中に出てくる名前だったからだ
しかしいまはそのことを詮索しているときではなかった
・・・・
イーサとウマル。二つの国の代表がマナーナの橋頭堡で対峙していた
【イーサvsウマル (或いは禅問答みたいな争論)】
「ペルシャの司令官殿。
貴殿はいかなるつもりで我が領海内に艦船を入れてきたのか?
国際法違反であることは火を見るよりも明らか。即時退去されたい」
「ハリーファの皇子よ。
このデュルムンの島で、我が同胞たるシーアの民たちがあらぬ差別を受けておる。
そもそもこの島は歴史的経緯から申しても我がイランの領土たることは明白。
ハリーファ家こそ、この島から去るべきであろう」
「歴史的経緯云々と申すが、それは遥かなるの昔のこと。
我がハリーファ家がこの島の統治を始めてから既に数百年も経過している
いまさらそのような遥か古のことを持ち出してきても
貴殿の領海侵犯の罪を正当化することは決してできぬ」
「サウジの戦車部隊を受け容れても、
我がイランの艦船は受け容れられぬと申されるか?」
「サウジの戦車部隊派遣は暴動鎮圧のため、われらの側から要請したもの。
われらは貴殿らに艦船の派遣は依頼しておらぬ」
「さてその暴動なるものも、そもそも貴殿らスンニー派の王族たちが
不当にシーアの民を虐げてきたがゆえに起きたものではないのか?
とすれば貴殿らには最早この島を統治する資質無し、と見たが如何に?」
「民を虐げてなどおらぬ。
英邁なる国王のご英断により、我らは既に立憲君主国の政体をとり、
あまねく国民たちに社会参与の機会を与えている」
「しかしいま現に暴動が起きておる。これは現王政に対する民の不満の表れ」
「その暴動そのものがペルシャが指唆したものと見ているが…如何に?」
「皇子よ、証拠も無きことをうかつに言われるでない。
・・ま、我らとすれば、 ハリーファ家の現国王が退陣され、
シーアの民どもに政治を委ねる というのであれば、軍を引いてもよい
ならぬというのであれば、力づくでもそのようにいたす意向だが如何に」
「司令官…そのような暴挙が今の国際社会が容認されるとお思いか?」
・・以下、エンドレスに続く
この延々と続くトップ同士の立ち話に、
脳が血管がぶちきれそうになったのが、
ウマルの後ろに控えていた例の好戦派の副官であった
この司令官はいったい何をやっているのか?
ぐだぐだ言ってないでさっさとこいつら三人をぶっ殺して、
揚陸艇を突入させて、島を武力で制圧して、王宮も破壊して、
ハリーファ家の連中も皆殺しにして、島の中央にイランの旗を掲げればいいのだ。
その後に何が起ころうと、そのときはそのときのこと。
もし仮にサウジが攻めてくるというなら、そいつらも皆殺しにして、
アメリカが攻めてくるというなら、それも皆殺しにすればよいだけだ
この司令官では…こいつでは埒があかん。いっそ、この俺が司令官になっていれば…
そのとき、不意に副官の脳に直接語りかけたものがいた
(そうさ、そのとおり。おまえが司令官になればいいジャマイカ・・)
(つづき)
副官は思わず辺りを見回したが、誰も口を開いている者はいなかった
全員、争論を続けるイーサとウマルの傍らに黙って控えているだけだ
(空耳…だったのか?)
(んにゃ。空耳じゃないよ。あたしだよ。あ・た・し。)
(…誰だ)
(あるときにはストロベリージャム。またあるときはホイップカスタードドーナツ。
またまたべつあるときには宇治抹茶入りシュークリーム。しかしてその実体は…)
(…アマイモンか)
(そう。あんたの主人、アマイモンさ)
(おまえが俺の主人?ふざけるな。俺がお前を使っていたのに。主人はむしろは俺のほうだ)
(口を慎みな。ご主人様に対して、『おまえ』とはなんだい。
あたしはわざとあんたに使われてやっていただけ。
本当の主人はあたし。お前はあたしの奴婢だ)
(…)
(わかったらさっさと返事シナ)
(…はい。失礼しました。ご主人様)
(わかりゃいいんだよ。さて、このウマルじゃ埒があかない。
ということで、あんたが今からイランの司令官だ)
(…はいご主人様。しかし、どうすれば)
(簡単なことさね。ウマルは今あんたに背を向けて、くだらない話に夢中。
あんたが腰に下げているサーベルで、その背中をズブリ。
ついでにデュルムン側の三人も殺してしまえ。
そうすりゃ、その瞬間からあんたがイランの司令官さ。
この島を焼いて食おうが煮て食おうが、あんたの思うがまま。
さあ。わかったら、さっさとやっちまいな)
(…はい。ご主人様)
(つづき)
ウマルはすでに上陸作戦をする意思をなくしていた
というか、もともとそんな気はなかったのだ
なんといってもデュルムンはペルシャ湾のど真ん中にある、世界の火薬庫。
仮にココを武力に任せて制圧できたとしてもそれは一時だけのこと、
必ずや強烈なしっぺ返しを食らうどころか、
まかり間違えれば第三次世界大戦の引き金にもなりかねない。
(私はどうかしていたのだ。何か禍々しきものが私に半ば取り憑いていたに違いない…)
しかしここまで来てしまった以上は、無為に引き上げるわけにも行かない
現在の圧倒的武力を背景に、できるかぎり有利な条件を相手から引き出し、
しかる後に引くべきだ。
そうせねば、それはそれでイランの国益を損なってしまう
国益のため争論を続けつつ妥協点を模索していたウマルは、
完全に後ろがノーガードになっていた
突然焼け付くような痛みを背中に感じ、次の瞬間ウマルは前のめりに倒れていた
振り返るとそこには、
くだんの副官が血塗られたサーベルを片手に自分を見下ろしていた…
誰もが一瞬何が起きたのか把握できず、その場で固まった
その隙をついて副官は倒れているウマルを飛び越え、イーサにまで襲い掛かってきた
「おのれ狼藉!」
平城が太刀を抜いて副官のサーベルを叩き落したが、
副官は素手のままで今度は平城のほうに踊りかかり、
ゾンビのように歯を立てて平城の頚動脈に噛み付いてきた
「ギャ!」 首筋を噛み千切られ、血を吹き上げながら倒れる平城。
その平城から離れ、次の獲物を求めて振り返った副官を、
明日香が正面から袈裟切りに切り落とした。ココまでほんの数秒の出来事。
「…あああアマイモン様…」
(…ちっ。役立たずが)
副官の脳が最後に聴いたアマイモンの言葉はそれだった。副官は絶命した。
「司令!」「平城さん!」
ようやく我に返った周りの者たちが、
それぞれに倒れている指揮官あるいは仲間の元に駆け寄った
平城はもう口も聞けなくなっていた。
口から血をあふれさせ、何か言いたげに明日香を見つめていたが、それは結局言葉にならず、
やがて目から光が失われた。「・・・平城さん」
ウマルはまだ息をしていた
しかし、自分の掌がどす黒い血に染まっているのを見て
軍人のウマルは自分がもう助からないということを悟った。
黒い血は臓器の血。内臓をえぐられたのだ
「司令!」「…作戦は中止だ…撤退せよ」「・・・司令」
(つづき)
「…ハ、ハリーファの皇子はおるか。そなたに渡したき物がある…」
「司令官殿。あまりしゃべらぬほうがよい」
「いや…どうせもう私は助からぬ。我が腰の剣を取れ。皇子に与える」
「この剣は?」「ズルフィカールじゃ」「……!」
ズルフィカール(アラビア語: ذو الفقار)とはイスラム伝説の聖剣であり、
英国ならばエクスカリバー、日本ならば草薙の剣がこれに相当する
「この島にはいま、禍きものが巣食っておる。
キング・ファハド・コーズウェイの破壊も恐らくはその物の怪の指唆。
この副官も取り憑かれていたのであろう…私自身も危ういところであった…
…物の怪を倒すには聖なる剣を用いるほかなし。これをそなたに…与う。
使いどころを間違えるなよ」
「…わかった。お心遣い、感謝する」
・・・・・
かろうじて息のあるうちに戦艦ペルセポリスに帰艦したウマルは、
留守居の将校に撤退命令を伝えると、自らはベッドに横たわった
軍医が傍らで必死の治療を施しているとはいえ、
ウマルはもう自分が助からぬことを知っていた
窓の向こうにはデュルムンの島があり、
馬を飛ばして王宮に戻っていくイーサと明日香の後ろ姿が見えた
(デュルムン…麗しの島…いつかは我がペルシャのものにしたきものよ
しかし…いまはまだそのときではなかった…これで…これでいいのだ)
ウマルの意識は次第に茫洋としていき、
やがて深い眠りの底に落ち込んでいった
イランペルシャ湾岸方面軍司令官、ウマルアフマディーネジャードは死んだ
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物珈琲醍醐菓子クイニーアマン暫定
鱒鮨野菜漬物鮭缶詰胡瓜漬物似果実菓子福豆即席麺残存
【悪魔アマイモン】
アマイモン (Amaimon, Amaymon)とは
「魔道師アブラメリンの聖なる魔術書」等、
複数のグリモワールで紹介されているキリスト教世界における悪魔である
…え?
だってウィキにそう書いてあるんだからしかたないでしょ
ちなみにどっかの漫画にも登場しているようだが、そっちのほうは知らない
マンガ読まないから。
・・・・
「あ、ども。わたくし、
ただいまご紹介いただきました悪魔アマイモンと申します」
デュルムンの王宮前にのっそりと現れた四十がらみの豊島婆が
そう名乗ったとき、近衛兵は
てっきりこのババア、気が触れているに違いないと思った
「ええい。うざい。きもい。鬱陶しい。
デュルムンの存亡がかかっている今、
貴様のような基地外婆の相手など、していられるか
とっととどっかに消え失せろ。いや、もういっそのこと死に腐れ!」
「んー・・・そう言われてもなぁ」
アマイモンは頭をポリポリと掻きながら呟いた
「アメリカの指揮官は捨て駒として使えたが、
イランの副官はいまいち使えんやつだったし、
なにより司令官のウマルが我が術中に嵌り切らなかったもんでね。
こうなったらもう、あたしが自分自身でやるしかしかたないかな?
と思ってさ」
(つづき)
デュルムン王宮に詰めていた衛士たちは、
王宮の中庭に突如姿を現したその四十絡みの豊島婆に、一瞬ギョとした
小国とはいえココは王宮。
その王宮という高尚な処にはどう見ても似つかわしくない、
むさくるしい小汚い格好の婆だったからだ
「なにものだ?」
「アマイモン」
「?…うろんな奴。そもそもどうやってココ王宮の中庭まで入ってこれたのだ?」
「歩いてたら入ってこれた」
「おのれは…我らをなめとるのか!?
門前に詰めていた衛兵に止められたであろうが!」
「ん?こいつのことかな?」
豊島婆はぶらぶらと片手に提げていたその塊を持ち上げて、衛士たちに見せた
その塊は、さきほどアマイモンを基地外婆呼ばわりした近衛兵の生首だった
「ほらよ。おみやげ」
アマイモンはその生首を、衛士たちの群れのなかに無雑作に放り込んだ
・・・・
デュルムンの衛兵たちから
よく言えばお客さん扱い、悪く言えば胡散臭いよそ者扱いされて
王宮の片隅にやや居心地悪げに控えていた佐波衛門と精華が
王宮内で突如沸き起こった喧騒と悲鳴を聞きつけ、
何事やあらんと中庭に駆けつけてみると、
そこでは一種シュールな地獄絵巻が展開されていた
四十がらみの豊島婆がたった一人で、
襲いかかってくる近衛兵の群れを踊るように軽々とかわしていく
その婆の腕が鞭のようにしなうたびに
近衛兵の首がスポン、スポン、スポスポスッポンと胴体から切り離され、
宙を舞っているのである
「ひょほ。ひょほ。ひょ〜ほほほほほほほ。・・ひょほ」
近衛兵が一人また一人と死ぬたびに、婆は楽しそうに哄笑していた
「おのれ、曲者。精華、参るぞ」「はい」
近衛兵に加勢せんと、
精華とともに修羅場に飛び込もうとした佐波衛門の肩を
強くつかんで引き戻したものがいた「おやめなさい。無駄死にするだけです」
それは沙羅であった
「沙羅殿。なにを言われる。
我らこういうときのために王宮に待機しておったのではないか
婆一匹に王宮を蹂躙されたとあっては、
イーサ殿たちが港より戻ってきたときに迎える顔がない」
「見た目に騙されてはなりません。
あの、むさくるしく小汚い婆の姿は仮初のもの。
あのものは人間ではない」
「なんと言われる?」
「恐らくは今回の一連の騒動を裏で操っていた魔性のものでありましょう
通常の太刀術ではあのものには敵いますまい。
それは武技に優れた馬蹄羅といえども同じこと」
「だからと言ってなんとする?逃げ惑え、とでも言われるのか」
「いえ…ここは私がなんとかやってみましょう」
近衛兵があらかた討ち死にし
生首と首なし胴体が散乱して
その死体からどばどば垂れ流された鮮血が染みこんでドドメ色に変色している、
そんな王宮の中庭の土を平然と踏みつつ、沙羅はアマイモンの前に現れた
「ん?ちょっと面白そうなやつが来たな。
ふうん…あんたも人間じゃないね。誰かな?」
「沙羅トリスメギストス」
「ほほう。西方世界最高の呪術系女医、通称『西の沙羅』か。お初にお目にかかる」
「あんたは?」
「アマイモン」
その名を聞いたとき、沙羅の目がピクッと引き攣ったように見えた
「どうやら我が名をご存知のようだね。
…さてと。手応えのないやつばかりで少し退屈してたところだ。
あんたならもうちょっと、あたしを楽しませてくれることだろう」
【沙羅vsアマイモン】
両者が対峙した瞬間、
先ほどまで生首が乱れ飛び、怒声と罵声とオットセイが交錯し、
阿鼻叫喚の賑やかな地獄絵図だった王宮中庭がしんと静まり返った
殺気とか、そんな生っちょろいものを超越した両者の凄気が、
その空間を満たしている。
そのさまは、あたかも両者が対峙しているその場だけが
まるで切り取られた別の空間であるかのようにすら思えた
両者まったく動かず、そのままの状態で対峙すること数分。
見守る者たちがやや飽きてきたそのとき、風を切る音が聴こえた
「!」
その瞬間、沙羅の左腕が肩の付け根から切り飛ばされ、中庭の隅にまで転がっていった・・
アマイモンはニヤリと不気味な笑いを浮かべた
その唇は血のように赤く、開いた口は耳のところまで裂けていた。
「西の沙羅…まあまあ面白かったよ。でもこれで終わりだ」
アマイモンが、腕を切り落とされ倒れた沙羅に止めを刺そうとしたそのとき、
シュンと矢音が響き、一本の矢がアマイモンのアタマに突き刺さった
シュン。シュン。シュン…矢は次々と続き、
合計六本の矢がアマイモンの体を貫いた。
体を貫いた矢を抜きもせずアマイモンが振り返ると、
そこには大弓を構えた佐波衛門と精華の姿があった…
アマイモンは無雑作に頭に刺さっていた矢を引き抜いた
やじりには少し脳みそがくっついており、抜く際に脳漿も少し漏れた
しかしアマイモンはまったく気にもせず、
次々と体に刺さっていた矢を抜き取ると佐波衛門たちに向かって言った
「かゆいよ」
「お、おのれ、妖怪」
佐波衛門は弓を捨て、死を覚悟して太刀を抜いた。精華もそれに続く。
「佐波衛門さん、ダメだ。あなた方では勝てない」
片腕を失った沙羅が佐波衛門たちを制止したが、
その声は弱々しく、彼女の負った傷の深さがうかがわれた
アマイモンが薄ら笑いを浮かべ、
どうやってこの二人をぶっ殺してやろうかと舌なめずりをしたとき、
またシュンという矢音が響き、
別の方向から飛んできた一本の矢がアマイモンの頭に再度突き刺さった
「…ちっ。面倒くせえな」
舌打ちにして矢を抜き取ったアマイモンが
どこのバカ野郎が懲りずにまた矢を放ったのかと顔を向けた瞬間。
「どぉりゃあああああ!!!」
という罵声とともにアラブの駿馬、
その名も【斑鳩】に騎乗した草流明日香が、
馬もろとも人馬一体となってアマイモンに体当たりを食らわせてきた
「明日香さん!」「戻ってきたか明日香!」
(つづき)
「ココココの糞女がぁ!」
不意を突かれ、モロに斑鳩の体当たりを食らって
ぶざまに吹っ飛ばされたアマイモンが怒りに顔を染めて起き上がったとき、
明日香に続いて駆け戻ってきたハリーファ家第六王子イーサ・ラングレーデルハリーファが
ウマルアフマディーネジャードより譲られたイスラムの聖剣ズルフィカールを抜き放ち、
真っ直ぐにアマイモンの胸を貫いた
「えっ?!」
アマイモンは一瞬きょとんとしていたが
その次には信じられぬという顔つきになり、みるみる青ざめていった
「これは…」
「イスラムの聖なる剣、ズルフィカールだ。
キリスト教もイスラム教も根元は同じ唯一絶対神。
ゆえにイスラムの聖剣は、キリスト教の悪魔をも滅ぼすことができると知れ」
「そ、そんなご都合主義なことって・・・アリ?」
アリ、だった
聖剣ズルフィカールに心臓を貫かれた悪魔アマイモンは
急速に力を失い、皮膚がボロボロに劣化し、体の肉はデンデロリンと垂れ、
…まぁこのあたりまでは普通の婆さまたちと変わらないが、
そのあと髪の毛がばさばさと抜け落ち、肉が溶けはじめ、
皮膚がずる抜けになって、眼球は落ち、内臓はどろどろと流れ出し、
最後は理科室にある骨格標本みたいになって、
その骨格も崩れ落ちて風化し砂に戻っていった
アラブの強い風がその砂をどこかに運び去るかのように吹き払っていった
・・・
かくして悪魔アマイモンは消滅したのであった
【それぞれの道】
「明日香ちゃん、本当にココに戻るの?バッテラムらに帰らないの?」
ココはデュルムンの空の窓口、マナーナ国際空港。
佐波衛門と精華は帰国の途につこうとしていた
佐波衛門の胸には平城の遺骨を納めた箱が抱えられている
デュルムンに残るという明日香に、精華は最後の念押しをした
「うん。あたしココが気に入った。
沙羅さんも残るし斑鳩もいるし、寂しくはないよ」
「イーサ殿もおるしな」
佐波衛門のツッコミに明日香は少し顔を赤くした
「本当に沙羅さんと馬蹄羅の皆さんにはお世話になりました
皆さんがいなかったらハリーファ家もこの島も滅びていたことでしょう
ドバイで皆さんと出会えたことは、まさにアラーの神のお導きでした
…平城さんには真に申し訳ないことをしました。私の身代わりになって…」
「…いや。これも最後の御宗家であられた源鞠子様の御配剤かもしれませぬ。
平城も本望でござろう」
「沙羅さんは大丈夫なの?…というか、その腕はなに?」
「ああこれね」
沙羅はアマイモンに切り落とされた自分の左腕を持っていた
「とりあえず防腐剤を入れて腐らないようにしておきました。
そのうち時機を見て、またくっつけようかなと思ってます」
「えっと…くっつけられるわけ?その腕」「はい」「…」
タラップのところで再び振り返って手を振る精華と佐波衛門に
見送りのイーサ、明日香、沙羅も手を振ってこたえた
沙羅が切り落とされた左腕をもって振るのを見て、明日香はボソッと言った
「沙羅さん…キショいから、そういうのは止めたほうがいいと思うの」
・・・・・
一年後。
バッテラムらで暮らす佐波衛門と精華の元に、
明日香から結婚式の招待状が届いた
言うまでもなくお相手は、
ハリーファ家の第六王子イーサ・ラングレーデルハリーファ。
この婚姻により明日香のフルネームは、
草流明日香ラングレー・デルハリーファとなることが確定した
「ううむ。まさしくえヴぁんげりおん…」
佐波衛門が感嘆の呟きをもらした
バッテラムらは今日も穏やかに過疎っていた
馬蹄羅物語主伝第三話「悪魔の棲む島」 完
馬蹄羅物語主伝第一話「最後の宗家」に登場した主な人々
【源鞠子】
馬蹄羅宗家。
一度は死んだが歳の左近の呪文によりよみがえり、馬蹄羅を守るため戦う
村の入り口の守護神であるバッテラサンの起源。
【雲古太郎由家】
馬蹄羅の一人。
一度は死んだが歳の左近の呪文によりよみがえり、馬蹄羅を守るため戦う
村の出口の守護神であるウンコサンの起源。
【歳の左近活竹】
馬蹄羅の一人。 生前の鞠子の守役。
馬蹄羅を守るためにフルべの呪文を使い、鞠子と太郎を黄泉より召喚する
しかしその代償として自らは死ぬ
【アーダージャ・ハリーファ】
生前の鞠子の夫。
当初はイスラムのスパイとしてバッテラ村に潜入したが、
馬蹄羅館の文官として勤めているうちに鞠子と結ばれる
【マフムード・アフマディーネジャード】
イスラム遠征軍指揮官。
エラムの軍人で、四度にわたるバッテラ征伐の遠征部隊を指揮した。
知勇兼備の名将で、鞠子の好敵手となった
【西の沙羅】
「西方世界最高の呪術系女医」と称されているが、
実体は性別すら定かではない、陽炎のような存在。
馬蹄羅物語主伝第二話「虎御前を継ぐ者」に登場した主な人々
【源ジャンヌ】
馬蹄羅最後の宗家、源鞠子の末裔。「虎御前」の継承者。
【馬蹄羅マモル】
馬蹄羅最後の宗家、源鞠子の末裔。馬蹄羅館の現当主。
【歳の右近】
馬蹄等マモルの守役。歳の左近の末裔。「鬼切りの太刀」継承者。
【西の沙羅】
バッテラ村ただ一人の呪術系医師。
実体は時を超えて婚活世界に遍在する陽炎のごとき存在。
【アガサ・クリトリス】
スコットランド、エジンバラの貴族階級出身者。
オクスフォード大学で学士号を、MITで修士号をそれぞれ取得。
バッテラサイバーネットダインシステム主席技術研究員
【ヴァギナ・クリトリス】
アガサの一卵性双生児という触れ込みだが、実体はアンドロイド。
【電波系生命体識別コードBN000997Qrzz】
有機系クソ袋型生命体(つまり人間)を調査するために
惑星サカリガツ(つまり地球)にやってきた、人類とはまったく異質な知的生命体
形質を持たない生命体であり、時空間を跳躍することができる。
しかしそのために必要な電磁フィールドが事故により閉鎖し、
婚活世界の内に閉じ込められてしまう
【電波系生命体に自我を食われた人々】
イーヅカマンコ、槍目チン太郎、木嶋加奈子、黄金比・律子、バルトりん・カウパーなど。
馬蹄羅物語主伝第三話「悪魔の棲む島」に登場した主な人々
【源佐波衛門】(みなもとさばえもん)
馬蹄羅宗家末裔。馬蹄羅流流鏑馬師範。
【安治の平城】(あじのひらき)
馬蹄羅の一人。安治氏の末裔。
【紀精華】(きのせいか)
馬蹄羅の一人。紀氏の末裔。
【草流明日香】(そうりゅうあすか)
馬蹄羅の一人。草流氏の末裔。
【沙羅トリスメギストス】
西方世界最高の呪術系ジョイ。通称『西の沙羅』
【イーサ・ラングレー・デル・ハリーファ】
ハリーファ家第六王子。アーダージャハリーファの末裔。アラブ米仏の混血。
【ハマド・サルマーン・ダル・ハリーファ】
イーサの父にして、ハリーファ家の家長。デュルムンの国王。
【ウマル・アフマディーネジャード】
イランペルシャ湾岸方面軍司令官。マフムード・アフマディーネジャードの末裔。
【アブドーラ・シュリービジャヤ・パンナコッタ大佐】
サウジアラビア戦車部隊の指揮官。サウジからの使者。
【フランク・バタピー少将】
デュルムン駐留米軍の指揮官。
【ア・マイモン】
デュルムン米軍施設の雑役婦にしてバタピー少将のセフレにして悪魔。
鱒鮨野菜漬物鶏肉揚物珈琲果実菓子醍醐菓子暫定
蟹鮨野菜漬物鮭缶胡瓜似果実菓子福豆即席麺似残
馬蹄羅物語主伝第四話「双頭の鷲たち」冒頭部
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コンカツ暦00xx年。
戦時中のエキサイト帝国政権下で、
彷徨えるコンカツ人の絶滅政策を遂行してきたジルの幹部「黄金猟奇仮面」は、
敗戦後のの責任追及から逃れるべく、
駅の国民個人情報が網羅されている「駅ファイル」の中から自らの情報を削除するとともに、
敗戦直前にジル幹部の一覧情報すべてを国外に持ち出し出国していた
バッテラムらの馬蹄羅である源のエルは、
戦後のエキサイト連邦で公安調査室長となったイーヅカマンタローから
戦後もコンカツ世界の中に隠れ潜む黄金猟奇仮面の追跡と、
彼女が持ち出したジル幹部の一覧情報、通称「駅ファイルNo1.55」の回収を依頼される
源エルと黄金猟奇仮面。
二人の戦いが黄昏のコンカツ世界で行われようとしていた
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
ハプスブルク帝国版図
http://l.moapi.net/http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%95%E3%82%A1%E3%82%A4%E3%83%AB:Habsburg_Map_1547.jpg スペインハプスブルク家および
オーストリアハプスブルクロートリンゲン家、
両家のヨーロッパ地域における全領土。スペインの海外植民地は除外。
・・・・・
うつし世とは異なり、婚活の世界はほぼ終日が黄昏時である
時折、捨て魔が地面から湧いて襲ってきたり
嵐が急に吹きすさんだりするときを除けば、
薄らぼんやりとした空間がただひたすら茫洋と広がっているだけの退屈な世界だ
この退屈な世界に私が足を踏み入れたのは、
当初はちょっとした好奇心からだった
現存するガラパゴスともいわれる婚活世界とは、果たしてどのような世界なのか?
また「生きている化石」「バブルでゴー!の生き残り」などと揶揄されている
「彷徨える婚活びと」とは、どういうものたちなのか?
そういったものをちょっと覗いてみたい。そういう好奇心に過ぎなかった。
しかし今は違う。今の私にはそれなりの目的がある
その目的とは、
婚活世界における最高機密情報のひとつである「駅ファイル」を
無断でもちだし漏えいした、或る人物を探し、見つけ出すこと。
そしてそのもちだされた駅ファイルをその者から奪い返し、
再び安全な保管状態に戻すこと。
それが私に課せられた使命である
(つづき)
私の名は源エルンスト。通称、源のエル。バッテラムらの馬蹄羅の一人だ。
母の名はジャンヌ。
父の名は知らない。
ただ、父がオーストリアハプスブルクロートリンゲン家の末裔であったと言うことは、
幼いころに母や祖父母からから聞かされた
そうなると私の正式な名乗りは、
源・エルンスト・ハプスブルク・ロートリンゲンとなるわけだが
長ったらしくて面倒くさいので、人から名を聞かれたときは
「源エルです」とだけ答えることにしている
今日も婚活の世界はいつもと同様にたそがれ、かつ過疎っている
まったくやる気が失せていくような、気だるく、重い世界だ
しかしそれでもこの取り留めのない世界の中で、
私はその人物を探し見つけ出さねばならない
駅ファイルを持ち出し漏洩させかつ失踪した人物。
その名も「黄金猟奇仮面」を。
【本編】
「部屋は空いているかな。あと厩も借りたい」
「一人かい?」「ああ」
「一泊20元。厩の使用料は一頭につき別途5元だ」
「アメロは使えないかな?」
フロントのジジイは胡散臭そうな顔つきでエルを見た
「ここらではアメロは通用しない。元だけだ」
25元を支払い、帳簿に記名し終えるとジジイはエルに鍵をよこして言った
「201号室。二階の一番奥。厩は裏手にあるよ」
「部屋はバス付き?」
「シャワーだけだ。…バスを使いたいならまた別途五元」
ココは「かんぽのお宿、ときめき倶楽部」という名の、
ニッポン国内ならどこにでもある簡易宿泊施設。
何が「ときめき」なんだとツッコミを入れたくなるような薄汚い木賃宿だ
婚活大戦が勃発する前、
ニッポンには「ゆうちょ」という金融機関があり、
預金者の金を無計画に使って
国内のそこらじゅうにどうでもいいような施設を粗製乱造していたが
この「かんぽのお宿、ときめき倶楽部」も、
そうした粗製乱造施設のうちのひとつである
婚活大戦終結後、郵貯が倒産し、
IMFが入ってきて預金者の金は全額差し押さえられ、
「かんぽのお宿」もすべて競売にかけられて売却された
いまではこのような、
どこの誰ともわからぬジジイが個人で経営をしているパターンが一般的だ
大戦後のニッポン経済崩壊で「円」も機能を停止した
今現在、この婚活世界で通用している通貨は「アメロ」「ユーロ」「元」の三つだけ。
アメロとは、大戦前の米ドルカナダドル豪ドルニュージーランドドル香港ドルジンバブエドル等の
ドル建て通貨をすべて統一した戦後の基軸通貨であり、
たいていの地域では通用するはずなのだが、ココは元だけらしい
まあココは東アジアだし、
円が滅びた今では元が東アジアの統一通貨だ
ジジイが「元しか受け付けない」と言うなら、それもしかたあるまい…
【婚活娼婦】
馬を厩舎に連れて行き、体を拭いて飼葉をやってから
エルは自分のあてがわれた部屋に行き、
軽くシャワーを浴びて旅の汗を落とした
かんぽのお宿はニッポン国内のどにでもあり、
どこも似たような造りなので、慣れたものである。
汗を落としてサッパリしてから
簡保の宿の簡易な食堂に行き簡素な夕食をとっていると
みすぼらしいなりをした婆が一人、
私のところに近づいてきた
みすぼらしいと言っても一応ブランド物で身を固めてはいる
ただそれが一張羅…というかそれ一着しか持っていないらしく、
長いこと洗濯もしていないようで、よれよれに皺が寄っており、
ロゴであるCのぶっちがいもなにやら物悲しくみえた
10年…いや15年前だったらちょっとはイケてたかもしれないその婆は、
ベロベロに口紅を塗りたくったその赤い唇を開いて、私にこう言った。
「もしあなたにその気があるようならば、
私をエスコートすることを許してあげますわよ」
どうしてこの連中は
どいつもこいつも、こういうややこしい言い方をするのだろうか?
いささか聞き慣れてきたとはいえ、やはり未だにエルには謎だった
彼女らはいわゆる「婚活娼婦」と呼ばれている連中で、
彼女らの言うことをもっとわかりやすく端的に言えば、
「オマンコさせてやるから金払え」と、
それだけのことを言っているのである
たったそれだけのことなのに、
「私をエスコートすることを、あなたに許可する」
みたいな言い方をする。それがエルには不可解だった
エルは大戦前のことはよくは知らない。まだ幼かったからだ。
しかし噂に聞くところでは、婚活大戦の前夜のころには
このような訳のわからん婚活女が多数、巷に存在していたらしい
そしてこういった連中がああだこうだ言いながら「婚活」をしていた。らしい。
しかし戦争が終わり、婚活特需がなくなると、
彼女らはアッサリただの無色の婆になってしまう
さらにニッポン経済の崩壊が彼女らの生活を追い詰めた
IMFの介入後は年金の打ち切りや生活保護費の支給停止といった措置が断行されたため、
親の年金や生活保護に依存していたものたちはあっという間にホームレスに転落した。
また、「円」の廃止や郵貯をはじめとするメガバンクの連鎖倒産も相次ぎ、
「実家が裕福だから働かなくてもよい」とうそぶいていた連中も
ゴンゴロリンとあっさりホームレスに転落した
そうしたホームレスまで転落した婚活女たちのうち、
あるものは自殺し、あるものは餓死したが、しぶとく生き残ったものたちもいた
それがいまエルの目の前に来て不可解な媚を売っているこの婆、
すなわち「婚活娼婦」たちなのである
【弁護士トムヤン】
「すまないが私にはその気はない。ほかを当たってくれ」
できるだけ穏やかに言ったつもりだったが、
エルがそう答えると一瞬の間をおいてから彼女の目が釣りあがった
「…な、ななななにさまのつもり?このわたくしを拒否するなんて。
信じられない信じたくない、いや信じない! こ、こここのインポ野郎が!
それともホモか?いやいや貴様、低学歴低収入のビンボー人だな?そうに違いない。
わたくしとやりたくて我慢汁を垂れ流しているくせに金が無いからそれもできないか
哀れな奴よのうpgrpgr…
私の価値もわからないようなバカ、わたくしのエスコートもできないようなビンボー人、
そんなやつはココ婚活の世界にやってくるな!孤独死するまで一人でオナニーしてろ!!」
彼女がわめいている間も、エルは淡々と夕食を摂りつづけた
下手に口でも挟もうものなら、かえって火に油を注ぐようなものだ
婚活娼婦は最後は絶対に「私の勝ち」で終わらせないと気が済まない種族なのである
喚かせるだけ喚かせて勝手に去っていくのを待つしかなかった…
そのとき、不意に横から声をかけてきたものがいた
「お嬢さん。そんな奴はもう相手にするなよ。俺と、どうだい?」
『お嬢さん』と言われて婆の罵声が止まった
『お嬢さん婆』は、
その声をかけてきた男を上から下まで嘗め回すように丹念に吟味すると、
とりあえず容姿は合格という感じをもったようで、
エルから離れ、その男のほうに体を向けた。
「あなた、容姿はまずまずとしても年齢は?年収は?職業は?学歴は?
わたくしをエスコートできるだけのスペックがおありになるのかしら?」
「年齢35さい年収1500まん職業弁護士、学歴ボウ有名私立大学法学部卒」
「旧試?それともロー?」「旧試だよ」「ふぅぅぅぅん…」
『お嬢さん婆』こと婚活娼婦は、まあこいつでいいかという気になったらしい
「お名前は?」「トムヤン」「じゃ、トムヤン君。わたくしをエスコートしたくださいな」
「ではお手をどうぞ。『お嬢さん』」
二人は手をつないで簡保のやどの簡易食堂から出て行った
姿が見えなくなる寸前に「中折れインポやろう!」と、
娼婦が私に最後の罵声を浴びせてきたがエルはモチロン無視した
二人の姿が消え食堂に再び静寂が戻ったちょうどそのとき、
エルは遅い夕食を食べ終えた
食事を終え部屋に戻っても、
とりあえずエルには何もすることがなかった
モッサの情報官が「顔合わせの場所」として指定してきた処は、
この村ではなく次の宿場まちであるシャコ村であり、
明日もまた、朝早くから旅立たねばならない
荷物を解くのも無駄な手間というものだ
退屈なまま、
エルはまた無意識のうち例の「日記」を手にしていた
日記といってもメモ帳サイズのコンパクトなものだ
ただ、外装が古い羊皮で覆われており、
それがいい雰囲気をかもし出していた
中には、細かい字がびっしりと書き綴られてあり、
しばらく凝視していると眼精疲労を起こしそうだ
それでもエルはその日記を何度も読み返してきた
黄金猟奇仮面を追う手がかりとなるものは、
今のところこの「日記」だけだったからだ
・・・・・・
物語の日時をさかのぼること、数日前の出来事。
「やあ、馬蹄羅の御曹司。お初にお目にかかる。
私がエキサイト連邦公安調査室長のイーヅカマンタローだ。よろしくな」
「わたしは馬蹄羅の宗家傍系の末裔にすぎない
御曹司といわれるほどの身分ではないよ」
「失敬、気に障ったかな。では互いに私生児同士ということで気楽にいこう」
「…」
私生児同士と言われて、少し眉をしかめたエルの表情を気にもせず
マンタローはさっさと用件に入ってきた
「君に頼みたいことは、ある機密情報の回収だ」
「情報回収? あなたがた公安調査部門が最も得意とする領域ではないか
なぜ部外者である私に依頼する?」
「確かにそのとおりなのだが、この件に関してだけは、
我らエキサイト連邦の官僚が表立って動くわけにはいかんのだ
ことはエキサイト連邦の国民個人情報の漏洩が絡んでおり、
我々も当事者の片割れではないか?という疑惑を国民から持たれている
だから我々が『情報は回収し確保された。もう安全だ』と宣言しても、
国民は誰も信用はしないだろう。
それゆえ、ここは
婚活世界の部外者である馬蹄羅のきみに頼むしかないのだよ」
(つづき)
「ご存知のとおり、
婚活大戦の前と後で我々エキサイトの政治体制は大きく変わった。
帝国制から連邦制への移行だ」
「戦争に負けたから、だろ」
「まあそう言うな。 先に負けておいて後の大きな勝ちを拾うというやり方さ。
実際、戦後のこの婚活世界を見てみたまえ。
われわれエキサイトの独り勝ちともいえる状況になっているだろ?
エキサイトの敗戦は私個人にも有利に働いたよ
なぜなら先の敗戦で戦前の官僚上層部は一律更迭されてしまったからね
上がスカスカになって私のような下っ端がのし上がるチャンスが生じた
そんなことでもなければ、私のような私生児が
公安調査室長にまで成り上がることはできなかっただろうな」
「自分が私生児だということに何かコンプレックスでもあるのか?
私自身は特にそのことを気に病んだという記憶はない」
「君と私では、育ちが違うのだよ」
マンタローは皮肉っぽく唇をゆがめた
どうやら私の問いかけが、
マンタローの心の暗黒部を刺激してしまったらしい
「君の父親はハプスブルクロートリンゲン家の末裔だそうじゃないか。
オーストリア、どころかヨーロッパ貴族社会の中でも最高の名家だ。
さっき君自身は否定したが、君はまぎれもなく『御曹司』だよ
それに対して私の父はどこの誰とも知れぬコミュニストだったらしい。
母のマンコも社会主義に傾倒していたようだし、ろくでもない両親さ」
「・・・」
「私は父の名も顔も知らぬ。母も写真で見たことがあるだけだ。
私を育ててくれたのは母方の祖父母であるマンゾーと朕子だが、
二人からは散々娘、つまり私にとって母であるマンコの愚痴を聞かされたよ
そうして育った私が最も安定した職種である公務員、
つまり官僚の世界でトップを目指すようになったのも当然の成り行きさ。
君とは違うのだよ。え、そうだろ?」
「もし私の質問が君の矜持を傷つけてしまったのなら、申し訳なかった
差し支えなければ、話を仕事のほうに戻して欲しいのだが」
「…ああ。そうだったな。少し興奮してしまったようだ。失敬。
回収して欲しい機密情報とは、
その名もズバリ、『駅ファイル』と言われているものだ。
駅の国民および会員の個人情報がすべて網羅されている」
「国民総背番号制のようなものか?」
「まあ、そうだ。
ただし持ち出されたものはその『駅ファイル』の中の一部で、
『コードナンバー1.55』と呼ばれているものだ。
このコードナンバー1.55は、駅ファイルの中でも最重要機密事項に指定されている。
モチロン、部外秘だ」
「その、駅ファイルコードナンバー1.55とは、どういう情報なのかね?」
「帝国時代に『彷徨える婚活人』の絶滅政策を遂行してきたSS幹部たちの一覧情報だ」
鱒鮨野菜漬物鶏肉揚物鮪刺身珈琲果実菓子醍醐菓子確定
蟹鮨野菜漬物鮭缶胡瓜漬物似果実菓子福豆即席麺似残存
【事件】(時系列としては
>>469のつづき)
翌朝。
馬をを厩舎から出そうとして
「かんぽのお宿ときめき倶楽部」の裏手に回りかけるエルの姿を見て
なぜか宿の親父が慌しく駆け寄ってきた
「ちょ、ちょっとお客さん。もうチェックアウトかい?」
「ああそうだよ。何か不都合でもあるのか?」
「うん、まあ…実はちょっとした事件が起き上がってな、
もうじき警察がここに来ることになっとるんだ
で、警察が言うにゃ、
泊り客はチェックアウトさせずに全員拘束しておけ、と」
「宿泊客全員を足止めさせろ、とは穏やかじゃないな
それは『ちょっとした事件』じゃないだろ。いったい何が起こったんだ?」
「う、うん実は…殺人事件なんだ」
殺人と聞き、
私は昨夜の「婚活娼婦」が殺されたのだな、と思った
婚活大戦が終わったといってもまだ戦争直後であり、人心はまだ荒んでいる
特にこのあたりは旧日本国エキサイト帝国統治下だった地域でもあり、物資も足りない
物が足りず心も荒れていれば、当然治安も悪い
性欲に任せて娼婦を買ったものの、
ナニが終わった後で払った金が惜しくなり、
娼婦を絞め殺したり或いは殴り殺して払った金を取り戻す、
という類の事件は日常茶飯事である
「殺されたのは昨日の晩、簡易食堂で客を漁っていた例の婚活娼婦だろ。
それなら犯人はトムヤンとか言っていたあの自称弁護士ではないのか?
なぜ泊り客全員を拘束する必要がある?」
「いや、そうじゃないんだ・・殺されたのはトムヤン、つまり客のほうなんだよ」
・・・・
警察というものは程度の差こそあれ、
どこの時代のドノ地域のどこの国の警察であっても大抵みな横柄である
権力系の公安業務だから、そういう態度になるのもある程度は仕方ない
日常的に賄賂をとる習慣が無ければそれだけで十分マシだ、とも言える
警察がやって来て
宿泊客は全員「かんぽのお宿ときめき倶楽部」のロビーに集められ、
事情聴取が始まったが、
エルは被疑者と思われる婚活娼婦に声をかけられたことから、
ほかの客よりも長くねちねちと聴取されるはめになった
「おまえは何故その娼婦の誘いを断ったのだ?」
「その気が無かったからだよ」
「お前も男だろう。男はみんな狼だ。その気が無かったなどと言う理由は通用せんぞ」
「無いものはないのだからほかに言いようが無い」
「おまえは今朝朝早くからチェックアウトしようとしていたそうだな。
何故そんなに先を急いでいた?ここにとどまっていたら不都合なことでもあったのか」
「シャコ村で人と待ち合わせる約束をしていた。急がないと間に合わない」
「その待ち合わせの人物とは誰か?」
モッサの情報連絡員と会う約束がある・・とは言えない。
モッサはモッサで、婚活系過激派グループのひとつだ
実際はエキサイト連邦政府の公安調査部門と裏でつながっているのだが、
そんなことは現場の警官たちは知らない
「今回の殺人事件とは関係なかろう。私のプライベートの問題だ」
「なにを言うか。関係あるかないかはこちらが決めること。
貴様、お上に逆らうつもりか?洗いざらい神妙に白状せい!」
相手が反駁するとすぐに犯人扱いするのも警察官の習性である
人を疑うのが商売だからやむをえないことかもしれないのだが
あまりの脊髄反射ぶりに、エルは少しうんざりした。
こうなってしまっては仕方ない。
エルは懐からアイデンティフィケーションをとりだし、
警官に示した「実は、私はこういうものだ」
その、エルが示した身分証明を見たとたん、
警官は三つ葉葵の印籠を見せられた悪代官のように飛び上がった
「あ。いや。これは。…失礼いたしました。そういうお方とは露知らず…」
エルが警官に示した証明は、
「連邦国内で黄金猟奇仮面の追跡調査を円滑に行えるように」と、
マンタローがエルに対して発行した、
「エキサイト連邦公安調査庁特別捜査官」という肩書きだった
源エル当人は「自分は馬蹄羅である」ということ、
そのこと自体に誇りを持っているので
それ以外の肩書きや自分を飾るための装飾はあまり好むところではない
しかし連邦の公安組織内部にいるもの、つまり警官、にとっては
「連邦政府公安調査庁の特別捜査官」という肩書きは
まさに雲上人にも等しい絶対的な肩書きであったようで、
警官はいままでの居丈高な態度はどこへやら、平身低頭の状態になっていた
「もう、いいかな?私は先を急いでいるので」
「は。勿論結構でございます。大変、失礼いたしました」
最敬礼する警官から離れてエルがロビーから立ち去ろうとしたとき、
傍らから不意に女の声がかけられた
「殺しの現場を見ておいたほうがいいと思うわよ。馬蹄羅の御曹司さん」
(つづき)
「無礼な女、貴様なにさま…」と言いかけた警官に、
その女性がさっさと身分証明を見せると
警官は再び印籠を見せられた悪代官のようにへなへなとなってしまった
どうやら彼女も得ると同様の証明を持っていたらしい
「現場を見ておけ、とはどういうことだ?
ぶっちゃけ言ってしまえば、わたしは、
金銭をめぐって娼婦と客の間で起こった殺人などに興味はない」
「これはそういう、娼婦と客の間で起きたどこにでもあるありふれた殺しなのかしら?」
「…どういうことだ?」
「おまわりさん。あなた、もう現場は見たんだよね?」
彼女はエルから警官のほうに、その視線を移した
「は。既に検分はしております」
「どんな感じだった?」
「いや、それが少々…」
口ごもる警官に彼女は再びたたみかけた
「相当えぐい、と?」「…はい」
「まだ現場は片付けていないよね?」「…はい」
彼女は再びエルに視線を戻した
「おまわりさんがあなたから事情聴取するのを盗み聞きしていたんだけどさ
その娼婦はまず最初、あなたに声をかけたんだよね?
それをあなたが断って娼婦がヒスを起こしているところに、
そのトムヤンとやらいう弁護士が声をかけた。…だよね?」
「そのとおり」
「だったら、その娼婦の狙いは最初からあなただったんだよ」
彼女が何を言っているのかいまいち理解できず沈黙するエルを見て、
彼女は言葉を続けた
「とりあえず現場を見に行こう。そうすればあなたも納得する」
・・・凄惨な光景だった。
弁護士とむやんは両目をえぐられ舌を抜かれ耳と鼻を削がれ
内臓をぶち撒かれティンティンを切り落とされた状態で息絶えていた
「どう?これでも『客と娼婦の間でよくあるありふれた殺し』だと思う?」
「昨日の娼婦はただの婚活娼婦ではなかったと言うことか…なにものだ?」
「本名は知らない。ただ私たちはファイアーアイアンと呼んでいる」
「?」
「暗号名は火事鉄(fire-iron)。戦前の帝国時代、ジルの殺し屋だった女よ」
彼女は暗い目つきになった
「ファイアーアイアンの狙いは最初からあなたにあった。
もし昨夜、あなたが彼女の誘いに乗っていたら、
今頃はあなたがこうなっている」
「弁護士とむやんは、私の身代わりとして殺されたということか…
しかし私が狙いなら、何もとむやんを殺すこともなかったろう」
「彼女はね愉快犯なのよ。殺人が趣味のサディスト。
だから目的がなくとも人を殺す。自らの快楽として」
「・・・・」
エルは改めて傍らにいる女性を見直した。
まだ名すら知らない。
しかしこれほどまで詳しく婚活大戦前の
闇の情報に通じているものとなると・・
「君は、或いは…」
「あら。なかなか察しがいいじゃないの。そのとおり。
私がシャコ村であなたと会うことになっていた…モッサ…の情報官よ。
西の沙羅と言います。ヨロシクね」
沙羅は『モッサ』という部分だけは警官に聞かれないように小声で言った
モッサはいずれの国家にも所属しない独立系の諜報機関であり、
今回の件に関しては連邦政府に協力することで合意しているが、
それはあくまで裏での契約に過ぎず、
表の顔はあくまで『婚活過激派グループのひとつ』である。
その名を警官に聞かれないに越したことはない
「君が例の情報官ならなぜシャコ村ではなく、ココにいる?」
「シャコ村に行くひとは、必ずココを通るでしょ。
だからココであなたが来るのを待ち伏せしてたってわけ。
やっぱり相棒になるやつがどんなやつか、
面接前に自分の肉眼で確認しておかないとね」
「面接・・・私と君はお付き合いするとか、そういう関係ではないはずだが?」
(源エルとイーヅカマンタローの会談。時系列としては
>>472のつづき)
「戦前のジル幹部の一覧表が載っている駅ファイルNo1.55を持ち出し
敗戦直前のエキサイト帝国から逃亡した人物は『黄金猟奇仮面』という、
謎の人物だ」
「謎…?」
「彼女はジルの元最高幹部の一人で、
戦時中は彷徨える婚活人の絶滅政策を推進していた、らしい
しかしその人物に該当する個人情報が
現在のエキサイト連邦政府の個人情報ファイルの中に存在しないのだ
どうやら黄金猟奇仮面はNo.1.55を持ち出す際に、
併せて自らの個人情報を駅ファイルから完全に削除していったらしい」
「ジルの他のメンバーについてはわかるのか?」
「うむ。ファイルNo.1.55は旧ジルの幹部の一覧情報なのだが、
それとはべつに幹部たちの個人情報も駅ファイルの中には別途存在する
駅ファイルというものは、
駅の全国民の個人情報を網羅している管理ファイルだからな
だから丹念に突合処理をしていけば、
必ず該当者が見つかるはずなのだが・・」
「無かった、と?」
(つづき)
「そのとおり。見当たらなかったのだ
ジルの元最高幹部の一人で、名は黄金猟奇仮面。性別は女。
戦時中は彷徨える婚活人の絶滅政策を推進していた。
今のところ黄金猟奇仮面について、
我々がわかっていることは、これだけだ」
「連邦政府公安調査室の調査能力をもってしてもそれだけしか知り得ない、
そんな謎の人物を、婚活世界の部外者である私に追跡調査しろと?」
「先ほども言ったが、この件で連邦政府は公には動けんのだ。
いや、なにもきみ一人にすべてやってほしい、とは言わないよ
この件に関しては既にモッサの協力合意を取り付けてあるので、
モッサの情報官と共同で事に当たってほしい」
「では、モッサに全部やってもらったらどうだ?
彼らもまた婚活情報戦のプロだろう。
モッサのほうが一介の馬蹄羅に過ぎない私より、よほど有能なのでは?」
「モッサに全幅の信頼を置くわけにはいかんよ。
彼らは独立系の諜報機関だ。
この件では我々に協力するとは言っているが、
彼らはヤフー帝国やオーネット公国とも通じている
しょせん、モッサもまた、婚活世界の中の人なのだ
婚活世界の内にいながら婚活世界のどの国とも直接の利害関係を持たず、
かつ、これほどの難事を処理するだけの器量があるもの。
そうなると、依頼できる人物は君ぐらいしかいないのだよ
…なんとか引き受けてくれないかな?このとおり、頭を下げる。頼む」
「・・・・・・・」
「あなたも知ってのとおり、
わたしたちモッサは、どの国家にも属さない独立系諜報機関。
例えて言えば情報戦の世界における傭兵部隊みたいなものなわけ。
この仕事では駅と組むけど、あの仕事ではヤフーと契約する、みたいな、ね
だから駅の公安調査室長が私たちを信用しないのは当然かもしれないけど
私たちも彼に使い捨てされないように警戒しなくてはならない
…まあでもビジネスというのは、いずれにせよそういう性質のものだから」
源のエルと西の沙羅。ふたりはいま蝦蛄村に向かう道中にあった
両者とも騎乗には慣れている。
ゆったりと馬をやるうちになんとなく話し始めていた
「つまり駅とモッサはギブアンドテイクの関係ということだな
駅がこの件で得るものはわかるが、君たちモッサはこの仕事で
何を駅から得られるのかね?まさかカネということもあるまい」
「ふふ…それは秘密。
あなたのほうこそ、こんな仕事を請けて何を得られるというの?
ぶっちゃけ今回の仕事、相棒が馬蹄羅だと初めて聞いたときは、
えーマジー?信じらんねー…とか思っちゃったわ。
こんな仕事、と言ったら何だけどでもやっぱりこんなこと、
馬蹄等のやることじゃないでしょ。
馬蹄羅と言えば、まず『高貴なるものたち』。
しかもあなたはその馬蹄等の中でも御曹司なんだから」
「・・・・」
・・・・・
「馬蹄羅がカネや権力にへつらわないにことは私も知っている。
かといって好奇心だけでこの難事を請け負うわけにもいくまい
君への報酬はこの日記ということでどうだろう?もちろん先渡しだ」
「というと?」
「この日記は戦後、とある強制収容所の独房で発見されたものだ
…実を言うと黄金猟奇仮面について我々が知りえた情報というのは、
この日記から得たものだけなのだよ。
名前とか、性別とか、ジルの幹部であったこととか」
「なるほど。しかしその日記が私に対する報酬になりうると、
あなたが思う訳は何か?」
「この日記は最後のところに署名があるんだよ。
ヨハン・ハプスブルク=ロートリンゲン、とね」
「・・・・」
「この、ヨハンなる人物が君といかなる関わりがあるのかは、私にもわからない
しかしハプスブルク=ロートリンゲンというからには、
君と無関係であるはずもないだろう
もし君がこの仕事を引き受けてくれるのなら、
このヨハン・ハプスブルク=ロートリンゲン氏の日記を、いまこの場で君に差し上げる。
またこの日記は黄金猟奇仮面を追うための唯一の物的手がかりでもある。
追跡調査で足りない部分を補うために諜報のプロであるモッサの情報官も付ける
…どうだろうか?」
・・・・・
マンタローとの会談を思い出し、沈黙した源のエルを見て
西の沙羅はちょっとフォローするように言葉を継ぎ足した
「ま、どういうつもりであなたがこの仕事を引き受けたのか
それは聞かないけどさ
あなたも婚活世界の部外者である以上、
マンタローから見れば私たちと同じ、捨て駒の一つよ。
十分気をつけることね」
【情報屋チンポサン】
蝦蛄村は客家の村だった。
客家って何だ?と思ったひとは
ウィキなどを適当に読めばわかるわけだが、要するに華僑の一派である
この村に客家の頭領であるとともに裏世界の情報屋でもある陳甫山という人物がおり、
そのチンポサンがいま、黄金猟奇仮面に関する情報を売りに出しているのだ
…と、西の沙羅は源のエルに告げた
チンポサンはいかにもシナ人の頭領という感じの恰幅のいい中年だった
沙羅は既に顔見知りであるらしく、至極砕けた感じでチンに話しかけた
「どうも。お久しぶり。
今日は黄金猟奇仮面の情報を買いに来ました
ええっと、情報の代金と決済方法はこれまでどおりでいいかな?」
「それはかまわんが…」
チンは、ぶすっとした表情で視線をエルのほうに投げてきた
「商売に入る前にそちらの御仁を紹介していただかないと、な
ワシが裏世界の情報屋としてこれまで生き延びてこれたのは、
身元のわからんやつには、決して情報を売らなかったからじゃ。
沙羅さん、あんたのことはすでに知っとる。
しかし、そちらにいるお連れさんはどういう方なのかな?」
「私は源のエル。バッテラムらの馬蹄羅の一人だ」
「ほぅ…」
エルの名乗りを聞いたチンポサンが、
急に身を乗り出してきた
「おまいさんがヨハンの…」
「ヨハン? 陳甫山、あなたは
ヨハン・ハプスブルクロートリンゲンのことを知っているのか?」
「い、いや。失言じゃ。な、なんでもない」
チンポサンは急に慌てて手を振った
「あんたの身元は十分わかったよ、源のエル。
黄金猟奇仮面に関する情報は、あんたたちに売るとしよう」
「いや、しかし…」
さらに問い詰めようとする源エルをチンポサンは毅然として遮った
「源のエル。もしヨハンについてこれ以上ワシに尋ねるようなら、
黄金猟奇仮面に関する情報をあんたたちに売るのは止めにする」
「・・・・」
「ワシがあんたたちに提供する情報は黄金猟奇仮面の現在の所在地、だ
黄金猟奇仮面を追跡するために、これ以上有益な情報はまずあるまい。
…馬蹄羅の御曹司。あんたの今の気持ちはよくわかる。
しかし黄金猟奇仮面の行方を追っていけば、
いずれヨハンのことを知ることにもつながるだろう
…彼のことをいまワシに問いただすのは控えてくれまいか」
鱒鮨野菜漬物鶏肉揚物似鮪刺身珈琲ココア果実菓子確定補正
蟹鮨(野菜漬物胡瓜即席麺)*2鮭缶福豆果実菓子醍醐菓子残存
【ハプスブルク帝国の都へ】
客家の情報屋チンポサンとの会合から、一週間後のこと。
源エルと西の沙羅は、ハプスブルク帝国の都である
オーストリアウィーンのシュヴェヒャート国際空港に居た。
この物語が騙られている擬似時空間である「婚活世界」には、
自動車というものが存在しない。そのためウマがなければ移動もままならない
ゆえに、ウィーン到着後すぐに
彼らは国際空港の脇に店を出している馬屋でウマを四頭、購った
四頭と言うのは、エルと沙羅の他にあとふたり、連れが増えていたからだ
・・・・・
チンの情報から
黄金猟奇仮面がウィーンに潜伏していることを知った源エルと西の沙羅は
いったん別れてそれぞれに旅の支度を整えた後、
数日後再び東京国際空港で顔を合わせたのだが
そのときに沙羅は、
エルの傍らに一組の爺婆が付き従っているのを目にしたのだ
「ちょ、ちょっと、エル。なんなの、この華麗臭漂う爺婆たちは?」
「こら。失礼なものの言い方をするな。
このものたちは太安万侶と日枝だのアレイという夫婦で、
安麻呂は私が幼かった頃の守役、アレイは私の乳母だったおなごだ」
「この二人があなたの守役と乳母だったということはわかったわ。
デモ、なんでその二人がココ東京国際空港にまで着ているわけ?」
「実はバッテラムらに戻って旅支度をしていたら、
どこから聞きつけたのか、このジイとバアがやってきて
『我らも、うぃ〜んとやらに行きとうござる。御供させてくだされ』
『冥土の土産にぜひ御曹司のお供して異国の都など、見てみとうござる』
などとせがまれたので、無碍に断るわけにもいかず…」
「・・・・」
【教祖オナニウス】
ウィーン国際空港から市内までは結構距離があったが、
ウマのおかげでその日のうちにチェックインすることができた一行は
ホテルの一室で香り広がるヨーロピアンティーなどを飲みながら、
今後の作戦について話し合っていた
『黄金リョウキ仮面はグレゴリウス=オナニウスなる人物に匿われて
ハプスブルク帝国の首都ウィーンに潜伏している』
これが↑客家の情報屋チンポさんがエルと沙羅に売った情報であり、
そのことは往路の機内で既に話がなされて、四人とも把握していた
「やはり何かの伝手を使ってオナニウスに接近するしかあるまい。
黄金リョウキの隠れ家がこのウィーンのどこにあるのかを
知っているものは、当のオナニウスだけだろうから」
「デモ、それがなかなか難しいのよ。
グレゴリウス=オナニウスなる人物は、
戦後急速に勢力を拡大したオナニー教という新興宗教の教祖でね、
ふだんは信者たちに守られたオナニー城という城にこもっていて
彼に近づけるのもごく一部の側近の信者だけ、とか」
「それなら黄金リョウキ仮面もそのオナニー城とやらにいるのでは御座いませんかな?」
「そうとも限らないのよ。
オナニウスは戦前汁の幹部の一人で、その行き掛かりから
同じ汁の最高幹部だった黄金リョウキ仮面を匿ってはいるものの、
戦後はオナニウスは新興宗教の教祖として社会的に大成功を収めたのに、
かたや黄金リョウキ仮面はいまでも世間に顔向けできない日陰者。
内心では黄金リョウキのことを鬱陶しいと思っているかも知れず、
必ずしも自分の本丸であるオナニー城内に匿っているとは決め付けられないの」
「なるほど。それに城というからには結構な広さ。
その城内にいるかいないかわからない黄金リョウキのために
まさかこの四人だけで城攻めするわけにもいくまい」
「確かに御曹司のおっしゃるとおり。となると、やはり
城の外でオナニウスなるものに接近する機会を得るしかなさそうですな」
オナニウスが城外に出てきたところで接近する、と方針は決まったものの、
これという手掛かりも足掛かりも取っ掛かりも見つからず、数日が流れた。
源エルはその間、
情報収集はその道のプロである沙羅に任せて、例の日記を再読していた。
大野安麻呂とアレの老夫婦は、
初日だけは 市内観光と称して二人で外出していったが、
二日目以降は安麻呂は購った馬の手入れ、アレは源エルの身の回りの世話、
といったことに時を費やすようになり、
エルの近くから離れなくなっていた。
ふたりともエルがまだ幼かったころに守役と乳母を勤めていた昔のことを
思い出し懐かしんでいるようで、 観光よりも、
エルの近くであれこれと世話を焼いていられることのほうが嬉しげに見えた。
数日後、ようやく沙羅が耳寄りな情報を入手してきた。
ふだんはオナニー城に籠もっているグレゴリウス=オナニウスが
近々シェーンブルン宮殿の大広間で催される予定の舞踏会に出席するため、
ウィーン市内にやってくるのだという
「つまり、我々もその舞踏会に参加すれば、オナニウスに近づけるわけだな」
「そうなんだけどね。ただ、この舞踏会は舞踏会っつうくらいなもんだから、
上流階級御用達の催し物でね。飛び入りなんかは当然無理だし、
参加するにも資格とかコネとか、いろいろとうるさいらしい」
「では無理か?」
「私たちだけではね。 モッサの本部に連絡して、
私たちもこの舞踏会に参加できるよう、セッティングを依頼してみる
この機会を逃したらまたいつオナニウスに近づけるチャンスがあるか、
わからないからね」
・・・・
モッサの本部は有能だった。
どういうふうに手を回したのか、
エルたちはアッサリ舞踏会への出席がかなうこととなり、
舞踏会出席のためタキシードとドレスを、ウイーンの服屋で取り急ぎ調達することとなった
仕立て直しを終えた服が四人の元に届けられると、
源エルは稗田阿礼に「これをそれぞれの服の襟に縫いつけよ」と、
小さなワッペンのようなものを手渡した。
何だろうと思った沙羅が横から覗き込んでみると、
それは笹に〆サバを象った馬蹄羅宗家の紋章であった。
(うわ。ダセぇ紋章…)
と沙羅は思ったが、とりあえず黙っていた。
しかし何気なく傍らの爺婆を見て、沙羅はビックリした
なんと彼らは、そのワッペンを握り締めて涙ぐんでいるではないか
「御曹司…こ、これは御宗家の家紋ではございませんか
なりませぬ、われら夫婦「おほの・ひえだ」の2氏も
確かに馬蹄羅の一門ではございますが、宗家では御座いません。
故に恐れ多くも御宗家の家紋を身につけるわけには参りませぬ」
「ジイや、婆や。ふたりとも細かいことを申すな。
ここは異国の地。右も左もよくわからぬ。
そのような土地でわれら四人、黄金猟奇仮面を追っていかねばならぬ。
この笹に〆サバの紋は、そのための一致団結のしるしであると考えよ。
宗家といわず分家といわずモッサといわず、この紋章を付けるがよい。我等一心同体ぞ」
「御曹司…」
爺と婆はもうボロボロと涙をこぼしていた
「しばらくお見かけせぬうちに、本当に御立派になられましたなぁ…
今のお言葉を頂いて、まさに守役冥利、乳母冥利に尽きるというもの。
もはや命も要りませぬ。…ありがたいことじゃ」
(う〜ん・・・やっぱ、馬蹄羅の連中って訳わかんね) と、沙羅は思った
【舞踏会】
最初の曲はいうまでもなく
ハプスブルク家のワルツとも呼ぶべき「美しき碧きドナウ」だった
出席者たちの群れに混じって、安万侶は阿礼と、エルは沙羅と、
それぞれに組んでワルツを舞った
西洋の踊りを知らない馬蹄羅の三人には沙羅が事前に即席で仕込んだ
と言っても沙羅の教え方は実に大雑把で、
一通りの社交ダンスを示した後は
「基本、相手と向き合って掌を合わせて…
あとはクルクル回ってればなんとかなるから、さ
おっちゃんはおばちゃんと、エルは私と組んで。
それ以外の人と踊らなければ大丈夫だよ」
という程度のものだったが、
三人ともいざ実践の場になると、見よう見真似で何とかサマになっていた
モチロン彼ら馬蹄羅と沙羅が、
こんな上流階級出身者だけの舞踏会に参加しているのは、
自分磨きなんぞのためではなく、
黄金猟奇仮面をかくまっていると思われるグレゴリウス・オナニウスと接触するのが目的だ
だから踊りながらも、彼らの眼は、
このシェーンブルン宮殿の大広間の中のどこかにいるはずの
オナニウスの姿を捜していた。
しかし見つけられぬまま、一曲目は終わった。
馬蹄羅一行が不慣れなダンスを終えてホッと一息入れ、
椅子に座りうっすらかいた汗をぬぐっているところに、
スッと近づいてきたものがいた
「馬蹄羅の御曹司。どなたかお探しなのかな?
不慣れなうえに周りをきょろきょろ見ているようでは、
ダンスもサマにならんでしょうな」
その皮肉な口調にややムッとしてエルが顔を上げると、
そこに探していたオナニウスの顔があった
「探し物はこの顔、ですかな?」「…グレゴリウス=オナニウス」
「いかにも」
傲然とした態度でオナニウスはエルを見下ろした
「東洋から来たサル山の黄色いサルが私を探している、と小耳に挟んだものでな
何の用かと思って本日はわざわざこの舞踏会に出向いてまいった次第」
「我らがそのほうを探していることをなぜ知った?」
「ウイーンはハプスブルク帝国の都であるとともに、
我がオナニー教団の本拠地でもある。その地で雌ぎつねが…」と沙羅を見下ろし
「その地で雌ぎつねが、
うろちょろとワシの噂を嗅ぎまわっておれば、
イヤでも我が耳に入り申す」
「・・・・」
「お目当ては黄金猟奇仮面、ですかな?」
「そこまで知っているか。ならば、教えてもらいたい。黄金猟奇仮面の行方はいずこか?」
「教えたとしてワシは何を見返りに頂戴できるのかな?」
「何がほしい?」「ふふふふ…」
オナニウスはいかにも『私が悪役です』という感じの、不気味な笑いを浮かべた
「そうさな。では、御曹司の首でも頂戴いたすか」
その瞬間、空気が凍った
源エルとオナニウスの間にピンと緊張の糸が張られ、両者は相手の眼を睨み合った
ドイツ語がわかる沙羅は言うまでもないが、
独語は不得手な安万侶と阿礼も両者の間に漂う異様な殺気を直ちに感じとり
息を呑んで見守っていた
その緊張を断ち切ったのは、オナニウスのほうだった
「おおい!ハプスブルク家の方々。ここにあなた方の家の鬼子がおるぞ!」
優雅な舞踏会の場には真にふさわしくない胴間声だったが、
その声のデカさは出席者たちの注意を喚起には十分だった
その無礼さに眉をひそめながらも、
出席者たちの視線はオナニウスと源エル一行の元におのずと集まった
「お歴々、ご披露いたす。
ここにいるこの(と言って、オナニウスはエルを指し示した)黄色人こそ、あなた方の家の恥。
今は亡きヨハン殿が東洋の女子に生ませた鬼子でござる。」
それまで華やかにざわめいていたシェーンブルン宮殿の大広間が、
その言葉にシンと静まり返った
出席者は誰一人口を利かず、ただ黙ってオナニウスとエルの二人を見つめている
その沈黙の中、源エルは静かに立ち上がり、穏やかな口調で述べた
ドイツ語である
「私は母から父の名を聞いていない。
ただ、我が父はハプスブルク=ロートリンゲンの血に連なるものである、とのみ聞いている
それゆえ、我が父の名がヨハンなのかどうか、それは知らぬ。
しかしそのことを置いても
何ゆえ私が『ハプスブルク家の恥』なのか? その点は納得できぬ」
「知れたこと。
ヨーロッパの王侯貴族の中でも名家中の名家、
ハプスブルク・ロートリンゲンの血統にこともあろうに
タタールの血が混じってしまったのだぞ。それがおまえだ、源エル。
このことをハプスブルクの恥辱と言わずして何と言う」
「ハプスブルク・ロートリンゲンが欧州屈指の名族であることは私も承知している
しかし私も、馬蹄羅の当主になるべきものとして
馬蹄羅の紋章と虎御前の太刀に誓って汚い振る舞いだけはするなと、
母から或いは今ココに居る守役や乳母からも教えられ、育ってきた。
それなりの矜持はこの胸の内にある。
肌の色だけでハプスブルクの恥と言われる覚えは無い」
「タタールの矜持など、なんのことやある。サル山のサルに誇りに過ぎぬわ」
「両者、静まれ」
不意に後ろから声がかかった。
その声は激しくもなく、むしろ弱々しいしわがれ声であったが、
その声を聞くやその場にいたものはみな胸に手を当て頭をたれた
今まで喚いていたオナニウスですら、その一声に押し黙った
やがて人々が引き下がり道が開かれ、一人の老人が二人の許にやってきた
その老人こそ、
フランツヨーゼフ・ベネディクト・アウグストゥ酢・ミヒャエル・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲン。
ハプスブルク家の現当主にして、オーストリア大公にして、ハンガリアの国王。
すなわち、ハプスブルク帝国の「皇帝」であった
老皇帝は辞儀をするオナニウスを軽くシカとして、エルのほうに目を向けた
「そなた、名はなんと申す?」
「源のエル…いや。私の名は、源エルンスト・ハプスブルク=ロートリンゲン」
見守る人々の間から、声にならないどよめきが湧き上がった
彼らはグレゴリウスオナニウスほどには有色人種に対する侮蔑をあらわにはしていない
しかしやはり白系コーカソイド上流階級に属するもののサガとして
意識の中にモンゴロイドに対する差別意識があることは否めない。
モンゴロイドとしては端正な顔立ちとはいえ、
肌の色が黄色いこの若者が、いま自らの名を「ハプスブルク=ロートリンゲン」と名乗った。
そのことに彼らは衝撃を受けたのだ
「面差しにヨハンの面影がある…」
源エルの顔を眺めていた老皇帝が、呟くように言った
「もしそなたがヨハンの子であるのなら、そなたは余の孫と言うことになる。
しかし仮にそうであったとてしも、以後、公の場でその名…
ハプスブルク・ロートリンゲンの名をそなたが名乗ることを禁ずる
このこと、ハプスブルク家の当主として、そなたに命ずる」
「そのわけをお尋ねしてもよろしいか?陛下」
「また知れたことを。タタールのおまえにハプスブルクの名を名乗る資格など、無いわ」
「オナニウス。そなたは黙っておれ」
横から口を挟んできたオナニウスを皇帝は軽く叱咤して退けた
「ヨハンは勘当した息子だ。…彼が東洋のおなごに恋したからじゃ。
しかしながら勘当したとは言え、ヨハンは、れっきとした息子。
ゆえにヨハン一代に限りハプスブルク=ロートリンゲンの名乗りは許した
だが、その卑属までが我が家名を名乗ることは許されぬ」
「陛下もまた、肌の色で人を差別するもののおひとりか?」
「そうではない。
我らハプスブルク家は戦争より婚姻により勢力を拡大してきた。
すなわち婚姻こそが、我が家にとっては最重要の戦略なのじゃ。
ハプスブルク家の誰がどこの家の誰と結婚するかは、
ハプスブルク家の当主であり、ハプスブルク帝国の皇帝である余が決める
…ヨハンは余の言いつけにそむいた。ゆえに勘当したのじゃ」
「陛下が私にハプスブルク=ロートリンゲンを名乗るなと仰せられるなら、
以後その名乗りは慎みましょう。
我は馬蹄羅。
そこのオナニウスが私のことを『タタール』と罵ろうとも、
私は馬蹄羅としての自らの出自に誇りをいだいておりますゆえ、
源エルンストだけで十分でございます」
「エルンストか…良き名じゃな」
皇帝はぼそっとつぶやいた。
そのときの彼の顔は、さきほどまでの、
帝国を支える皇帝の顔と言うよりも、
一人の孫を愛でるふつうの老人の顔のようにも思えた
「オナニウス。そなたはこの舞踏会の席で慎みを忘れ、場を乱した。
よって退席を命ずる。速やかにこの場から立ち去るよう」
オナニウスは唇をゆがめつつも皇帝に頭を下げ、
源エルに挑発的な一瞥をくれたものの、静かに退出していった
「陛下。我らもお暇つかまつる」
「そなたらは舞踏会を乱してはおらぬ。このままこの場にとどまっていてもよいのじゃぞ」
「有難きお言葉ではありますが、
我ら、自分磨きのためにかかる舞踏会に出席したわけではございません
オナニウスが去るならば、私どもに退席させていただきます」
kuu2340
【情報漏洩?】
「エル、ごめん。私のミスだ。
オナニウスに動きを察知され、先手を取られてしまうなんて…
情報のプロとして恥ずかしいし、申し訳ない」
舞踏会から戻ってすぐ謝罪した沙羅を、エルは慰めた
「気にするな。
オナニウスのやつ、
最初から我々に喧嘩を売るつもりだったようだ
舞踏会でのあの態度からみて、
事前に我々の動きを察知されなかったとしても、
黄金猟奇仮面の情報をオナニウスから得られたとは到底思えない」
「ありがとう。そう言ってもらえると助かるよ。
…デモ言い訳じゃなくて、
あのオナニウスの言葉、少し腑に落ちない点もあるんだ」
「それはどういう点が?」
「たとえばね。
私はウイーンでオナニウスの動きを探っていたときには、
一言も『黄金猟奇仮面』なんて名は出してはいないんだ。
それなのにオナニウスは、
なぜ私たちが黄金猟奇仮面を追ってココウイーンにまで来たことを知っていたのだろう?」
「・・・・」
「あなたのことも『馬蹄羅の御曹司』と呼びかけたし、
ヨハンだっけ、その、あなた自身すら知らないあなたのお父さんの名も
知っていたし…要するに詳しすぎるんだよね」
「ココウイーンはオナニウスの本拠地だ。
彼が各方面にわたって詳細な情報を掌握していたとしても、
不思議ではないだろう」
「デモね、私もモッサの情報官だから一応情報戦のプロなわけで、
そのプロとしての眼で見ると、
明らかにオナニウスは私のウイーンでの動きからだけでなく、
あらかじめべつに確固とした情報ルートを持っていて、
それから詳細な私たちに関する情報を得ていたのでは?と、感じるの」
「他からの情報ルート…
たとえば
私たちに黄金猟奇仮面の情報を売った華僑の情報屋チンポサンが
同時にオナニウスのほうには我々の情報を売っていたとか、
そういうことか?」
「チンポサンに限らず華僑の連中はみんな抜け目ない連中だけど、
それはちょっと考えにくいな
私たちをオナニウスに売ったらモッサを敵に回すことになる。
チンポサンからすれば、そんなことは危険すぎるし割に合わない。
一応モッサの本部に確認はとってみるけど、その線はまず無いと思うよ」
【いにしえのこと、など】
「それにしても驚いたのは、あなた、お父さんの名を知らないんだね
…あ。気に障ったようならゴメン。この話は、やめとく」
「いや、べつにかまわない。
私も幼いころは、そのことを多少気にかけていた時期もあったが、
今はなんとも思っていない。
自分は馬蹄羅として生きてきたし、
これからもそうして生きていくつもりだ。
だからさきほど皇帝からも、ハプスブルクの名乗りは許さないと言われたが、
それも特になんとも思わないよ」
「それにしても…
お母さんは馬蹄羅の宗家末裔、
お父さんは欧州の名門ハプスブルク家の連枝。
そんなサラブレッドみたいなバリバリ凄い血統のあなたが、
お父さんの名も知らないなんて…
おっちゃんやおばちゃんも知らないの?エルのお父さんのこと。」
なにげなく話を振っただけのつもりだったが、
沙羅はふたりのの様子を見てはたと沈黙した。
「おっちゃんとおばちゃん」こと、安万侶と阿礼は、
何かを懸命に押し殺すかのように体をぶるぶると震わせていたからだ
しかしやがて安万侶のほうが口を開いた
「このことはお方様よりずっと口止めされて参ったことで
我ら夫婦、死ぬまで御曹司にはお話せず墓まで持っていくつもりでおりました
しかしいま、沙羅殿の話を聞くに
御曹司もお父上の名を既に知られてしまったようで、
これ以上隠し立てしても詮方ございますまい…
いかにも、御曹司のお父上は、
ヨハン・ハプスブルク=ロートリンゲンと言われた御方にて、
ハプスブルク家の現当主の六男に当たる御方でございます」
「あらまあ六男とは…
枯れてるように見えたけど、
昔は結構なスケベジジイだったのね、あの皇帝陛下」
【太の安万侶、かく語りき】
我ら馬蹄羅も高貴なるものと称しておりますし、
また平素よりそれに見合うだけの義務を怠らず勤めているという自負も御座います
しかしながらやはりハプスブルク=ロートリンゲンのお家は、
我ら馬蹄羅とは桁違いのヨーロッパの大いなる王族。
そのお家のヨハン様と我らがお方様は、
いわば道ならぬ恋をしてしまったわけで御座います
ヨハン様は、そのご父君であられるフランツヨーゼフ・ベネディクト・
アウグストゥ酢・ミヒャエル・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲンさまのお怒りに触れ、
勘当のお身の上と相成りました
それでもお方様は
「私はヨハン殿と契ったのであって、
ハプスブルクの家と結婚したわけではない。
ヨハン殿がたとえ勘当され平民となろうとも、委細かまわず」
と仰せられ、
御曹司をお生みになったのございます
しかしヨハン殿は
「このままではあまりにこの子が不憫。父上に申して勘当を解いていただく。
それが成らずともせめてハプスブルクロートリンゲンの名は名乗らせたい。
そのために一度ウイーンに戻り、父上を説諭の上、改めてここバッテラムらに戻ってくる」
と仰せになって、
お一人でハプスブルクの都であるウイーン、
いま私どもがおりますこのウイーンの地にお戻りになっていったのでございます
・・そしてその後、二十余年、
何の音沙汰もなく今日に至っているしだいで御座います
(つづき)
「ねえ、それってさ。すっごく言いにくいんだけどさ・・・
もしかしてそれは、やりチンさんにやり逃げされちゃった、
…ってことじゃないの?」
沙羅のツッコミに安万侶は目を怒らせて
「いや決してそのようなことは…」と言いかけたが、
言葉の途中で力なく肩を落とした
「確かにそうであったのかも知れません。
それゆえ、お方様と我ら夫婦は相談の上、
『父がどうであれ、この子はいずれ馬蹄羅の当主になる身。
ヨハン殿の名は告げず、
ただ父君はハプスブルクロートリンゲンの血を引くものであったことのみ、教えよう』
と相決めた次第で御座います」
「ということはさ。また、さらに言いにくいんだけど・・・」
沙羅は気まずそうにいった
「そのバッテラムらにいたヨハンさんは、
実はフランツヨーゼフ・ベネディクト・ アウグストゥ酢・ミヒャエル・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲンの
六男でもなんでもなくて、口からでまかせでハプスブルク家の名を騙っていた
…という可能性は、無いの?」
「いや、沙羅殿。我らとてそこまでお人好しでは御座らぬ。
ヨハン殿がお方様とお付き合い始めた当初に、
そのおひとは身元いかなる人物か?と思い、調べており申す。
確かにハプスブルク家の六男のヨハン殿で御座った。ただ…」
「エルが生まれた後、父を説得すると言ってウイーンに出かけていき
そのまま音信普通になった、と。それで…」
「もうよい」
源エルが少し強い口調で、沙羅と太の安万侶の会話をさえぎった
「我らがウイーンに来たのは、
黄金猟奇仮面を追い、失われた駅ファイルを回収するのが目的のはず。
私の父の身元調べに来たわけではあるまい。
皇帝も『たとえそなたが余の孫であったとしても、ハプスブルクを名乗ることは許さぬ』
と、言っていたではないか。
…私は馬蹄羅だ。もう、それでよい」
エルの強い調子におされて沙羅も太安万侶夫妻も押し黙り、
少し気まずい空気がその場に流れた
沙羅はふと思い出しました、といった感じで
「そうそう。私たちの情報がチンポさんから漏れたものかどうか、
念のため本部に連絡して確認してくるよ」と言って、その場を離れた
エルと安万侶夫婦だけになると、
いままで黙っていた阿礼がエルに尋ねてきた
「御曹司。御曹司はこの地に着てよりこの方、
いつもなにやら小さな冊子を読んでいらっしゃいますが、
あれはいかなるゆえんのもので御座いますのか?」
「ああこれか。
黄金猟奇仮面の手がかりになるのでは、と申して、
エキサイト連邦政府の公安調査室長が私にくれた『彷徨える婚活人』の日記だ。
最後の余白部分にヨハン・ハプスブルクロートリンゲンという署名があって、
それがこの事案を私が引き受けるそもそものきっかけともなったのだが、
いまとなっては…」
「ほほう、そんないわれのあるもので御座いましたか
…御曹司。お父上のこと、決して恨んでなりませぬ。
沙羅殿は先ほどあれやこれやと申されましたが、
私は御曹司がまだお生まれになる前、バッテラ村に御曹司のお父上が住んでいらした頃より、
そのお人柄をよく存じ上げております。
決してやり逃げとか、そんなことをなさるかたではございません
バッテラ村に戻ってこれなかったのは何か事情があったので御座いますよ」
「オナニウスは『今は亡きヨハン』と言っていたな
父は既に亡くなっているのか… とすれば、
この日記がさしづめ遺書代わりということになるのかも知れん」
「もし差し支えなくば、その日記、婆にも拝読させていただけませぬか?」
「拝読といっても…阿礼、そなたドイツ語は読めんではないか」
「いえいえ、御曹司の父上のドイツ語ならば、この婆にも読めますのじゃ」
「適当なことを言いおって」
源エルは苦笑しながら日記を稗田阿礼に手渡したとき、
沙羅が少し慌てた感じで、その場に戻ってきた
【複雑怪奇】
「チンポサンが死んだ。…というか、殺された」
戻ってきた沙羅のその言葉に、
さすがの源エルも目を見張った
「殺された?」
「うん。本部からの情報では、
チンポサンは両目をえぐられ舌を抜かれ耳と鼻を削がれ
内臓をぶち撒かれティンティンを切り落とされた状態で息絶えていた、と」
「その殺し方は…」
絶句するエルに、沙羅はうなづいた
「そう。弁護士トムヤンのときと同じ。ファイヤーアイアンの手口ね」
「仲間割れの末の殺し合い、ということは?」
「いや、それはない。 いま本部に確認を取ったけれど、
やはりチンのルートから私たちの情報が漏れた形跡はなかった
殺しの動機は報復かあるいは口封じか。そんなところだと思う」
「報復、口封じ?…わからん」
「チンポサンは裏世界の情報屋だから恨みを買うことも多かったし、
今回の黄金猟奇仮面に関する情報についても、
私たちに売った情報以上の何かを把握していたのかもしれない
凄惨な殺され方とそれらのことを考え合わせると、報復、或いは口封じ。
殺しの動機はそんなところだと思うの」
「そういえば『ヨハン』に関しても彼は何か知っていたな…
あの時チンは、
ヨハンについては何も訊かないことを条件としてこの情報を我々に売る、
と言った。…この件は何か裏がありそうだな」
考え込む源エルに、そのとき傍らから声が掛けられた
「御曹司。…この日記は御曹司のお父上のものではございません」
(つづき)
声の主はアレだった
「何を言う?アレ、そなたドイツ語はわからんではないか」
「はい。確かに私はドイツ語は読めませぬ。しかし、ご署名が違います」
「…?」
「先ほども申しあげましたとおり、
私は御曹司がまだお生まれになる前、
バッテラ村に住んでいらした頃のヨハン様を存じ上げております
…ヨハン様は穏やかなお人柄で、
またご聡明な方でもあり日本語もすぐに習得なさいまして、
当時お方様の近くにおりました私などにもよく声を掛けてくださいました
たださすがに日本語を話すことはできても書くほうは苦手であったようで
書面などをお書きになるときは、ドイツ語でかかれていらっしゃいました
書面をお書きになると、ヨハン様は必ず最後にご署名をされましたが、
そのご署名は『Johann H=L』というものでした
いまこの日記の最後を拝見しますと、
『johan-habsburg-lothringen』と御座いますが、
御曹司のお父上のヨハン様はこのようなご署名の仕方は決してなさいませんでした」
「というと?」
「いつぞやのことか、私がヨハン様に
『このご署名のH=Lというのは、いかなる意味で御座いましょうや?』
と、お尋ねしたことがございまして、その際にヨハン様は
『我が家の家名、ハプスブルク=ロートリンゲンの略記ですよ。
ドイツ語だとhabsburg-lothringenと書くのですが、長ったらしいでしょ?
ですから私はもうずっと子供のころから簡潔にH=Lと署名しているのです』
と、仰ったのです」
「しかしそれだけで偽書とは…」
「もうひとつ、ございます。
ヨハン様の、まさにヨハンという、そのお名前の部分ですが
御曹司のお父上のヨハン様はJohannとお書きになります。
しかしこの日記のヨハンはJohanとなっております。Nがひとつ足りません。
…ご自分のお名前を書き損じるということが御座いましょうや?」
「・・・・」
「確かに私にはドイツ語は読めません。
が、御曹司はこの日記を何度も読み返されておりましたな?
どんな内容のことが書かれておりますのか?」
「それは、エキサイトがまだ帝国だった戦時中、
強制収容所に囚われた者の日々の記録だから、
毎日の抑圧された生活の苦しさとか、
当時強制収容所の所長だった黄金猟奇仮面の冷酷さなどが事細かに書かれているが」
「御曹司やお方様については何も書かれておりませんのか?」
「ああ。そういう記述は何もない」
「では間違いなくこの日記は、御曹司のお父上のものでは御座いません。
御曹司のお父上のヨハン様ならば、どんな苦境にあったとしても、
日記の中に御曹司やお方様のことを一言半句も記載しないなどと言うことは有り得ません。
…この日記は御曹司のお父上とは何の関係もない、
まったく別の御方が書いたもので御座います」
【襲撃】
「ちょっとその日記、私にも見せてくれる?」
そう言ってアレから受け渡された日記を
沙羅はパラパラとめくりながらしばらく凝視していたが、やがて顔を上げて言った。
「この日記…中身を書いた人物と最後の署名をした人物は別人だね」
「別人?」
「うん。筆跡を上手く似せて書いているからエルにはわからないと思うけど
私はモッサの情報官だからね、偽造文書、偽の署名、そういう類のものには目が肥えてる
…あまり自慢できることじゃないけどさ」
「・・・・」
「なんかいやな予感がする」沙羅は眉をひそめた
「私たちのことを知りすぎているオナニウス…
ファイヤーアイアンに殺されたチンポサン…
そしてこの、偽作されたのでは?と思われる『ヨハン』の日記…」
「なにか大掛かりな罠だろうか?」
「う〜ん…」
「御曹司。沙羅殿」
考え込む二人に、安麿が窓際から声をかけてきた
「どうやら我ら、取り囲まれているようでございますぞ」
安麿は自然を装いつつ窓から離れ、ささやく様に言った
「あの窓から見える範囲だけで三人。
外からこの部屋の様子を伺っているものがおりまする。
おそらくは総勢で10人内外のものたちが、
この建物の正面や搦め手などに配置されておりましょう」
「オナニウスの手の者か…」
「まずそれに相違ないかと」
源エルが自らも確認しようと、窓際に近づいたそのとき。
「御曹司、危ない!」
婆のくせにどこにそんな瞬発力があったのかと思うほどのスピードで
日枝のアレが横っ飛びにエルに抱きつき、そのままエルを押し倒した
「何をするア…」
と言いかけて、エルはそのまま絶句した。
太くて長くてマアご立派な牛刀が、アレの背中に深々と刺さっていたからだ
「チッ…仕損じたわ」
その声の行方を追った源エルは、
天井の梁の一部を開けて室内をのぞき見ている女の顔を見つけた。
「おまえは…ファイヤーアイアン」
婚活娼婦にして元ジルの幹部。
かんぽの宿でエルを誘い、誘い損ねるや弁護士トムヤンに乗り換え
自らの快楽のためにそのトムヤンを殺し、しかしてまた、
情報屋チンポサンすらも殺害したと思われる、ジルの殺し屋。
暗号名は「火事鉄」。
すなわちファイヤーアイアンの顔がそこにあった
蟹鮨活平目煮魚鶏肉揚物野菜漬物似醍醐菓子第二帝國迄到達
蟹鮨野菜漬物胡瓜漬物似即席麺似鮭缶詰福豆果実菓子似残存
「おのれ曲者!」
「…フン」
太刀を抜く安麻呂には目もくれず、火事鉄は姿を消した
天井裏をひたひたと駆け去っていく足音だけが聞こえた
火事鉄もプロの殺し屋である
おのれの技量とエルの武技を比較すれば、不意打ち以外ではエルは殺せない
最初の一撃をはずしたら逃げるに如かず。
…火事鉄らしい逃げ足の速さであった
「アレ、しっかりしろ…すまぬ。私の身代わりになって…」
「御曹司…な、何をおっしゃいますやら」
アレを抱きかかえつつ励ましかつ詫びる源エルに、
日枝のアレは必死で微笑んでみせた
「御曹司の身代わりになれるとは乳母冥利に尽きると言うもの。
…ほ、本望でございますよ」
「アレ!」
「おばちゃん!」
安麻呂も沙羅もアレの許に駆け寄ったが、
そのときにはもうアレが目が見えなくなっていたようで、
ただ中空を見つめて独り語っていた
「私とうちのひとは子宝に恵まれませなんだ…それもあってか、
私ども夫婦、御曹司を我が子も同然と慈しんでまいりました
御曹司…立派な御当主になってくだされや…
…あんた、後は任せた…御曹司を宜しく頼んだよ…」
「わ、わかった」
「ふふふ…あの世でヨハン様にお会いしたら
どんな言い訳をしてくださるか、今から楽しみでございますよ。
お方様と御曹司を二十余年もほったらかして何処で何をしていらしたのやら…」
「アレ・・・・」
【宗家誓言】
天もお聴きあれ。
我ら馬蹄羅、伝来の御旗御刀に誓いて、卑しき真似は致さず。
平時には雅を愛で、戦時には武をたて、命惜しまず名こそ尊し。
宗家は武士(もののふ)無くしては立たず、武士も宗家無ければ亦無し。
君臣一如、あたかもひとつの船に乗りたるが如し。
我とそなたら、生きるも死ぬも諸共ぞ。
勇めつわもの。奮えもののふ。黄泉路の果てまでも、いざ共に参らん
・・・・
火事鉄が遁走した後も、
グレゴリウスオナニウスが派遣した襲撃グループはまだ外で待機していた
ここが宮仕えの素人暗殺集団とプロの殺し屋の決定的に違うところで、
戦前から殺し屋として、またジルの幹部として鳴らしてきた火事鉄は、
戦局我に利あらずと判断して、さっさと現場から逃げてしまったのに、
彼ら素人暗殺集団は、
オナニウスからは「源エルを殺すまで戻ってくるな」と命じられ、
火事鉄からは「あんたたちに源エルを殺すのは無理。仕留めるのはワタシ。
でも源エルの注意を外にひきつけるための陽動部隊の役割だけは果たしなさいね」
と言われて、
火事鉄本人が逃げ去ったとも知らずに、
そのまま律儀にお外で待機していたのだった
そこに、馬蹄の音を隠そうともせず騎馬が三騎、姿を現した
言わずと知れた源のエル、大野安麿、西の沙羅の三人である
襲撃グループを無視してそのまま駆け抜けようとする彼らの前に、
一人の暗殺者が愚かにも立ちふさがったが、
三騎の先頭を走る安麻呂は
気合の声すら出さず、無言の一振りでその者の脳天を叩き切った
そのあまりの凄まじい刀技を見た残りの者たちは声もあげられず、
ただ呆然と三騎が駆け去っていくのを見送るしかなかった…
三騎はドナウ河畔沿いにしばらくウマを走らせていたが、
やがて道を左に折れウイーンの市街地を抜けて
緩やかな丘陵地帯に至ったところで、いったん駒を休めた
ココまで来ればオナニー城はもう目前である
…そう。彼らが目指していたのは
グレゴリウスオナニウスの居城、オナニー城であった
アレの死を見届けたとき、源エルは憤然として述べた
「私のためにアレを死なせてしまった。
かくなるうえは黄金猟奇仮面も駅ファイルもない。
アレの仇、火事鉄とその背後にいるグレゴリウスオナニウスを屠る」
「屠る?ほふるったってどうやって…」
「城攻めですな」
安麿が我が意を得たりと言わんばかりにうなづいた
「城攻めって…この三人だけで?」
「われらに刺客を差し向けてきたオナニウスは、
いま自らが攻めているという意識の内にあるはず。
まさかそこでわれらが逆に自らの城に攻め込んでくるとは思っていまい。
その意識の裏をかく。攻めるならいまだ」
「そりゃ、誰も思ってないわよ。三人で城攻めなんて」
「沙羅は馬蹄羅ではない。また、アレの縁故でもない。
…降りてもいいのだぞ」
「さよう。それがしはアレの夫であり、御曹司の守り役でもあったゆえ、
是も非もない。しかし、沙羅殿は参加せずともよい。」
「ったく。バカいってんじゃないわよ。
ここまできて降りられるわけないでしょ
ああやだやだ。これだから女心がわからない野郎どもはいやなんだ」
「では?」
「勿論一緒に行くわよ。こうなりゃ、やけくそだい」
(つづき)
オナニー城を目前に一息入れているとき、源エルはふと安麻呂に尋ねた
「それにしてもジイ。
そなたココウイーンは初めてのはずなのに、
よくオナニー城までの経路を存じておるな」
確かにホテルからココまで安麻呂はずっと先駆けを勤め、
エルと沙羅は安麻呂についていくだけで迷うこともなくココまでたどり着いていた
エルのその問いに、
安麻呂は答えようかどうしようかやや逡巡していたようだが、
やがて少し照れくさそうな顔で種明かしをした。
「ココウイーンに着いた初日、私とアレで外出しことがございましょう?」
「ああ。市内観光に行く、と申していたな」
「あれは市内観光ではなくて、
我らが泊まっているホテルからオナニウスの本拠地オナニー城までの道のりを、
アレと二人で確認しておったのござるよ。
…今回の御曹司の相手が城持ちと知り、
役に立つかどうかはわからないがこういうこともあるやも知れんと
アレと二人で話し合って、そのように致しました」
「…ジイ。おまえというやつは」
安麻呂とアレの忠勤ぶりに感極まって言葉を失う源エルを
安麻呂はやや手荒く叱咤激励した
「御曹司。感傷に浸っているときではございませんぞ。
敵の城は目前。たった三人だけとは言え、これはいくさ。
御曹司が御大将じゃ。もっとシャキッとしなされや」
【決戦】
こちらはオナニー城内のグレゴリウスオナニウスの居室。
オナニウスが愛読書の「正しいオナホールの使い方お楽しみ方」を
熟読しているところに、火事鉄が戻ってきた
「おお。意外と早かったな。…ん?源エルの首はどうした?」
「仕損じたのよ。エルの横にいた婆に邪魔されてね」
「仕損じ…おい。その一言で済むと思ってるのか。あれだけ人数もつけてやったのに」
「あんな殺人技術の基礎も体得してない連中、
何人つけてもらったって意味ないわよ
まったく役立たずの木偶のボウばかり。
あんたも信者たちにオナニーの素晴らしさを説くばかりじゃなくて、
もうちょっと楽しい人の殺し方でも説いてあげたら、どう?」
「話をそらすな。
源エルをわれらの本拠地ココウイーンにまでおびき寄せておきながら
仕損じましたで済まされるか。黄金猟奇仮面にどう言い訳すればいいのだ」
「何よ二言目には黄金猟奇黄金猟奇って。
あんな身元を隠してこそこそしてるようなやつに気を遣う必要なんかないわ」
二人の痴話げんかが白熱してきた、そのとき。
爆音とも破壊音とも定かではないすさまじい轟音がとどろき
まるで地震であるかのように城内が揺れた
「な、なんだ、今の音は?」
オナニウスと火事鉄が慌てて窓際に駆け寄って様子を見ると
再び轟音がとどろき、それとともにオナニー城の城壁がガラガラと崩れ落ちていくさまが見られた
西野沙羅が城外から放ったロケットランチャーが二発、
物の見事に的中し、オナニー城の外壁を破壊したのだ。
崩れ落ちた城壁の間から騎馬が三騎、城内に踊りこんできた
「源エル…」
オナニウスが歯軋りをしながらつぶやいた
(つづき)
「我らが目差す敵はオナニウスと火事鉄のみ!
無益な殺生は避けたきゆえに、
余の信者たちは抵抗せず速やかに城外に退去せよ!寄らば切る!」
源エルと大野安麿は、
そのように声高に叫びながら城内を巡っていったので
それを聞いて戦わずして城を落ちるものも少なくなかった
しかしやはり新興宗教の信者のうちには
盲目的な教祖の信奉者や完全に洗脳されている基地外信者も相当数おり、
そういうものたちはてんでに
長刀、長槍、鎖鎌、出刃包丁、フランパン、コッペパンなどを手にして襲い掛かってきたので、
やむをえないこととは言え、エルと安麿も相手をせざるをえかった。
二人が戦っている間に沙羅は城内を駆け巡り、
要所に時限起爆装置をセットして回っていた
ロケットランチャーの件からもご推察のとおり、
沙羅は諜報機関モッサの情報官であるとともに、
国際火器兵器爆薬類その他取扱い特A級ライセンス保持者でもあったのだ…
ゾンビの群れのように次から次へと
休みなく襲い掛かってくるオナニー教徒たちと戦っていた源エルは、
不意に鋼で叩かれたような強い衝撃を顔面に受けて、思わず片膝をついた
「御曹司!」慌ててエルの許に駆け寄ろうとした安麿が、
続いて起きた銃声とともにうつぶせに倒れ付す
顔の痛みをこらえつつ源エルが顔を上げると、そこには
鋼を寄り合わせた太くて長くてマアご立派な鞭を手にした火事鉄と、
硝煙まだ冷めやらぬマスケット銃を手にしたオナニウスの姿があった
「よし。きゃつらの動きは止まった。それ、ものども。止めを刺せ!」
勝ち誇ったオナニウスの掛け声でオナニー教徒たちが
源エルと大野安麿に飛びかかろうとしたそのとき。
「ぉりゃああああ!!」と言う怒声とともに
城内の家具調度類食器ガラス工芸品などが、雨あられと教徒たちの頭上に降り注がれた
城内に起爆装置を総てセットし終えた沙羅がようやく二人の援軍に駆けつけてきたのだ
「ちっ。クソ女が」
舌打ちしたオナニウスを傍らの火事鉄がじろっと横目で見た「…いや、おまえのことではない」
「城内に爆薬をセットしたぞ!命が惜しいものは速やかに外に逃れでろ!」
そこらにあるものを手当たりしだい教徒の頭上に投げ落としながら沙羅は喚いた
「どうせハッタリに決まっておる。おまえたち、なにをしている。
敵は深手を負っておるではないか!さっさと止めを刺さぬか!」
と言いながらも、オナニウスはずるずると後ろに下がり、そのまま姿を消した
火事鉄もまた、オナニウスの後に従い走り去っていった
源エルは静かに立ち上がり、周りを囲んでいる教徒たちを睨みつけた
火事鉄の鋼の鞭で叩かれたエルの顔は肉が無残に削りとられ、
そこからあふれ出た鮮血が顔の半ばを紅く染めていた
その凄惨な顔でにらみつけられた教徒たちは、
じりじりと後ずさりし、やがて悲鳴を上げて逃げ去っていった
エルはうつ伏せに倒れた安麿を抱きかかえた。沙羅がそこに走り寄る。
安麿はまだ息があったが、腹部が血で真っ赤に染まりすでに助からぬ身であることは明らかだった
「…お、御曹司。お役に立てず申し訳ない」
「何を言うかジイ。そなたとアレがいなければ、
ココまで連中を追い詰めることはできなんだ。これはそなたらの手柄ぞ」
「追い詰めたとて、取り逃がしては元の木阿弥…
いかなる理由かは存ぜぬが、あやつら御曹司のお命に固執しており申す
…ココでけりをつけなされ。逃がしてはなりませぬ」
「されど…」
「…沙羅殿。爆薬をセットされた由、まことでござるか?」
「ええ。ハッタリじゃないわ。城ごとつぶせるぐらいの爆薬がセットしてある」
「では…その点火ボタンをそれがしにくだされ。
沙羅殿は御曹司とともに城から脱出してあやつらを追いなされ」
「ジイ、それはできぬわ。そなたをココに置いては行けぬぞ」
「何を女々しきことを。…御曹司。御曹司はをのこで御座ろう
をのこは勝負に出ねばならぬときがあるのでござる。いまがそのとき。
情に流されてその勝負の時を見誤ってはなりませぬ」
「なれど…」
「私はもうどうせ助からぬ。アレも先に逝って待っておりますゆえ、
寂しゅうは御座らぬ。 …沙羅殿、点火装置をこちらに」
「…」
「ええい、じれったい、おふたりとも早うお行きなされ!」
「ジイ…」「おっちゃん…」
オナニウスと火事鉄が騎乗して城外に逃れでてから程なく
轟然とした爆音が立て続けに城のほうから聞かれた
振り返れば、先ほどまでふたりが居たオナニー城が、
あちこちから火柱を上げガラガラと崩れ落ちていくではないか
「やはりハッタリではなかったか。くそ。あの雌ぎつねめ…」
オナニウスが忌々しげにつぶやいたそのとき、
燃えさかる城を背にして猛然と二人に迫ってくる騎馬の姿が見えた
炎を背景にしているため騎手の容姿は定かではなかったが、それが誰かと言うことは明らかだった
二人は慌ててウマに鞭をくれ逃げ切ろうと図ったが、
追っ手の騎馬はたちまち両者との距離をつめてきた
「ぐぇ…」
火事鉄が口から血を吹いて背中をのけぞらせた
追いついた源エルが右腰に差し替えていた虎御前を利き腕一本で抜き放ち、
火事鉄の背を袈裟切りにしたのだ
へその緒まで切り裂かれた火事鉄は落馬し、そのまま息絶えた
到底振り切れぬと判断してオナニウスはウマを返したものの、
銃の装填をするだけの余裕もなく、やむなく剣を抜き放ったが、
そのときには既に源エルは目前まで来ていたため完全な受け太刀となった
その時点で勝負はついた。
馬速を落とすことなく迫ってきた源エルはオナニウスの振り上げた剣を一閃で跳ね飛ばすや、
返す刀を逆袈裟にオナニウスの首筋に叩き込んだのだ
オナニウスの首は、皮一枚だけ残してまだかろうじて胴体とつながっていたが、
その腕は手綱から離れ体は暫しふらふらと前後に揺れた後、力なく鞍上から滑り落ちていった
源エルが火事鉄に追いついてからオナニウスをしとめるまで、
わずか10秒程度。まさに瞬殺であった
(噂には聞いていたが…これが馬蹄羅の馬上剣…)
沙羅はその凄まじさに言葉を失った
「我が声よ、黄泉まで届け!ジイ!アレ!聞こえるか!
そなたらの仇はこの源エルが討ち果たしたぞ!」
顔を鮮血で染めながら源エルは馬上で吼えた
沙羅の目には、そのエルの姿は一匹の美しい獣のようにも見えた
【決着】
「おう、馬蹄羅の御曹司…ん?どうした、その顔の傷は?大丈夫か?」
「命に別状はない」
ココはエキサイト連邦の政府公安調査室。
黄金猟奇仮面の追跡と喪われた駅ファイル回収を委託されたあの日以来、
久しぶりに源エルは公安調査室長のイーヅカマン太郎と向き合っていた。
「そうか。で、今日わざわざここに来たのは?何か収穫があったのかね」
「喪われた駅ファイルはまだ見つかっていない
…しかし、黄金猟奇仮面は見つけた」
「ほう。それはそれは…で、いま彼女は何処に居る?」
「ココに居る」
源エルはそう言って目の前に居る人物を指差した。
「イーヅカマン太郎。おまえが黄金猟奇仮面だ」
「は?何を言っている?顔に傷を負ったときについでに頭も打ったか?
とりあえず脳病院にいけ。なんなら、いい医者も紹介してやる」
「口封じのために客家の頭領チンポサンを殺したのは、やりすぎだったな」
万太郎のツッコミを無視して、エルは淡々と話を進めた
「チンポサンの口さえ封じれば真実を隠蔽できると思ったのだろうが、
彼は裏の情報屋として自分が殺されたときに備え、
把握している情報一式を息子であるチンポクン(陳歩訓)に引き継いでいたのだよ。
その、チンポクンが教えてくれたのだ。
黄金猟奇仮面は女ではなく男だということを。そして…
ヨハン・ハプスブルク=ロートリンゲンを殺した人物が、
他ならぬその黄金猟奇仮面であると言うことを、な」
「何を言う。お前に渡した日記にも黄金猟奇仮面のことが書いてあるだろう。
そこには黄金猟奇仮面のことが『冷酷な女収容所長』として書かれてあるはず」
「チンポクンはもうひとつ重要な情報をわれわれに教えてくれた」
源エルは『私』と言わず、『われわれ』と言った。
そのとき、エルの脳裏にはモッサの沙羅だけでなく、
死んでいった安麻呂やアレの顔も浮かんでいたに違いない
「黄金猟奇仮面には女装趣味があったのだ。
女装して囚人をいたぶるのが戦前強制収容所の所長をしていたころの
黄金猟奇仮面の趣味だった、と」
「…」
「強制収容所の跡地から、
女装しているおまえを女と誤認した元囚人の日記を偶然見つけたとき、
おまえは思いついたのだ。私を罠にはめることを、な」
「何を言うか。
その日記には最後にヨハン・ハプスブルク=ロートリンゲン、
と署名がされているではないか。
おまえは自分の父親が書いた日記の内容を疑うのか」
「自ら墓穴を掘ったな」
「なに?」
「おまえは私にこの日記を渡すときになんと言った?
『この日記の、ヨハンなる人物が君といかなる関わりがあるのかは、私にもわからない
しかしハプスブルク=ロートリンゲンというからには、君と無関係であるはずもない』
そう言ったはず。そのおまえがなぜ、
ヨハン・ハプスブルク=ロートリンゲンが私の父であると知っている?」
「・・・・」
「私の興味を惹きつけ、この仕事を請けさせるために
日記の末尾にヨハン・ハプスブルク=ロートリンゲンの偽署名を、
後から追記したのも失敗だったな
生前の父を知っていた私の乳母がまずその署名を偽と見抜き、
さらにモッサの情報官が実際にその偽署名を書いたやつを探し出してくれたよ
ドイツ語の筆跡を真似てかけるやつは裏の世界でもそう多くは居ないからね
…そいつが吐いたよ。依頼主はエキサイト連邦の公安調査室長イーヅカマン太郎だ、とね」
「・・・・」
「さきほど、喪われた駅ファイルは結局見つからなかったといったが、
それも早晩見つかるのではないかな?
たとえば…そのパソコンの中から、とか」
そういって源エルは万太郎の机上にあるノートブックを指し示した
「モッサの沙羅が崩れ落ちたオナニー城の瓦礫の下から、
オナニウスのネット通信記録を拾い出してくれたのだ。
頻繁にやり取りしていたようだな、ココ公安調査室と」
そのとき、
エキサイト連邦の制服を身にまとった公安関係者が
ドサドサッと室内に流れ込んできた。
それをみた万太郎はホッとしたように彼らに命じた
「この源エルを逮捕せよ。罪名は…国家反逆罪だ」
しかし駅の公安関係者は誰一人としてその万太郎の言葉に動かなかった
「無駄だよ」源エルは静かに言った
「今回の狂言で、おまえは馬蹄羅のみならずモッサも敵に回した。
殺されたチンポサンのあとを継いだチンポクンも客家を挙げて支援している
またおまえが戦時中にに殺害したわが父…ヨハン・ハプスブルク=ロートリンゲンの最後については
モッサ経由でハプスブルク=ロートリンゲン家の現当主、
フランツヨーゼフ・ベネディクト・アウグストゥ酢・ミヒャエル・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲンまで
報告が行っている。
馬蹄羅、モッサ、客家、ハプスブルク=ロートリンゲン。
これだけの勢力を敵に回しては大国エキサイトといえどもひとたまりもない。
一介の高級官僚に過ぎぬおまえを擁護する気など、さらさらない、と言うことだ」
「イーヅカマン太郎こと、黄金猟奇仮面。
殺人、国家反逆、情報漏えい、その他もろもろの罪状により、おまえを逮捕する」
室内に入ってきたエキサイト連邦の公安関係者が、万太郎にそう宣告した
・・・・
「…私を殺しておいたほうがよくないか?」
しばしの沈黙の後、万太郎が穏やかな口調でエルに尋ねた
「私は君の父の仇だ。
君の腕なら、今ここで私を殺すのもたやすいことだろう
たとえこの場にエキサイトの公安関係者が何人いようとも、だ」
「連邦政府の司法にゆだねるよ」源エルは静かに応じた
「ただし君自身が、
逮捕の恥辱を受けるくらいならこの場で自決する、
と言うなら看取ってもよい」
「自決…それは無いな」
万太郎は唇をゆがめて声を立てずに笑った
「初めて会ったときにも言っただろう。君と私とは育ちが違うのだよ」
万太郎は静かに立ち上がり、
周囲を連邦政府の公安関係者に囲まれて部屋から出て行った。
【エピローグ】
源エルが公安調査庁の建物から出ると、そこには沙羅が待っていた
「…終わった?」「ああ」「…そっか」
そのまま二人は無言でしばらく肩を並べて歩いた
道行く人の中には、エルの顔に刻まれた深い傷痕を見て避けて通るものもいたが、
沙羅にとってはそんなことはなんでもないことだった
「…ねえ」「ん?」「また一緒にワルツを踊らない?」「?」
「へへへへ」沙羅はいたずらっぽく笑って、
一通の手紙をエルに差し出した「こういうものが着てんだけどな」
その手紙は、ハプスブルク家の当主にして帝国の皇帝である
フランツヨーゼフ・ベネディクト・アウグストゥ酢・ミヒャエル・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲンからの私信で、
今回の事件解決に関する謝辞と 源エルにハプスブルク=ロートリンゲンを名乗ることを認める、
という言葉が書き連ねてあり、最後に
『もしご都合よろしければ、ご内儀とともに再びウイーンに来られよ。歓迎の舞踏会など催す意向』
とかかれてあった。
「…ご内儀?」
首をひねりつつ源エルが宛名のところを見ると、そこには
『我が孫、源エルンスト・ハプスブルク=ロートリンゲンおよび、その妻の沙羅へ』と、あった
「おい。これはいったい…」
「へへへ…さあ、どうする?
ハプスブルク家の当主にして、ハプスブルク帝国の皇帝であって、あなたのおじいちゃんでもある
フランツヨーゼフ・ベネディクト・アウグストゥ酢・ミヒャエル・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲンちゃんが
公文書で私のことを妻と認めちゃってるんだから。
いくら馬蹄羅の御曹司といえども、これをひっくり返すことはできないよ」
「・・・・」
「知ってる?こういうのを昔の言葉では『押しかけ女房』って言うんだよ」
当惑するエルを尻目に、沙羅はワルツのステップを踏んでみせた。「さあ、ウイーン、ウイーんっと」
…黄昏の婚活世界が、そんなふたりを生暖かく見守っていた
馬蹄羅物語主伝第四話「双頭の鷲たち」 完
馬蹄羅物語第四話「双頭のワシたち」に登場した主な人々
【源のエル】
正式名は源エルンスト・ハプスブルク=ロートリンゲン。通称「馬蹄羅の御曹司」
【西の沙羅】
独立系諜報機関「モッサ」の情報官
【太の安麻呂】
源エルの幼いころの守役
【日枝の阿礼】
源エルの幼いころの乳母。安麻呂の妻。
【イーヅカ萬太郎】
エキサイト連邦政府公安調査室長
【ファイヤー・アイアン】
暗号名「火事鉄」。元ジルの幹部にして殺し屋。
【グレゴリウス・オナニウス】
元ジルの幹部にして、新興宗教オナニー教の教祖。
【チン・ポサン】
客家の頭領にして、裏世界の情報屋
【フランツヨーゼフ・ベネディクト・アウグストゥ酢・ミヒャエル・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲン】
オーストリアハプスブルク家の当主にして、ハプスブルク帝国の皇帝
【その他チョイ役、または名前だけの人々。およびテーマ曲等】
黄金猟奇仮面、弁護士トムヤン、ヨハン・ハプスブルク=ロートリンゲン、チン・ポクン。
BGM
Unter dem Doppeladler「双頭の鷲の旗の下に」
http://www.youtube.com/watch?v=4AwIWi6r0p4 An der schonen Blauen Donau「美しき碧きドナウ」
http://www.youtube.com/watch?v=7ze547PCy9M
歳の左近妖怪退治秘話
其の壱「退魔師、歳の左近」
【序】
このお話は、馬蹄羅物語の第一話、
その冒頭部にちょこっとだけ出てまいりました歳の左近様が
まだずっ〜とお若かったころのお話で御座いますので、
それはもう、たいそうな昔のお話で御座います
あるとき、左近様は御宗家様の御使いとして、
馬蹄羅の里より出で都にやってまいりました
都での御用の向きも無事に済み、
さてこのまま里に帰るのは些か興もなし、
御宗家や里のものたちに土産話のひとつでも持ち帰らんとお思いになった左近様は
なんぞ面白きものなどあらんかと、
お供連れで都大路を緩々と散策いたしておりました
そんな左近様のお目に留まったのが、
「歌舞伎興行、六千万之丞一座」なる幟で御座います
みれば幟の周りにはババアデブスブスブサイクといった、
華やかな都ではなかなか見られぬ醜女どもが群がっております
(嗚呼なるほど。これがかねてよりうわさに聞いていた
婚活醜女たちに絶大な人気を誇る歌舞伎役者、六千万之丞の興行であるか)
と、左近様も合点なさいました。
六千万之丞はその美貌と優雅な演技で、
当時やふー帝国の都で婚活醜女たちの人気を独占していたので御座います
無論左近様はおのこでいらっしゃいますので
色男の歌舞伎役者などにはさして興味はございませんでしたが、
かほどまでおなごから支持されているからには色男という以外にも
何ぞ見るべき手練の芸があるのやも知れんと思い直され、
とりあえず話の種にとお供とともに中に入ってみることにいたしました
しかし中に入ってみますと観客の95%がおなごで残りの4%はホモ、
そして最後の1%が左近様のように「間違えて入ってしまったもの」というような有様で
あたかもディズニーランドに男だけで紛れ込んでしまったような
居心地の悪さだったそうでございます
やがて幕が開き芝居が始まりましたが
周りの観客の婚活醜女たちは芝居などには眼もくれずただひたすら
「六千さま!」「きゃ〜、マンの丞様!こっち向いて〜!」などと
歓声とも悲鳴ともアクメ声ともよくわからぬ声で喚きたて、
万之丞も万之丞で、「外資」「デリバティブ」「ワイン」などと
意味不明な見得を切っているだけで、左近様はすぐ退屈してしまわれました
これは詰まらぬものを見てしまった、
退席しようかと思いつつ左近さまが舞台から眼を離されたそのとき、
ふと、つんぼ桟敷にいる一風変わった観客にお気づきになりました。
一風変わっていると申しましても、
それは容姿のことではございません
むしろそのおなごの容姿は至って普通でございました
しかしその、いたって普通であるということが
ゴテゴテに厚化粧をし口紅を塗りたくっている婚活しこめの群れの中では
かえって浮き上がって見えたそうでございます
さらにそのおなごは周りの婚活しこめたちがギャーギャー騒ぎ立てている中で
舞台すらも見ず独りうつむいて寂しげにしているではありませんか
その様に左近様にいささか興を催され、
舞台のほうはそっちのけにして、
そのおなごのほうに近づいていったそうでございます
・・・私が思うに、左近様も堅物そうに見えて
あれはあれでそれなりに助平だったのやも知れませぬな
「もし、そこの娘御。そなた、万之丞の舞台を見にきたというに、
何故そのような憂い顔をしておるのか?
差し支えなくば仔細など語ってみぬか?」
つんぼ桟敷とは劇場の二階席最後方の一角を示す言葉で、
ここらあたりのお席ですと、舞台の役者の声もよく聞こえません
それゆえ「つんぼ」桟敷と申すわけですが、
この際はむしろそういう場所のほうがよろしかったようで
互いに大声を張り上げずとも、
左近様はその娘と会話をいたすことができたそうでございます
【いたって普通の娘の話】
これは優しきお武家様。
わたくしのような至って普通のおなごにお声を掛けて頂き恐縮でございます
申しても詮方なきこととは存じますが、
お尋ねいただきました上は事の仔細を申し上げましょう
わたくしは新巻村の庄屋である新巻き鮭衛門と申すものの一人娘で、
鱈子と申します
実は私が住まう新巻村には人身御供と言う因習がいまだにございまして、
村はずれの磔(はりつけ)神社というお社に、
貼り付け様という神さまが太古より棲みついておりまして
その貼り付け様に毎年一人、
村から年頃の娘を差し出さねばならないのでございます
しかしそのことが嫌で村の娘たちは昨今みな村から逃走してしまい、
今年、人身御供として差し出せそうな年頃のいたってふつうの娘は、
村内くまなく探しましても庄屋の娘であるわたくし一人しかいなくなってしまいました
ととさまからは
「哀れではあるがそなたをを差し出さねば磔様のお怒りに触れ、
このスレッドが、…いや、この村が荒らされてしまう
鱈子。すまぬが、そなた今年の供物になってはくれまいか」
と頼まれ、泣く泣く承知した次第でございます
「それは哀れな…
しかしその磔とか申す邪神の供物にされるべきソナタが
何ゆえ今このような歌舞伎興行の場に来ておるのか?」
「はい。それは、ととさまの最後のおはからいでございます
私どもが住まう新巻村は鄙とは申せ、この都から程遠からぬところに在り、
都にて私がかねてより贔屓にしておりました六千万之丞の芝居が打たれる
と聞き及んだととさまが、
『磔様の供物にされる前に万之丞の芝居を見ておくがよかろう』
と私に申しまして、
本日こうしてこの都まで来て万之丞の芝居を見ている訳でございます
しかし、この芝居を見終われば、
村に帰り、磔様の供物にならねばならぬのか思うと、
贔屓の万之丞の芝居を見ていてもいまいち心弾まず、
つい伏目がちになってしまったのでございます
…その私の姿を見た心優しきお武家様が、
ただいまお声を掛けて下った、というしだいでございます」
「ふむ、なるほど。
読者にもわかりやすいソナタのしつこいくらいの状況説明のおかげで、
我にもソナタの置かれている事情が十分理解できた。
…なれど、そなたのととさまの姿が見かけぬな。
そなた一人でこの都まで参ったのか?」
「いえいえ。
無論、ココ都まではととさまと一緒に参ったのですが、ととさまは
『そなたが贔屓にしている万之丞の歌舞伎とはいえ、
色男の出し物を男の我が見るのはいささか気恥ずかしい。
向かいの茶店におるゆえ、そなた一人で万之丞の姿を堪能してまいれ』
と申しましたので、只今こうして一人で観劇しております」
「なるほど、それもまた至極もっとも。
我も、里の土産話のひとつにと思ってココに入ってはみたものの、
男が入るにはいささか場違いのところであったようじゃ。
…ソナタのととさまの心境、わからぬこともない」
さて、
そのごくふつうの娘の身の上話にいたく同情された左近様は
よせばいいのに、娘の住まう新巻村まで赴いて
そこに巣食う貼り付け様なる邪神を成敗してくれよう、
と心にお決めになりました。
まあこのあたりが左近様というお方が
好奇心が強すぎるお方だったと言うべきなのか
余計なお節介を焼いてんじゃねえと言うべきなのか、
馬蹄羅宗家の御用で都にきたんだから
用が済んだらさっさと馬蹄羅の里に戻れよと言うべきなのか、
それともそのごくふつうの娘と懇ろになろうという下心でもあったのか、
いやもう絶対あるだろこの助平がと言うべきなのか、 …まぁ、とにかく
左近様もいろんな意味でまだお若かったわけでございますな
・・・
芝居が跳ねましてから左近様がその娘とともに向かいの茶店を訪れますと、
茶店の婆が奥に案内いたしまして、
待つほどもなく左近様は
そのごくふつうの娘、鱈子の父である鮭衛門と顔を合わせました
「我は馬蹄羅の里でかの地の御宗家にお仕えている歳の左近と申す一介の馬蹄羅だが、
先ほど芝居小屋で偶々出会わせたソナタの娘から身の上話を聞かされ、
いたく同情いたしたゆえ、これよりそなたらの里の新巻村まで赴いて
その貼り付けなる邪神を成敗してくれようと思っておる、
ついては成敗の儀にご協力願いたい、云々かんぬん…」
などと左近様が仰いますと、
その娘の父、鮭衛門はひどく驚くとともに感謝の念も甚だしく、
「嗚呼、あなた様こそ、
古より邪神貼り付け様に苦しめられてきた我ら新巻村のものを
哀れと思われた善き神様が我らをお救いなさろうとして遣わされたお使いに相違ございません
何の否やがございましょう、
どうぞ我が娘たらこと新巻の村をお救いください」
と、左近様に向かって手を合わせました
【邪神退治】
さてこのような経緯で左近様一向は
馬蹄羅への帰路、新巻の村に立ち寄ることとなりましたが、
その際に左近様は
「皆で馬蹄羅に戻るのが遅くなっては、
或いは御宗家もお気をもまれるやも知れぬゆえ、
そなたらは先に馬蹄羅の里に戻っておるように。
なに、心配は要らぬ。
たかが邪神の一匹や二匹、我が腕ならばどうとでもなろう」
と仰せられ、供のものたちを先に帰してしまわれました
まあこのあたりが左近様というお方が
自信過剰すぎだったと言うべきなのか
お前それほどの腕前なのか?と小一時間問い詰めるべきなのか、
御宗家の御用で都にきたんだから
用が済んだらとっとと馬蹄羅の里に戻れよと言うべきか、
それともそのごくふつうの娘にひとつ格好いいところを見せて
自分に惚れさせて懇ろになろうという下心でもあったのか、
いやもう絶対そういう下心あっただろこの助平がと言うべきか、
…まぁ、とにかく
左近様もいろんな意味でまだお若かったわけでございます
かくして新巻村の庄屋鮭衛門とその娘鱈子とともに村を訪れた左近様は、
鮭衛門より人身御供の日取り段取りなどをあまねく聞き取ったすえに、
邪神退治の策を思いつきます
それは鱈子の代わりに自らが磔神社の供物の間に控え、
そこにやってきた貼り付け様を切り捨ててくれようという、
まさに単純明快というよりむしろアホみたいな策略でございました
まあこのあたりが左近様というお方が……え?もうよろしいか?
さようか…このフレーズが気に入っていたのですが、
もういいと言われたのでは仕方ございませんな
話を先に進めることといたしましょう
【女装】
「女装…でございますか?」
「いかにも。そなたの話を仔細に聞いても
邪神が平素はいずこに巣食っているのか、それがわからぬ。
それゆえこちらから出向いて退治するということができぬ。
しかしながら人身御供の当日、
黄昏時より貼り付け神社内の供物の間に控えさせたおなごは、
次の日の朝になると必ず姿を消しておると申したではないか。
とすれば、その邪神を仕留められるのは
邪神自らが供え物のおなごをさらいに来る、そのときしかなかろう」
「それは確かにそうでございますが…」
「そなたの娘タラコを供物の間に控えさせ、
我はその邪神が来るのをどこぞ近くに身を隠して待ち伏せる、
という手立てもあるにはある。
しかしそれではいざと言うときに数瞬、動きが遅れる。
その数瞬が命取りにもなりかねん。
我も危ないし、タラ子の身も守れぬかも知れんし、邪神を取り逃がすことにもなろう
ココは我がそなたの娘タラコの代わりに人身御供を装って
供物の間に邪神がやってくるのを直接待ち受けていたほうが、紛れがない」
「なにやらヤマトタケルの熊襲征伐のお話のパクリのような気もいたしますが…
ま、あえて詮索はいたしますまい。至極の妙案でございます、されど」
と、鮭衛門は首をかしげた
「お武家様のその御体格で果たして女装ができますものかどうか」
「なに、問題なかろう。
『供物となる娘は邪神の嫁御寮人となるという体裁をとるので、
白無垢をまとうのが決まり』
と、先ほどソナタも申したではないか。
白無垢なら角隠しがあろう。
あれを頭からかぶっておけば、直接我の顔を見られることはない。大丈夫じゃ」
「しかしそのご体格では…」
「我は男にしては細身じゃし、上背もごく普通。
『大柄で自称ぽっちゃりのおなごだ』と申しても通用しようぞ」
「・・・・・」
(つづき)
さて、このような経緯を経まして
女装マニアの変質者…じゃなくて、勇敢な馬蹄羅であられた左近様は
新巻村の庄屋鮭衛門の一人娘たら子の身代わりとなって
人身御供の当日、白無垢の花嫁衣裳に身を包み、
顔を見られぬようにと頭からすっぽりと角隠しをかぶって
貼り付け神社の供物の間に黄昏時より鎮座しておりました
やがて宵闇が次第に影を濃くしていくにつれ、
妖しげな気配が供物の間に満ちてまいりまして
これはいよいよ邪神来たりしかと左近様が思われたそのとき
目の前に現れたのは、くだんの庄屋新巻き鮭衛門でございました
「これ、鮭衛門。ソナタ、何故かような折りに参ったのか。
そなたがいては邪神もココ供物の間には入って来るまい。
疾く、立ち去るがよい」
と、左近様は仰せられましたが、
これはいかにもうかつであったとしか申せません
まあこのあたりが左近様というお方がまだお若かったというか… え?くどい?
…わかりました。そうまで言われては仕方ありませんな
話を先に進めることといたしましょう
【邪神顕現】
「ふぉふぉふぉ…これはまた、ずいぶんと温いお武家様じゃな。
ここにいたってもまだお気づきにならんとは」
鮭衛門の嘲笑にようやくはめられたと気づいた左近様は
「おのれ下郎」と叫んで、
懐に秘めた太刀を抜きつつ立ち上がろうといたしましたが、
なにせ着慣れぬ白無垢の花嫁衣裳を身にまとっておりましたので、挙措動作思うに任せません
さらに加えて後ろから白無垢衣装のすそを思い切り引っ張ったやつがおりまして、
左近様はぶざまに前のめりに倒れ、
その拍子に太刀も手元から飛び離れてしまいました。
「くそ、なにやつ」と左近様が振り向くと
そこには「ごくふつうの娘」鱈子がニヤリと不気味な笑いを浮かべて
白無垢衣装のすそを握り締めております
「お人好しのお武家様。ようこそ我らが生贄(にえ)の間に」
「おのれらは…実の親子ではないな。なにものじゃ」
左近様の誰何(すいか)に
ニヤリと笑った鮭衛門がおのれの顔に手をつけますとアラ不思議、
皺の寄ったジジイの顔がバリバリと剥がれ、その下から出てきた顔は…
「おのれは…歌舞伎役者、六千万之丞!」
「それもまた仮の姿、 我はサトリマスと申す妖怪にて御座る
サトリマストは何かということを知りたくば、
下記のURLを参照するがよかろう
http://www.logsoku.com/r/sousai/1336881753/54」
「参照も何も…URLの先には名前しかないではないか?」
「まだ騙り部が詳細なキャラを設定していないので…ま、名前があるだけでも良しとせい」
「しかして我もまた鱈子に非ず…」
左近様が身動き取れぬようにと、
白無垢の裾をしっかと握り締めたまま、 鱈子も語りだします。
しかしその声は、それまで耳にしてきた至って普通の娘の声音ではなく、
まるで喉に痰が絡んでいるような、妙にしわがれた老婆の声音でございました
左近様が振り返ると、
そこにはくっきり法令線が刻まれた豊島女の顔があり、
さらにその法令線も目立たなくなるほど無数の皺が顔に浮きあがってまいりまして、
ごく普通の娘だったはずの鱈子の顔は
見る見るうちに歳すらもわからぬ老婆の顔に変貌していったので御座います
「我が実体は精子婆なり。
我は定期的に優良かつ優秀な精子を食らわぬと、
かように容姿が急激に老化劣化してしまうのじゃ
お武家様が来てくださって助かり申した
…ご精子、頂戴つかまつる。ひょほ。ひょほ。ひょ〜ほほほほほ…」
【サトリマスと精子婆】
「さても精子婆。
今回の獲物は若きおのこということなので、我がエサではない。
ゆえに我はここで見物させてもらうわ。
手に余るようなら手伝ってもやろうが、
まずはおのれひとりでやってみよ」
そう言って
歌舞伎役者六千万の上こと、妖怪サトリマスは
左近様の愛刀オニギリを部屋の隅に蹴飛ばしてから
おもむろに胡坐をかいて見物の姿勢をとりました
ふたりがかりならばともかく婆一匹が相手ならば、
太刀など無くとも何ほどのことがあろうかと思われた左近様でしたが、
ふと気づくと精子婆の手足はいつのまにやらタコの触手のように
にゅるにゅるになっており、それがひたひたべたべたと
白無垢衣装で身動きままならぬ左近様の体にまとわりついてきて
振りほどくことができません
「こ、この妖怪婆が。
我はSFエロアニメでクトゥルフに犯される美少女伽羅ではないぞ」
「ひょほほほほ…そんなマニアックなギャグを申しても、
ごく一部の読み手にしかわかりませぬぞえ。
おとなしく我が生贄として精子を差し出しなされ。
ひょほ。ひょほ。ひょ〜ほほほほ…」
【サトリマス問わず語り】
我サトリマスは若いおなごの生き血が大の好物。
而してその精子婆のほうは、おのこの精子が生きる糧じゃ。
一人で獲物を漁っておったときには、身を偽り装っても
なかなか生贄をおびき寄せるのは難儀じゃったのじゃが、
ためしに二人で組んでみると、これがけっこう釣れるものでな。
我が歌舞伎役者を装いおなごを釣り上げるにしても、
我一人では警戒されもするが、
この精子婆がごく普通の娘タラコの姿を装って
「私の万之丞様のふぁんなの。一緒に新巻の村まで行ってみませんか?」
などと声をかければ、
生贄にされるとも知らずにホイホイやってくるおなごも結構おるのじゃよ
…で、そういうバカ女の生き血は我が頂く。
また今回のお武家様のように
ごく普通の娘かと思い、精子婆に声をかける間抜けなおのこもおる
この場合、どう釣り上げるかは精子婆の腕ひとつじゃな
露骨に難破してくるようなバカ男なら話は簡単じゃが、
お武家様のような御方が相手の時には
人身御供がどうのこうのと、大法螺話を一発でっち上げねばならぬこともある
いずれにせよ、
ココ生贄の間まで引きずり込めればもう我らのものよ
あとは生き血を吸うも精子を搾り取るもこちらの思うがまま。
御武家様もそろそろお覚悟されるがよろしかろう
その精子婆の手足には吸盤がついておる。振りほどこうとて無理なことよ…
さてサトリマスが問わずガタリをしております間も
精子婆の手足はくねくねと左近様の体にまとわり続けるばかりか、
いつの間にやらその手足の形状も触手そのものとなり、
またその数も増えてまいりました
最初は人の手足四本だったものが昆虫のように六本になり、
それが次にはタコのほうな8本になり、さらに増え続けて
仕舞いにはイソギンチャクのような無数の触手が左近様を締めあげ、
哀れ左近様は拘束緊縛SMプレイ状態となってしまいました
「精子婆。もういい加減よろかう。さっさと止めを刺せ」
サトリマスに促された精子婆が、
しぶしぶといった感じでろくろ首のように首を伸ばし、
蛇のように先が割れた長い舌を口から出して
左近様の下腹部に近づいてきたそのとき。
「うぉりゃあ!」という掛け声とともに侍装束姿のものがふたり、
扉を蹴破って『生贄の間』に乱入してまいりました。
「ちっ。何者じゃ?」
舌打ちして誰何するサトリマスに
「我は左近様の従者、鴨の葱緒」
「おなじく従者、華麗南蛮」
と、乱入してきた二人の侍は名乗りを上げます
「おお、葱緒。南蛮。そなたら、来てくれたのか」
拘束緊縛SMプレイ状態のまま、左近様はホッと安堵の声を漏らしました
【物の怪手強し】
鴨の葱緒が左近様をお救いせんと精子婆のほうに向かうのをみて
華麗南蛮は太刀を抜いて、妖怪サトリマスに迫りましたが、
サトリマスは徒手空拳のまま悠然と南蛮を迎えうちました
南蛮の一の太刀、二の太刀。
さすが馬蹄羅だけのことはあり、
いずれも目にも留まらぬ鋭さでございましたが、
妖怪サトリマスはその太刀筋を間一髪で見切ってかわしました。
…ただいま、「間一髪で」と申しましたが、
それは「かろうじて」という意味では御座いません
サトリマスは南蛮の太刀の軌道を完全に見切った上で、
最少の動作でその太刀をかわした、ということで御座います
「うぬ…」
腕に覚えの太刀技を完全に見切られた南蛮が唇をかみ締めるのをみて、
にやりと笑ったサトリマス。
その背中がむくむくと瘤のように隆起して、その瘤が弾けますと、
蟷螂の前足のように鋭角的な斧がサトリマスの背中に生えました
サトリマスは徒手空拳であったのではなく、
最初から体内に武器を仕込んでおったのでございます
その斧のような鎌のような形状の武器がひゅ〜と伸びてまいりまして
右から左から南蛮を襲います。 間一髪でそれをかわす南蛮。
…ただいま、「間一髪で」と申しましたが、
それは
「サトリマスの攻撃を完全に見切った上で最少の動作でそれをかわした」
という意味では御座いません
「かろうじて」ということで御座います。 南蛮殿、危うし・・・
葱緒の奮闘でようやく精子婆の魔手から逃れ出た左近様は
ついでに白無垢衣装もさっさと脱ぎ捨て身軽な姿となって
先ほどサトリマスが部屋の隅に蹴転がした己が愛刀オニギリの許に駆け寄りました
葱緒は葱緒で、南蛮危うしと見てサトリマスのほうに太刀を向けます
「ちっ…こりゃ、いかぬわい」
南蛮に対しては余裕の薄ら笑いを浮かべつつあしらっていた妖怪サトリマスでしたが、
それに加えて鴨の葱緒、さらには左近様もオニギリを握って向かってくるとあっては
衆寡敵せずと判断したのでございましょう、
ひょ〜と天井まで跳び上がりまして、
梁の一部を蹴破って天井裏に姿を消し、そのまま遁走してしまいました
「左近様、御身大丈夫でございますや?」
妖怪二匹が姿を消し、ようやく安堵した従者二人にとっては
まずは左近様のお身の上が気がかりです
「大事無い。
しかし、いま少しそなたらが来るのが遅ければ、
我は精子婆に精子を吸い取られていたであろう。
葱緒。南蛮。そなたらに助けられた。礼を申す」
「何を申されますか。左近様あっての我らでござる。
いちいち辞儀など、なさいませぬように」
「しかしすべてにおいて適当かつやりたい放題の物騙りとはいえ、
ようもああまで都合よくドンぴしゃりのタイミングで駆けつけて参ってたものよのう…
そなたらは我の指示に従い、馬蹄羅の里に帰ったものとばかり思っておったが」
「それについてはいささか仔細がございます」
と、鴨の葱緒、家例南蛮の二人の従者は
左近様の指示を無視してまでココ新巻村に駆けつけてきた訳を騙りはじめました・・
【従者たち、かく語りぬ】
無論、私どもも当初は左近様のご指図どおり
馬蹄羅の里に直帰するつもりでございました
しかしながら幾番目かの夜、
宿を求めましたとある村の古老と何くれとなく夜話などしておりました折、
その古老よりココ新巻の村にまつわる禍々しき噂を聞いたのでございます…
(とある村の古老の話)
「なんと、ソナタ様たちのだんな様はお一人であの新巻村に向かわれたと?
…それは、いささかヤバイのではございませぬかな
あの村には恐ろしき妖怪が巣食っておるというもっぱらの噂で、
近隣の村の者たちは誰一人として近づこうとはいたしませぬぞえ
え?…貼り付け様?
いやいや、そんな邪神の類ではございませぬ
あの新巻の村に巣食っておるのは、男と女のつがいの妖怪でございますよ
男妖怪のほうは若いめのこの生き血をすすり、
女妖怪のほうは若いおのこの精子を食らうという、
世にも恐ろしき妖怪ペアでございます
男妖怪のほうは、
古の妖怪サトリが魚類のマスと交尾して生まれた物の怪で、
その名をサトリマスと申します
女妖怪のほうはその名も知られず、ただ精子婆とのみ呼ばれております
いずれも一筋縄ではいかぬ猛々しき物の怪だと聞いておりますぞ・・・」
★ちょっと道草、馬蹄羅とは?★
ニッポン国バッテラムらに棲む人々のうちで
詩歌管絃歌舞音曲馬術刀術弓術魔術などに精通しているものたちの呼称。
いにしえよりバッテラムらの統治者として君臨し、
一門の歴代頭領はそれぞれの時代に応じて
「御館(おやかた)様」「御宗家」「御当主」などと呼ばれてきたが、
「最後の御宗家」源の朝臣鞠子が亡くなった時点で宗家直系が途絶え、
それ以後は宗家傍系のものが頭領を務めてきているので、
鞠子より後の頭領は「御宗家」とは言わず、「御当主」と呼ぶのが通常である
なお直近三代の当主の座は下記の順で継承されている
馬蹄羅マモル⇒源ジャンヌ⇒源エルンスト
(源ジャンヌは、朝臣鞠子以来の女性当主であった)
現在の当主源エルンストはオーストリアハプスブルク帝国の皇孫でもあるため、
公式の場では源エルンスト・ハプスブルク=ロートリンゲンと名乗ることもある
一門の氏姓には「源」「馬蹄羅」以外に、概ね下記のようなものがある
歳。紀。草流。安治。大野。日枝。鴨。家例。仲田。etc...
これら一門のうちで
草流氏の娘がイスラムの王族ハリーファ家に嫁いでいるので、
現在馬蹄羅はヨーロッパ、イスラムの二つの王家と姻戚関係にある
(
>>544つづき)
「我ら両名、その古老の話を聞きまして
これは先に聞いておったことと話の内容が違う、
あるいは我らが出遭った新巻村の庄屋鮭衛門とその娘鱈子こそが、
物の怪であったのやも知れぬ。
とすれば、左近様の御身危うしと思い、
そこから引き返すことにいたしまして、ウマを駆って
ココ新巻の村まで急遽戻ってきたと言う次第でございます」
葱緒、南蛮の二人が代わるがわるに騙るその話を聞き、
左近様は感に堪えたようにうなづいて
「さような次第であったか…
いや、今回ばかりはまったくそなたらの機転に救われたわ。
まさに持つべきものは良き補佐官。そなたらのお蔭じゃ」
と、葱緒、南蛮の両名を褒め称えました
「されば左近様。今後はいかがいたしましょうや?
我ら、そのとある村の古老より物の怪たちの棲家まで聞いておりますが」
「ほう、さようか。ならばココまでやられて、
おめおめと尻尾を巻いて馬蹄羅の里に帰るわけにも行くまい。
ここはひとつ、三人で妖怪退治をすることといたそうぞ」
【妖怪退治】
さてこちらは新巻村のはずれにあります、ほの暗き洞窟の中でございます
葱緒と南蛮のふたりが駆けつけてまいったために
歳の左近様を仕留め損ねたサトリマスと精子婆は、
生贄の間から抜け出し、いまは彼らの『棲家』であるこの洞窟までやってきて
ホッと一息ついておるところでございました
「…ったく。いくらご都合主義の物騙りとはいえ、
ああもタイミングよく助っ人にやって来られたら、たまったもんじゃない」
葱緒に切り落とされた首を接着剤で付け直しながら
ぶつぶつ愚痴を言う精子婆に、サトリマスは
「それもこれもお前がもたもたしておったせいではないか。
なぜさっさと精子を吸い取ってしまわなかったのじゃ」
と、ツッコミを入れます
「だって久しぶりの若い男だったんだもの。
精子を吸い取ってジジイ化してしまう前に、
ちょっとぐらいピチピチの若いお肌をレロレロしたいじゃないか。
あんただって若い女の生き血を吸う前に、
あんなことやこんなこと、 果てはそんな淫らふしだらな事までよくやっていたではないかえ」
「しかし結果として取り逃がしてしまったではないか。
あの連中がココ新巻の村から逃れ出た後、周りの村々で、
『新巻の村ではあんなことやこんなこと果てはそんな酷い目にあった』などと喧伝してみろ。
ますます若くて生きが良くて馬鹿な男女がこの村に立ち寄らなくなり、
我らの今後の狩りにも差支えが生じるというものじゃ」
「えーえーあんたはお利口さんですよ。ハイハイ、よかったよかった」
「またそうやってすぐにひねくれる。いやみをたれる。
なぜ素直にごめんなさいと言えないのか。
これだから妖怪といえどもおなごは嫌なのじゃ」
「あーあー聞こえない聞こえない。私は悪くない、悪いのはすべて男。
全責任は男にある私に責任はない。これがいわゆる黄金さんの定理」
などと二匹の妖怪は痴話げんかに熱中しておりましたが、
ふと洞窟の外に人の気配を感じて、まずサトリマスが沈黙いたしました
やがて草を踏みしめる足音が洞窟の中にまで微かに聞こえるほどになると、
精子婆も黙ります
「まさか…」
二匹の妖怪が顔を見合わせたそのときには、
歳の左近様と鴨の葱緒および家例南蛮の三人の馬蹄羅は
彼ら物の怪の棲家である洞窟の前までやってきていたのでございました
【役割分担】
さてこちらは洞窟を前にした左近様一行でございます
「ふむ。この洞窟が、
そのとある村の古老が申しておった妖怪たちの棲家か
…なるほど、先ほどの物の怪たちの臭いが強烈に漂っておる
いわゆる華麗臭というやつじゃな
この洞窟の奥にあの妖怪二匹が潜んでいるのは、まず間違いあるまい」
「されば左近様。戦いの段取りは如何に?」
「まず精子婆のほうだが
先ほど葱緒にも申したとおり、あの妖怪は首を切っただけでは死なぬ。
なぜなら物事を下半身で考えるからじゃ。ゆえに下腹部を狙え。
ただし、その際に返り血ならぬ返り羊水を浴びぬように気をつけよ
歳を経た女妖怪の腐羊水は猛烈な毒液であるので、
それを体に浴びればただでは済まぬ。
その点だけは注意するように。」
「畏まって候」
「二人で精子婆にかかるがよい。サトリマスは我が仕留める」
「え?…恐れながらそれは」
「南蛮。そなたの言いたいことはわかる。
そなたほどの手練のものの太刀筋を完全に見切ったサトリマスは、確かに恐るべき妖怪。
しかしながら、そなたらの先ほどの話が我にヒントを与えてくれたのじゃ」
「…と申しますと?」
(つづき)
「サトリマスは妖怪サトリと魚類のマスがおめこして生まれた物の怪じゃと、
そのとある村の古老が申しておった由、そなたらが教えてくれたであろう。
妖怪サトリとはなにものかということについては、下記URLを参照せよ。
http://ja.wikipedia.org/wiki/%E8%A6%9A サトリマスは妖怪サトリの子。
つまり、サトリと同様に人の心が読めるのだ
このことはゲゲゲの鬼太郎で水木しげる先生も申しているので間違いはない
おそらく先ほども、サトリマスは南蛮の心を覗き見し、
事前にその太刀の動きを読み取っておったのであろう」
「なるほど、ご賢察。
しかしながら、そのような妖怪を相手にいかが戦われるおつもりで?
心を読み取られてしまうのであれば、恐れながらいかな左近様といえども…」
従者お二人の心配そうな顔にたいして、左近様はにっこりと笑って応じました
「案じずともよい。我には『睡猫』がある」
【秘剣・睡猫(すいみょう)其の壱】
さて役割分担も決まりまして、
左近様をはじめとする三人の馬蹄羅は、ほの暗き洞窟の中に足を踏み入れました
洞窟と申してもそこかしこに小さな孔が穿たれているのでしょう、
外の日差しが微かながらも洞窟の内部を照らしております
無論十分な明るさとは申せませんが、相手の姿を見極めることはなんとかできそうです
「臭いはすれども姿は見えず…」
左近様は従者二人をリラックスさせようとしてギャグを振りましたが、
葱緒、南蛮の両名は既に太刀を抜き、敵の気配を感知しようと必死の様子で、
左近様の前振りに答えてくれません
仕方なく左近様は、自分で言った前振りに自分でオチをつけました。
「…ホントにおまえは屁のような」
左近様が、そのオチを言った瞬間、
物陰から鋭い刃物のようなものが目にも留まらぬ速さで左近様を襲いました
しかし既に相手の気配を感じ取っておられた左近様は、
その奇襲を難なくかわすと、ゆったりとした声音で物陰に声をかけました
「…サトリマス。差しで勝負するといたそう」
その左近様の落ち着き払った声音から
奇襲は無理と判断したサトリマスも物陰から姿を見せます。
後ろには精子婆。
「差しで勝負だと?…面白い。お武家様の腕前、拝見いたすとしよう」
サトリマスは既に瘤を隆起させ、二つの鎌を背中から生やしておりました
左近様はそれを確認してから、
ようやくおもむろに愛刀オニギリの鞘を払いました「…勝負」
精子婆は、相対した左近様とサトリマスの脇をすり抜けて
洞窟の外に逃れようといたしましたが、
葱緒と南蛮がその前に立ちふさがります
婆はイソギンチャクのような触手を狂ったように振り回して
二人をなぎ倒そうといたしましたが、
二人の馬蹄羅はその触手をスパスパスッパンと断ち切って、
あっという間に精子婆を追い詰めてしまいました
「えい!」「ぐぇ」「やあ!」「ぐわ」「とお!」「ぐぅ…」
切られた精子婆の体内から毒液腐羊水が噴出しましたが
事前に左近様から指摘を受けていた両者は、
その毒液が身にかからぬように注意しながら太刀を振るいます
そのドタバタ剣戟の間も、
左近様とサトリマスは共に一歩も動かずに相対していたのでございました…
【秘剣・睡猫(すいみょう)其の2】
左近様は愛刀おにぎりを下段に構えて…
というか、これは構えと申してよいのでしょうか?
ちょっと見には腕をだらりと下げて、ただ刀を握っているだけのようにも見えます
目は半眼。
これもまたいささか失礼な言い方になりますが、
あたかも催眠術師に技をかけられた被験者のようにも見えました
この左近様の構えにサトリマスもやや面食らったらしく、
必死で左近様の心を読み取ろうとしているようでしたが、
どうやら読み取れぬ様子で、その表情には微かに焦りの色が浮かんでいます
左近様、サトリマス、
そのままの状態で両者いずれも仕掛けず、息詰まるような時が流れているその間も
葱緒と南蛮は精子婆をアジの叩きの様にぐっちょんぐっちょんに切り刻み、
さしも生命力強靭な精子婆も哀れ最後のときを迎えようとしておりました
そのサマをみたサトリマスは
もはや精子婆頼みにならず、左近様の心が読めずとも仕掛けるほかなし、
と判断したのでございましょう、ふたつの鎌の刃を微妙にタイミングをずらしつつ
左右から打ち振って左近様に襲い掛かりました
その鎌の刃が風を切る音と共に
それまで半分眠っていたかのような左近様も、一気に動きました
右から襲い来る鎌の刃をわずかに体をずらして交わし、
左から襲い来た鎌の刃は愛刀おにぎりで跳ね飛ばすと、
そのまま一息に踏み込んでサトリマスを真向唐竹割りに切断したのございます
サトリマスは一瞬驚愕の表情を浮かべましたが、
すぐに意識がなくなりそのまま絶息いたしました
そしてそのときには、精子婆のほうも息絶えていたのでございます
【後日談】
妖怪退治を終えたあと、
左近様たちは近隣の村々の主だったものを集めて
二匹の妖怪を寂滅させたことを告知するとともに
洞窟の前でクソ坊主に一発読経などを適当に唱えさせた上で、新巻の村を後にしました
その馬蹄羅の里に戻る馬上で、葱緒が改めて左近様に尋ねました
「左近様。もし宜しければ我ら両名にも、
サトリマスを退治した『睡猫』なる刀術の奥義をご教授願えませんでしょうか?
あの恐るべき独身…じゃなくて、読心の妖怪サトリマスを、
一刀の元に切断した術、我らもぜひ体得しとうございます」
「う〜ん…実は奥義というほどのものは何もないのじゃ」
左近様は少し照れくさそうに口を開きました
「そもそも睡猫とは実家の縁側の陽だまりで居眠りしている猫の姿を見て、
剣豪作家の戸部シンジュウロウという人が適当に創作した刀術の名でな。
我はその短編小説を読んでいたのでその名前を一寸拝借しただけなのだ」
「それは…」
いくら適当かつやりたい放題の物騙りとはいえ、
そのあまりのいい加減さに、葱緒のみならず南蛮も絶句いたします
「ま、これだけでは読み手にも不親切かも知れんのでいま少し解説すると、
『睡猫』とは合わせ技の一種なのじゃ。
あくまで自分からは仕掛けず相手の仕掛けに合わせて放つ、返し技。
ボクシングやサッカーで言えば、カウンター攻撃じゃな
だから最初から、自分はこうしようとかああしようとか、
そういうことは一切考えない。心の中には何もない。だからサトリマスも困惑したのじゃな」
「なるほど…
そう言われてみれば、なかなかに奥深うございますな」
「ラストサムライでもトムクルーズが『ノーマインド』と言われておったし、
マトリックスでもモーフィアスが『don't think....just know』と言っておったであろう
『睡猫』に限らず、体術の奥義というのは
すべからくそういう処にあるのであろうて」
そう仰ると、左近様は呵呵とお笑いになりました
葱緒、南蛮の両名もそれを聞き、
なるほど名人上手の境地というのはこういうものかと感心なさったしだいで御座います
・・・・
さて、今回の物騙りはこれで御仕舞いでございますが、
このときの失敗を糧として、
以後左近様は自らの力を過信するを慎まれ、
また左右のものの意見もよくお聞きになり、
さらには有能な補佐官の育成にも尽力されるようになられて、
ついには『馬蹄羅随一の退魔師』と称えられるほどになられます。
左近様がそのようになられて以降の妖怪退治のお話も多々あるのではございますが、
それらの話はまたいずれ、べつの機会に物騙ることにいたしましょう。
今回はこれにて御免。
馬蹄羅物語副伝「退魔師、歳の左近」編 おしまい
「退魔師、歳の左近」編に登場した主な人々
【歳の左近】
馬蹄羅の一人。武士兼退魔師兼呪術師。「最後の宗家」源鞠子の守役だった人。
【鴨の葱緒】
馬蹄羅の一人。左近の補佐官。
【家例南蛮】
馬蹄羅の一人。左近の補佐官。
【精子婆】
妖怪。首を切っても死なない。
ふだんは至って普通の娘の姿をしているが、
優良かつ優秀な精子を適宜摂取しないとあっという間に老婆化してしまう
【サトリマス】
妖怪。妖怪サトリと魚のマスの合いの子。
ふだんは歌舞伎役者六千万之丞や新巻村の庄屋鮭衛門の姿をしているが、
若いおなごの生き血が大の好物の物の怪。人間の心を読むことができる。
蟹鮨活平目煮魚鶏肉揚物似野菜漬物似醍醐菓子第三帝國確定
蟹鮨野菜漬物胡瓜似即席麺似果実菓子似鮭缶福豆醍醐菓子残
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物珈琲醍醐菓子暫定
蟹鮨野菜漬物胡瓜似即席麺似果実菓子似鮭缶福豆残
馬蹄等の物語 主伝第五話
【千年紀・龍彫りの男】プロローグ
フランスの国王ルイが宮殿をルーブルからベルサイユに移したその訳は、
パリの下水道施設の不備による不潔さにほとほと嫌気がさしたからである
・・今ちょっと上品に「下水道施設の不備」と述べたが
もっと露骨にかつはっきりというと、
当時のフランスの一般社会にはトイレというものがそもそも無かった
ではどうしていたかというと、
一般大衆は垂れ流した糞尿を適当に家の中に溜め込んでおいて、
もうどうにも我慢できないぐらいに溜まったところで
二階の窓から道端に向かってブン投げていたのである
このような時代状況だったので、
ベルサイユに宮殿を移したルイはまず真っ先に宮殿内にトイレをこしらえさせたが、
そのトイレの数は、自分が用足しするために必要なひとつだけだった
そのため、ベルサイユ宮殿で舞踏会が催されるとき、
それに参加する貴族の淑女たちの中には、香を焚いたポータブル便器を持参して舞踏会に臨むものもいた
しかしせっかくの華の舞踏会に尿瓶持ち込みというのはサマにならないため、
大多数の舞踏会参加者は、ベルサイユの広大な庭園のココとかアソコとかで
適当かつ自由奔放に野ぐそ小便を垂れ流していた
このことは、舞踏会の翌日の庭園の掃除が大変だったとの記録が、
あちこちに残っているので間違いなく史実である。
かくして、ベルサイユの華麗な舞踏会は
糞尿の香りが満ちたなかで優雅に催されていたのである・・・
・・・・・
「どぅわああああ!」
喚声とも怒声ともつかぬその声に、玉は思わず振り返った
「どうしたの、芋子さん」
「ウンコ踏んじまったよ…」
芋子は心底情けなそうな顔でつぶやいた
「あらあらそれはご愁傷様。
でも、これだけそこらじゅうにウンこが散乱してれば、
踏みつけてしまうこともあるでしょう。あまり気にしないことね」
「ったく。なんでわざわざ馬蹄等の里からココ仏蘭西までやってきて、
ウンこの掃除をしなきゃならないんだよ。
これでも私たちは『高貴なるものたち』の末裔なんだから。
玉さんはそう思わないの?」
「仕方ないじゃないの、御当主のお指図なんだから」
「御当主の御指示は『仏国に赴いて、我がいとこマリーの護衛をせよ』でしょ?
御当主だってまさか私たちがベルサイユで
ウンこの後始末させられてるとは思っていないわよ」
「・・・」
憮然とする芋子をどう慰めようかと思いつつも
適当な言葉が見当たらず、玉は沈黙した
実際、玉だって情けないのだ
遠路はるばる日本国馬蹄等の里から
ルイの王家が統治するココ仏蘭西までやってきて
何が悲しゅうて舞踏会の後に庭園に散乱している糞の後始末をしなければならないのか
いや、そういう仕事もモチロン大切だと言うことはわかっている
だが、おのずから職務分担というものがあるだろう
玉も芋子も女性ではあるが紛れもなく馬蹄等の一員であり、
馬蹄等というのは欧州で言えば騎士階級に相当する。
騎士にウンこの掃除をさせる王族がどこにいるだろうか?
玉と芋子がいやいやウンこの後始末をしているのも無理ないことであった
・・・・
「我が伯母に当たるマリアテレジアフォンエスターライヒの娘マリーが
仏蘭西のルイ王家に嫁いでいることはそなたらも既に知っていようが、
このたび我が祖父でありオーストリアハプスブルク王家の家長である
フランツヨーゼフ・ベネディクト・ミヒャエル・フォン・ハプスブルク=ロートリンゲン殿より
いささか面倒な依頼があってな。
ご苦労ではあるが、そなたら暫しの間フランスに赴き、
かの地で我がいとこマリーの護衛官を務めてはくれまいか」
馬蹄等の現当主、源ウマイヤから呼び出された小野芋子と額田玉が
その指示を受けたのは、つい一ヶ月ほど前のことであった。
「仏蘭西…で御座いますか」
「仔細を言おう」
当惑気味の二人に、ウマイヤは説明を加えた。
「わが祖父フランツヨーゼフが皇帝を勤めているハプスブルクの家は、
戦争は極力回避し、婚姻政策により勢力を拡大してきた家。
しかしそうは言ってもやはりヨーロッパの中央に領土を持つ以上、
近隣諸国とすべからく友好関係を維持していくというわけにも行かない。
現在ハプスブルクの家は
露西亜のロマノフ、仏蘭西のブルボンの両王家とは友好関係を維持しているが、
プロイセンの王家ホーエンツォレルンとは
神聖ローマ帝国の支配権を巡って敵対関係にある。
さらに一方、南のバルカン半島においても
クリスチャンである彼らから見れば好戦的異教徒であるムスリムの大帝国、
オスマントルコ、略してオマンコ帝国と国境を隣接しており、
ハプスブルクは緊張を強いられている。
このような国際関係の中で、
フランツヨーゼフは友好国仏蘭西との絆をさらに深めるために、
孫娘のマリーを仏蘭西の王家ブルボンに嫁がせたのだ」
【源ウマイヤの話(つづき)】
ありていに申すと、当初フランツヨーゼフは、
我らの武力をハプスブルク家と敵対するプロイセンの王家、
ないしはオマンコ帝国との戦いに振り向けたかったようだ
しかし、そのことは私のほうで丁重にお断りした
するとフランツヨーゼフは妥協案として、
友好国フランスの王家に嫁いでいるマリーの護衛官派遣を要請してきた
どうやら彼は、
遥かアジアの端っこの島国のさらにその僻地の馬蹄等の里にまで
ハプスブルクにゆかりあるものがいるぞ、ということをブルボン…
というよりむしろ、欧州王族社会に喧伝したいという意図が見て取れる
「いざとなったらハプスブルクには馬蹄等という戦力もあるぞ」
ということをあらかじめ示しておくことで、
ハプスブルクと敵対することの不利さを暗に知らしめようという、
外交上の駆け引きというわけだ
これ以上断れば角が立つ。
仏蘭西ならば友好国でもあり、戦になることもあるまい
モチロン、ずっと向こうにおれなどと言うつもりはない、
時期をみて速やかに馬蹄等の里に戻ってこれるように手配いたす
私の代理人として緒万戸仁王を、かの国に派遣する。
そなたたち両名は仁王の補佐官として、
かの地に同行してもらいたい
・・・・
(
>>560のつづき)
玉と芋子が野糞相手に悪戦苦闘しているところに
庭園の向こうからウンコを踏みつけまいとヒョコヒョコ飛び跳ねつつ、
もう一人の馬蹄等が二人の元に近づいてきた
「そなたたち、そんなことはもうしなくてよろしい。撤収せよ」
このものは緒万戸仁王という名のオッサンで、
玉と芋子にとっては上司に当たる人物である
仁王は馬蹄等の伝統文化「緒万戸茶」の宗匠であるとともに武芸の達人でもあり、
現当主ウマイヤからの信任も厚く、長きに渡って当主側近として重用されている
「しかし仁王様。私どもはマリー様から
『あんたたちは庭園のお掃除でもしてなさぁぁぁい』と言われまして…」
「王妃にはただいま苦言を呈してきたところ。
『我ら馬蹄等はご当地で申せば騎士に相当する身分。
そのようなものに、他人のウンコの後始末をさせるとは何たることか
我らが御当主ならば、たとえ己の麾下のものであろうとも、
このような礼を欠くお指図は決していたしません
高貴なるご身分であればこそ、適材適所を心得られよ』
と、苦情諫言苦言異議申し立てその他モロモロをいたしてきたところだ。
ゆえにそなたらも、もうババ掃除などせずともよい。撤収。撤収である」
【マリーという女】
オーストリアハプスブルク家からフランスブルボン家に嫁いできた、
マリー・ブライダルネット・フォン・ハプスブルク、通称マリーBNは、
ヨーロッパ王侯貴族の婦女子にはありがちなことだが至って気紛れな女性で、
またその視野もあくまでヨーロッパ上流貴族社会の内のみにとどまっていた。
彼女にとっては白系コーカソイド貴族階級のもの以外は全員「召使」であり、
だから自分のいとこだか馬蹄等だか、そんなことは知ったことではなかった。
ただ、宮殿の庭が昨夜の舞踏会に参加した紳士淑女の糞尿であふれかえって
少々鼻にツンと来るくらい臭かったので、
近くに控えていた馬蹄等の女二人に「庭の掃除をせよ」と言っただけである
彼女は自分が生まれたハプスブルク家の政略や戦略に関心はなく、
また、自分が嫁いできたブルボン家の財政状況にも興味はなかった
当時のフランスは「欧州の中華」であり、巴里は「花の都」として
ヨーロッパ各地から王侯貴族の子弟が留学のため訪仏してきていたが、
そういった華やかさとは裏腹に国家としての財政状況は非常に苦しく、
消費税は一律50%まで引き上げられ、一般庶民はビンボーのズンドコにあった。
しかしマリーは、そういったことに何の関心も示さなかった
彼女の関心はただひたすら、
美味しいものの食べ歩きと高級ワインの飲み比べ、
或いは爪磨きと海外旅行とブライド品の買い漁り、
そういったいわば「自分磨き」のみに集中していたのであった・・
・・・・
馬蹄等の三人がウンコを踏まぬように飛び跳ねながら
ベルサイユの庭園から撤収しつつあったちょうど同じ時刻、
宮殿内のべつの一郭では、
ふたりの貴公子が仏国近衛騎兵隊の騎馬訓練を眺めつつ、
親しげに会話を交わしていた
訓練といっても近衛騎兵は儀仗兵的存在なので、
その騎馬訓練も実戦を想定したものというより
王や王妃の前でいかに優雅に馬を進退させるかという、
要は見た目の良さを高めようという趣旨の訓練である
そのため、
それを眺めている二人の貴公子の顔にも厳しさはさほどなく、
両者とも穏やかな顔で、談笑をしている
彼らのうち一人は
オスカー・フランソワ・怒・ジャルジュという仏蘭西の貴族で、
いま目前で訓練が展開されている仏国近衛騎兵隊の隊長である
そしてもう一人はスウェーデンからココ仏蘭西に遊学している貴族で、
その名をハンス・アクセル・フォン・ミレニアム・フェルゼンと言った
…これ以上フルネームを書き続けると、
語り部が発狂してしまうかもしれないので
以降はオスカーとフェルゼンと略記するが、
要するにふたりはお友達なのであった・・
「さすがはオスカー殿の騎兵隊。相変わらず華麗なものでございますなぁ」
「フェルゼン殿。これは私の騎兵隊ではございませんよ?
彼らは国王陛下の騎兵隊。私も隊長とはいえ、その一員に過ぎません」
「これは失言でした。まさしく仏蘭西国王ルイ陛下の騎兵隊でございます
…ただ、私はオスカー殿とお逢いするたびに
彼らを指揮督励するオスカー殿のお姿を拝見してきましたので、
心の中で、つい『彼らはオスカー殿の騎兵隊だ』と、
そう思ってしまうのでございますよ。
他意はございません。どうぞ、お許しください」
巧妙な媚であった
フェルゼンにそう言われてオスカーも悪い気はしなかった
「そうですか。…そうかもしれませんね」
「そうですとも」
「そうかな?」
「そうそう」
「ふふふ♪」
「へへへ♪」
「ひょ〜ほほほほほ。ほ。ほ♪♪」
・・・・
「そういえばオスカー殿。
最近、マリー王妃の護衛に少し風変わりな連中が加わった、
という噂を巴里で耳にしたのですが。
彼等はこちらの近衛騎兵隊には所属しないのですか?」
「風変わり…ああ。
あの極東の島国から来たものたちですか?馬蹄等とかいう」
「それそれ。その馬蹄等でございます」
「彼等は王妃のご実家であるオーストリアハプスブルク家の口利きで、
王妃直属の護衛官としてこちらに参ってきたものたちですから、
国王陛下の近衛騎兵隊には所属しません
まあ騎士相当の身分だということなので、
一応馬だけは与えてありますが、なにしろ黄色人種なのでね
我国の近衛騎兵隊に所属させたら美観を損ないます」
「おやおや。これは手厳しい」
「手厳しいと仰られても・・・
彼等は我ら白系コーカソイドと比べると、
背も低めで足も短めで見栄えもぱっとしませんので」
「さようでございますか。
いや、実はその馬蹄等に関して少し気になる話も併せて耳にしたので、
こちらに参ったついでに、できれば見てみたいと思っていたのですが」
「気になる話、と言いますと?」
「あ、いやいや。そんなたいそうな話ではございませんので…」
フェルゼンがオスカーの問いを軽くいなそうとした丁度そのとき
庭園のウンコ掃除から解放された馬蹄等の三人が偶然姿を現した
肥溜め桶はさすがに現場においてきたようだが、
額田の玉はダスキンのモップを、
小野芋子はベルメゾンのおトイレ掃除セットをそれぞれ抱えており、
どうにも格好の悪い風体である
馬蹄等の三人は近衛騎兵隊長であるオスカーの顔は勿論知っているが、
親しく口を聞くというほどの間柄ではないので
軽く黙礼をしてそのまま通り過ぎた
その後姿を黙って暫し見送ったあと、
「どうです?冴えない連中でしょ?」と言いつつ、
フェルゼンに目を移したオスカーは、そこで絶句した
フェルゼンの目付きが、
今まで自分と談笑していたときの穏やかなまなざしとは似ても似つかない、
鋭いまなざしに変わっていたからだ
それはまさに野獣の目付きであった
オスカーの少しおびえたような瞳に気づいたフェルゼンは、
すぐにまた元の穏やかな表情に戻り、微笑みながら言った
「いえ。大変結構なものを拝見させていただきました」
・・・・
「玉。芋子。さきほどオスカー殿の横にいた人物だが…」
庭園から宮殿の建物内に戻り、
ダスキンのモップとベルメゾンのおトイレ掃除セットを片付けてから
シャワーを浴びて体にこびりついた糞尿の香りを拭い取ったところで
仁王が改めて二人に尋ねてきた
「あのもの、誰だか存じているか?」
額田の玉は「はて…」と小首を傾げたが、
小野の芋子のほうが知っていた
「あの方はスウェーデンという御国からココ仏蘭西に来られた留学生で、
お名前は確か…ハンスなにやらフェルゼンとか申すお方かと思います」
「あら芋子さん、えらく詳しいじゃないの。
なんでそんなことまで知ってるのかしら?」
「へへへ。一応イケメンのチェックは抜かりなく、ね」
「何がイケメンなんだか。さっき目一杯ウンコ踏みつけたくせに…
で、仁王様。あのお方がどうかされましたか?」
「うむ…」
仁王は答えようかどうしようか少し迷っていたようが、
やはり言っておいたほうがいいだろうと判断したらしく、二人に告げた。
「気のせいかも知れぬが、さきほどあの者から微かな殺気を感じた」
「殺気…ですか?」
緒万戸仁王のその答えに玉と芋子は目を丸くした。
「いや、まあ気のせいだったのかも知れぬ。
ココ仏蘭西の地でことさら我々に害意を持つものがいるとも思えんしな
ただ、確かに言えることはあのものは『業持ち』である。
その点だけは注意しておくように」
業持ち(ワザモチ)。
玉と芋子も馬蹄等の一員なので、その言葉は知っている
業持ちとは、何らかの武技の心得があり、かつそのレベルが尋常ではない
そういう者を指すときに使われる馬蹄等用語のひとつだ
業持ちと聞き、考え込んでしまった二人を見て、
仁王は少しとりなすように言葉を添えた。
「ま、さほど深刻にならずともよかろう。
なんと言ってもココは欧州世界の中心。仏蘭西の巴里ベルサイユだ。
いろんなやつがいるであろう」
【緒万戸仁王から源ウマイヤに宛てた手紙】
御当主机下
ご無沙汰いたしております。仁王でございます
取り急ぎこちらの諸事情をお知らせいたします
御当主の御いとこ様であられるマリー様が嫁がれた当地の王家ブルボンは
ハプスブルクのお家にも匹敵する大いなる御家であり、
またその王家が治めております当地仏蘭西もまた、
穀物の実り豊かな大国であることは紛れもございません
また、当地の都であります巴里には
欧州諸国の王侯貴族の子弟たちが留学してきており、
欧州の中心とも申すべき国際都市の様相を呈しております
ゆえにもし御当主が今後も引き続きハプスブルクの御家のみならず、
欧州諸王家との付き合いを継続していかれるご意向であるのならば、
巴里に馬蹄等の事務方を設定するということは、
理に適ったことかと思われます
しかしながらその一方で
当地の政情が現在いささか不穏であるということも申し上げざるを得ません
当地の王侯貴族たちは連日放蕩奢侈な生活に明け暮れており、
その泡沫のごとき交際および遊興のための費用を捻出すべく
消費税は一律50%まで引き上げられ、民草たちの生活を圧迫しております
このため首都巴里においては、民草のみならず一部の貴族階級においても
王家への不平不満が潜在的に蓄積しており、
何らかのきっかけあれば、これらの不満が一気に爆発し、
暴動と化す危険性をも秘めているかと思われます
申すまでもなく最終的なご判断は、
御当主のご意思によるところでございますが
私見を申し上げるとすれば、以上のような諸事情を鑑み、
この地に馬蹄等事務方を設定するのは
いまだ時期尚早にあるのではないかと思量いたします
取り急ぎしたためましたものゆえ、
乱筆乱文お許しくださいませ。まずはご報告まで。 緒万戸仁王
・・・
封をしようとして、仁王の手がふと止まった
少し考慮した末、仁王は改めて筆を執り、
末尾の余白に以下のような文章を書き加えた
「ブルボンの世、あと二年、三年は持たるべく見え申し候。
されどもさ候て後に、高ころびに、あおのけに転ばれ候ずるとも見え申す。
スウェーデンより来たりし貴族にハンス・フェルゼンなるものあり、
さりとてはの者と見え申し候。侮りがたし。」
蛇足だったかな、と仁王は思った
しかし蛇足なら蛇足でも良かろう、
判断は御当主がなさればよいのだと思い直した
仁王は便箋を折りたたみ、封をし、その上に馬蹄等の紋章を押した
【龍彫りの男】
オスカーと別れて巴里の寄宿先に戻ってきたフェルゼンは、
郵便受けの中に積み上げられている手紙の山を不造作に鷲づかみにすると、
そのまま自室に向った
芋子が言っていたとおり、
フェルゼンは長身痩躯眉目秀麗、いわゆるイケメンであったので
郵便受けの中にあった手紙の大半は、
当地仏蘭西の婚活淑女たちからの恋文である
フェルゼンはそれら恋文の束を
差出人の名前だけチラッと見て、
そのまま封も切らずにポイポイとゴミ箱に捨てていった
その表情はオスカーと談笑していたときの穏やかな表情でもなく
馬蹄羅たちを見たときに垣間見せたケモノの眼差しでもなかった
無表情。
彼はただ機械的に淡々と「不要なもの」を捨てているだけなのであった
黙々と恋文廃棄作業をしていたその彼の手が、
一通の手紙を前にして不意に止まった
その手紙の差出人の所在地はスウェーデン、ストックホルム。
差出人氏名はエーヴァ・ロッタ・ブレムクヴィスト、と記載されていた
開封。
中身は恋文ではなかった
むしろ素っ気なさすぎるほどの文章で
「そなたのかねてよりの提案を受容する。
ただし直接軍を派遣することは差し障りあるので、
事は、そなたの麾下の者たちのみにて行うように。
後方よりの支援は請け負う」
とのみ、書かれてあった
フェルゼンはその便箋だけを机上に残し、
残りの手紙をすべてゴミ箱に放り込むと
アスコットタイを解き、上着も脱ぎ捨て、上半身裸になった
秀麗な面差しとは不釣合いなほどのたくましい筋肉。
そして、背中一面に踊るドラゴンの彫り物。
タバコに火をつけ一服したところで、
それまで無表情だった彼の顔に初めて変化が現れた。微かな笑い。
それは悪魔のような微笑みだった
【暴動】
何がきっかけだったのかは今となってはわからない。
が、仁王がウマイヤ宛の私信の中で危惧していた事態が、
唐突に現実のものとなって眼前にその姿を現した
すなわち「王家を退け、我々自身の手で政治経済を司るべし」という、
巴里の市民および一部の貴族たちによる、暴動に近い政治運動である
これを民主主義への兆しと捉えるか、衆愚政治の始まりと見るか、
それとも単なる動乱とみなすべきかは各人の立場により異なるが、
少なくとも王家からみればそれは動乱であり、暴動に過ぎなかった
しかし仏蘭西王家ブルボンには
この暴動を力づくで抑え込めるだけの軍事力がなかった
というのも、当時の欧州は封建制の時代で
近代的な国軍というものがまだ存在せず、
地方の封建領主がそれぞれにかかえている私兵を
国王がとりまとめることで「国軍」としていたに過ぎなかったからだ
勿論、王自身も「ブルボン家の私兵」を持っている
すなわち「オスカー殿の近衛騎兵隊」である
しかしその数はせいぜい20〜30騎というところで、
この程度の騎兵で巴里の暴動を鎮圧することなど、不可能といわざるを得なかった…
このとき巴里で発生した「暴動」は
その後、沈静と激化を繰り返しつつゆっくりと時をかけ、
さまざまな紆余曲折を経て最後には「革命」にまで至り、
そこで仏蘭西の王家ブルボンは滅亡することとなる
しかし当初そこまで先を見通せていたものは
広いヨーロッパの中にも誰一人としておらず、
他国の王侯たちも、まさかあの仏蘭西の名門ブルボンが
一般大衆ごときに倒されるわけはないと思っていたので
むしろこの動乱は仏国から何らかの利益を毟り取るいいチャンスだとばかり、
「混乱鎮圧のための軍隊を貴国に派遣してやるから、
見返りにこれをよこせ、あれを譲れ」
といった要求をフランスの国王ルイに対して求めてきた
そういった中で、暴動当初から一貫して
王家ブルボンを無条件で支持してきた欧州の王国が、ただひとつだけあった
それがスウェーデンである
当時のスウェーデン王グスタフアドルフは巴里動乱が勃発した際に
直ちに「一般大衆がまつりごとに口出しすべきではない」と発言し、
王家ブルボンを断固支持するという姿勢を、明確にした。
もっともスウェーデンは北方の遠隔の地スカンジナビアにあるため、
支援の軍隊を送るまでにはいたらなかった。
それでも孤立無援の状況におかれていたフランス国王ルイにとっては、
北国の王から寄せられる言葉の援護射撃は何より嬉しかった
そしてそのことが、
スウェーデンから仏蘭西に留学してきていたフェルゼンを
自らの身近に招きよせる契機ともなっていったのである・・・
【誘惑】
ブルボン家の家長にして仏蘭西の国王ルイは
決して愚昧ではなかったが、いささか英断を欠く人物であった
その性格のゆえに巴里暴動の激化に伴い次第に不安感を募らせてきたルイは、
ベルサイユ宮殿内の会議室においてたびたび不毛な会議を催すようになった
会議の参加者は王妃マリーと近衛隊長のオスカー、
そしてフランス人ではないが最近お気に入りとして
重用されるようになってきたスウェーデンの貴公子フェルゼン。
そのほかに数名の近侍者も参加しており、その中に緒万戸仁王もいた
しかし仁王はあくまで彼ら馬蹄等を周旋したマリーの実家、
ハプスブルクの顔を立てるためだけに列席を許されていたに過ぎず、
仁王に意見を聞くものはいなかったし、
仁王自身もあえて口をさしはさもうとはしなかった
会議はもっぱらルイ、マリー、オスカー、フェルゼン。
この四人によって仕切られていたのである
・・・・
王妃マリーは巴里の動乱にすっかり嫌気がさしており、
実家であるオーストリアハプスブルク家の都であるウイーンに避難したい、
と強硬に主張したが、
さすがに仏蘭西国王であるルイは
「王たるものが自らの国から逃げ出すというわけには行くまい」と、
王妃のわがままに難色を示した
ここで折衷案を出したのが、フェルゼンだった
「恐れながらお妃様のご実家であられるウイーンはいささか遠うございます
かといってこのまま巴里ベルサイユにとどまるのも危険でございましょう
ゆえにウイーンまでとは申せませんが、
ここはいったんどこぞ近くの安全な他国にまで退避されるのが
よろしいのではないか、と考えます」
「ふぅん…して、そなたが言う『近くの安全な他国』とは何処か?」
「ルクセンブルク大公の御料地は、いかがでございましょうか
小国ながら政情も安定し、仏蘭西とも国境隣接しております
また巴里ベルサイユからも近うございますので、
何かあれば直ちにご当地に戻ってくることもできましょう
更に付け加えれば、
ルクセンブルク大公はハプスブルク家とも縁戚関係にございますので、
王妃のご実家であるウイーンとの連絡も密に行えましょう
当面、かの地に優る避難先はないのではと思いますが…いかが?」
このフェルゼンの提案に、まずマリーが好意を示した
「ああ、確かにルクセンブルク大公の御料地がありましたわね
…あなた、とりあえずそちらに寄らせていただきましょうよ
私はもうココベルサイユはうんざり。
大公にそう申し上げて、
暫時私どもを受け入れてくださるようにしていただきましょう」
「しかし…やはり王たるものが自らの国から逃げ出すというのは…」
煮えきらぬルイの態度にマリーはイラっときた
「わかりました。ではあなたは、お好きなだけココにお留まりくださいませ
私は何が何でもルクセンブルク大公の御料地に行かせていただきます」
「なにもそんなにすぐにぶち切れなくとも・・あいわかった
ではとりあえず、暫時ルクセンブルク殿のお世話になることにいたそう
避難に際しての具体的な段取りは、フェルゼン。そなたに任せてよいか?」
「それはもちろん・・」
と、フェルゼンが言いかけたそのとき。
「畏れながら一言申し上げたく!」
末席から大きな声が掛けられた。
皆が一瞬ぎょっとして振り向いた先には、
苦虫を噛み潰したような顔をした緒万戸仁王が控えていた…
(緒万戸仁王の発言)
「先ほどより国王陛下御自らも再々仰せられておりましたが
仮初にも王たるものが国と民草を捨てて国外に逃げるなど、
断じてあってはならぬことと、私も考えます
これはウィーンなら遠いがルクセンブルクなら近いから良かろう、
などという、そういう問題ではございません
王たるものが一度でもそのような真似をいたしてしまえば、
王と民との間の信頼の絆は永久に損なわれ、
その失われた絆は二度と回復することはございません
これは王に限らず、統領たるものすべてに通じる心得。
どうか国外脱出の儀は、切に思いとどまっていただきとうございます」
この仁王の発言にマリーは飛び上がって激昂した
「黙らっしゃい!何たる無礼な発言か!
そもそもそなたは私の護衛官に過ぎぬではないか
この会議の末席に列するだけでも十分な栄誉であるにもかかわらず、
差し出がましき口上で我らの決議に異を唱えるとは何たる礼儀知らずか。
そなたは黙って我らの指示に従っておればよいのだ。控えておれ!!!」
喚き続けるマリーを前に、ルイとオスカーは慌ててなだめ役に回った
フェルゼンは仁王の方をチラッと見たが、何も言わずに沈黙を守った
・・・
結局決議は覆ることなく、
国王夫婦はルクセンブルクを目指して仏国を脱出をすることとなった
仁王はもう何も言わなかった
会議が終わり、
緒万戸仁王が控えの間に下がると、そこには小野芋子と額田玉がいた
彼女等には列席の資格もなかったため、ここで仁王を待っていたのだ
仁王はふたりに会議のあらましを語った
「あら。では私どもも王妃の護衛としてルクセンブルクに参らねば…」
「いや、そなたらは同行せずともよい。ココベルサイユに残っていよ。
今回のお供は私一人だけでよい」
「え?それはどういうことでございますか?」
「隠密裏の国外脱出ゆえ人数を絞りたいということもある。
だがそれ以上に、私自身、何かいやな予感がするのだ…」
仁王は眉をしかめた
「王が国を捨て国外に逃げる。
こんなことをするときは大抵ろくなことにならん
ましてや今回の逃走劇の立案者が
あのフェルゼンだというのではなおさらのこと」
「・・何か起こるのでございましょうか?」
「さて、それは私にもわからんよ。
ただ、何が起こってもおかしくはない。
ことは私がお供する旅先で起きるかもしれないし、
あるいは国王夫妻と近侍のものが抜け、
手薄となるココベルサイユでおきるかも知れない。
そなたたちもウマの手入れを怠るな。
何があってもすぐに対応できるように、
耳をそばだて目を凝らし鼻を利かせておるように。…仏語は会得したか?」
「心もとなくはありますが、何とか」
「では何か起きればココに行け」
仁王は一枚の紙切れを二人に手渡した
そこには仏語で所在地と人名が記されていた
「この御仁は?」
「このものは我等馬蹄等といささかゆかりあるものにて、
これまでも当地の事情に疎い私に何くれとなく便宜を図ってくれたもの。
そこに行けば、とりあえずは安全。
情報の収集もできるし、馬蹄羅の里に連絡を取ることもできよう」
「ココベルサイユの宮殿にとどまる必要はない、とおっしゃるので?」
玉の問いかけに、仁王はやや皮肉な笑みを浮かべつつ答えた
「国王夫妻が逃げた後の宮殿など、守る必要はない
我等は建物の管理人ではないわ」
【ベルサイユ脱出】
擬似時空間であるココ婚活世界の時間でいうと
グレゴリウス暦の20xx年某月某日、明け方未明。
仏蘭西国ベルサイユの宮殿から
一台の馬車と10騎の騎兵がひっそりと抜け出し、進路を丑寅の方角にとった
とりあえず今日の目的地は北仏国境近くの村、ヴぁレンヌ。
今日一日かけてヴぁレンヌの村までたどり着いてしまえば、
翌日の昼には大公が待つルクセンブルク城に到着できる、という算段である
隊列は中央に国王夫妻の乗る馬車。その前に5騎。後ろに5騎。
先導役はスウェーデンの貴族フェルゼン。
そのすぐ後ろが近衛騎兵隊長のオスカー。
馬車の前後は王家ブルボンの近衛騎兵で固められ、
緒万戸仁王は最後尾につけていた
仁王は道中何者かが襲ってくるか知れずと常に警戒を怠らなかったが、
幸い何事もなく国王夫妻一行は陽が落ちるころには
その日の宿泊予定地であるヴァレンヌの村に到着した
終日馬車に揺られつづけた国王夫妻はぐったりと疲れきっていたが、
それ以上に騎兵たちの疲労は困憊のきわみにあった
ウマに長時間乗るというのは相当な体力を必要とする、
特に慣れていないものにとってはなおさらのことだ
しかし明日もまた、半日は騎乗しなければならない
そのためには今夜のうちにこの疲れをぬぐっておかねばならない
お泊りどころとしてフェルゼンが案内したヴぁレンヌ村の館は、
鄙びた村にしてはなかなかに立派な建物であったが、
一同にはその造りの風雅さをめでるだけの余裕もなく、
そそくさと夕食を済ませたあとは、皆倒れるようにして深い眠りに落ちていった
・・・
夜半。不穏な気配を感じ、仁王はふと目を覚ました
外から鈴虫の音とウマのいななきが聞こえたが、館内はいたって静かだ
静か?…いや。
確かに音は聞かれないが猫のようにしなやかに
ひたひたと廊下を歩むものがいる。それも複数。
仁王が体を起こし太刀を手にして室内の明かりを灯したところで、
部屋の扉が音もなく静かに開いた
「さすがは馬蹄等。目ざといですな」
「・・フェルゼンか」
「そのまま眠っていなされば、何も知らずにあの世に逝けたものを」
「やはりこの脱出劇はそなたの描いた茶番だったのだな」
「お察しのとおり。ルクセンブルクの大公は何もご存じない。
すべては私が図ったことでございますよ」
「そなたの狙いは何か」
緒万戸の問いにフェルゼンは目を細め、ささやくように言った
「私の狙いは…仏蘭西。フランスが欲しい」
【フェルゼンの話】
私が生まれたスウェーデンスカンジナビアは寒い北国でね
冬になると海に氷が張ってしまって船が出せないんですよ
バルト海という美しい海もあるにはあるのだが、
なんと言ってもバルト海は内海ゆえ、外に向うくことができぬ。
我ら北国に暮らすものが古代より心から願い欲してきたものは
温暖な土地と四季を通じて船を出せる港すなわち不凍港なのさ
仏蘭西にはそれらがある。ありすぎるほどある。
それなのにこの土地の王家ブルボンは、
その自然の恵みの上に胡坐をかき、放蕩奢侈な生活に明け暮れるばかり。
このようなバカボン一家に治世を任せておくなど、勿体なかろう。
寒く厳しい自然に鍛えられ、
温暖な地のありがたみを心底知っている我ら北の王族にこそ、
かかる恵まれた土地を統べる資格がある。
そうは思わんかね?馬蹄等殿。
・・・
「いま『我ら北の王族』と言ったな?
そなた、一介のスウェーデン貴族ではないな」
「ふふ、少々口が滑ったか。まあよかろう」
仁王の指摘にもフェルゼンは動揺の色を見せなかった
「いかにも、私もまたスウェーデン王家の血を引くものの一人。
この度のはかりごとも、我らが王グスタフアドルフ陛下のご了解のもとでの一挙だ
それが知られたところでべつにかまわんよ
どうせこの館の中にいるものは今夜を限りに皆殺し。
馬蹄羅殿。そなたもまたしかり、だ」
「国王ご夫妻もまた屠る、と言うか?」
「あのバカ夫婦だけはしばらく生かしておくよ
彼等だけは密殺というわけにはいかんのでね
馬鹿といえども王は王。
その国の王を殺すものはその国の民でなくてはならぬ
ま、そういう体裁をお膳立てするだけだがね」
「そなた・・オスカー殿とは『お友達』ではなかったのか?」
「『お友達』とはこれのことかな?」
そう言ってフェルゼンは、
部下の一人が差し出した塊を無造作につかみ、仁王に向かって振って見せた
それはオスカーの生首だった
室内にはすでにフェルゼンの部下が数名、
光るものを手にして仁王を見据えている
「さてと。長話もココまでかな。・・・馬蹄羅殿。そろそろお覚悟を」
・・・・
国王夫婦がルクセンブルク目指して旅立ったその翌日。
主のいなくなったベルサイユの宮殿は、
巴里から押し寄せてきたおびただしい数の暴徒たちによって包囲された
彼らは鎌や包丁を手にし、口々に
「王を捕らえよ!」「まつりごとを我等の手に!」などと叫びながら、
慌てふためいて飛び出してくる留守居の者たちを次々に屠っていった
ふつうこのような暴徒の群れというものは
残虐非道である一方で無秩序で統制など取れていないものなのだが、
なぜかこの暴徒の群れは、初めて来たはずのこの広大な宮殿を
精確に包囲し、自由に跳梁し、
宮殿の留守を預かっていたものたちを次々に殺していく
その効率の良さはまるで軍隊のようにも見えた
実は、一見無秩序に見えるこの暴徒の群れには「指揮官」がいたのだ
その指揮官はウマに乗り、暴徒全体を見渡しつつ、
必要に応じて適当に煽り、かつ的確に指示を出し、
「彼」から命じられた任務を着実に遂行していた
宮殿内の留守居のものたちがほぼ全滅し、
「彼」から命じられたその任務も完遂したかに見えたそのとき。
植え込みの影から突如として騎馬が二騎、指揮官の目前に飛び出してきた
小野芋子と額田玉である
仁王から事前に注意を受けていた彼女たちだけは
この暴徒の乱入にも慌てることなく、今まで機をうかがっていたのだ
立ち塞がろうとした暴徒の一人を額田玉が抜く手も見せず切り伏せる間に、
小野芋子のほうは一直線に指揮官を目指した
「馬蹄等をなめるな!」
怒声とともに芋子の太刀がきらめくと、
その指揮官は血しぶきを上げて鞍上から崩れ落ちた
指揮官を失い、浮き足立ってどっと崩れる暴徒の群れを尻目に
芋子と玉はそのまま馬速を緩めず宮殿から離脱し、
何処ともなく駆け去っていった・・・
【処刑の日】
のちに「ヴぁレンヌの惨劇」「ベルサイユの殺戮」などと
言われるようになった上述の二つの事件が起きたときより
約一ヵ月ほど経った、或る日。
ココ巴里は凱旋門の前で、
仏蘭西国王ルイとその妻マリーの処刑が行われようとしていた
国王夫婦が国外逃亡を図り、
国境近くの村で取り押さえられたという出来事は
フェルゼンの手の者たちによってさかんに巷で喧伝された。
その喧伝の内容は事実とは異なるかなり歪められたものではあったが、
いずれにせよ仏蘭西の国民も貴族も
「国王が国から逃げ出そうとした」というその事に大きな衝撃を受け、
それまで「王政護持」の立場に立っていた国民や貴族たちの中からも
「王政廃止」に立場を替えるものが相次いだ
フェルゼンはこの情勢の変化を巧みに利用し、
「仏蘭西国民の主導のもとに」革命評議会なるものを成立させ、
その「仏蘭西国民の代表機関」である革命評議会の裁判を経て、
国王夫婦に死刑を宣告したのであった
処刑の当日、
国王夫妻は猿轡をかまされ後ろ手に縛られた姿で
肥溜め荷車の上に乗せられ巴里市中引き回しの上、
ギロチン台が設置されたココ凱旋門前に到着した
国王夫婦の処刑を見守る市民・貴族たちは数千人。
既に鈴なりのようになってシャンゼリゼ通りの左右にあふれかえっている
フェルゼンは淡々とした表情で
ギロチン台の方に引きずられていく国王夫婦を眺めていたが、
心のうちではまったく別のことを考えていた
(ここまでの段階で既に手の者を三名も失うとは、予想だにしなかった
ベルサイユで一人、ヴぁレンヌで二人。
・・馬蹄等。まったく、鬱陶しい奴ら。
近いうちにあやつらを何とかこのことから排除しておかねば。
仏蘭西を我らの手の内で完全に傀儡化するためにはまだ山あり谷あり。
ブリテン島のハノーバー家もオーストリアのハプスブルク家も、
この実り豊かな土地を狙っていよう。
今日ココで仏蘭西のバカ夫婦を処刑したとて、
今後は引き続き彼ら他家の王族共と渡り合っていかねばならんというのに、
馬蹄等のようなうざい連中にうろちょろされるのはかなわんからな・・・)
死刑執行の時刻になり、
革命評議会委員の一人(…この男もフェルゼンの息がかかっていた…)が、
ギロチン台の傍らに立って、
国王夫婦の死刑宣告文を読み上げようと
手にした巻物を紐解いた丁度そのとき。
ヒュン、と空気を裂く音とともに一本の矢が、その委員の首を貫いた
(!)
心得のあるフェルゼンはとっさに腰をかがめ身を低くしたが、
まだ武技のレベルがフェルゼンの域にまで達していなかった配下のものたちは
反射的に一斉に剣を抜き、矢が放たれた方角を見極めようと周囲をうかがった
「愚かものども!伏せよ!身を低くするのだ!」
フェルゼンはあわてて部下たちを叱咤したが、時すでに遅し。
ヒュン、ヒュン、ヒュン・・・
空気を裂く矢羽の音が立て続けに起こり、
剣をかまえたフェルゼンの部下たちは、次々と倒されていく
それを見た観衆たちはどっと崩れたち、我先にと逃げ始めた
潮を引くように凱旋門前から逃げ散っていく観衆たちと
入れ替わるようにして 弓を携えた騎馬が五騎、
フェルゼンの前に姿を現した
鞍上にいるのは男が三人、女が二人。
二人の女性とは、言うまでもなく小野芋子と額田玉である
五人の中央にいる壮齢の男性が、静かな口調で問うてきた
「そなたが、ハンス・フェルゼンか」
口調はあくまで静かである
しかしその眼差しは鷹のように鋭かった
「いかにも。そなたの名は?」
「…我が名は源ウマイヤ。馬蹄等の里にて統領を勤めている」
・・・・
「馬蹄等の統領か何かは知らぬが、この狼藉はどういうことだ?
本日のこの公開処刑は、当地仏蘭西の正当な統治機関である、
『革命評議会』の裁可を経て執行されるものであり、
よそ者のそなたが邪魔だてしてよいものではないぞ」
フェルゼンの鋭い口調も意に介さず、ウマイヤは平然と言葉を続けた
「そなたは過日、ヴぁレンヌの里にて
私の側近である緒万戸仁王を殺した …本日は、その借りを返してもらう」
「何を言っている。巷の話を知らんのか?
あの日、私と有志たちは
国外脱出を企てた国王夫妻をお留めしようして、
ヴぁレンヌの村でようやくご夫妻の一団に追いついた。
そしておふたりを巴里にお戻ししようとしたところ、
オスカーを初めとする近衛兵たちがいきなり私たちに襲い掛かってきたのだ
その襲撃者の中に、そなたの側近である緒万戸仁王なる馬蹄羅もいたので、
やむなく応戦し、近衛兵ともども討ち果たしたまでのこと。
いわば正当防衛だ。下らぬ言いがかりをつけるな」
「そなたは当地フランスを、
そなたの生国であるスウェーデンの傀儡にしようとしている
『革命評議会』なるものも、そなたのマリオネットに過ぎぬ」
「何たる妄言。
ユーラシアの東の端の島国からやってきた田舎ものとはいえ、
ただでは済まされんぞ。証拠でもあるというのか?」
「証拠はこれだ」
と、ウマイヤは懐から一塊の便箋の束を取り出した
その便箋の束を見て、
鋭い口調の中にも冷笑を含んでいたフェルゼンの顔が、青ざめた
「これは、そなたに宛てられた
『エーヴぁ・ロッタ・ブレムクヴィスト』なるスウェーデン女性からの手紙。
そなたの寄宿先の部屋より見つけたものだ、見覚えがあろう
この『エーヴぁ・ロッタ・ブレムクヴィスト』なる女性、
その所在地はスウェーデンストックホルムとなっているが、
さらにその住所を仔細に追っていくと、
スウェーデン王グスタフアドルフ殿の住まいであるストックホルム王宮に行き着く。
さらにその内容は、男女の往復書簡にありがちな色恋の言葉のかけらも無く、
それどころか、
『王家の転覆』『傀儡化の手順』『軍の派遣』といった、
物騒な言葉ばかりが書き連ねてある
さらには、この差出人の所在地、すなわちストックホルムの王宮には
『エーヴぁ・ロッタ・ブレムクヴィスト』なる女性は実在しない
つまりこの『エーヴぁ・ロッタ・ブレムクヴィスト』という
スウェーデン女性の名は暗号名、コードネームなのだ
そなたとスウェーデン王グスタフアドルフをつなぐための、な」
「・・・・」
「いまひとつ、そなたの望む『証拠』とやらを示しておこう
そなたはいま
『私たちは国外脱出を企てた国王夫妻をお留めしようと…』と言ったが、
国王ご夫妻の国外脱出劇そのものがそなたの描いた脚本であることを
示す証人がひとり生き残っている」
「そんな馬鹿な。あのときの会議の列席者はことごとく…」
と言い掛けて、あわてて口を閉ざしたフェルゼンに
ウマイヤは追い討ちをかけた
「そのときの会議の列席者はそなたとそなたの手下が、
ヴぁレンヌとベルサイユにてことごとく殺したはず。
そう言いたいのだろう
・・だがな。一人生き残っていたのだよ
その人物とは、あのときの会議の給仕だ
彼は我等馬蹄等といささかゆかりあるもので、
当地に不案内な仁王の面倒も何くれとなくみてくれたし、
さらにはベルサイユから脱出してきた芋子と玉を匿うとともに、
馬蹄等の里から急遽当地にやってきた我等三人の世話も焼いてくれた。
彼だけは、あの日の会議が終わった後、
宿下がりして郷里に帰っていたために命拾いをしたのだ
・・・手抜かりだったな。フェルゼン」
・・・・
暫しの沈黙の後、フェルゼンは口をゆがめて声を立てずに笑った
「ハプスブルクの連中も余計なやつと縁戚関係を結んでいたものよ
おまえたちさえいなければ、事は我が思いのままに運んだものを」
フェルゼンが自らの腰の剣に手を伸ばすのを見て、
ウマイやの傍らにいた馬蹄等も太刀に手をかける
小野芋子と額田玉も弓に矢をつがえた。そのとき。
「ご当主」
いま一人の馬蹄等がウマイやに声をかけた
「畏れながら、若輩の身で僭越とは存じますが、
ここは私にやらせていただけないでしょうか」
若輩の身でと言うだけあって、その馬蹄等はまだ若い
むしろ初々しいとすら言える
その若者がやや頬を紅潮させ、
緊張した声音でウマイやに願い出ている「私にやらせてほしい」と。
先に太刀に手を掛けていたもう一人の老練の馬蹄等が、
その若者に声を掛けようとして思いとどまった様子で、沈黙を守った
ウマイやに判断をゆだねたのだ
源ウマイやはうつむき加減に少し沈思していたが、やがて軽くうなづいた
「ありがとうございます」
ウマイやに礼を述べてからその若い馬蹄等は下馬し、
フェルゼンの方に数歩近づいてから名乗りを上げた
「私は緒万戸仁王の一子、草稲。
ハンス・フェルゼン。一騎打ちを申し込む」
【一騎打ち】
「ほぅ・・あの馬蹄等の子か」
フェルゼンは蛇のように目を細めた
チラッとウマイヤたちのほうに目をやって言葉を続ける
「一騎打ちとは、また古風な。お仲間の助太刀は要らんと言うのかね?」
「いかにも」
「・・・・」
フェルゼンは少し小首を傾げつつ相手を見据えた
その眼差しは、
草稲の武人としての技量を推し量ろうとしているかのようにも見える
「そなたの父君はたいした腕前だったよ
我々手練のもの数名を相手に獅子奮迅、私も二名の部下を失った
・・最後は私が止めを刺したがね」
フェルゼンのその挑発の言葉には乗らず、
草稲は静かに柄に手をやり太刀を抜いた
その抜刀の挙措動作だけで、
フェルゼンも草稲の技量が並みではないことを悟ったようだ
「なるほど…なかなかのものだな
では、お相手するとしようか。お手並み拝見」
「スウェーデンのハンス・フェルゼン、
さりとてはの者と見え申し候。侮るべからず。」
・・・・
当主ウマイやが見せてくれた父からの手紙。
その末尾に走り書きされていたこの言葉が、草稲の脳裏をふとよぎった
不安が無いわけではなかった。
しかしここは自分しかいない、
自分はこのことのために当主に直訴してまでここ仏蘭西に来たのではないか
草稲は雑念を振り捨て、目の前の仇敵「さりとてはの者」に意識を集中した
太刀を構えたまま微動だにせず数十秒。
どちらが先に動いたのかはわからない。
つま先からスッと入るしなやかな動きで両者接近。
草稲は右袈裟から振り向きざまの胴切り。いわゆる「燕返し」である
フェルゼンの剣が草稲の髪を削ぎ、
草稲の太刀がフェルゼンの衣を裂いた
再び対峙。接近。
フェルゼン渾身の袈裟を上半身をのけぞらし間一髪かわした草稲は
下から掬い上げるようにしてフェルゼンの脾腹を切り裂いた。
噴きあがる鮮血。
「フッ…さすがは仁王の子…いい馬蹄等だ」
独り言のようにそう呟くと、
フェルゼンはその場に崩れ落ち息絶えた
・・・・
決着がついたのを見届けたウマイヤはウマから下り、
返り血で顔を染め、まだ肩で荒く息をしている草稲に近づき一言、言った
「草稲。見事」
そのウマイやの一言で、
それまでの緊張から解き放たれたのだろうか、
緒万戸草稲は顔をくしゃくしゃにすると大粒の涙をはらはらと流し、
声を立てずに泣いた
草稲をねぎらった後、ウマイやは仏蘭西国王夫妻の元に歩み寄った
芋子と玉の手によりいましめを解かれたとはいえ、
国王夫婦はまだ地面にへたりこんだままだ
その前に片膝ついて、源ウマイやは言った
「仏蘭西の国王陛下。お初にお目にかかります
私、馬蹄等の統領にて源ウマイやと申します
ハプスブルク家の当主フランツヨーゼフ陛下からのご依頼に拠り、
ご当家に嫁ぎました我がいとこマリーの護衛として
緒万戸仁王、小野芋子、額田玉の三名をご当地に派遣しておりましたが、
かかる不測の事態に至り、主席の緒万戸が死去いたしました
しかしながら今こうしてその敵を討ち、
陛下ご夫妻の身もとりあえずは安泰となりましたので、
我等これにてお暇しとうございます
副官の小野、額田の両名も我等共々里に戻しますので、
その旨、ご了承いただきたい …では、これにて御免」
立ち去っていこうとするウマイやの背に、国王ルイが声を掛けた
「ウマイや殿。我等に、我等夫婦の為に馬車を調達してくれぬか
馬車が無くば、せめてウマだけでもよい」
ウマイやはその声に立ち止まり、振り返った
しかし再び歩み寄ろうとすることはなく、
その場で一礼だけして言葉を足した
「陛下。僭越ながら申し上げる
ココ巴里も、またお住まいのあるベルサイユも、
総てみな陛下の統べるべき地でございましょう
ならば、そのおみ足でしっかりと歩んでいかれれば如何?
人に頼ってばかりでは、
また早晩フェルゼンのようなものが陛下のお側に現れましょう
民を慈しみ己が身の回りの者どもを愛してこそ、
王の王たる資格がございますし、またそのようにいたせば、
自ら言わずともウマなり馬車なり周りのものが用意してもくれましょう
…失礼いたします」
・・・・
源ウマイやの再騎乗に併せて他の四名の馬蹄等も一斉に騎乗した
彼等は緩々とウマをやりながら次第に凱旋門から遠ざかっていき、
やがて巴里の町並みの中にその姿を消した
【エピローグ】
ハプスブルク家の当主にして
オーストリア大公、ハンガリー国王、神聖ローマ帝国皇帝を兼ねる
フランツヨーゼフ・ベネディクトミヒャエルフォン・ハプスブルクは
ウイーン王宮の自室で、源ウマイヤから送られてきたその手紙を読んでいた
手紙の内容はいたって簡潔なもので
マリーの護衛として巴里に赴任させたもののうち一名が死亡したことと、
残りのものについても既に任を解きフランスから退去させたことのみを
通知しているだけで、
護衛官を退去させるにいたった経緯や背景、すなわち
スウェーデン王グスタフアドルフの謀略や
仏蘭西国王の国外逃亡未遂事件、
或いはフェルゼンとの戦いといったことは、一切記されていなかった
しかしフランツヨーゼフはハプスブルク家の諜報網によって、
すでにそれらの出来事を把握していたし、ウマイやのほうも
「フランツヨーゼフは既にこれらのことを知っている」という前提のもと、
あえてこのような素っ気無いとすらいえる内容の手紙を送ってきたものと思われた
(オーストリアハプスブルク家の利益のために
もうこれ以上馬蹄等を便利使いするな、ということか)
フランツヨーゼフは、
素っ気無い内容の手紙を送ってきたウマイヤの意図をそのように解釈した
(まぁ、それならそれでもよかろう
少なくとも今回の件で、ヨーロッパの王族たちは馬蹄等の存在を知った
とりあえずはそれで十分。またいずれ、機会が訪れることもあろう…)
折からの夕日がテラスから室内に差し込み、
フランツヨーゼフの横顔を赤く照らしだした
その横顔は孫娘マリーの無事を喜ぶ老人の顔ではなく、
権謀術数の世界を生き抜いてきた老練な策士のそれであった…
馬蹄等物語主伝第五話「千年紀〜龍彫りの男」 完
「千年紀・龍彫りの男」に登場した主な人々
【緒万戸仁王】(おまんこにおう)
馬蹄等の一人。緒万戸羊水の末裔。馬蹄等当代当主源ウマイヤの側近。
ウマイヤの命により、王妃マリーの護衛官として仏蘭西国に着任する。
【小野芋子】(おののいもこ)
馬蹄等の一人。緒万戸仁王の補佐官。女性。
【額田玉】(ぬかたのたま)
馬蹄等の一人。緒万戸仁王の補佐官。女性。
【緒万戸草稲】(おまんこくさいね)
馬蹄等の一人。緒万戸仁王の息子。
【源ウマイヤ】(みなもとうまいや)
馬蹄等の一人。馬蹄等当代当主。
【ルイ・ブルボン】
ブルボン家の当主にして、仏蘭西の国王。
【マリー・ブライダルネット・フォン・ハプスブルク】
ルイの嫁。フランツヨーゼフの孫。源ウマイヤのいとこ。
【オスカー・フランソワ・怒・ジャルジュ】
仏蘭西国近衛騎兵隊隊長
【フランツヨーゼフ・ベネディクトミヒャエルフォン・ハプスブルク】
ハプスブルク家の当主にしてオーストリア大公。
ハンガリー国王、神聖ローマ帝国皇帝をも兼任。
馬蹄等とは姻戚関係にあり、ウマイヤにマリーの護衛官派遣を要請する
【グスタフアドルフ】
スウェーデン国王。暗号名は「エーヴぁ・ロッタ・ブレムクヴィスト」
【ハンス・アクセル・フォン・ミレニアム・フェルゼン】
仏蘭西留学中のスウェーデン貴族にして、
ブルボン家の転覆をもくろむ事件の黒幕。
蟹鮨野菜漬物鶏肉揚物珈琲醍醐菓子穴子煮物鯵酢物確定
蟹鮨野菜漬物胡瓜似即席麺似果実菓子似鮭缶詰福豆残存
馬蹄等の物語 主伝第六話
【紅の騎士たち】プロローグ
幼いころよりお転婆な娘だった
どのくらいのお転婆だったかというと、たとえば
そこらへんの野や山を男児たちと一緒に走り回り、
草むらで地を這う蛇を見つければ、敏捷にその尾をむんずとつかむや
その蛇を頭上でびゅんびゅん振り回して周りの男児を追っかけて泣かすというような、
まぁその程度のお茶目なことは日常茶飯事、というぐらいのお転婆だった
「私の育て方が悪かったのでございましょうか
おなごだと言うのにあんなお転婆に育ってしまって…」
「いやいや良いではないか。あの子は聡い。
その上にあれだけ心身闊達ならば、何も申すことはない
そなたの育て方が悪いなどということは決してないぞ
健やかに育っているではないか。気に懸けるようなことはない」
母の心配をよそに父の方は楽しげに目を細めて、
そんなお転婆な愛娘を見つめていた
しかしそんな父も、やがて娘に驚かされるときがきた。
お転婆だった娘が成長し成人のときを迎えると、
父は家の慣わしに従い、娘に一振りの太刀を与えるとともに
そなたの願い事をひとつだけ聞いてやる、と告げた
これはそのときに何を願うかによってその子の資質を見極めるという、
養育の最終確認の意味合いを持つものでもあった
長ずるに及んで容姿はすっかり女性らしくなってはいたものの、
幼いときよりのいたずら好きの瞳を依然としてもっていた娘は
その利発そうな瞳で父を見つつ、こう願い出たのだ
「私、一度べつの世界を見てみとうございます」
【邂逅】
まず履歴書に書かれてある名前が、読めなかった
緒万戸源朝臣紅
これは何だ?何と読むのか?どこまでが苗字で
どこからが名なのか?・・さっぱりわからない
「ええっと…失礼ですが貴女のこのお名前ですが…どう読むんですか?」
「おまんこのみなもとのあそんのくれない、と申します
『おまんこのみなもとのあそん』までが苗字で、
『くれない』というのが私個人の名になります
普段は源朝臣という部分は省略することが多いのですけど、
本日は採用試験と伺っていたので正式の名乗りを書かせていただきました」
「・・・・・」
こういう訳のわからない人をパートに採用するのは
本来であれば極力避けるべきことなのかもしれない
しかしそのときは他の応募者がとにかく酷かった
デブスの家事鉄で経験無しなのに最低時給三千円くれとか、
中年の多重債務者のオッサンで前金で10万もらいたいとか、
ろくでもない連中ばかり。
そんな中で、彼女の印象はぶっちぎりで良かった
面談していても頭の回転は速いし、言葉遣いも礼儀正しい
容姿もこんな場末のコンビニで雇うのが勿体無いくらいだ
少々変わった点があることぐらいは大目に見るべきだろう、
むしろ掘り出し物かもしれない・・・
そう考えた私は、結局彼女を採用することにした
【与一の視点】
私の名は奈須与一。
両親は早逝し、結婚もせず、ずっと一人で生きている
生家はさほど裕福な家庭とはいえなかったが、
それでも亡き両親は、私に小さな自宅と土地を残してくれた。
会社勤めが性に合わなかった私は両親の死を契機にサラリーマンを辞め、
その相続した土地にコンビニエンスストア「エイトテン」を建て、
以後、そこの店長をしている
小さな店ではあるが一人で切り盛りするのはさすがにきついので、
パートさんを一人か二人、常時雇ってきたのだが、
今までにいいパートさんに恵まれるということはなかった
しかし彼女・・緒万戸紅は違っていた
レジ打ち棚卸しなどという作業はあっという間に覚え、
さらに帳簿のつけ方まで知らないうちに会得しており、
店長としての私の仕事は一気に楽になった。
しかし当初感じた彼女の風変わりさもまた、健在だった
たとえば彼女は商品の値段相場というものをまったく知らなかった
プッチンプリンが百円なのか一万円なのか。知らない
海苔弁当が三百円なのか三億円なのか。全然知らない
…このひとは今までどこでどういう暮らしをしてきたのか?
これほど物の値段を知らずにどうやって今まで生きたこれたのだろう
本当に日本人なのだろうか? しかし日本語はちゃんとしている。むしろ丁寧すぎるほどだ
帰国子女か何かだろうか? とにかく不思議な人だった
いまひとつ風変わりなことといえば、
彼女は私のことを店長とは呼ばず、与一様と呼んだ
どう考えても普通は「店長」だろう。与一様て…
まるで愛人みたいな感じがして少しこそばゆかったが
潤いに乏しい人生を送ってきた私にはそう呼ばれることが妙に嬉しくもあり、
あえて「店長と呼びなさい」とは言わなかった
私も妙齢の女性に対して「おまんこさん」とは言いづらかったので
彼女のことを「くれないさん」と呼んでいた
「くれないさん」ではなく「くれないちゃん」と呼んでいいほど、私と彼女の年は離れていたし、
彼女自身も決してお高くとまっているような女性ではなかったのだが、
なぜか「ちゃん」づけで気安く呼べない、
そんな雰囲気が彼女には漂っていたのだ・・・
【紅の視点】
今日は初めての給料日。
与一様からお給料の入った封筒を渡されたので畏まって礼を述べ、
着替えを済ませてから私はお勤め先のコンビニ「エイトテン」を後にした
与一様は少々モッサリとしたお方だが、良きおひとだ
私がお給料の礼を述べると、なぜか少し顔を赤らめながら
「今日は早めに帰っていいよ。遅くなるとここら辺も物騒だからね」と仰ってくれた
そんなこと心配なさらなくともよいのに…
しかしいずれにせよ、良きおひとである
いまは黄昏時。
家路に向う私の傍らに下郎が一人、スッと寄ってきた
「ようよう、お姉ちゃん。暇なら一寸一緒にお茶でもどうよ?
で、お茶飲んだ後はさ、ホテルでも行って気持ちいいこと…」
下郎がそこまで言い掛けたところで、
私のこぶしが相手の顔面に炸裂した
相手は数メートル吹っ飛んで鼻から血をだらだら流しつつ、
それでもおなごに殴られたということが沽券にかかわるとでも思ったか、
「このクソアマがぁぁぁ!」と叫びながら殴りかかってきたので、
今度はしっかりと腰を入れた肘撃ち一発で、相手を昏倒させた
ざわつく人の群れを後にし、私はそそくさとその場を離れる
少し行ったところで今度は二つの人影が私を待ち受けていた
その人影のひとつが私にこう言った
「相変わらずのお転婆ぶりでございますな、姫。
もそっと、女子(おなご)らしゅうなさいませ」
「青海。静蛇。そなたたち、いつから見ておったのじゃ?」
「最初から最後まで、とくと拝見いたしておりました」
「これはまた、ひとが悪いものたちじゃな
そなたらはお父上の近衛のものたちとはいえ、
いまは私の護衛がお役目であろうに、
なにゆえ早うに私を助けてはくれぬのじゃ」
「お助けするも何も…」 静蛇が髪をポリポリと掻きながら言った
「あんなにアッサリと片付けてしまわれては、
われらがお助けする暇(いとま)など、ございませんよ」
「そもそも下郎の一匹や二匹、
我等がお助けせずとも、姫お一人で十分でございましょう?」
と青海もニヤニヤ笑いながら答えた。
「あのような些細な輩から、いちいちお助けするために
我等、姫の護衛をしているわけではありませんので。
あの程度のもののお相手は、姫ご自身でなさいませ」
「まったく頼りにならん護衛じゃな。つれなきものたちであることよ」
と私は嘆いてみせたが、勿論本気ではない
この二人の真の実力は十分に承知している
「そうじゃ。そういえば今日は初のお給料日であった
さらには、明日は私のお仕事がお休みの日でもある
されば私がそなたらにおごってやるゆえ、明日は一日、私に付き合え」
「一日と仰いますと、どこぞ行ってみたい処でもおありなので?」
「うむ。こちらにきたときから一度は行ってみたいと思っていた
下総国は鼠園に参ろうと思っているゆえ、そなたらも付き合え」
「姫…その鼠園とはもしや…デぃずにーらんどと申す遊戯場のことでは?」
「存じておったか♪ならば好都合。
明日は三人でディずにニーランドに参るとしようぞ
お金のことなら心配いたすな。すべて私の奢りじゃ」
「・・・・・」
【もう一人の「紅」】
ディズニーランドのお供と知って、悄然とする青海と静蛇、
そして彼ら二人の気持ちも知らぬげにひとり嬉々とする紅。
黄昏の街中に消えていくその三人の馬蹄等の後姿を、
遠くからじっと見つめている一人の女がいた
やや老けているとはいえ面差しは美人である
しかしその瞳は、冷たくかつ鋭い
紅たちの姿が視界から消え去ってから、
その女はおもむろに傍らに控えているものたちに言った
「あれが馬蹄等の『姫』か」
「いかにも、さようで。馬蹄等当主の娘で、緒万戸紅と申すおなごでございます」
「緒万戸?『みなもと』ではないのか?」
「公の場では源紅と称することもあるようですが、
平素は母方の姓を採り、緒万戸と名乗っておりますようで」
「…ふん。小娘の分際で生意気な」
どこらへんが生意気だというのかいまいちよくわからないが
その女は同性と相対したときはとりあえず相手を馬鹿にする
という性癖があるようで、口を歪めて侮蔑の嗤いを浮かべた
・・・・
この女はコウセイと言われている人物で、
赤色シナ帝国の初代皇帝、故・毛沢山の未亡人である
毛沢山は毀誉褒貶入り乱れる謎の人物であるが、
いずれにせよ当時混乱を極めていたシナ大陸を統一して
強力な中央集権体制の一大帝国を築き上げ、
その初代皇帝に就任したという事実からも
並みの人物ではないということは知れよう
コウセイは、
その赤色シナ帝国初代皇帝毛沢山の四番目にして最後の妻であった
前の三人の妻は、コウセイによって全員殺された
またコウセイは毛の妻になる前は女優業などをしており、
その頃どうしても勝てなかったライバルの女優がいたが、
その女優もコウセイが皇帝の妻になった後、無実の罪で捕縛され獄死した
コウセイは自分より優位な点を持っている女性、
あるいは今はそうでなくても将来自分より優位になりそうな女性、
そういう女性は皆、殺した
コウセイのこの苛烈な性格は、
政争の舞台においてもイカンなく発揮された
毛のライバルたちは言うに及ばず、たとえ毛の側近であったとしても、
コウセイの気に添わない人物はことごとく消された
毛の死後、コウセイを排除しようという動きがシナ帝国の内部で画策されたが
その動きにも素早く対応し、反乱を試みたものたちは全員虐殺された
その苛烈さに恐れをなした人々は
彼女のことを陰でこう呼んだ。「紅色女帝」と。
・・・・
「やはりここで片付けてしまおうというご意向で?」
傍らに控えていたものの一人がコウセイに問いかけてきた
それは問いかけというよりむしろ念押しに近いものがある
コウセイも深くうなづいた
「言うまでもないこと。馬蹄等の当主の娘がわずかふたりばかりの供連れで、
こんなところでぶらぶらしているとは勿怪の幸い。この機を逃してなんとする。
そなたたちはこういうときに備えて、キムの王家から取り寄せたものたちじゃ。
拓、チ、羅塚麻呂。そなた等の殺しの腕前、今こそ我が前に示せ」
・・・・
コウセイの前半生は殺戮の歴史そのものである
しかし彼女自身は決して自らの手を汚そうとはせず、必ず人にやらせた
そのために彼女は常にその道のプロ即ち殺し屋を己の身辺に置いていた
それは必要のためやむなく雇っているというよりも、
むしろ彼女の趣味嗜好であるかのようにすら思えた
彼女はそういったものたちを平時は自らのボディガードとして使い、
有事に際しては殺し屋として現場に投入した。今このときのように。
今回帯同させているものたちは、
赤色シナ帝国の保護国であるキムの王家から取り寄せておいた、
キム拓、キム智、キム羅束麿の三人。いわゆる『三匹のキム』
と呼ばれている殺しのスペシャリストたちである
【隠し札】
三匹のキムを去らせた後もコウセイは独りその場に佇んでいた
黄昏時も半ばを過ぎ、周囲は次第に夜の帳が降りはじめている
緒万戸紅の倍近くの歳月を生きているコウセイは
いわゆる婆ではあったが、若いころ女優業などをやっていただけのことはあり、
その容色は衰えたりとはいえ未だ艶っぽさを残していた
こんな時刻、こんな所に一人で佇んでいたら、
婆専の男から声を掛けられてもおかしくはないのだが、
不思議なことに彼女の周りには男一匹寄ってこない
それどころか、虫の音すら聞かれない
ただひたすら屍のような闇が広がっているばかりだ
彼女は懐からシガレットを一本取り出し火を点けた
口から吐き出された紫の煙が淡い渦を巻き、闇に溶けていく
と、そのとき、コウセイが不意にその闇に向って声をかけた
「あのキムの王家から来たものたちだが・・・いかが見るか?」
誰もいないはずの闇。しかしすぐに応答があった
「まあ無理でしょうな。到底勝ち目はありますまい」
闇の中から一人の男が姿を現した
長身痩躯に整った顔立ち。美男子と言ってもよい。
ただ、何かが無い。
それが何なのか明確には言えないのだが、
人間であるのならば生まれたときから死ぬまで
本来持っているはずの何かがこの男には欠落していた
この人物こそ、
コウセイの過去の重要な殺し全てにかかわってきた男。
紅色女帝の切り札とも言うべき殺し屋「淋彪」であった
「やはりキム王家程度のものたちでは使い物にならんか?」
「いや、そういうわけではありません。
あの三人もそこそこの腕前はあるでしょう、
しかし…馬蹄等のほうが凄すぎますな」
「そなたの買い被りではないのか?
こんな遠目から少しみただけで腕前などわかるものか」
「わかりますとも。そうでなければ、
この苛烈な世界で長く生き延びることはできませんよ
私も、そして貴女も…ね」
【与一の視点】其の二
いままでパートさんとは、私的な事柄は極力話さないようにしてきた
どうせすぐ辞めてしまうし、親しくなっても仕方ないし。
特にパートさんが女性だった場合、
うかつに私的なことを尋ねたりすると妙になつかれたり、
その反対にセクハラだの職権乱用だのと絡まれたりして、
いずれにせよ、ろくなことにはならない
だから女性のパートさんとは私的な話は一切しないようにしてきたのだが、
あの時はどうして彼女に話しかけてしまったのか
今でもあのときの自分の気持ちがよくわからない
「紅さん、なんか妙に楽しそうだね。
昨日の休日、何かいいことでもあったのかな?」
「え?ええ、とても楽しかったですよ、与一様。」
「彼氏とデートとか?」
「いえいえ、そういうのではなくて(笑)
お供…じゃなくてお友達と一緒に
ディズニーランドというところに行って来たのです
生まれて初めての体験だったのでとても楽しかった…」
「へえ…紅さんぐらいの年齢の女性が、
今まで一度もディズニーランドに行ったことがないとは珍しいね」
「田舎育ちなものですから。
私が生まれ育った里の近隣には、ああいうものは御座いませんでした」
「紅さんはやっぱり少し変わってますねぇ・・
いや、これは決して悪い意味ではないですよ」
「変わっている?そうでしょうか?
私自身はごく普通だと思っているのですけど。
ただ、与一様はここ東京でお生まれになったのに対して、
私はちょっと田舎の、いわば鄙の里で生まれ育ちました
環境が少し違っていただけ。それだけのことで御座いましょう?」
「その、紅さんのいう『鄙の里』というのはいったい何処なんですか?」
「・・・・」
彼女が急に押し黙ってしまったので、私は一寸慌てた
尋ねてはいけないことだったろうのか?何かマズイことでも…
しかし暫しの沈黙の後、彼女は何か意を決したかのように再び話し始めた
「私が生まれたところは馬蹄等の里と申すところで
とても良い処です。もし良い折がございましたら、
与一様もぜひ一度お遊びにいらしてくださいませ」