少し涼しい風のふく縁側で銀時がぼんやり月を見ていると、杯を二つと、日本酒の一升瓶を持って桂が部屋から出てきた。着替えていつもの衣になっている。
そういえば、こいつもそんなに着物のバリエーションがない気がする。同じもの四着とかなんかな、やっぱ。妙な着替えはいっぱい持ってるみたいだが。
出された酒は確かに旨いものだった。かといって土方のように泥酔するほど飲もうとは思わなかったが。もちろんここが桂の家であり、供されているのが彼の酒だという遠慮もあるが、泥酔する理由はないはずだった。
……いや、そうでもないか。
自分が泥酔したくなる理由となりかねない男が、彼の横で同じ酒を飲んでいる。
夜空には少し欠けはじめた月が輝いていた。時刻はもう夜をすぎ、深夜に向かうだろうか。あの二人には悪いことをしたと思うが、電話をするのもなんとなく避けてしまった。結局、明日になってから二人にしかられればすむと割り切ってしまう。
そして今、悩める男は悩みの原因と向き合っている。
本当の意味では向き合っておらず、隣に並んでいるだけなのだが。
その隣を見る。
桂は縁側に姿勢正しく座りながら気品のあるしぐさでお猪口を傾けた。
喉を鳴らして、ほう、と感嘆のため息をもらす。嫌味なほど絵になっているそれをぼんやりと眺めながら、銀時は胡坐かいて背中を丸めたまま自分の盃を傾けた。
ほんとにまぁ、隙のない……。少しはくだけないもんかね。
「銀時」
と、ふいに桂の唇が動いた。
「どした」
ぼんやりしたまま答えると、桂がどこか抑えた声音で再び唇を動かした。
「あの日……」
どきりというよりもグサリと胸に何か刺された彼に、和装のよく似合う貴公子は、月を見上げたままやわらかい風に黒髪をなびかせてしばらくだまった。おかげで、違う意味でもなにか気持ちが揺らぐ。胸が痛くてそういう気分にならないだけましだったが。
そんな彼につゆほど気づいた様子も見せず、桂は続けた。
「お前が俺を助けてくれたときに、高杉の奴も生きていたのか?」
……そうきたか。