実際、教説自体は、輪廻転生にはないのだと私は思います。輪廻にしろ、何にせよ、様々な「苦
からの解脱」にこそ、仏教の核心があるのだと思います。輪廻が楽であれば、それから解脱せよ
とは仏陀はお説きにはならなかったでしょう。輪廻からの解脱を説くのはそれが一つの典型的な
「苦」だからです。仏教徒であれば素直に理解できると思いますが、輪廻は解脱すべき諸々の物
事のたった一つの典型例に過ぎず、輪廻転生そのものに教えの主眼があるわけではありません。
「言及」ではなく、「説く」と言うのであれば、解脱の対象物としてではなく、輪廻転生システ
ムの提示そのものが、仏教の目的であると主張することになり、これは、文献的にも、他の多く
の教説解釈と衝突を生じます。