可憐なお店5件目【規制避難所】

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434阿呆眼鏡@理倍亜さん ◆MegaNeXmow
「私って幸せ者だな」
大久保の安アパートの2階、南向きの窓から半身を乗り出して煙草を吹かしていると、
後ろからそんなつぶやきが聞こえた。
私には、開け放った窓から遠慮会釈なく叩き込まれてくる都会の騒音の中にも、
そのつぶやきははっきりと聞こえた。
「私は幸せ者だ」
私はわざとらしく煙草の煙を吐き出し、何も聞こえなかった風を装って聞き返す。
「ん?何?何か言った?」
 振り返らずに、私はそう聞き返すしかないのだ。
振り返れば、彼女の姿を目に入れることになる。
古い物も新しい物も、無数に体中には疎か心のほぼ全ての箇所に傷を負っている彼女を。
それでも幸せだと、心底幸せそうに微笑みながら口にする彼女を、私は目に入れることができない。
それと同じくらい、彼女の台詞は私には認めがたいものだ。
本当は傷なんて一つも負う必要がない世界のはずなのに、
少なくとも彼女のように生きることと傷つくことが同じ意味である必要なんてないはずなのに、
彼女は傷つき続け、そんな人生を幸せだという。その事は、私にはとうてい受け入れられる物ではないのだから。
「私って、すごい幸福に満ちあふれてるな、って」

なんて書き出しを考えてみた。