「じゃ、次の信号まで競争ね?」
葉子は笑顔で拳児に話し掛ける。
「おう! 俺が勝ったら本当に追試免除なんだろうな?」
漫画でテストの成績が散々だった拳児は、この話に飛びついた。
(車とゼロヨン…馬力は向こうが勝ち。でも、車重はこっちが勝ち。いける!)
無理だとは判っていた。でも、愛する人と別のクラスにはなりたくなかった。
車重の軽さでスタートダッシュかまして、逃げ切る。
拳児の考えはそれしかなかった。
「じゃ、次の信号が青になったらスタートね」
葉子は助手席の絃子にスイッチを押させた。途端に後輪から立ち上る白煙。
「バーンアウトしてまで勝ちたいかね、葉子?」絃子が呆れながら訊ねる。
葉子は、全力を尽くさないと失礼ですからとにっこり笑った。
やがて信号が青に変わり、2台は猛然とダッシュする。
軽さで引き離したい拳児だったが、すぐに追いつかれた。
「じゃ、抜くわよ拳児君」
遠慮無しにシフトアップして抜き去る葉子。
「ま、待ちやがれぇ!」
拳児は必死の形相で追いかける。しかし、双方の差は広がるばかりだった。
そして、葉子がゴール。数秒後、拳児もゴールした。
「くそっ、負けちまった…情けねえ…」
落ち込む拳児に葉子が追い討ちを掛ける一言を言った。
「じゃ、負けた拳児君にはヌードモデルやって貰うからね」
「なっ? い、絃子助けてくれ!」
「あきらめろ、拳児君」そう言い残して従姉は去って行った。
呆然とする拳児は、葉子の車に乗せられて、アトリエへ直行。
数ヵ月後の展覧会。拳児の絵がとても好評だったのは本人には内緒の話。