矢神市。この町にはかつて外国人居留地があった。その一角に大きな屋敷がある。
その大きな屋敷が沢近邸である。ここには一人の執事がいる。名前はナカムラ。これは彼のお話です。
「お嬢様 本日の予定は?」
ナカムラが玄関先で足を靴に滑り込ませている沢近に聞く
「う〜ん 今日は天満達とお茶してくるから少し遅くなるかも」
「かしこまりました お迎えに上がりましょうか?」
玄関のドアを開けながらナカムラに向かってにっこり微笑みながら沢近はこう言った
「迎えに来て欲しいときは電話をかけるわ それじゃ行ってきます」
「行ってらっしゃいませ お嬢様」
ナカムラはいつものように沢近を送り出した後、毎日欠かさず防弾装甲リムジンや邸内警備ロボの手入れを行う。
それらの手入れが終わった後に少し遅めの昼食を取り、電話の応対やその日のニュースをチェックする。
庭ではスプリンクラーが「かたん かたん」と子気味よいリズムで音を立てながら水を撒いている。
秘書室の窓からは暖かな春の日差しが差込み、部屋を心地よい温度にしている。
ふと何かを思い出し、引き出しを開けた。そこにあったのは軍隊の認識票と2枚の小さな写真。
ナカムラは目を細めて写真を見た後こう呟いた。
「…そうか あれからもう20年も経ってしまったのか」