ここのところ、播磨拳児はそれなりに幸せである。
なんとなれば。
「あはは、そうなんだ」
「お、おう」
愛しの愛しの塚本天満ちゃんとお話しする機会が多いからである。
無論、話のネタの大半は播磨が現在『つきあっている』塚本八雲譲のことだったりするわけで、
それはやっぱり彼にとってはいまひとつよくないことなのではあるが、実際目の前で笑う彼女を
見れば、そのときはそれで満足してしまうのだ。あとでまたやっちまったと嘆くとしても。
ともあれ、もたもたしていてどうするという問題は相変わらずなものの、そこそこ幸せな毎日
を送っていた彼だったのだが。
「あ、そう言えば」
そんな彼をどん底に突き落とすのは。
「来週誕生日だったよね、愛理ちゃん」
いつだってその愛しい人なのである。
さて、帰宅後。
「どうする……?」
播磨は一人悩んでいた。
天満が『それ』を口にしたのは、単に思いついただけのことで他意があるわけではないだろう。
けれど、播磨はそれを聞いてしまったし、当の沢近愛理もその場にいた。
となれば。
「……なんかしねぇとマズイんじゃねぇのか?」
それが悩みの種である。
別に誕生日を知っているからといって、必ずしも何かをしなければならない、ということはない。
ないのだが、
何もしない→天満ちゃんがお嬢に聞く→お嬢が何もなかったと言う→播磨くんってそういう人なんだ
などという可能性も否定出来ないのだ。あくまで播磨の中でだけではあるけれど。