スクールランブルIF20【脳内保管】

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355すき。だからすき
 三月三日、昼下がり。
 その日もいつもと変わらず、播磨は保健室を訪れていた。
「ちーっス」
「あ、いらっしゃいハリオ」
 言って、ちらと時計に目をやる姉ヶ崎。本来ならまだ授業中のはずであるが、まあいいか、と大目に
見ることにする。一時期は朝から入り浸りだったこともある播磨、授業も出た方がいいと思うよ、と
いう彼女の言葉に従って、少なくとも午前中の授業には出ているのだから、一応の進歩は見られる。
「奥は空いてるから、好きにしてね。それから、ホントの病人が来たらちゃんと空けてあげないと
 ダメだゾ」
「ウッス」
 そんなお決まりのやりとりのあと、さっそく原稿を取り出して描き始める播磨。結局、校内ではここ
しかおおっぴらにマンガを描ける場所がなかった、という次第である。
「それじゃがんばってね」
 頷いて応える播磨の姿を見てから、自分も席に戻る姉ヶ崎。二人それぞれ、自分のなすべきことを
こなす時間が始まる。
 校庭から聞こえる体育の歓声。
 時刻を刻む秒針の音。
 二枚の紙の上を走る、二本のペンの音。
 静かな保健室にそんな音だけが響き、やがて日が陰りだすころには播磨が席を立つ――いつもなら
そんな時間がゆっくりと過ぎていくのだが。
「ねー、ハリオ」
 今日はほんの少し、違っていた。
「私、今日誕生日なんだ」
「え、そーなんスか? そりゃめでたいな」
「なーんかプレゼント欲しいな〜」
「え゛?」
 冗談めかした姉ヶ崎の言葉に、けれど本気で焦って考え出す播磨。こーゆー場合って何をあげりゃ
いいんだっつーかその前に金が全然えとせとら、えとせとら。
「ぬぐぐぐぐぐ」
 何やら珍妙な唸り声を上げだしたその背中に、寂しそうな溜息をついてそっと立ち上がる姉ヶ崎。
そしてそのまま、静かに彼の方に近づいていく。
「ぐぬおおおお」