「お帰り拳児君。ずいぶんと遅かったじゃないか」
文化祭の準備で忙しいんだよ、と居候先の主である刑部絃子に言い播磨拳児は部屋に鞄を置いた。
その後すぐ台所へ向かい戸棚を開き、本日の夕食を探す。寂しい懐事情と
容赦のない同居人の取立てにより、彼の食事はもっぱらインスタント食品であった。
台所で湯を注いでいると、ふと絃子が隣のリビングから話し掛けてきた。
「それにしても君がクラスメイトと仲良く文化祭の準備とは……ね」
絃子の言葉を受け、播磨はやや照れながら返事をする。
「んー…まあ、なあ。確か…中学ん時は文化祭の準備なんてはずっとサボってたぜ」
播磨拳児は中学時代、名の知られた不良であった。その強さと高校生や大人にさえ
喧嘩を仕掛ける凶暴性により、中学・高校の教師達や教育委員会には疎ましがられ、
地元はもちろん他所の不良達は彼を非常に恐れていた。無論友人と呼べる友人はおらず、
周りにいるのは播磨に表面上は従おうとする不良仲間ぐらいであった。
当然文化祭の準備など手伝うわけも頼まれるわけもなく、
彼にとって文化祭など自由な時間ができたくらいのものでしかなかった。