――桜の花が咲いている。
今を盛りと、その生を謳歌するように咲き乱れ。
そして同時、散っている。
風に揺れる枝から宙へ、空の青を背後に静かに舞って沈んでいく。
終わりと始まりがそんな風に同居する。
つまり、春とはそういう季節だ。
――たとえば、少年と少女がいる。
彼はどこか困ったような、それでいてやわらかい眼差しで、対し少女はどこかばつの悪い面持ちで。
「どうだった……って、訊かない方がいいか?」
「いや、別に構わない。それにどうせ、お前には話すつもりだったしな」
少年は小さく笑う。
「だめだった」
「そっか」
どちらの言葉も短く、刹那の間に空に溶けて消えていく。
一呼吸、二呼吸、時間だけが過ぎる。
「んじゃこのあとはどうする? 来るか?」
やがて放たれた少女の問に、少年はしばし迷い、
「いや、やめておこう。……少し一人になりたい」
「わかった。それじゃ適当になんか言っとくよ」
少女は背を向けて歩き出し、少年はその場に留まる。
「なあ、花井」
「なんだ」
その背中越し。
「――大丈夫だって」
かけられた声もまた、その場に留まる。
「……周防」
呟いた少年の視線の先、ひらひらと掲げた手を振りながら少女は歩いていく。