昔々、あるところに一人の少女がいたそうな。
その少女は、少しだけ他の人間にはない力をもっていた――そう、彼女は
自分に好意を抱く男性の心を見ることができたんじゃな。
一見、便利そうに思えるこの力も、彼女にとっては苦悩の種でしかなかった。
そりゃそうじゃ。人の心が分かるということは、自分が知りたくないものまで知ってしまうということ。
「過ぎたるは及ばざるがごとし」とは昔から言うが、彼女にとって、自分の力はまさしくそれだったんじゃな。
さてさて、そんな彼女も、人並みに恋をすることもある。
彼女は、やがて一人の男を好きになった。
紆余曲折を経て、ついに二人はつきあうことになったんじゃな。
だが、たった一つ、彼女にとって、気になることがあった。
――そう、いつまでたっても、彼の心が見えなかったんじゃな。
彼女は、一見誤解されやすそうな彼が、本当は優しい心の持ち主だということを知っていた。
だから、尚更苦悩することになったんじゃな――ひょっとしたら、自分とつき合ってくれたのは、
断ると彼女を傷つけてしまうかもしれないという彼の優しさからで、
本当は自分のことを好きではないのでは、と。
彼女は、随分と悩んだみたいじゃな。普段は、忌々しいとまで思っていた力のはずが、
「彼の心が見えたらいいのに」とまで考えたこともあったようじゃ。
だが、結局最後まで彼の心は見えることはなかった。