がちゃり、と音を立てて鍵を回す。緊張する自分を抑えながら、ゆっくりとノブを回す。ドアが開いた。陽
光が差し込む光景は、これからの自分たちを祝福しているように思える。
「どうしたんです?」
立ち止まっていた俺に、背後の彼女が声をかけてくる。
「あ、いや、あの」
何故だかわからないけど、少し気恥ずかしい。狼狽してしまう。それを見て彼女がくすりと笑うもんだから、
よけいだ。
「ちょっと、どいてくれます?」
「え、あ、うん」
だからだろうか。素直に彼女の言う通りにしてしまう。しかし、慌てて動いたもんだから、少し足がもつれて
しまった。彼女がまた笑う。
「な、なんだよ」
低い声。脅そうと思ったわけじゃない。ただ、俺はこんな風にしか出来ないだけ。それがわかっている彼女
は「さあ?」と言うだけで、どこも怯える様子はない。何も気にすることなく、俺がどいたスペースから、彼女
は目の前の部屋へと足を踏み入れる。
「あ!!」
気付いた時にはもう遅い。俺が声をあげた時には、彼女はもう部屋の中でこちらを待ち受けている。そし
て、両手を抱きいれるように広げながら、こういったのだ。
「おかえりなさい、拳児さん」
「……ただいま、八雲」
自分がやろうとしていたことを先にやられた悔しさみたいなものはある。でも、これはしょうがない。白旗だ。
降参だ。両手を挙げて万歳をしてやってもいい。だって、彼女がしてやったりと浮かべている笑顔を見てしま
っては、こっちの方がよかったとすら思えてしまうのだから。