「あー、苦しかった。お腹痛い」
「サラ……笑いすぎ」
ささやかな抗議の声に、しかし彼女は頓着しない。目の端に溜まった雫を指先で拭いながら、やっと
サラは八雲の目を見つめた。
「好き、か。八雲もとうとう、惚気る日が来たんだね」
「の、惚気だなんて……」
また頬を焼く赤、八雲は目を伏せて空っぽのカップの底を見つめた。わずかに残る紅茶に揺れる瞳は、
その特徴的な色が琥珀にまぎれて消えていて。
「でも、本当に好きなんでしょ?」
優しい、だが少しからかいまじりのサラの問いかけに、少女はゆっくりと頷く。妙な暑さに、少し汗ばんで
しまうのを彼女は感じていた。
「だったら、いいじゃない、惚気たって。素直なのは良いことだと思うよ」
そう言われても照れ臭いばかりで、八雲は何も言えず押し黙る。それを見つめる少女も無言。二人を包む
沈黙、だがそれはぎこちないものではなく、どこか穏やかな時の流れに満ちていて。
「でも……」
やがて口を開いたサラの声に、それまでとは違う色が混じった。どこか落ち着かず、座り直す八雲を待って
から、彼女は口を開いた。
「私――――不謹慎かもしれないけれど、八雲のその力が、羨ましいよ」