二月十四日。
平日。
なんでもない日――とはさすがに言えない。
しばらく前から、学校はおろかこの街中を、もしかしてしまえば日本中を覆っているような気さえする、そんな
どこかお祭りめいた空気はいくらなんだって感じているし、それが今日を境に弾けた泡のように消えることだって
わかってる。
……それに。
それに、私だってその程度には『女の子』なのだ。思うところもいろいろとあるわけで――
「……はあ」
一つ、溜息。
と。
「んー、朝からどうしたのかな? そーんなしょっぱい顔しちゃってさ」
背後からかけられた声の主は、私の一番騒がしい友人――嵯峨野だ。
「別になんでもないよ。って言うかさ、どうして後ろからそんなことわかるかな」
「わかるよそれくらい。アンタと私が何年つきあってるの思うのかな、つ・む・ぎ・ちゃん」
若干の皮肉を込めた言葉は、そんな語尾に音符でもついていそうな台詞にあっさりと切り替えされる。ついでに
振り向いてみれば、得意満面のその表情。
勝てない、と思う。
一見なにも考えていないようで、その実やっぱりなにも考えてないんじゃないか、そう思える部分もある彼女
だけれど、さすがと言うべきなのか、押さえるところはきっちり押さえている。今だって、本当に私の微妙な
空気の違いを感じ取っていたんだろうし、心配だってしてくれていたんだろう。
まあ、それが九割くらいの冗談でデコレートされている――むしろそっちが本音じゃないんだろうか――辺りが
彼女らしさではあるんだけど。
「そんなの忘れちゃったよ。ほら、授業が始まるから戻って戻って」
けれど、どうも私はなかなかそれをまっすぐ受け止められない。……照れくさいのだ、うん。だからそうやって
彼女にはご退場を願う。えーなにそれーひどーい、なんて声は重なるようにして響き始めたチャイムの音で聞こえ
なかったことにして。
「忘れちゃうくらいずっと前から、だよ」
そして同じようにチャイムに隠して呟く。
私の一番騒がしい、そして愛すべき友人に。