536 :
クズリ:
「あら」
「……よう」
再会は突然。愛理の口から咄嗟に出てきた言葉は。
「お久しぶり」
彼女は笑う。胸の内に浮かび上がる感情を押し隠したその笑顔は、播磨の知らない、大人の表情。
Sweetest Goodbye
「本当に、もう随分と経つわね」
持ち上げた紅茶のカップを口元に運びながらの愛理の言葉に、播磨は重々しく頷く。
彼女に連れられて入った喫茶店は、いつも彼が編集者との打ち合わせに使うファミレスとは何もかもが違う。
もっともそれだけで気後れしてしまうほど、播磨も子供ではなくなっていたが。
改めて、目の前の女性を見つめる。
よく手入れされ輝く金の髪には、軽いパーマがあてられている。ベージュのオフショルダーニットに、デニムの
ミニスカート、そしてブーツ。念入りに、時間をかけて化粧を施された顔に幼さはない。そして、きつさも。
印象が変わったな、と播磨は感じる。丸くなったとか、険が取れたとか、そんな言葉が思い浮かんだ。
当たり前か、とこぼれる微苦笑を、彼はコーヒーを飲むフリをして押し隠す。彼女と最後に顔を合わせてから、
もう随分と経つのだから、と。
「元気だった?」
「ああ。そっちはどうなんだ?」
「元気よ。おかげさまで」
当たり障りのない会話。手探りで埋めようとする断絶の時間。
「仕事の方は、どうなの?」
「ぼちぼち、だな。そっちは?」
「ん。まあまあ、ってところね」
気まずさと、ぎこちなさ。だけど席を立つには惜しい。そんな複雑な感情と折り合いを付けながら繰り広げられ
る会話は、少しばかり上滑りをしながらも続いていく。
「何か不思議ね。貴方とこうして話す日が来るなんて」
付かず離れずだった間合いを一気に縮める言葉を、彼女の唇が紡いだ。