381 :
浪人生:
秋の中ごろも過ぎ、徐々に冬の気配を感じさせるようになってきた風は夜になるとその事実をよ
り如実に表してくる。その冷たさに奈良は思わず身を縮こまさせた。
「うわっ、寒い」
その両手にははちきれんばかりに膨らんだビニール袋が下げられていた。その中身はスナック菓
子や菓子パン、それに各種の飲み物。主に食料品が詰め込まれている。……クラスの仲間に頼まれ
た買いだしの品の数々だった。
「みんな頼みすぎだよ。いくらじゃんけんで負けたからって、一人で行かすのは酷いなぁ」
そんな愚痴をこぼしながら学校の敷地内へと入る。
と、そこで足が止まった。目に映った夜の校舎の異様に気おされたのだ。
「うぅ……」
古来より夜の校舎は怪談の舞台にさせられているものだが、なるほど頷ける。昼間が賑やかだか
らこそ余計に今の物音一つ聞こえず、人影一つ見えない校舎は何やら恐ろしげに見える。この中には何か、恐ろしいモノがいるのではないか。そんな馬鹿げたことまで考えてしまう。
一旦そう思ってしまうと気後れしてしまい中に入り辛くなってしまった。が、教室では買出しを
待つみんながいるのだ。このまま踵を返す訳にはいかない。増してやその中には自分の想い人たる
天満もいるのだ。情けない姿を見せる訳にはいかなかった。
闇の中、唯一の光を宿している自分の教室に目を向けると、なけなしの勇気を振り絞り校舎内に
入った。