――頭痛が痛い。
そのときの刑部絃子の心情を表わすなら、そんなトンチキな言葉が相応しかっただろう。
確かに彼女はなにもしなかった。正確にいうなら、こういうことも出来る、というフリをしてみせただけ
だった。無論、彼女なら実際にそれをやってのけることも――常識的に問題ある行為だというのはさておき
――出来たのだが。
結局、甘く見すぎていたのだ。
無理もないといえば無理もない。所詮は一介の不良、それは蛮勇にもほど遠い、奇蹟じみたことだったはず。
たとえその動機が、『恋』なんてこれまた信じられるはずもないようなものだったとしても――
「……奇蹟なんて大嫌いだ」
しかし現実はそこにある。
事前に控えておいた――こっそり受験票を見たとも言う――番号が、目の前に掲示されている数字の群れの
中に紛れ込んでいる。
奇蹟。
それも二度と起きて欲しくない類の。
もはや溜息さえも在庫を切らして出てはこず――
「どうかしたんですか? 絃子さん」