スクールランブルIF19『脳内捕完』

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30Scrambled egg
 軽やかな電子音が控えめな旋律をゆっくりと奏で、ほんの少しだけ慌てた素振りで
少女――塚本八雲が携帯に手を伸ばす。受信したのは、差出人の名が内容を告げている
ような、そんな一通のメール。
 また屋上だろうか、そう考えながらも文面を確認するより先に席を立つ八雲。そこに、
播磨先輩から?、という声が横合いからかけられる。サラだ。柔らかなその表情は、
まるで八雲の代わりに喜んでいるかのようにも見える。
「がんばってね」
 続けられた言葉に曖昧に頷く八雲。
 がんばる、という言葉はまったくの的外れではない。原稿を見る、という行為はそれ
なりに神経を使うものであり、なにより妥協は許されず、時には厳しい意見も必要だ。
 ただ、この場合サラが言わんとしているのがそういうことではないのは彼女にも
分かっている。だからこそ、返事はいつも曖昧になってしまう。
 つきあうということがどういうことか。
 それが未だに八雲には明確なイメージとして実感出来ない。もちろん、恋愛関係と
いうものが存在するのは理解出来る。
 けれど、今の状況は果たしてどうなのか。
 違う、と彼女自身では思う。少なくとも、最も身近にいる姉の姿を見ている限り、
あれほどまでに強い気持ちは自分の中には存在しない。決して播磨拳児という人物を
嫌っているわけではないが、だからといって即座に好きだということにはならない。
 興味よりはほんの少し上で、好意と言えるかどうかまでは分からない。
 そんな茫洋とした、うまくとらえられない気持ち。それが目下のところ、彼女の
正直な心境である。
 故に、本来なら友人の言葉には異議を唱えるべきなのだが――