コンコン。扉をノックする音に、懐かしい記憶をなぞっていた八雲はふと、我に返る。
「どうぞ」
「八雲。準備、出来た?」
扉が開くと同時にかけられる声、そこにはシスターの服を着たサラが立っていた。静々と近付いてきた
彼女は、八雲が身に纏った純白のドレスを見て目を細める。
「うん。よく似合ってる」
「あ、ありがとう……」
薄く桃色の口紅を塗った唇と同じ色に頬を染めながら、返事をする。長い睫毛が微かに震えて。
「昔を思い出すね」
「昔?」
「ほら、バイトで頼んだじゃない。バーチャル結婚式で、新婦役を」
あぁ、と頷いて、八雲は小さく笑った。浮かび上がる記憶。勘違いからとは言え、播磨に抱きしめられた
のはあの時が初めてだった。
「あの頃より、八雲、もっと綺麗になったね」
「え……?あ、ありがとう……」
その時に着たドレスとは違う。あの頃よりも少し背が伸びたし、スタイルも良くなった。だけど、一番
変わったのは、顔だとサラは言う。
「顔……?」
「うん。顔。大人びた顔になった、ってのもあるけれど」
そこで少し、からかうような笑みをサラは浮かべる。
「やっぱり本番だと、違うね。幸せがにじみ出てるよ」
「……そう?」
「うん」
どうなのだろうか。思いながら八雲は、姿見の中の自分を見つめる。
そして微笑んでみる。
――――少しだけ、わかった気がした。あの頃よりも自然に笑える自分に気付いたから。