スクールランブルIF16【脳内補完】

このエントリーをはてなブックマークに追加
521Classical名無しさん
プレゼントを買い、帰路につく播磨は一人物思いに耽っていた。

――姉ちゃん喜んでくれるかな。

柄でもないことを考えつつ、歩みを進めるとすぐに家についた。

――ガチャ
「ただいま」
誰もいない。そういえば今日は絃子は大事な用があって遅くなるとか言ってたか・・・。
本当に誰もいないことを確認すると播磨は自室へと向かった。

――なんだかとても眠い。慣れない事をしたせいだろう、プレゼントを散らかった机におき、ベッドに寝転んだ。
ふとプレゼントを見る。直感で買ったものだが、どこか見覚えがあるような気がした。
記憶を探るが答えは見つからない。

――意識が遠のいていく。程なくして播磨はまどろんだ。
なぜだか、訳もなくいい夢が見れそうな気がした。
522Classical名無しさん:04/11/15 05:07 ID:amwFPQvU
寝オチ?
523Classical名無しさん:04/11/15 05:24 ID:nlTs.qlA

―――ちゃ・・絃子。葉子姉ちゃん。
遠い日の記憶。それは今でも鮮明に残っていて。

―――思えば、小学校の夏休みは刑部絃子と笹倉葉子と過ごした事しか記憶にない。
昔から喧嘩好きで、小学校では向かう所敵なしだった拳児には、自分より強くて、自分の知らない事を何でも知っている二人といる方が楽しかったのだろう

――数年前の今日。およそ、都会の喧騒とは無縁ののどかな田園風景たたずむ高原に二人はいた。
「ちぇ〜っ。今日は絃子いないのかよ」
夏休み、いつものように絃子の家に遊びに行く途中、葉子に出会い今日は絃子は出かけていると知らされたのだ。
――絃子がいなくてはつまらない。今日は帰ろうと思っていた矢先。
「じゃあ、今日は遠くに写生でも行ってみない?」
しょぼくれた拳児に葉子が優しく聞いてきた。
突然の提案に目を光らせる拳児。
―今日はどんな事を教えてくれるのだろう
写生が何か良く分かっていないが、拳児は少年らしい、元気のいい一つ返事でうなずいた。
「うん!!」
「じゃあお弁当を作ってくるから矢神駅に10時ね」
ほどなく二つの弁当を手提げカバンに入れてやってきたようこの姿があった。
ゆったりとした服装と耳元で美しく光るイヤリングに播磨は少しばかり目を奪われた。
「さて、ではしゅっぱーつ!」

ミーン、ミーン
本当にのどかな所だ。
のんびり電車とバスでここまでたどり着いた二人は見晴らしの良い草原から浮かぶ雲を眺めた。
「さぁて、じゃあ描き始めよっか」
何もかかれていない真っ白なカンバスと鉛筆を取り出し嬉しそうに播磨にも渡す。
「写生って絵のことか?俺、あんまり絵って得意じゃないんだよな」
少々がっかりする拳児であったが、数分後にはかなり熱を入れて描いていた。
拳児は一つの事に熱中すると周りが見えなくなるらしい。葉子が話し掛けても返事もせず黙々と描いた。
524Classical名無しさん:04/11/15 05:40 ID:nlTs.qlA
シャッシャッ
流れる鉛筆の音。真っ白だったカンバスには雄大な景色が描かれている。
日が少し西に傾こうかというとき、拳児は何度も頷いて言った。
「出来たー!!!」
それを見ていた葉子は嬉しそうによかったね、と笑った。
「さて、そろそろお昼にしよっか」
「おう!俺もう腹ぺこぺこだ」
なんとも子供らしい反応に葉子はまた笑みを一つ浮かべ、自作の弁当を取り出す。
「はい、どうぞ」
――パクパク
絵と同じようにわき目も降らず箸を進める拳児をほほえましく見つめる葉子。
しばらくみつめていると、拳児は満足げな顔をしてお腹をポン、と叩いた。
「あ〜旨かった!」
弁当箱を見るともう何も残されてはいない。
対する葉子はほとんど減ってはいない。それをもの欲しそうな眼差しでみて来る拳児に葉子は
自分の弁当箱をスっと差し出した。
「どうぞ」
「いいのか!?」
「そんな顔して見られたら食べれないわ」
クスッと笑う葉子に少しテレを感じながらもお弁当を受取って上機嫌な拳児であった。
昼食をすませると、二人はお互いの絵を交換して見ていた。
葉子の絵を見て拳児は素直に感動した。普段、特に絵を見る機会がある訳でもない拳児だったが、
この絵は凄いと思った。主線がしっかりとその情景を上手く捕らえており、鉛筆のこすりやアタリ線が背景をさらに引き立てていた。しかも只写生している訳ではなく、葉子姉ちゃんのセンスというか、オリジナリティが所々に光っているようなデッサンだった。
「すげーな!葉子姉ちゃん!」
素直に感想を口にする拳児まだ難しい事は良くわからないのでそれだけしかいえなかったが、葉子は
その言葉に、お褒めに預かり光栄です、と茶目っ気たっぷりに答えた。

対する拳児の絵はというと、主線こそ一本調子で書き分けがないものの、拳児独特な主観で情景を捉えており、味わいがあった。
「俺の絵、下手糞だろ?」
「そんなことないわよ。練習すれば私よりずっと上手くなるかもね」
柔和な笑顔でそう答えるとそうかな、と照れくさそうに拳児は答えた。
525Classical名無しさん:04/11/15 05:41 ID:nlTs.qlA
しばらくお互いの絵を推敲しあった二人は高原から駅へと向かっていった。

「拳児君。絵は楽しかったかな?」
「う〜ん。葉子姉ちゃんとならまた書いてもいいかな」
「じゃ、また今度いこっか」
「おう!」

そんな穏やかな会話をしながら歩いていると・・・

ドン!
曲がり角で拳児は向こうから乱暴に歩いてきた高校生と思しき男とぶつかった。

「んだ?このガキ!」
「イテテ・・・何すんだよ!」

乱暴に拳児の服の襟をグイと引き寄せる高校生。あまりの力の差におどろく拳児だったが、そんな事は言ってられない。しかし、捕まれた襟を必死に引き剥がそうとするが全く外れない。
その様子に耐え切れず高校生は激昂した。
「さっさと謝れや!」
しかし拳児は謝ろうとはしない、するとその様子を見ていた様子が静かに、しかし力強く言った。
「その手を離してもらえないでしょうか」
「あ?」
「拳児君の手、離してください」
「んだ、この女?何か文句あんのかよ!」
ギロリと葉子に目を向ける。しかし物怖じせず葉子は続けた。
「拳児君は悪くありません。彼方が謝りこそすれ、子供に手を挙げるなんて最低です!」
「葉子・・姉ちゃん?」
526Classical名無しさん:04/11/15 05:42 ID:nlTs.qlA
こんなに怒っている葉子姉ちゃんを始めて見た。こんな状況なのにこんな事を思うのは不謹慎だと分かっているが、葉子に心配されているという事が痛いほど伝わってきた。嬉しかった。
しかし、その嬉しさはすぐに怒りに変わった。

ガシッ!
地面に足から崩れ落ちる葉子。何が起こったか拳児には理解が出来なかった。
痛っ・・という苦しそうな声で喘ぐ葉子を見て、拳児はようやく事を理解した。
姉ちゃんは殴られたのだ。あの男に。
怒りが、憎しみが、腹の底からふつふつと湧きあがってくる。その怒りをそのまま拳に乗せて拳児は殴りかかった。

「ああああああああっっっ!!」

ガシッ
いとも簡単に止められる拳児の拳。そして拳児にも男は殴りかかろうとした。
その時・・・・
「そこ!なにをしている!」

巡回中の警官の一喝で男は手を止めた。
「やべっ!」
逃げ去る男。呆然とする拳児はハッと我に帰り葉子をみた。男に殴られた頬が赤くなっている。
葉子は拳児に見られていることに気づくと、苦しそうな顔を一変させまたいつものように笑みを浮かべた。
527Classical名無しさん:04/11/15 05:44 ID:nlTs.qlA
その後、警官で一部始終を話した後電車で八神町にもどった。
播磨はあまりの自分の無力さに言葉が出なかった。自分の力では葉子一人守る事が出来なかったのだ。
帰り道の途中播磨はフと気がつく。葉子姉ちゃんの耳のイヤリングがない。
「あ・・・耳」
そういわれて葉子は軽く耳に触れると自分のイヤリングがないことに気がついた。
「あっ・・・殴られたときに落ちたのかしら」

罪悪感が膨れ上がる。俺があの時謝っていればイヤリングも失くさなくてすんだし、何より葉子に嫌な思いをさせる事はなかったのだから。
そう思うと涙が急に溢れてきた。言葉が上手く声にならない。
「ご・・ごめ・・・うっ・・ぐっ・・」
涙が止まらない。こんなになるのは生まれて初めてだ。
「ごめっ・・ごめん・・・えっ・・ぐっ・・なさい・・」
「いいのよ」
葉子はそういうと拳児の体をぎゅっと抱きしめた。
暖かい。苦しいキモチや悲しいキモチが溶けていくようだった。拳児が泣き止むまで葉子はその華奢な腕で抱きしめつづけた。
夕方頃には帰宅するつもりだったが、すっかり遅くなってしまった。
丸い満月が雲の間に隠れた。闇に隠れてしまわぬように、二人は手をしっかりと繋いで歩いた。
「じゃあ拳児君の家まで送っていくね」
「いいよ別に。一人で帰れるよ」
「いいの、いいの」
重苦しい空気はなくなり、また穏やかな会話が始まった。
―――すごい
場を一瞬で和ませると言うか・・とにかく、こんなこと葉子姉ちゃんにしか出来ないな、と拳児は思った。
程なく家に着いた。拳児は帰路の途中から考えていた思いを口にした。
「絶対・・・絶対に葉子姉ちゃんを守れるような強い男になるから!!」
その言葉を聞いて暫く目をぱちくりさせていた葉子だったが、やがて、今まで見たことのないような笑顔
になった。
そしてその表情を崩さず優しさのこもった声で言った。
「ありがとう」

―――雲から抜けた月が二人を優しく照らした。
528Classical名無しさん:04/11/15 05:45 ID:nlTs.qlA
――陽光が重い瞼を開ける。もう朝だ。
ハッと身を起こした拳児は自分の顔に涙が伝っていた感触に苦笑した。
「そういや、そんなこともあったっけな」
顔を洗い簡素な朝食を口にした拳児は久しぶりに同居人にお小言を聞かされる前に自宅を出発することができた。
今日もいい天気だ。

播磨は成績が悪いため夏休みの間も補習を受けている。。
いつものように隣の天満ちゃんとの授業に幸せを噛み締めつつ授業を受けた。
しかし・・・
「よ〜し、これで今日の補習は終了だ。」
ついに時がきた・・・・・
補習担当の花井がそういうと播磨は一目散に職員室へ向かった。
「し・・失礼します」
緊張でがちがちの播磨だったが、なんとかさ・・ササクラ先生はいらっしゃいますでしょうか、となれない言葉遣いで笹倉を呼び出す事に成功した。
「どうしたの?」
「ちょ・・ちょっと、二人で話がしたいんですが・・」
流石にこんな所ではプレゼントは気恥ずかしくて渡せない。
訝しげに笹倉は拳児をみたが、暫くするとわかったわ、と美術室の鍵を取り出した。
「じゃあ、行きましょうか」

ガラガラガラ
誰もいない美術教室。
ここなら・・と拳児はポケットからプレゼントを取り出した。
「これ・・何?」
訝しげに聞いてくる葉子に播磨は顔を猛烈に染めていった。
「えっと・・よ。今まで苦労かけたからな。これ・・誕生日プレゼント。おめでとな」
ホラ、と恥ずかしそうにしている拳児に葉子は笑いをこらえきれなくなる。
「ププッ・・・アハハハッ!」
「いっ!何か変なこと言ったか?俺!?」
「ううん・・ゴメンゴメン!」
よく見ると目元に涙が浮かんでいる。それが笑いすぎによるものか喜びかどちらかわからないが。
529Classical名無しさん:04/11/15 05:47 ID:nlTs.qlA
「うう・・・なんか俺まで恥ずかしくなってきたじゃねぇか」
耳まで顔を染めて言う播磨に葉子は先ほどとは違う笑みを浮かべた。
朝の夢の時の笑みに似ていると播磨は思った。

「ありがとう。拳児君」
「これ・・開けてもいいかな?」
「ああ・・どうぞどうぞ」

包装を丁寧にはがした葉子はその中に入っているものを見て驚いた。
懐かしい記憶が葉子の胸に去来する。
―それはあの時のイヤリング。もちろんあの時落としたものではなく、播磨が買ったものだが。
・・・無性に嬉しかった。
「覚えてて・・くれたんだね」
「いや・・俺、正直覚えてなかったんだけどよ。これ買った後、その夢見てさ。あ、あの時のと同じだなって・・」
なんだ、といいつつもその顔には笑みがたえなかった。
「俺・・強くなったかな?姉ちゃんを守れるくらい」
あの夢を見て一番気になっていた事を播磨は口にした。
「う〜ん。そおねぇ」
ピーンと人差し指を伸ばし、思いついたように意地悪な笑みを浮かべて言った。
「こうしたらわかるかも」
葉子は腕を播磨の首に回し、その口に・・キスをした。
「・・・・・・・・・・・!!!!!!!」
先ほどより真っ赤になる顔。彼は本当にうぶなんだなと思いながらも口付けを止めなかった。
(ありがとう。拳児君)
先ほどよりも腕に力を込め強く抱きしめた。

ガラガラガラ
530Classical名無しさん:04/11/15 05:51 ID:nlTs.qlA
突然の来訪者。
「葉子〜ここにいるって・・・きいた・・・」
石化。全員石化。
「絃子・・・・・・・・・?」
「絃子・・・・・さん?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・拳児クン?」
氷のように詰めたい語調に播磨は命の危険を感じた。
ヤベエ・・コロサレル・・ニゲラレナイ・・・
絃子が動きを見せ、「殺られる!」と思ったが、何も起きない。そろーっと目を開けると、なんと絃子が目に涙を貯めているではないか。
エマージェンシーレベルマックス。こんなとき拳児はどうすればいいのか全く検討すらつかない。
「あの・・絃子サン・・?」
「・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・」
無言の圧迫感。何か言われるよりよっぽど苦しい。
どうしたものかと播磨が考えていると、絃子がゆっくりと近づいてきてひっそりと言い放った。
「とりあえず、出て行け」
「・・・・・・ハイ」
ガラガラガラ・・・・ピシャ。
播磨・・・退出
拳児がいなくなったことを確認すると、絃子はその重い口を開いた。
「どういう・・・つもりだい?」
「見ての通りです」
しれっと答える葉子。あまりにも虚をついた返答に絃子は鳩が豆鉄砲を食らったような顔になった。
しかしすぐさま体制を立て直す。
不敵に微笑む二人。
531Classical名無しさん:04/11/15 05:51 ID:nlTs.qlA
「宣戦布告・・・・と言う訳だね」
「そうだったりして」
あくまでも冷静に問う絃子に対してどこまで本気か分からないようなおっとりとした態度で答える葉子。
まさに対極である。
「まさか勝てるとでも?」
「略奪愛が一番燃えるんですよ?」
「いうじゃないか・・・・」
「まあ、でも当面のライバルは塚本さんですかね」
クスッ、っと葉子が笑みを漏らすと、絃子は絃子で笑い始める。
この先も何かと受難が多くなりそうな播磨拳児。
嗚呼、どうかこの先、播磨拳児に幸あらんことを・・・・・・・・・・・