――雪が、降っていた。
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その日、朝から空を覆っていたのは鈍色の雲。今にも泣き出しそうなその表情を裏付ける様に、
テレビの天気予報は降水確率の数字を淡々と読み上げている。
「また、ところにより雪に変わる恐れも――」
その声を最後まで聞くことなく、彼女は席を立つ。雪、という単語だけが何故か耳に残る。
「お嬢様、傘は」
「いらない」
「しかし、」
「いらないの」
「……承知いたしました」
普段から細々と口うるさい執事の声が、どういうわけか輪にかけて気に障って、一度も振り返る
ことなく表へ出る。
「降るなら降ればいいのよ」
自らの心と同じ色合いの空を睨み、少女は呟く。
返事はない。
ただ空はそこにある。
どうしてこうなったのか。
直接は届かない陽の光、そのせいでどこか色褪せた色彩の街を歩きながら、彼女は考える。
どこで何を間違ったのか。
答は出ない。
何故なら――何故なら、何も間違ってはいないからだ。
けれど、彼女がそれに気がつくことはない。