「いらっしゃ――」
「あれ? どうかしました?」
「……いらっしゃい、笹倉先生」
「盛況みたいですね」
「……ええ、それはもう。うちにはやたらと頭の切れる部長がいるんでね」
「高野さんですね。ところで、」
「頼む、何も言わないでくれ。というか言われると正直死にたくなる」
「でもよく似合ってると思いますよ、その」
「――葉子」
「冗談ですよ、冗談」
「……それで、注文は?」
「紅茶一つ、お願いします」
「紅茶、ね。まったく、そんなのわざわざここまで来て頼まなくても……」
「あら、私は刑部先生の淹れてくれた紅茶、好きなんですけど?」
「……少々お待ち下さい」
「あ、笹倉先生」
「こんにちは、塚本さん。ずいぶん賑わってるね、ここ」
「はい、そうみたいです。先輩がぎりぎりになって押し込んだらしくて、案内には
載ってないはずなんですけど……」
「でも、こういうときにちゃんとしたお茶が飲めるところなんてそうそうないしね。
それに可愛らしいウェイトレスさんもいることだし」
「……そんな」
「照れなくてもいいと思うよ、ちゃんと似合ってるし。でもやっぱり一番は――」
「刑部先生、ですか?」
「うん。なんて言えばいいのかな……そう、恰好良いんだよね、あの人の場合」
「そうですね」
「ちょーっとだけ羨ましい……なんてね。それじゃごめんね、お仕事中に」
「いえ、そんな。ゆっくりしていって下さい」
「ありがとう。――うん、やっぱり似合ってるな、絃子さん。あの――」
何を着てるとは言いません。言いませんが。お茶濁しにでも適当にご想像を。自分はわりと本気で恰好良いと思います。ええ。