その日、西本願司は憂鬱だった。
発端は、一通のメール。それは兄からのものだった。
『彼女が出来た。ビデオコレクションはもういいから』
衝撃は大きかった。
あの兄に。月一で送っていた願司コレクションを何よりも楽しみにしていた兄に。自分と同じで
女の子と一生、縁のなさそうだった兄に。
彼女が出来たというのだ。
翻って、自分は。
エロソムリエと呼ばれ、クラスの男子のほとんどの人望を集めている。一方で、女子との接点な
どほとんどないと言っていい。
そのことに疑問を抱いたことなどない。自分の幸せは、ビデオの中にあると信じていた。
だが一番、自分に近しい存在であった兄に恋人が出来たという事実が、彼を落ち込ませた。何だ
かんだ言っても、生身の少女に興味がないわけではないのだ。例えば、明日の誕生日を一緒に祝っ
てくれる彼女が欲しい、と思いもする。
ワスも、自分を見直すべきかもしれないっすね……
翌朝。顔をうつむかせながら歩く彼に話しかけてきたのは、吉田山を始めとする西本会議のメン
バーだった。
「よう、西本」
「……おお、皆ダスか」
「何だよ、落ち込んでるのか?ま、これを見れば元気出るだろうけどな」
言いながら吉田山が取り出したのは、一本のビデオだった。
「……何だすか?これ」
「フフッ、聞いて驚くなよ?あの阿豆樹もなかの新作ビデオだぜっ!!しかもまだ発売されてない
ものだっ!!」
「ネットオークションにかかってたんだよ。ちょっと高かったけれど、他でもない西本の誕生日だ
からな。いつものお礼ってことで、ま、受け取ってくれよ」
「お前ら……最高だすっ!!」
願司は、思う。
やっぱりワスは、恋愛よりも男の友情を優先させるダスっ、と。
その夜。兄からのメールに、願司は思わず笑ってしまった。
『フラレタ。コレクション頼む』