700 :
ぬくもり:
「ゲホッ、ゴホッ……」
苦しげに播磨は咳き込んだ。
「あ〜、キッチィ〜」
久しぶりに風邪を引いて彼は寝込んでいた。
「絃子も……はぁー、はぁー、ほっぽって学校行きやがるし……」
播磨が風邪を引いたと知ったとき、絃子は君でも風邪を引くことがあるんだな、などとのん気な口調でそう言って
市販の薬を目の前に置いて行っただけでこれといって心配してくれなかった。
「俺は病人だぞ……」
もしかしたら絃子は自分が病気になって喜んでるんじゃないか、などと詮無き想像までする始末であった。
実際のところ、絃子はただ単に播磨の風邪がそれほど酷い症状ではないと判断したから出勤しただけなのだが。
「うう……なんか不幸だ……」
病気になったことで播磨は弱気になっているようだ。
「ゴホッ、ゴホッ……ゲホッ……はぁー……あちぃ……」
発熱と咳で苦しみながら脇に差していた体温計を取り出した。
「37度7分。……そこまで酷い熱じゃないのになんでここまで苦しいんだ?」
おそらくそれは普段風邪を引かないからであろう。
「はぁー、もうひと眠りすっかなぁ……」
もう結構寝てる気もするが……と思いながら播磨はふとかけてある時計を見た。
「あー、もう昼か……って昼飯食う気しねぇな」
そもそも簡単に作れそうな料理など播磨にはなかったし、作る気力もなかった。
それにだからと言って、さすがにビーフジャーキーなどを食べる気にもならなかった。
「はぁー、あん時の妹さんの料理は美味しかったなぁ……」
少し前、新人賞へ応募するための原稿を書くために八雲に泊まってもらった際、彼女に作ってもらった
スパゲッティの味を思い出して懐かしそうに播磨は呟いた。