シンクロニシティ、という言葉がある。
まあ、刑務所の死刑囚が一斉に脱走して日本に来たり、猿が百匹
一斉に芋を洗うようになったり、ニトログリセリンが固まったりと、
よくある不思議現象である。
で、今夜この矢神町でもそのシンクロニシティ現象が起ころうと
していた。
――沢近家。
「すぅ……すぅ……」
恐らく一般庶民では一生眠ることを許されないようなフザけた豪
華さのベッドでこの家の一人娘である沢近愛理は安らかな寝息を立
てていた。
夢。
夢を見ている。
「ん……?」
気付くと、学校の中庭にぽつんと突っ立っていた。
はて、授業が始まっちゃったのかしら? いけない、急がないと。
あ、ちょっと待って。わたし、確か何か約束してなかったかな?
「お嬢……」
「あ、ヒゲ」
それで思い出した。自分は確かこのヒゲに呼び出されていたんだ
っけ。話があるとか、珍しく深刻な表情で。
「で、何よ話って。さっさと済ませてよ、わたし授業に遅れたくな
いんだけど……」