「東郷。スマナイが、放課後、屋上に来てくれないか」
相棒と目するハリー・マッケンジーに言われて、屋上に来てはみたものの、肝心の彼の姿は見当
たらない。仕方なく、一人、フェンスにもたれかかって空を見上げる。
広がる雲は、薄い紅に染められていて。
この街の夕焼けは、やけに目にしみるぜ。心の中で呟いて、東郷は振り返る。己のルーツを。
幼い頃より、父の仕事の関係で日本を離れ、各国を回ってきた。ロシア、ドイツ、イギリス。そ
れぞれの土地に思い出があり、人との出会いがあった。
その結果として、今の自分がいる。ふと浮かんだ思いに、東郷は苦笑する。珍しく感傷的になっ
ているのは、今日が彼の誕生日だからかもしれない。
高校入学と同時に母国へ戻ってきた彼が感じるのは、やはり自分が日本人だということ。
何が、と問われたとしたら、彼としても困ってしまう。ただ、そう感じてしまうのだ。
生活の習慣であったり、細かな言葉の使い方であったり、物の考え方であったり。自分が普通の
日本人とは違うことを、時に彼は意識させられる。
それでも東郷が疎外感を感じずにいられるのは、彼が今、所属している2−Dというクラスのお
陰なのだろう。留学生が多いということもあるかもしれないが、誰もが東郷に対して普通に接して
くる。
さらには学級委員として、全面の信頼を置いてくれている。
ありがたいことだ。思って、彼は小さく笑う。
「待たせたナ、東郷」
やっと現れた金髪の親友は、挨拶もそこそこに、彼を教室へと連れて行く。
「何だ?それなら最初から、教室で……」
言いながら、東郷が扉を潜り抜けた瞬間。
『ハッピー・バースデー!!』
鳴り響くクラッカーの音の中、目を丸くする彼の前には、クラスメイト達が並んでいた。ハリー、
ララ、天王寺らの姿も見える。
祝いの言葉を口々に言ってくる彼らに、さしもの彼も唖然としていたが、
「お前ら……」
「イツモ学級委員で頑張ってるオマエのために、皆でサプライズ・パーティーを企画したんダ。驚
いたカ?」
ハリーに言われ、無意識に頷いた後、東郷は不敵な笑みを浮かべる。
「フッ……俺はいい仲間に恵まれたものだな」
彼の、心からの本音。その言葉を皮切りに、パーティーは始まったのだった。