時計の針が、十二時を回った。
誕生日、である。今日は、男の誕生日、なのである。
だが祝ってくれる人とて特になく、彼はPCの前に座り、HPの更新に勤しんでいる。
最初は一日のアクセス数も二十を越えるか越えないか。ちなみにその内、約九割は自分だったり
した。会社のPCからこっそり覗き、掲示板に書き込みがないのに落胆する。その繰り返し。
しかし、地味でも長く続けていたことが功を奏したのか、最近はちょくちょくと人も来てくれて
いる。感想を書き込んでくれる人もちらほら。中にはもちろん、耳に痛い意見もあったりしたけれ
ど、何はともあれ活気付いてきたことは嬉しいものだった。
「ふぅ……」
これまでに書き上げた分をアップして、椅子に座ったままグルグルと肩を回す。
小説家になりたい、という欲望があるわけではないが、それでも読んでくれる人、続きを待って
くれている人がいるというのは、気持ちがいいものだった。
ふと思う。これを自分だとは知らせずに、知り合いの人間、例えば談講社の同僚に読ませたら、
どんな反応を示すだろうか。
想像して、思わず一人、にやける彼。もっとも、実際にはそんなことをする度胸はないのだが。
そろそろ寝ようか。
思いながら、ベッドに寝転がると同時に、枕元に置いてあった携帯が震えた。手にとって見ると、
差出人の欄には『シオンちゃん』と出ていた。慌ててメールを開くと、
『ミッキーへ。ちょっと遅くなっちゃったけど、誕生日おめでとー♪今日はお店に来て欲しいな♪
たーっぷりサービスしちゃうから♪』
時計を見ると、確かに日付は一時間ほど前に変わっていた。
さすがにこの年になると、誕生日を歓迎する気分にもなれない。とはいえ、気になる女性からの
お祝いのメールをもらうと、やはり嬉しく思うわけで。
また浮かんでしまう、ニヤニヤ笑い。
財布の中身を見ると、かなりぎりぎりだが、何とか遊びに行けそうなだけのお金は入っていて。
必ず行くから、とメールを返して、彼はベッドに潜り込んだ。
今日は、いい日になりそうだ。
そんな風に思いながら。
彼の誕生日は、こうやって過ぎていく。
日常に埋もれて。だが、ささやかな幸せ。
それで、彼は十分だった。