スクールランブルIF15【脳内補完】

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329Birthday... Masaaki Mitsui
 時計の針が、十二時を回った。
 誕生日、である。今日は、男の誕生日、なのである。
 だが祝ってくれる人とて特になく、彼はPCの前に座り、HPの更新に勤しんでいる。
 最初は一日のアクセス数も二十を越えるか越えないか。ちなみにその内、約九割は自分だったり
した。会社のPCからこっそり覗き、掲示板に書き込みがないのに落胆する。その繰り返し。
 しかし、地味でも長く続けていたことが功を奏したのか、最近はちょくちょくと人も来てくれて
いる。感想を書き込んでくれる人もちらほら。中にはもちろん、耳に痛い意見もあったりしたけれ
ど、何はともあれ活気付いてきたことは嬉しいものだった。
「ふぅ……」
 これまでに書き上げた分をアップして、椅子に座ったままグルグルと肩を回す。
 小説家になりたい、という欲望があるわけではないが、それでも読んでくれる人、続きを待って
くれている人がいるというのは、気持ちがいいものだった。
 ふと思う。これを自分だとは知らせずに、知り合いの人間、例えば談講社の同僚に読ませたら、
どんな反応を示すだろうか。
 想像して、思わず一人、にやける彼。もっとも、実際にはそんなことをする度胸はないのだが。
 そろそろ寝ようか。
 思いながら、ベッドに寝転がると同時に、枕元に置いてあった携帯が震えた。手にとって見ると、
差出人の欄には『シオンちゃん』と出ていた。慌ててメールを開くと、
『ミッキーへ。ちょっと遅くなっちゃったけど、誕生日おめでとー♪今日はお店に来て欲しいな♪
たーっぷりサービスしちゃうから♪』
 時計を見ると、確かに日付は一時間ほど前に変わっていた。
 さすがにこの年になると、誕生日を歓迎する気分にもなれない。とはいえ、気になる女性からの
お祝いのメールをもらうと、やはり嬉しく思うわけで。
 また浮かんでしまう、ニヤニヤ笑い。
 財布の中身を見ると、かなりぎりぎりだが、何とか遊びに行けそうなだけのお金は入っていて。
 必ず行くから、とメールを返して、彼はベッドに潜り込んだ。
 今日は、いい日になりそうだ。
 そんな風に思いながら。

 彼の誕生日は、こうやって過ぎていく。
 日常に埋もれて。だが、ささやかな幸せ。
 それで、彼は十分だった。