スクールランブルIF15【脳内補完】

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295Handkerchief

 人の記憶とは引き出しのようなものである。
事柄をその中にしまいこんだままにしてしまえば、それはいつか忘れ去られてしまう。
だけどまた、引き出しを開ければ。

 一度は忘れてしまったことを、思い出すことも時にある―――――


「ん……?」
 自分の部屋にあるタンスを探っていて、見慣れない物があることに美琴は気付く。
それをひょいとつまみ、引き出しの中から取り出してみる。
―――ハンカチ。

 誰のものだろう?
少なくとも自分のではないことは確かだ。
「ん〜…」
 頭をポリポリと掻きながら、このハンカチが自分の手元にある経緯を思い出そうとする。
天満や沢近、高野からは借りた記憶はない。
花井のものだったら、家が隣にあるんだしすぐに返しにいっただろう。
するとこれは、誰のものなのか。
他に心当たりがあるとすれば……
「あ…そっか。これ、あの時のだ」
 どうやら、手に入った経緯を思い出したらしい。
同時に、それが誰のものであるかも思い当たる。

一学期の期末テスト前日。
美琴は、花井との組み手の際に利き手を痛めた。
その痛みはどんどん酷くなり、翌日には鉛筆を持てなくなりそうになるほどのものだった。
でも、それでもどうしても結果を残したかった。
何故ならあの頃はまだ、初恋は終わっていなかったから。
誰に何を言われてもいい、不純だと思われたって構わない。
好きだった先輩と一緒の大学に行くことが、あの頃の美琴の何よりの目標だった。