たまにはヤムチャが活躍する話を考えようぜPart25

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795Classical名無しさん:04/11/02 21:08 ID:435a/ezQ
肉スレ見習えよ。
あがきすぎ。みっともねえ。
796Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/02 21:31 ID:pCvue1FQ
ひとつ空けます。まだ大丈夫ですよね…?
797Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/02 21:39 ID:pCvue1FQ
>>689

第156話

先ほどまでの荒野から、しばらく行ったところにそれはあった。半年
近くの月日を感じさせるように、それは自らが穿った大穴に半ば埋没
さえしていた。
「へぇ…こいつが宇宙船か……思ったよりも小さいんだな」
そのすぐ傍に降り立ちながら、ヤムチャが感心したのか呆れたのか
判らないつぶやきを漏らす。
「基本的に一人乗りだからな…それに乗っている間はほとんど寝てる
 訳だから、別に問題はないぞ?」
リモコンを操作しながらヤムチャに応じる。しばらくするとかすかな
音を立てて宇宙船がゆっくりと浮かび上がり、その姿を完全に現した。

プシュッ…
静まり返った夜のしじまに、やけに響く音を立ててハッチが開く。中を
覗き込み、何やらマーリンがあれこれと操作を始める。半年近くも放置
していた割には、何の問題も無いようだった。もっとも、そんな程度で
どうにかなる代物では、怖くてこんな用途には使えないのだろうが。
「うん……各機関に問題なし。エネルギーレベルも充分だ。これなら
 7日…いや、6日もあれば着く」
手早くチェックを終え、ほっとしたようにマーリンがつぶやく。その様子を
ヤムチャが優しげな、それでいて少し寂しそうな眼差しで見つめていた。
798Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/02 21:42 ID:pCvue1FQ

「…これで…いよいよお別れか…。俺もようやく自分の修行に専念できる
 ってもんだ。なんせ後1年半しか無いんだからなぁ…」
ヤムチャがまるで独り言を言うかのように、背を向けたままのマーリンに
声を掛ける。
「………」
「ま、いくら何でも俺じゃ主役にはなれそうもないからな。死なないように
 修行するって感じだけどな。はははっ……」
自虐めいた笑いを口にする。それでも笑いは笑いだ。湿っぽいサヨナラ
よりはずっとマシだとヤムチャは思った。そんな風に思いながらも、脳裏
にはこれまで過ごしてきたマーリンとの5ヶ月が浮かぶ。

出会いは最悪だった。いきなり戦いを挑んできて、しかもそれは勘違い
ときた。その後も隠れ家を消滅させられ、虎の子の仙豆も使われた。
そして引き受けた修行の日々。にわか仕立ての露天風呂。精神と時の
部屋での自分の逆ギレとマーリンの死、そして復活と覚醒……。
思い出すだけで暖かく、そして胸が締め付けられるような思い出に満ちた
5ヶ月だった。
何もかもが今となってはいい思い出だ。ただひとつを除いては。
799Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/02 21:44 ID:pCvue1FQ
第157話

その時、突然マーリンが背を向けたままヤムチャに声を掛けた。
「なぁ…ヤムチャ……前にわたしが言った事…覚えてる……?」
あまりに漠然とした、そして唐突な言葉にとっさにヤムチャは答える事が
できなかった。
「前に…言った事………? な…なんだっけ?」
女のこういう所だけは相変わらず苦手だとヤムチャは思う。ブルマもそう
だったが、とかく男からすれば些細な事を、ねちねちといつまでも覚えて
いては、事あるごとにそれを持ち出すのだから。
だが、マーリンの口ぶりはまるで非難の色など感じさせない。いまだ背を
向けたままで少女が続ける。

「……おまえは…この地球では弱いのかもしれないが、それ以外の世界
 では…ほとんど無敵と言われるレベルなんだ…」
そう言えば来て間もない頃、そんな風な事をマーリンが言っていたのを
何となく思い出す。だが、それが一体、今と何の関係があるというのか?
「この宇宙船は一人乗りだ…でも、それはあくまで基本的にであって…
 二人は絶対に乗れないという…訳じゃ…ないの……」
背中越しの声はかすかに震えていた。
800Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/02 21:48 ID:pCvue1FQ

少しの間、沈黙が流れる。ヤムチャにもさすがにマーリンの言わんとする
ところがようやく理解できた。そしてうつむき加減のままでゆっくりと少女が
振り向く。その目に一杯の涙を湛えて。
「…わたしと…いっしょに来て…欲しい。その方が…おまえにとっても……
 きっと…いい……! 
 人造…人間とやらは…ソン・ゴクウに任せればいいじゃないか!!
 奴が勝てないのなら、おまえにだって勝てっこない!! おまえが戦う
 必要も……この星に留まる理由もないじゃないか……!!!」
ずっとずっと心に押し殺してきた感情が一気にはじける。もう涙はすでに
とめどなく零れ落ちていた。

「だったら…!! わたしといっしょに星々を巡ろう…! その力をこの
 地球で腐らせるだけなんて……駄目だっ……! 宇宙には…おまえが
 必要なんだ……!!!」
突然のスカウト。だが、それは以前からマーリンが胸に秘めてきた想いでも
あった。
確かに今のマーリンには遠く及ばないとはいえ、それでもヤムチャの戦闘力
もフルパワーで50万近くに達するのだ。かつての宇宙の帝王、フリーザの第
一形態に匹敵するほどの力は、どこの勢力にとっても魅力的に違いない。
それはもしかしたら、侵略者への抑止力にもなり、宇宙全体の平和をも左右
するちからにもなり得る。
熱のこもった勧誘に、面映い心地のヤムチャだったが、答えは考えるまでも
なかった。
801Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/02 21:53 ID:pCvue1FQ
第158話

「…ありがたい申し出だけど…遠慮しとくよ。俺はそんな……正義の
 味方ってガラじゃないからな。はははっ…」
冗談っぽく流そうとするヤムチャに、かすかに少女の目に怒りが灯る。
「……だったらはっきり言ってやろう…地球にいる限り……おまえは
 何の役にも立たない…。ソン・ゴクウたちの引き立て役のままだ!!
 戦う機会すら与えられず!! もし機会が訪れるとすれば……それは
 おまえの死ぬ時なんだぞ!!」
かすかだった怒りが、放たれる言葉と共に激しさを増していく。まるで
駄々っ子のように首を振りながら、ついにはそれが絶叫へと変っていった。

そして、目を閉じ、マーリンの訴えをじっと聞いていたヤムチャの胸に
どん、とぶつかるものがあった。
「頼む……わたしと…一緒に来て…。わたしは…わたしはおまえに……
 死んで欲しくないんだ……っ!」
マーリンがその小さな拳でヤムチャの胸を叩いていた。何度も何度も。
そしてそっと頭を押し付ける。まるで涙でぐちゃぐちゃの顔を見られる
のを隠すように。
「……ありがとよ…でも、やっぱり俺は行けない。お前にやる事があった
 ように、俺にもまだここでやらなきゃいけない事があるんだ…」
そんなマーリンの頭を、優しくなでるように大きな掌で包み込む。だが、
その言葉ははっきりとした拒絶だった。
802Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/02 21:56 ID:pCvue1FQ

「…前に俺は、ある戦士にこんな事を言われたんだ。『終わってみるまで
 判らない戦いを無駄と決め付けるやつは戦士じゃない』ってな…」
びくりと少女の肩が震える。
「その戦士は、誰もが無理だと思っていた戦いに…最後の最後まであきら
 めずに立ち向かって…とうとう勝っちまった。俺は心底すごいと思った
 んだ。そして…俺もそうなりたいと思った。なれるんじゃないかって
 勇気ももらった」

静かに、だがきっぱりとした口調でヤムチャが淡々と続ける。
「俺は確かに悟空たちに比べれば弱っちい。でも、それは才能だとか
 地球人だからじゃない。自分自身と…本気で戦ってなかったからだ。
 だから今度こそ戦う。だから……お前とは行けない…。
 それに…力だけが戦いじゃないって事はお前も判っただろ? あいつらが
 きちんと戦えるようにフォローするのだって戦いさ」
 
ぴったりとヤムチャに抱きついたまま、マーリンの動きが完全に止まる。
ヤムチャの決心が揺ぎ無いものである事が、自分を包む腕から、いや、
全身から伝わるのを感じていた。
「…ヤムチャ…ひとつだけ聞かせて…。おまえは…その戦士の事……
 どう思ってた…?」
顔を押し付けたまま、少女がくぐもった声でぽそりとつぶやいた。
803Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/02 22:02 ID:pCvue1FQ
第159話

しん、とした静寂が闇を包み込んでいた。マーリンの発した問いかけが、
それをより一層に強く感じさせていた。
しばらくしてからようやくヤムチャが口を開いた。ゆっくりと選ぶように。
「…その戦士の事は…最初の印象は最悪だったな…はは。
 でも、今は…そいつの事が…好きだったと思う。俺にとって…かけがえ
 のない人だ…たぶん…これからもずっと……
 ま、向こうがどう思ってるかは判らんけどな! あっはっは!」
そう言って。まるで他人事のように笑うヤムチャだったが、その表情は
言葉ほどに明るくは無い。むしろ悲痛さを必死に押し殺しているようにも
見えた。

「…ふ…そんな心配などいらない…。きっとその戦士は……おまえの事を
 嫌いになど思ってはいない。それどころか…おまえの何十倍も好きだと
 思う…」
あの夜の事は一夜限りの夢、幻だと自分に言い聞かせてきた。だが、ヤム
チャにとってはどうなのか。それはずっと少女の心に重く圧し掛かっていた。
そしてそれはヤムチャも同じだった。
だが今、想いは重なっていた。それはきっと、ずっとずっと以前から。

ようやく顔を上げ、ずずっ、とすすり上げながらマーリンがヤムチャから
身体をはなす。もう涙は止まっていた。
そして一歩、また一歩ずつ後ろ向きで後ずさる。しっかりと視線はヤムチャ
から離さずに、宇宙船に戻っていく。
開いたままのハッチが少女を呼ぶ。急げ、早くしろ、と。
804Classical名無しさん:04/11/02 22:19 ID:KE33tJ8s
投稿規制に引っ掛かってるのか。

さて、サイヤン終わって実質的に終了したな、このスレも。
しかしいろんな意味でサイヤンはヤムスレの最後を飾ったなw
お疲れさん。今度、暇があったら読んでみるわ。
805樽漬け ◆uD3fO/U2s. :04/11/03 04:33 ID:lAy.vD12
投下します
806樽漬け ◆uD3fO/U2s. :04/11/03 04:34 ID:lAy.vD12
すごいの?ヤムチャさん。

1発、2発、3発。
悟空に、ギニューの拳がめり込んでいく。
悟空の界王拳は既に、大きな負担がない状態で使える限界点の16倍。
『く…くそ!』
1発、また1発とギニューの拳が悟空の体に突き刺さる。
『界王拳を20倍まで上げるしかねぇ!!』
限界を超えた界王拳。それは、焚き火にガソリンを注ぐ様なもの。燃焼が激しすぎて、燃え尽きる事はおろか、全てを吹き飛ばしてしまう。もちろん、自らも。
「界王拳、20倍だぁっ!!」
しかし。相手の火力が勝るなら、吹き飛ばされてしまう。その、強き炎さえも。

第二十八話
〜交代〜

ヤムチャの目に映る、ヤムチャの「体」に悟空がやられている姿。
『な、何か…!』
戦っているのはギニューであるが、見た目は全く、ヤムチャその人である。
『何か、嬉しい!!』
あのピッコロを、あのベジータを敗り、地球を何度も危機から救い、皆の信頼を一身に受けてきた男・悟空を、まるで自分が圧倒しているかのような錯覚を受け、どことなく嬉しいヤムチャ。
目を輝かせて観戦していると、不意に、ポカリ、と頭を小突かれる。
「こりゃ!何を不謹慎な事を考えておるんじゃ!それより、準備はできておるのじゃな?」
亀仙人である。さっき、急降下した2人は、そのまま悟空に加勢するのか、と思いきや、ギニューと悟空が戦闘に気をとられている間に気を消して、近くの岩場に隠れていた。
ヒソヒソ声で話す2人。
「準備って言ったって、このベルトを手首に着けるだけでしょう?もうとっくに終わってますよ。」
そう言って、ヤムチャは左手を上げ下げする。前回渡されたベルトの様なもの。ベルトはベルトでも、腕時計の金属ベルトの様なものである。
「うむ、準備は良いようじゃな。それではそれを使って、『ここ』に隠れておれ。」
ちょうど、悟空が20倍界王拳の時間切れを迎えた時の事だった。

807樽漬け ◆uD3fO/U2s. :04/11/03 04:36 ID:lAy.vD12
「はぁっ、はぁっ…」
限界を超えた界王拳の代償。ガクリ、と膝を折る悟空。目の前に倒れているギニュー。
「へ、へへ…」
薄く笑う悟空。声にも、その肉体的なダメージ、疲労が表れている。
「やっぱ…駄目、だったか…」
糸が切れた様に倒れこむ悟空。それとは逆に、ギニューは起き上がる
「ぐは、ぐははははは…ハァッ、ハァッ…!な、なかなか効いたぞ、今の攻撃は!だが、それでもこのギニュー様を倒すには到らなかった様だな!」
『いくらなんでも、そりゃねぇよな…こんなに効かないなんてよ…』
悟空は、20倍界王拳を発動させてからギニューを叩きまくった。叩いて、叩いて、叩き尽くした。
それこそ、ギニューの周りの大地がえぐれとんで、悟空の踏みしめた地面がクレーターになる程に。
しかし、悟空は気が付いてなかたった。悟空が、界王拳の倍率を上げたとともに、ヤムチャの体もまた、界王拳の倍率を上げて、ダメージを軽減していた事に。
「よくぞ、この、今やフリーザ様に並ぶ力を得たギニュー様相手にここまでやれたものだ!しかし、ここまでだ。」
ギニューが、右腕を天高く振りかぶる。
「さらばだっ!!」
ギニューの、悟空の首をめがけた高速の手刀。
しかし。
「やれやれじゃわい。」
その手刀は空を切る。
「誰だ!」
ギニューの視線の先には、悟空を抱えた老人。
「じ…じっちゃん…逃げろ、早く…」
「心配無用じゃ。お前は少し休んでおけ。選手、交代じゃな。」

武術の神
  武天老師
    見 参 ! !

亀仙人の戦闘力
220000
界王拳…15倍まで無理なく使用可能。
808Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/03 05:46 ID:NKcsT1R.
昨晩は重すぎて、途中で挫折してしまいました…。今は大丈夫っぽい
ですね。早起きは三文の得、でしょうか?(笑)
それでは今のうちにうぷしまーす。
809Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/03 05:48 ID:NKcsT1R.
>>803

未練を断ち切るように、無言で乗り込み、手早く準備を進める。もうヤム
チャの決心は翻る事はないのだ。これが今生の別れとまでは言わないが、
次に会えるのがいつになるかはまるで判らない。ぼかしたカタチではあったが
お互いの気持ちを告白しあったふたり…特に知りたかったヤムチャの想いを
知ったマーリンにとって、それはあまりに辛い現実だった。

準備はすべて終わった。あとはハッチを閉じ、エンジンを始動するだけで
自動的に目的の星にたどり着く。大気圏を離れればコールドスリープも
始まる。次に目が覚める時、それは新たな戦いの始まり。
だがどうしてもその最後のスイッチが押せない。宇宙でも屈指の力を誇る
少女の指であっても、それは途轍もなく重く、固く感じられた。
その時、月明かりに照らされた宇宙船の中に影が差し込んだ。

「………?」
思わず顔を上げたその先に、ヤムチャがいた。
810Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/03 05:49 ID:NKcsT1R.

「……ャ…ヤム…」
驚いて名を呼ぼうとするくちびるを、そっとヤムチャが塞ぐ。ぽろり、と
もう一度だけ涙が頬を伝う。そしてヤムチャの手が、スイッチにかかった
マーリンの手に重なった。
カチッ……
小さな音をたててスイッチが入った。同時に、宇宙船から聞こえる低い
唸り声のような音が徐々に大きくなる。顔を離し、お互いを見つめる二人。
「…俺は死なないよ…何があっても生き残る。そして約束する……もし
 地球が本当に平和になったら…もう地球で戦う必要がなくなったら…
 連絡する。絶対にな」

「…そんな事は不可能だ…でも…うれしい…ありがとう、ヤムチャ…」
首を振りながらも冷酷な事実をに口にするマーリンだったが、ふと心に何か
が引っかかる。なにせヤムチャにはいつも驚くような発想で、自分の想像を
何度もいい意味で裏切られてきた。そういえばヤムチャから聞かされた物語に
登場する、数々の奇跡と、それをかなえる魔法のごとき玉の存在が無かったか…?

「「ドラゴン…ボール……!」」
811Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/03 05:50 ID:NKcsT1R.
第160話

二人の声がきれいに重なる。にやっと笑うヤムチャに、マーリンも精一杯の
笑顔で応えた。無論それで全ての不安が無くなる訳ではないが、生きてさえ
いれば可能性はある。それは細い細い、蜘蛛の糸ほどの可能性ではあるが。
そして、ゆっくりとハッチが閉じようとしていた。思わずこのままヤムチャを
拘束してしまえば…とも考えたマーリンだったが、するりと滑るように身体
を離して、あっという間にヤムチャは外に出る。

そして。
プシュッ……
ハッチが完全に閉まった。

「ヤムチャ!! 絶対だぞ!! わたしも…必ずもう一度……地球に
 来る!! どんな事をしても!! いつか…必ず!!!」
再びマーリンの目からは大粒の涙が溢れだしていた。小さな窓に張り付き、
どんどんと叩きながら必死に叫ぶ。その声が届いているかは疑問だったが、
それでも叫ぶ。そうする事が、今の少女に出来る全てだったのだから。
赤い窓越しに見えるヤムチャの口も、何事かを叫んでいるようだった。
それはマーリンには聞こえない。だが感じていた。ヤムチャの想いの全てを。
812Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/03 05:53 ID:NKcsT1R.

ふわり、とゆっくり宇宙船が地を離れる。それを涙に塗れながらヤムチャ
が見送る。ギリギリまでついていく事も出来たが、それはしたくなかった。
少しづつ宇宙船が小さくなっていく。それに向かって声を張り上げる。
完全に見えなくなるまで。必死に。声を枯らして。
「マーリーンーっ!!! がんばれよーーーっ!!! 俺も…がんばる
 からなーーーーーっ!!!」

ぐんぐんと宇宙船は高度を増していき、すでに大気圏を突破しようとしていた。
中にいるマーリンもようやく少し落ち着きを取り戻していた。ぺたんとシートに
身体を預けると、うっすらと眠気を感じ始めた。コールドスリープの準備が始
まったのだろう。
「……ヤムチャ…絶対に…もう一度……わた…しは……」
段々とその眠気が激しくなってくる。意識が深い深い底を沈み込んでいくのを
感じながら、遠ざかる地球を目に焼き付ける。必ず再びそれを目にする事を
誓いながら。


「ありがとう…ヤムチャ……」

あっという間に地球は、その他の星と同じ点となっていく。そして宇宙船も
また、小さな光の点となって星々の海へと帰っていった。
813Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/03 05:57 ID:NKcsT1R.
エピローグ

「こ…こいつ…ガキだと思って手加減してやってりゃ…いい気になり
 やがって!!」
「へぇ、だったら本気でかかってきなよ。ま、無駄だと思うけど…」
すでに数人が地面に倒れ伏している。残った異形の男たちの顔にも微かに
焦りが浮かぶ。その彼らがぐるりと取り囲んだ中心にいるのは、まだ10にも
満たない、見るからに生意気そうな黒髪の少年だった。

「おぉおおおおおっ!!!」
ドゥンッ!! ドゥゥンンッ!!
次々とエネルギーを開放し、一気に男たちが少年に迫る。それらを軽々と
捌きながら一人、また一人を倒していく。しかし。
倒したと思った一人が、口から血泡をこぼしながら凄まじい形相で少年を
後ろから羽交い絞めにする。予想外の出来事にあわてる少年だったが、
身動きひとつ取れない。
「くっ…くそっ!! は…離せよっ!!」
そう毒づくのが精一杯の抵抗だった。残った男たちがぞろぞろと近づいて
くると、さすがに少年の顔に恐怖の色が浮かび上がる。

「へっへっへっ…調子に乗りやがって……。でもこれでおしまいだな!
 ボウズ……!!」
にやにやと哂いながら少年の顔面にごっ、ごっと拳を叩きつける。何度目
かのそれで唇が切れ、鮮血が溢れ出す。悔しそうに男を睨みつける少年
だったが、ふと見たその背後に表情が変る。
それに気づいた男たちも訝しげに振り向く。そこには一人の女性が立って
いた。
814Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/03 06:02 ID:NKcsT1R.

男たちの種族ではないが、その彼らからしても充分に美しいと感じられる
女性だった。小柄だが均整の取れた引き締まった身体。そして腰まで伸ば
したプラチナブロンドが風にたなびくように揺れていた。

「お……おかあさんっ……」
「…こんな雑魚を相手に後れを取るとは…情けないぞ、シルフ…」
シルフ、それが少年の名前のようであった。そう呼ばれた少年は羽交い絞め
されたまま顔を伏せ、しょんぼりとしていた。
「なんだっ!! てめぇはっ!! 邪魔するならてめぇも……」
そう言い掛けた男たちだったが、まったく自分たちを恐れる様子もなく、さく
さくと女性が近づくにつれ、その言葉が止まる。
「…!? ……ま…まさか…、お前……あ…あのマーリ……」

「ほう…こんな辺境の星の盗賊にまで知られているとは光栄だ。だが少し
 気がつくのが遅かったな……」
ズァヴォゥッッッ!!!
男の言葉は、最後まで発せられる事は叶わなかった。
815Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/03 06:05 ID:NKcsT1R.

「…あ…あんな連中…僕一人でもやっつけられたんだからね!」
唇の手当てを受けながら、そうシルフがぼやく。助けられた事を面白く
思ってはいないようだったが、母親も息子を助ける事が出来たのを
素直に喜んではいない風だった。
「まったく…あの程度の連中に足元をすくわれるなど…おまえは油断が
 多すぎるんだ! そんな所がヤムチャ譲りなのかもしれないが…」
はぁぁ、とためいきをつく。だがそんな母の、ヤムチャという単語に息子が
ぴくん、と反応する。
「そうなの!? おとうさんも僕みたいだったの? ねぇ! また
 おとうさんのお話してよ、おかあさん!!」

目を輝かせながら父の話をせがむ我が子に苦笑しつつも、いつものように
ヤムチャとの思い出を語る。共に過ごした時間はさほど長いものでは無か
ったが、彼女の人生において最も密度の濃い、充実した日々だった。
もう一体何度同じ事を話したのかも判らないが、飽きる事なく少年は満足
そうに、いつもいつもそれに聞き入っていた。

「ねぇ、おかあさん…それでいつになったらお父さんは…僕たちのところに
 きてくれるの?」
少年の素朴な疑問に、わずかに表情が曇る。だがその時。
ズゥゥゥンンンッッッ!!!!
「貴様らかァァァっっ!! オレたちを狩ってるって奴らはァァァ!!!」
身の丈は10メートルを軽く超える巨躯がそびえ立っていた。足元には先ほど
あわてて逃げ出した男たちがいた。
「なんだァァァッ!! 女とガキの二人じゃねェかァァァッッ!! こんな
 奴らに尻尾巻いて逃げてきたってのかァァ! てめぇらはァァァッ!!」
「い…いぇッ! お頭…、あ…あいつは…あの有名な『銀光のマーリン』で……ッ!?」
その言葉を言い終える前に、部下は巨大な岩の塊のような拳を真上から叩き
つけられ、ぺしゃんこになった。
816Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/03 06:06 ID:NKcsT1R.

「ふん…ようやくボスのお出ましか…下がってろ、シルフ……!」
カチカチとスカウターを操作し、相手の戦闘力を測る。今の彼女にとって
それは大した意味など持たない行為ではあったが、染み付いた習慣はなか
なか抜けるものではない。一瞬だけ険しい表情を見せるが、すぐにそれは
消えていつも通りの余裕の笑みが浮かぶ。

「…シルフ…、ヤムチャに…父さんに会いたいか…?」
こんな時に何を言い出すのかと、びっくりした表情のシルフだったが、答え
は決まっている。会いたい、はっきりとそう叫ぶ。
「なら…強くなるんだ。こいつよりも、わたしよりも! その日がいつ
 来てもいいように…あの人の子供である事に恥じないようにな……!」


ヴォウッッッ!!!
「次のスケジュールが迫ってるんでな…悪いが一瞬で終わらせてもらう…。
 海!! 皇!!! 拳ーーーッッ!!!!!」


〜Saiyan Killer〜 完
817Saiyan killer ◆b5uV5vP75. :04/11/03 06:13 ID:NKcsT1R.

とりあえず最後という事で、久しぶりにこちらにもカキコ
させて頂きます。半年以上もお付き合いして下さっていた
方々、初挑戦でこんな長編になってしまい、お見苦しい点も
多々あったと思いますが、最後まで読んでいただき、ほんとうに
ありがとうございました。

何度ももうダメだ、もうやめようと思いました。でも、どうにか
こうにかこの日を迎える事が出来て…感無量です…(涙)。
いろんな事がありました。特に、おそらくは私が原因で荒らしが
現れて、スレに多大な迷惑をかけた事は、申し訳なく思うほか
ありません…。本当にすみませんでした。

これでまたしばらくは名無しのROMに戻ります。あるいは書く意欲が
戻ってきたら、もしかしたらまた細々とうぷさせて頂くかもですが。
でもDBSSではあっても、ヤムチャネタじゃないので、どうしようかと
思ってたり…(ラディッツのSSを書きたいなー、なんて思ってます)。

それでは職人の皆様、これからも素敵なヤムチャSSをお願い致します。
ROMの皆様、がんばっていつまでもスレを盛り立てていきましょう!
818ヤムチャ先生:04/11/03 07:27 ID:mcHI5t7U
「せんせーい!」
 何度目かの呼びかけで、ようやくヤムチャは振り返った。声の主は見知らぬ
少女だった。立ち止まった少女とヤムチャの左右を、往来の人々が通り過ぎて
いく。
「あんた誰?」
 ヤムチャが尋ねると、少女はちょっと拗ねたように頬を膨らませた。
「ひどーい。わたしのこと忘れちゃったんですかあ?」
 ホルターネックの白いワンピースの裾をつまんでクルリと一回転してみせた。
ストレートの長い髪の毛がワンピースと一緒に柔らかく風に舞った。
「ほら、わたしですよわたし。思い出してくれましたかあ?」
 そんな猪口才な真似をされても知らないものは知らない。ヤムチャは少女の
素性について思いを巡らせた。そして一つの結論を導き出した。
「貴様、悟空の放った刺客だな! 死ね!」
 怒りのヤムチャが繰り出した狼牙風風拳が少女の五体を引き裂くかと思われ
た、その刹那。
「ヤムチャ様、ストップ!」
 ヤムチャの頭上から大量のウナギが降ってきた。首までウナギのヌルヌルに
埋まって拳法どころではなくなったヤムチャに、空のタライを持ったプーアル
が諭すように言った。
「悟空さんが刺客を放つ訳ないでしょ。さっきの本屋の方ですよね」
 言葉の後半は少女に向けたものだった。少女はハイと言って笑顔で頷いて、
それでヤムチャも思い出した。
 数日前に立ち寄った本屋で、店長らしき中年の男が少女の手首をつかんで何
やらまくし立てていた。立ち読みに夢中のヤムチャは他人同士のいざこざなど
全く興味がないが、男の怒鳴り声はイヤでも耳に入ってくる。
「手前の店で万引きなんざ百年早いでやんす! まったく武士の風上にもおけ
ない女でやんす!」
「万引きなんかしてません! それにわたし武士じゃありません!」
「言い逃れもほどほどにするでやんす! これが動かぬ証拠でやんす!」
 少女の背負っていた風呂敷包みを解くと、中身は大きなダンボール箱だった。
取次ぎから届いたばかりのダンボール箱には、今日発売の新刊本がぎっしりと
詰まっていた。
819ヤムチャ先生:04/11/03 07:28 ID:mcHI5t7U
「万引きじゃありません! だってわたしお金なんかもらってません!」
「お金をもらうのは手前の方でやんす! 潔くこの場で切腹するでやんす!」
 あまりにうるさくて立ち読みに集中できない。ヤムチャは本棚から百科辞典
を抜き取って、男めがけて思い切り投げつけた。百科辞典は男の後頭部に命中
して、男はひっくり返って失神した。自由の身になった少女はダンボール箱を
背負って、ヤムチャにお辞儀をして店を出て行った。その時の少女だった。
「おー、あんたか」
「はい! あの時はどうもありがとうございました!」
 ヤムチャはウナギの山から抜け出して、山の上に胡坐をかいている。体のぬ
めりをタオルで拭き取りながら、ヤムチャは少女に言った。
「で、その万引き女がオレに何の用?」
「万引きなんかしてません! わたし、ヤムチャ先生にお願いがあるんです」
 少女は先ほどから、ヤムチャのことを先生と呼んでいる。通りがかりの女子
高生にウナギを投げつけて遊んでいるヤムチャに、少女は深々と頭を下げた。
「ヤムチャ先生、わたしに喧嘩のやり方を教えて下さい!」
 ヤムチャはウナギを投げる手を止めて少女を見た。起き直った少女の真剣な
表情は、冗談を言っているとは思えない。
「なんでよ」
「はい! 息の根を止めたい男がいるんです!」
 物騒なことをサラリと言ってのけた。本屋で店長を倒した腕前を見込んでの
お願いだろう。ヤムチャはしばし考えて、そして重々しく口を開いた。
「えーよ」
「わーい!」
 少女は心底嬉しそうにウナギの山に飛び込んで、抱え込んだウナギを大空高
く放り投げた。車道に落ちたウナギを踏んだ自動車が次々とスリップを起こし
て衝突炎上した。
「で、いつまでに強くなれればいい?」
「はい! 決闘は一ヵ月後です!」
「オレの特訓は万引きよりもつらいぞ。途中で音を上げるなよ」
「はい! わたし万引きなんかしてません!」
820ヤムチャ先生:04/11/03 07:29 ID:mcHI5t7U
 ヤムチャの描いた青写真はこうだ。まず最初の一日目で、すでに七個集めて
あるドラゴンボールで神龍を呼んで、少女を強くしてもらう。残った二十九日
は特にすることもないので適当に遊んだり昼寝したりひたすらボケーとして暮
「そんなのいけませーん!」
 少女は巨大なハンマーでドラゴンボールを叩き割った。粉々になったドラゴ
ンボールをさらに踵で踏みつけて、ヤムチャに必死に訴えた。
「わたし、ヤムチャ先生に色々と教えてほしいんです! 楽して強くなったっ
て、ちっとも嬉しくありません!」
 少女の心意気を褒め称える前に、ヤムチャはまず基本的な質問をした。
「そのドラゴンボール、オレの家にあったやつ?」
「はい! 先生の住所を調べて合鍵を作って忍び込みました!」
 非常に手癖の悪い少女である。しかしヤムチャは怒らなかった。ドラゴンボ
ールがなくても困ることはないし、家には他に盗られるようなものはない。
「分かった。今からオレの家で特訓だ! 行くぞ万引き女!」
「はい! わたし万引きなんかしてません!」
 少女はヤムチャについていった。商品タグがついたままのローファーを履い
ていた。プーアルも二人の後を追って、街にはウナギと大破した車と生臭い女
子高生だけが残った。
 ドラゴンボールはこの世から消えた。ドラゴンボールの永き歴史に終止符が
打たれた。
821ヤムチャ先生:04/11/03 07:29 ID:mcHI5t7U
続くかもしれないし続かないかもしれない。
822Classical名無しさん:04/11/03 09:21 ID:j88oy6K.
>>817
次回作はバキスレに行ったほうがいいよ
823Classical名無しさん:04/11/03 09:51 ID:A8HvpS5o
サイヤン終了か。これで次スレ立てる必要は無くなったな。
824Classical名無しさん:04/11/03 13:15 ID:j88oy6K.
次スレは
・続けたい職人
・連載作を読みつづけたい住人

のどちらかが立てればよい。
825ヤムチャ先生:04/11/03 13:44 ID:mcHI5t7U
>>820
 勝手知ったるヤムチャの自宅だった。少女は全く淀みのない足取りで玄関か
らヤムチャの部屋に直行して、スチールベッドの下に潜り込んだ。収納箱を押
しのけて、一番奥から洗濯バサミを拾ってきた。
「はい! 夕べ先生がないない言って騒いでた洗濯バサミ!」
「うわー、気持ち悪ーい」
 おそらく盗聴器も仕掛けている。初めて少女に対して漠然とした不安を感じ
たヤムチャであったが、洗濯バサミ捜索中のパンツ丸見えに免じて全てを不問
に付してやることにした。
「それで先生、まずは何から教えてくれるんですかあ?」
 少女はいつの間にか特訓用のジャージに着替えていた。もちろんタグがつけ
っぱなしである。
「えーと。とりあえず狼牙風風拳の型から始めよう」
「はい! 今時の若者は見てくれ優先ですもんね!」
 身も蓋もないことを言う少女の前で、ヤムチャは演舞をしてやった。
「こうで、こうで、こうだ! さあ、オレの真似をしてやってみろ!」
「はい! こうで、こうで、こうですか!」
 どうなんだかよく分からなかった。狼牙風風拳はヤムチャが独自に編み出し
た拳法なので教則本の類は存在しないし、ヤムチャも鏡で型をチェックする程
マメな性格でもないので、自分がどんな動きをしているのか知らなかった。た
だ何となくサマになっているような気がしたので、両手で大きな輪を作った。
「はい満てーん」
「やったー!」
 少女とヤムチャの共同生活が始まった。洋服や食料は少女がどこからか調達
してきてくれるので、余分な費用は一切かからなかった。時には励まし時には
鬼となり、少女にとってそれは辛く苦しい、それでいて夢のような一ヶ月間で
あった。
826ヤムチャ先生:04/11/03 13:44 ID:mcHI5t7U
「今日は基礎体力の向上だ!」
「はい! 頑張ります!」
「それが終わったらセックスの特訓だ!」
「それは出来ません!」
「今日は武器を使った攻撃を教えるぞ!」
「はい! 卑怯なやり口なら誰にも負けません!」
「よく頑張った! ご褒美に今日はセックスデーにしてあげよう!」
「はい! 死んでもイヤです!」

 前夜からの雨はあがったが、辺りには濃い霧が立ち込めていた。決闘当日、
約束の場所の河原に立って、少女は大きく胴震いをした。明け方の冷気のせい
か、はたまた来るべき大一番に興奮を隠し切れないのか。後見人として同伴し
たヤムチャは、そんな少女の様子を一瞥して声をかけた。
「決闘なんてどうだっていいじゃん。帰ってメシ食って寝よーや」
「わたし万引きなんてしてません!」
 そんなことは聞いていない。少女はヤムチャの言葉など耳に入らず、一心に
敵の到着を待っている。ヤムチャはやや時間を置いて、別のことを訊いた。
「キミと闘う男って、どんなヤツなの?」
「あんなヤツです!」
 前方の霧がわずかに揺らめいて、人の影が浮かび上がった。影は次第に輪郭
を整えて、ツンと立てた髪の毛が分かるぐらいの距離になったところで声を出
した。
「なんだ、ヤムチャじゃねえか」
「覚悟ー!」
 ヤムチャは駆け出した少女をマジックハンドでとっ捕まえて引き戻した。男
はヤムチャの良く知るあの男だった。
「なにするんですか先生! わたしの決闘を邪魔するなんて、先生はそれでも
武士ですか!」
「武士じゃねっから。それより、キミの相手って本当にアイツ?」
 必死にマジックハンドから逃れようとする少女に、ヤムチャは確認した。
827ヤムチャ先生:04/11/03 13:45 ID:mcHI5t7U
「間違いないです! アイツが万引きだ万引きだ騒いだせいで、わたし何度も
警察に補導されたんです! ヤムチャ先生、アイツの知り合いなんですか!」
 初めて決闘の理由を聞いた。ヤムチャはマジックハンドを伸ばして、少女を
男の鼻先に突きつけた。
「悟空ー。この万引き女が、お前の息の根を止めるらしいぞー」
「おー、おめえいつかの万引き女じゃねえか」
「わたし万引きなんかしてません!」
 少女の反論には一切取り合わず、ヤムチャと悟空は会話を続けた。
「で、どうすんの? 本当にこいつと決闘すんの?」
「ああモチロンだ。オラ強えヤツと闘いてえんだ」
「この万引き女が強そうに見えるのか。悟空、お前目が腐ってんだろ」
「んー。でもオラ、強えヤツと闘いてえしなあ」
 ここに至って、ヤムチャは悟空がタイフーン級のバカであることを思い出し
た。ダメでもともとの一計を案じて、少女を脇にやって悟空に耳打ちした。
「あのな。本当は万引き女、フリーザの百万倍のパワーの持ち主なんだ」
「百万倍ってなんだ。納豆と豆腐を混ぜたヤツか」
「その通りだ。お前が全力で闘っても勝てないかもしれない。だから、勝負が
長引く前に元気玉で一瞬で決めてやれ」
「おお、オラ始めっからそのつもりだ。泣く子も黙る元気玉だぞ」
「よし。ちょっと待ってろ」
 ヤムチャは少女を引き寄せて、悟空から離れた所で今度は少女に耳打ちした。
「キミがどうしても闘いたいと言うのなら、オレはもう止めない。ただ、キミ
が悟空に勝つ方法は一つしかない」
「わたし万引きなんかしてません!」
「それはもういいから。いいか、悟空って男は強いんだが、闘いの最中に時々
バンザイをしてボケーと棒立ちになることがある」
「へー。バカなんですか?」
「バカなの。で、その時両手の上に大きな玉ができるから、それを……」
 少女はマジックハンドから解放された。悟空と少女の間に一枚の枯れ葉が舞
い落ちて、それが決闘開始の合図となった。
828ヤムチャ先生:04/11/03 13:47 ID:mcHI5t7U
「でや!」
 悟空が両手を挙げると、あっという間に特大の元気玉が出来上がった。悟空
が改良を加えた、地球の寿命を縮める急速チャージの元気玉である。少女も動
いた。悟空との間合いを詰めて、無防備になった悟空の腹に渾身の狼牙風風拳
を打ち込んだ。
「てい!」
 当然、全く効かない。悟空は元気玉から少女に視線を移して、非常にガッカ
リした声を出した。
「なんだ、オメー弱えなあ。もういいからさっさとおっ死んじまえ」
 悟空は天空にかざした両手を少女に向けて振り下ろした。ピチャンと水の跳
ねる音がして、少女の足元に大きなタライが落ちた。悟空が放ったのは元気玉
ではなく、ウナギの泳ぐ檜のタライだった。
「ん?」
 素っ頓狂な顔でタライを見つめる悟空に、少女の影が落ちた。バンザイをし
た少女の両手の上には、悟空が作った元気玉が浮いていた。
「せんせーい。これでいーんですかー?」
 闘いを見守っていたヤムチャは、両手で大きな輪っかを作った。
「はい満点でーす。向こうがタライを返してくれたんだから、キミも玉を返し
てあげなさーい」
「これ返したら、万引きにはなりませんよね!」
「ならないよー」
「はい! 悟空さんの玉!」
 少女は悟空から掠め取った元気玉を、悟空の頭上に落としてやった。
「ん?」
 悟空は顔を上げて空を見た。悟空の視界は白い光で満たされた。
「ん?」
 それが悟空の最後の言葉になった。悟空を飲み込んだ元気玉は一度小さく縮
んでから、空いっぱいに拡散した。元気玉は消え、悟空の姿もどこにもなかっ
た。悟空は死んだ。ドラゴンボールも無くなった。もう何のマンガなんだか誰
にも分からなくなった。
829ヤムチャ先生:04/11/03 13:48 ID:mcHI5t7U
 少女はヤムチャに抱きついた。ヤムチャは少女の頭を撫でてやりたい衝動に
かられたが、所詮は万引き女なのですぐに思い直した。
「先生! わたし勝ったんですね! 悪い孫悟空の魔の手から、わたしが地球
を救ったんですね!」
「そんなご大層な名目の喧嘩じゃなかっただろオメー」
 今の少女には何の効き目もないヤムチャの指摘だった。少女は妖精みたいに
そこらを飛び跳ねて喜びを爆発させて、ふいにヤムチャに向き直った。
「ヤムチャ先生のおかげです」
 先生と呼ばれるのにもすっかり慣れたヤムチャだが、この「先生」はいつも
とちょっと違う余韻をヤムチャの耳朶に残した。ヤムチャはなぜか少女の顔を
まともに見られなくなって、プイとそっぽを向いてしまった。
「結局セックスは一回もさせてくれなかったけどな」
「それでもいいんです! わたし先生のことずっと忘れません!」
 全然よくない。よくないが、ヤムチャは鼻の横をかきながら不器用な笑顔を
作って少女に言った。
「最後にもう一度、先生って呼んでくれないかな」
「はい! ヤムチャ先生、だーいすき!」
830ヤムチャ先生:04/11/03 13:49 ID:mcHI5t7U
 少女の唇がヤムチャの頬に触れた。軽くて柔らかくて温かい、花びらのよう
なキスだった。少女の胴着の襟元についた防犯タグが風に揺れた。
「次に万引きしたらオレがぶっ殺すからな。肝に銘じとけよ」
「わたし万引きなんかしてません! ヤムチャ先生こそ何よこれ!」
 少女はヤムチャの腰の青龍刀を蹴飛ばした。防犯タグがついていた。
「ははは。先生を叱るつもりかこいつ」
 ヤムチャは少女の頭を軽く小突いた。少女の耳の穴から値札のついた指輪が
地面に落ちた。
「もう! 先生ったら!」
 少女はヤムチャの胴着を捲り上げた。裁断前の一万円札のシートがさらしの
ように腰に巻いてあった。
「やったな! お前も裸にひん剥いてやる!」
「べーだ! ヤムチャ先生、ここまでおいでー!」
「セックスさせろー!」
「笑っちゃうぐらいイヤでーす!」
 霧はすっかり晴れていた。元気玉よりも明るい光に照らされた朝の河原で、
犯罪者に成り下がった二人はいつまでも鬼ごっこを続けていた。
 ヤムチャは少女の名を知らない。
831ヤムチャ先生:04/11/03 14:15 ID:mcHI5t7U
832Classical名無しさん:04/11/03 14:28 ID:Wp2PQRyo
>サイヤン
>それでは職人の皆様、これからも素敵なヤムチャSSをお願い致します。
>ROMの皆様、がんばっていつまでもスレを盛り立てていきましょう!

ちょっと嫌味に聞こえるわw 簡潔乙。俺は途中で投げ出したけど。

>>822
ていうか、ここ書こうとした時にあるかどうか分かんないしw

>ヤムチャ先生
いったい何人がヤムチャ先生名乗ってるか知らないが乙。
少なくとも俺はT氏の作品よりは面白い。対象物のレベルが低過ぎるけど。

さあ、次スレは立つのか?w
立ってもどうせお題スレ並にぐだぐだだろうなw
833Classical名無しさん:04/11/03 16:44 ID:zytkBlm6
作品読まなかった俺にとってはサイヤンは
ヤムスレの寿命を縮めた疫病神に過ぎない。

心の底から迷惑だった。
作者はろくな死に方をしないで欲しい。
834Classical名無しさん:04/11/03 17:45 ID:A8HvpS5o
ヤムスレの寿命を延ばしたんじゃないか?
サイヤン無かったら保管庫なんて必要なくなってたんだし。
第一、今更サイヤン煽っても奴はもうここには来ないぞ。
バキスレに行ってSS書きはじめるだろう。
835Classical名無しさん:04/11/03 19:50 ID:tEN3WQic
ヤムチャ先生も終わりか。
次スレは、樽漬けの等のSSスレでいいかも。
836Classical名無しさん:04/11/04 01:19 ID:WUDOOYfw
俺は結構サイヤン楽しみにしてたなあ。
お疲れ様、楽しませてもらったよ。
837Classical名無しさん:04/11/04 02:34 ID:XIsylFwg
さいやん乙。次回作期待してますよ
838Classical名無しさん:04/11/04 19:05 ID:5Qg1PTfk
おまいら乙以外に言う事はないのかよ
839Classical名無しさん:04/11/04 20:15 ID:ROH7A/Zc
サイヤン完結の感想で唯一まともなのは、
ヤムスレサイトBBSでのバレさんの感想だけだな。

俺は読んでないから何も言えないが。
840839:04/11/04 20:26 ID:ROH7A/Zc
サイヤンへのレスはどうでもいいが、
バレさんの病的さんへのこのレスはショックだ。

>あと二ヶ月ですか‥長い間、お疲れ様でした。
>私の方も仕事環境が微妙になってきてますので、
>正直どうなるかわからない状況ですね。
>4月以降は日本にいないかもしれませんし。

下手したらバキスレ、ヤムスレともに終わるなw
肉スレも終わったし、SSスレの歴史が閉じるかも知れんな。
841Classical名無しさん:04/11/04 20:33 ID:dAxpD8YA
ヤムスレは終焉にむかっているからいいけど
バキスレは飛ぶ鳥を落とす勢いなのにな。
ま、バキスレもおかしなのが増えてきたが。
842839:04/11/04 20:42 ID:ROH7A/Zc
バキスレはかえって絶好調だから、サイトの管理人の成り手がいない気がする。
あの尋常じゃない更新量をこなせる人ってなかなかいないだろう。俺には無理。

まあ出来ればバレさんには頑張って頂いて、ヤムスレにも存続して頂いて
両スレ来年も続いて欲しいな。なんのかんの言っても俺はSSスレが好きだから。
843Classical名無しさん:04/11/04 22:19 ID:dAxpD8YA
>>842
鬼か・・・おまいは・・。
844Classical名無しさん
>>Saiyan killerさん
長い間本当にお疲れ様でした。途中何度か長い休止期間があったので、その度に「もう読めないかも・・」
と不安になったのですが、無事完結ということで、本当に嬉しく思います。終わってしまって寂しいという気持ちもありますが・・

言いたいことは山ほどあるのですが、一言でまとめると、「本当に面白い作品だった」これに尽きます。特に、マーリンのキャラが本当によく書けてたと思います。
作品をうpされる度に、本当に楽しい時間を過ごさせていただきました^^

私も絵を描くのですが(前に作者さんも絵を描くといってましたよね?)、実はマーリンを自分で想像して描いてみたことが何度かあります・・。
昨日の夜も描いてました。「顔はこんな感じで、戦闘服はこんな感じかなー」と作品を頼りにしたり想像したりして・・

エンディング・・まだ希望のあるものでしたね。是非、もう一度ヤムチャと会ってほしいと思います。
辛い過去だった分、物語の最初のほうでヤムチャが言っていたように、地球で息子のシルフも一緒に、三人で静かに、幸せに暮らしてほしい・・
っていうか、そうなると、自分の中では勝手に(スイマセン)考えています。

まだまだ言いたいことはたくさんあるのですが、ここまでにしておきます。楽しい作品本当にありがとうございました。そして、お疲れ様でした。
今の気持ちとしては、正直終わってしまって寂しいという気持ちが大きいです・・。

万が一、続編を書くことがあれば嬉しいのですが・・サイトは作らないのでしょうか?(忙しいと言ってましたが・・)
なんか未練がましくてすいません・・でもそれだけ、自分の中では特別な作品でした。


長くなりましたが、本当にお疲れ様でした。とても楽しかったです。次回作も是非、描いてください。期待してます!