目を覚ますたびに浮かんでくるその顔を、いつも苛立ちと共に愛理は頭の中から追いやる。
出てくるな。入ってくるな、私の中に。アンタの存在なんて。
思えば思うほどに、余計に強く浮かぶ面影に、少女の胸はひどく、痛んだ。
All for you
「止めて」
隣に座っていた男の話し声を、これ以上、聞いていたくなくて、愛理は車を止めさせた。
訳もわからず、言われた通りにする男。
つまらない奴。
胸の中で吐き捨てながら、彼女は扉を開け、外に出た。
「楽しかったわ。それじゃ、さよなら」
とっておきの作り笑いと共に、心にもない台詞を口にする。真に迫った偽の笑顔に、彼は心を乱
されたのだろう、精一杯の虚勢を張って、
「ああ、じゃあ、またな」
物分かりの良い男を演出する。
馬鹿な男。走り去った車を見送った彼女は、その影が視界から消えると同時に、蔑みを隠すこと
なく、その美しい顔に表した。
普通の女ならば、それは見ていられないほどの醜悪な表情になることであろう。だが愛理の場合、
その素質がなくても男達は、気高さの中に浮かぶ侮蔑に被虐心を強くそそられるに違いない。
それほどまでに少女は美しく、華やかに咲き誇る。
だが、その内は。
携帯を手に取り、中村を呼ぼうとして愛理は、思いとどまる。
――――もう少しだけ一人でいたい。
心の命ずるままに、彼女はその足を踏み出す。目的地もなく、ふらふらと。
消えなさいよ。
胸の内に訪れる思い出達を、愛理は必死にかき消そうとする。
告白をされたこと。海で羽交い絞めされたこと。体育祭でジャージを差し出され、優しくされた
こと。
忘れようとしても、忘れられず。その記憶はより鮮明に、心に刻まれる。