スクールランブルIF12【脳内補完】

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611All for you
 目を覚ますたびに浮かんでくるその顔を、いつも苛立ちと共に愛理は頭の中から追いやる。
 出てくるな。入ってくるな、私の中に。アンタの存在なんて。
 思えば思うほどに、余計に強く浮かぶ面影に、少女の胸はひどく、痛んだ。

 All for you

「止めて」
 隣に座っていた男の話し声を、これ以上、聞いていたくなくて、愛理は車を止めさせた。
 訳もわからず、言われた通りにする男。
 つまらない奴。
 胸の中で吐き捨てながら、彼女は扉を開け、外に出た。
「楽しかったわ。それじゃ、さよなら」
 とっておきの作り笑いと共に、心にもない台詞を口にする。真に迫った偽の笑顔に、彼は心を乱
されたのだろう、精一杯の虚勢を張って、
「ああ、じゃあ、またな」
 物分かりの良い男を演出する。
 馬鹿な男。走り去った車を見送った彼女は、その影が視界から消えると同時に、蔑みを隠すこと
なく、その美しい顔に表した。
 普通の女ならば、それは見ていられないほどの醜悪な表情になることであろう。だが愛理の場合、
その素質がなくても男達は、気高さの中に浮かぶ侮蔑に被虐心を強くそそられるに違いない。
 それほどまでに少女は美しく、華やかに咲き誇る。

 だが、その内は。

 携帯を手に取り、中村を呼ぼうとして愛理は、思いとどまる。
 ――――もう少しだけ一人でいたい。
 心の命ずるままに、彼女はその足を踏み出す。目的地もなく、ふらふらと。
 消えなさいよ。
 胸の内に訪れる思い出達を、愛理は必死にかき消そうとする。
 告白をされたこと。海で羽交い絞めされたこと。体育祭でジャージを差し出され、優しくされた
こと。
 忘れようとしても、忘れられず。その記憶はより鮮明に、心に刻まれる。